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■夜と昼の双子 〜夜と昼の双子■ |
紺藤 碧 |
【3376】【国盗・護狼丸】【異界職】 |
鏡あわせの二人。
夜と昼で姿を変える呪いを受けた双子。
呪いを解く方法は―――?
あなたは話す、かの人との思い出を、その方翼に。
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夜と昼の双子 〜義理と人情
国盗・護狼丸はただ呆然とするしかなかった。
目の前で起こった事は真実であり、この目の前の青年――ソール・ムンディルファリと言い合っていても、現状は打破できない。
護狼丸はまるでどすっと音が聞こえてきそうなほど豪快に床に胡坐をかき、そこからじっとソールを見上げる。
「俺もあんたも話が必要だ。そうだろう?」
「そうだな」
護狼丸の言葉に正当性を感じたソールはそのまま頷く。そして間髪いれずに護狼丸に尋ねる。
「まず、俺の手持ちから話すぜ」
ソールは無言でそっと護狼丸を見る。
「いつだったかの昼、マーニが裏路地でごろつきに絡まれているところに出くわした」
ソールの瞳が鋭く光る。
「ああ、大丈夫。怪我はしてないし、させてない」
護狼丸は否定するように両手を振って言葉を募る。ソールの視線がすっと自分から離れたことに、どこかほっとして話しを続けた。
「その後は街で何回か……」
思い出すたびにどうにも顔が苦くなっているような気がする。
「会うたびに厳しいこと言ってくれてさ、さすがの俺もこれって“余計なお世話”ってやつで、迷惑なんじゃないかと思ったさ」
「だろうな」
ソールのシンプルな返答に護狼丸の言葉がぐっと詰まる。
似てない。二人はあまりにも似てないのだ。
姿も含めて似ているとは言いがたいような気もするけれど、マーニの瞳と髪が昼を表す青空と太陽ならば、ソールの姿はまるで夜を表しているかのような濃紺の空と月。
そのギャップに一瞬言葉を詰まらせた護狼丸だったが、一旦場を区切るようにゆっくりと瞬きをして、想いをはせるように言葉をつづる。
「けど。放っておきたくなかった」
護狼丸は自らの手を広げ、見つめる。
「独りでいる辛さ、寂しさ。差し出された手、かけられた声を突っぱねなきゃならない痛さ」
そして言葉と共にその手を握り締め、決意をこめるように一度唇を引き絞り、
「それらを取り除きたい」
宣言するようにソールを見上げる。
「そうか……だが」
「……そういや」
ソールが続けようとした言葉を遮るように、護狼丸はぽろりと言葉を落とす。ソールの口がすっと閉じた。
「この前に会った時か、こんなこと言われたっけ」
そんな微妙な変化にも、記憶を手繰る護狼丸は気がつかず言葉を続ける。
「ごろつきに絡まれていたのが私じゃなくても助けただろうって」
「お人好しだと言われただろう?」
静かにかけられた言葉に、護狼丸は感嘆の声を漏らす。
「なんで分かったんだ。さすが兄ってやつか」
ソールはその言葉に口元を抱えた方膝にうずめる。
「確かに、あの時はそうだったろうけど、今は違う。今はマーニだから、だ」
そしてマーニにも言ったことと同じ事を言う。
「どうしてとか聞くのはなし」
「どうしてって聞かれただろう?」
「…っぐ」
「……返答は期待していない。聞く気もない」
マーニと同様の思考回路をしているのに、この対応の違いに護狼丸のテンポが乱される。
「どうなったって言ったな?」
「あ、ああ」
「マーニに何かあったのか?」
護狼丸はソールの質問にきょとんと瞳を瞬かせる。
「今までここに居たんだよ」
何が起こったのか分からずに、護狼丸は悔しそうに唇をかみ締めた。
「あんたに変わっちまったんだ」
「何、だって……」
ソールは護狼丸の言葉に狼狽して瞳を泳がせる。
「マーニが、俺に…?」
是の意味をこめて頷いた護狼丸に、ソールは驚愕に唇を振るわせる。
「呪いは……」
そして、小さく呟いた。
