■Dead Or Alive !?■
ひろち |
【5566】【菊坂・静】【高校生、「気狂い屋」】 |
「・・・何やってんだ、お前・・・・・・?」
草むらにレジャーシートを広げサンドウィッチを頬張る深紅に、綺音は問いかけた。
彼はいつもの気の抜けきった笑顔を向け答える。
「何ってピクニック。普通は明るい時にやるものなんだろうけど、ここには太陽が昇らないからね。綺音も一緒にどう?」
「阿呆か、お前はーーーーーー!!」
深紅ごとシートをひっくり返した。
「痛・・・っ!って、あー!サンドウィッチが!結構凝って作ってみたのに・・・」
「そんなことしてる暇あったら仕事しろ、仕事!そんなんだから厄介な仕事が回ってくんだよっ」
ここ太陽が昇らない街・ナイトメアでは人間の命の管理を行っている。ここでいつ誰が死に、誰が生まれるのかが決められているのだ。一日に消える命と生まれる命の数は予め決められており、その通りに調節するのが深紅達の仕事である。人間界では「死神」と呼ばれているらしいが、ナイトメアでは「生命の調律師」と呼んでいた。
「厄介・・・って、仕事来たの・・・?」
「そーだよ。ただし、上の奴らのミスの尻拭い」
「ミス?」
綺音は溜息をつき、数枚の書類を深紅に投げた。
「何これ。写真・・・・・・?」
「それ、明日死ぬ予定の奴ら」
「じゃあ、この人達がちゃんと死ぬか見届ければいいんだね」
「それがさあ・・・間違いなんだってよ」
「間違い・・・?」
深紅が顔をしかめる。
「そいつら、手違いでリストに入っちまったらしいんだ」
リストというのはその日に死ぬ人間の名前が記されているもので、そのリストに載った人間は一部の例外を除き、死ぬことになっている。
「え?じゃあ、この人達が死ぬと・・・」
「生命のバランスが崩れるんだと」
バランスが崩れると何かとんでもないことが起こる・・・・・・らしい。
「ど・・・どうするの・・・?」
「それが今回の仕事。その写真の奴らが死ぬのを全力で防げ・・・だってさ」
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Dead Or Alive !?
自分は今も暗くて何も見えない闇の中にいるのかもしれない。
あの事故の時からずっと。
ただ生きたくて
その一心で
でもその代償はあまりにも大きすぎて
もしも今、あの時と同じ状況に立たされたら、生きたいと思うのだろうか?
答えは・・・・・・
【いつかまた笑顔で〜菊坂・静〜】
目の前に二人の男が立っている。
名前は鎌形深紅と紺乃綺音。勝手に現れて、勝手に名乗られた。そして今、勝手に告げられた事を反芻してから、口を開く。
「そう・・・死ぬの・・・」
自分から発せられた声は驚くほど静かで冷たかった。
この二人は「ナイトメア」という人間の生死を管理している場所から来たらしい。深紅―「生命の調律師」―の仕事は人間界の生命のバランスをとること。俗に言う死神のようなものだという。
――死神・・・ね
無意識に右手首の傷跡をおさえていた。
綺音の方は助手であって正式な調律師ではないらしいが、死神と聞いてはどうしても良い気分にはなれない。
「・・・ありがとう、教えてくれて。でも帰ってくれていいよ?」
無表情に言い放つと、深紅が困ったような顔をした。
「そういうわけにはいかないんだ。こっち側のミスなわけだから・・・」
ナイトメアが管理している「死亡予定リスト」。リストに名前が載った者には必ず「死」という運命が待っている。そのリストに誤って静の名前が載ってしまったというのだ。
それでいきなり「死」を宣告された・・・というわけである。
「まあ確かにそちら側のミスなんだろうけどね。僕一人で何とかできるよ。君達の手を煩わせるつもりはない」
冷たく突き放して、踵を返した。
助けなどいらない。
死神の・・・助けなんて。
まさかこんなことになるとは思わなかった。近寄り難い雰囲気を漂わせている背中を追いかけつつ、深紅は泣きそうな気持ちになる。
「ね・・・ねえ、綺音。僕・・・何か気に触るようなことしたかな・・・?」
「いやいつも通りだろ」
「でも静くん、僕のことずーーーっと恐い顔で睨んでたんだよね・・・」
綺音が溜息をつくのが聞こえた。
「お前さ・・・ちゃんと書類読んだか?」
「え?」
書類?
そんなものあっただろうか?