名前の通り、マーニは昼に、ソールは夜にだけ、動けるのではなかったのか。と―――
「呪いって、関係があるのか、咎人ってのと」
一瞬にしてソールの瞳が氷のように尖った。
「……おまえ、マーニの何だ?」
「何って……」
何だろう。恋人…とはまだ言えないし、友人…と、言ってしまってもいいのだろうか。
「まあいい……」
すっと視線を外したソールは、何かを考え込むように焦点を真正面の壁に見据え、護狼丸から完全に視線を外してしまった。
けれど、護狼丸には聞きたいことがある。
それに自分の知っている事を話したのだから、少しくらいはマーニの事を話してくれてもいいのではないか。
躊躇いがちに言葉を投げかけてみる。
「なあ、兄さん」
「おまえに兄といわれる筋合いはない」
「じゃあ、ソール」
あっさりと言い直して護狼丸は言葉を続けた。
「マーニは、失いたくないと言っていた。つまり、今まで誰かを失ってきたって事だよな?」
「……そうだな」
一瞬の間をおいてソールはそのまま続ける。
「俺とマーニは同じ呪いを受けている」
だから、ソールが経験した事がある事ならば、マーニも必然的に経験しているという事。
「どういうことなのか、教えてくれないか?」
「教える事は容易い」
ソールは考える。それを告げるべきか否か。
「一つ聞く。マーニが大切か?」
護狼丸は大きく頷く。
「なら、これ以上俺達に関わらない事だ。マーニを泣かせたくないだろう?」
「なんで泣くんだ」
「自分で考えろ」
マーニのように激情型ではないソールは、冷静に言葉を返し咄嗟の失言がない。
「いや、分からない事は、ないんだ」
失われるとは、誰も居なくなる事を指しているのだろう。
けれど、友情や信頼が失われ独りになったのだとしても、マーニのあの様子はその程度の事じゃないような気がする。
「……死別か?」
考えを巡らせてたどり着いた答えを、護狼丸は淀みない視線でソールを見据え、告げた。
「おまえも死にたくないだろう?」
考えが肯定に変わった瞬間。護狼丸の瞳は衝撃に徐々に見開かれる。
自分に関わってきた人達が次々と死んでいく様を何度も見て、マーニは自分に関わらせないために厳しい言葉を吐いていたのだ。
護狼丸は悟った。そして、いつに無く強い光を瞳にこめる。
「死ぬってどうして決め付けるんだ」
「例外はない」
ソールは短くそう告げると、傍らで丸まってる仔狼を抱き上げ、ベッドから立ち上がった。
「そんな呪い、くそくらえだ!」
ぐっと力をこめるようにして護狼丸は叫ぶ。
その横をソールが行過ぎる。
「なら、これ以上関わるな」
「そうじゃない」
護狼丸は立ち上がり振り返る。
「呪い程度じゃ、俺はやられない」
俺がその例外になってやる。と、宣言した護狼丸にソールは一瞬驚きに瞳を見開き、すぐにどこか諦めたような瞳で護狼丸を見つめ、そのまま瞬きと共に顔を伏せる。
そしてすっと風のようにソールは部屋から出て行った。
「待っ……!」
追いかけた時には、もうソールの姿は何処にもなかった。
☆―――登場人物(この物語に登場した人物の一覧)―――☆
【3376】
国盗・護狼丸――クニトリ・ゴロウマル(18歳・男性)
異界職【天下の大泥棒(修行中)】
【NPC】
ソール・ムンディルファリ(17歳・男性)
旅人
☆――――――――――ライター通信――――――――――☆
夜と昼の双子にご参加くださりありがとうございます。ライターの紺碧 乃空です。
第四話にてパートナーが逆であるのは、大切であればこそ告げたくない真実もある。という事情からです。もう1つ理由もあるのですが、ネタバレになりますので最終話で、と言うことで。
大事な妹につく虫(失礼)なので、お兄さんの対応が少しどころか結構硬いです。副題の義理も人情も護狼丸様の事を指しています。何をさしているかは、想像してみてください。
それではまた、護狼丸様に出会える事を祈って……
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