綺音が「読んでないんだな・・・」と肩を落とす。それから早口でまくしたてるように言った。
「菊坂・静。15歳。3歳の時家族を事故で失い自身も致命傷を負う、この時家族の魂を狩りに来た死神に好かれ魂の中に受け入れる代わり一命を取りとめる」
「え・・・」
「まあそんなわけで、あいつは死神の力を手にしちまったわけだ。で、『気狂い屋』なんて名で呼ばれたりもしてるらしい。・・・わかったか?」
「・・・」
言葉を発することができなかった。そんな事情があったら、深紅達を良く思わないのは当然だ。
厳密に言えば「調律師」は「死神」とは違う。死神は魂を狩るというが、調律師は人間の生死の現場に立ち会ってリスト通りになっているか見守るだけだ。
万一リスト通りに事が進んでいなかった場合は、生命のバランスをとる為に直接手を下すこともあるが、そんなことは百年に一度起こるか起こらないかという程度で。
「・・・そんなこと、静君には関係ないんだろうな・・・」
人間の魂を扱っている点では死神と同じなのだから。
そうはいっても護らないといけないのだ。
「・・・どうすればいいかなあ・・・」
「とりあえず死因はわかってるから、見失わないように気をつけてれば・・・」
「あっ!」
前を歩いていた背中が―――傾いた。
瞬間的に、深紅は地面を蹴っていた。
気分が悪い。原因は確実に、あの二人に会ったせいだ。自分の中にある死神の存在がいつもより大きく感じられて。
気を抜くと飲み込まれてしまいそうで。
ふと眩暈に襲われる。体が傾いて―――
「静君っ!!」
声がした。はっと顔を上げると、最悪気分にさせた張本人である深紅が静の体を支えていた。後ろからつけてきていたのは知っていたが・・・
「大丈夫!?どこか苦しくない!?」
必死の形相に思わず目を瞬かせる。
「いや・・・ただ眩暈がしただけだけど・・・」
「め・・・眩暈・・・!?」
今度は深紅がきょとんとする番だった。駆け寄ってきた綺音が深紅の頭を軽く小突く。
「何やってんだよ、お前」
「だ・・・だって、静君が死んじゃうかと思って・・・」
「こいつの死因は心臓発作じゃねえっつーのに。こんな誰もいない所で死んだりしねーよ」
「そ・・・そっか・・・良かったあ・・・」
そう言う深紅の顔は心底ほっとしたようで。
静は戸惑ってしまう。
「・・・まさか・・・本気で心配してくれた・・・の・・・?」
眩暈を起こしたくらいで?
「当たり前じゃないか。急に倒れたら誰だって吃驚するし、心配もするよ」
「それは、僕が死んだら君達の責任になって、後々面倒だからって理由じゃなくて?」
「へ・・・?」
深紅は呆けたような顔で静を見返した。綺音が口を開く。
「そりゃ、始末書とか書かされて色々と面倒なのは確かだけどな。そんなんじゃねーよ。俺達は単純にお前を助けてやりたいんだ。上の奴が勝手に起こしたミスで死ぬなんて冗談じゃないだろ?」
「それは・・・そうだけど・・・」
「特にこいつ・・・深紅は馬鹿だからな。今のは何も考えてなかったと思うぜ?」
ただ単に、静のことが心配で
それで走ってきてくれた・・・?
「どうして・・・今日初めて会った僕に・・・?」
「初めてとか関係ないよ。名前を知って、話して・・・そんな相手が死ぬのは、僕は絶対に嫌だから」
「・・・」
そう言って、深紅は笑う。
右手首の傷跡を左手で強く掴んだ。
この二人は違うのだろうか。あの死神とは。
信じても・・・いいのだろうか?後悔はしない・・・?
「・・・・・・死因は・・・」
「え?」
気付くと、尋ねていた。
「僕の死因を教えてもらえる?」
死因は能力者による刺殺・・・ということらしかった。
「背後から心臓を一突き・・・か。まあ、有り得る話ではあるね」
死神の能力を持っている以上、恨まれたり命を狙われたりすることは少なくない。
「安心してよ!僕達がしっかり静君を護るからさ」
「まあ、背後に気をつけてればいいんだから問題ないだろ」
綺音はまだしも深紅は何となく頼りなかったが・・・やる気満々のようなのであえて突っ込んだりはしなかった。
今まで殺されかけたことはあっても、こうして誰かに護ってもらうなんてことはなかったような気がする。
何だか・・・不思議な感じだ。
「・・・・・・・二人とも・・・」
「ん?」
静の声に二人の視線が集まる。
「・・・ありがとう」
とりあえず、今の素直な気持ちを伝えてみようと思った。この二人なら、受け止めてくれると思えたから。
「あのなあ・・・そういうことはちゃんと助かってから言ってくれ。それと―――」
綺音の指が静の眉間に突き付けられる。
「そういうこと言う時は、もっと笑顔でな」
「え・・・」
自分の頬に手を当ててみた。
まだ・・・引きつっていただろうか。
いつものように穏やかに笑ってみせたつもりだったのに。
それとも綺音は気付いたのかもしれない。笑顔の奥にある他の表情に。
ここ最近、心の底から笑ったことなどないのだ。
――結構、鋭いんだな・・・
この綺音という少年は何でも見透かしてしまうような、そんな目をしている。逆に深紅はあまりに純粋な目をしていて何を考えているかわからないというか・・・
とにかく不思議な二人だ。
二人のことを、もっと知りたいと思った。
「あの・・・」
言葉を紡ごうとした瞬間、背後に深紅達とは違った気配を感じた。振り向こうとした時にはもう遅くて・・・
「・・・った・・・・!」
赤い鮮血が、地面に跡を残した。深紅が静を庇うように立っている。その脇腹にはナイフが刺さっていて・・・・・・
「深紅っ!!」
綺音の叫び声。深紅の体がゆっくりと地面に崩れ落ちた。
目の前が一瞬真っ暗になる。何も聞こえなくなる。
何が起こった?
血の染まったナイフを持っている見知らぬ男。
横たわっている深紅。
彼を抱き起こす綺音。
ゆっくりと、周りの音が戻ってきた。
「・・・あなたが・・・僕を殺しにきた能力者ってわけだね・・・?」
そして静を庇った深紅が刺された。
「・・・よくも・・・よくも深紅さんを・・・・・・っ」
腹の底から何かがふつふつと湧き出てくるのを感じる。これは多分、怒りという感情。
静はその感情に身を任せ、裏能力を発動させた。
黄泉の亡者の召喚。
暗がりから無数の手が伸び、男の体を掴みそのまま引きずり込む。男の絶叫が辺りに響き渡り・・・
グチャっ
・・・何かを潰したような音がした。
後に残ったのは血溜りだった。
「・・・静・・・お前・・・」
綺音が目を見開いている。その傍らで深紅が呻きながら身を起こした。
「し・・・静君・・・。無事・・・?」
「深紅さんこそ・・・大丈夫なの!?」
慌てて駆け寄る。深紅は少し顔をしかめて見せたが、致命傷ではないようだった。血ももう止まっている。
「僕、結構頑丈なんだよね」
「・・・良かった・・・」
「ていうか、静くん!?」
「うわっ」
急に深紅に右手首を掴まれた。
「血・・・!血、出てるよ・・・!し・・・止血しないと・・・っ」
彼の慌てぶりに思わず苦笑する。自分の方が重傷だろうに。
「これは・・・いいんだ。能力を使うといつもこうなる」
「能力って・・・さっきの・・・?」
深紅もしっかりと見ていたらしい。
「・・・僕が生きることは・・・許されないみたいなんだ。だから、『気狂い屋』なんて呼ばれる・・・正気じゃない、化物と言う意味の名。・・・・・・二人も僕が生きる事は可笑しいって思う?」
「・・・」
少し自嘲気味に笑ってみせた。深紅と綺音は一度顔を見合わせると、同時にこちらに向き直る。
「言ってる意味がわからない」
二人声を合わせ言い切った。
「え・・・?」
「化物って何?静君は正気だし、ちゃんと生きてる。化物なんかじゃないよ」
「生きる事が可笑しいってな・・・それ、助けた深紅に対して思い切り失礼。訂正しろ」
「・・・」
呆気に取られてしまった。
驚くほど真っ直ぐに、はっきりと
二人は言ったのだ。
「生きてていいに決まってる」
その言葉はきっと理屈ではなくて
何故そう言いきれると問えば、「わからない」と答えるのだろう。
不確かな、脆い言葉。
それでも
嬉しかった。
気持ち良いくらいに言い切った二人の笑顔が。
「・・・・・・ありがとう」
礼を言った。
今度こそは、本当の笑顔で。
去り際に二人はこう言った。
「いいか?二度とあんなこと思うんじゃねーぞ。おまけに早死にしてみろ。ぶっ殺すからな」
「死ぬ時は必ず、僕達が迎えにくるからさ。それまでは・・・ちゃんと生きてよ」
あの二人が迎えに来てくれるなら、早く死ぬのも悪くはない。
でも早死にすると綺音に殺されてしまうそうなので・・・・・・
しっかりと真っ直ぐに生きようと思う
何があっても闇に飲まれることなく
そして死ぬ時は本当の笑顔で二人と向き合うことができたら・・・・・・
その時初めて、生きてて良かったって心から言えると思うんだ
fin
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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PC
【5566/菊坂・静(きっさか・しずか)/男性/15/高校生、「気狂い屋」】
NPC
【鎌形深紅(かまがたしんく)/男性/18/生命の調律師】
【紺乃綺音(こんのきお)/男性/16/生命の調律師・助手】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは。ライターのひろちです。
納品の大幅遅延、申し訳ありませんでした・・・!
静君は何やらとっても繊細で脆い子だな・・・という印象を持ちました。
深紅と綺音と関わったことが、少しでも彼にとって何か+になっていればな・・・と心から思います。
楽しんで頂けたなら幸いです。
本当にありがとうございました!&すいませんでした!
また機会がありましたら、よろしくお願いします。
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