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■夜と昼の双子 〜夜と昼の双子■ |
紺藤 碧 |
【2767】【ランディム=ロウファ】【異界職】 |
鏡あわせの二人。
夜と昼で姿を変える呪いを受けた双子。
呪いを解く方法は―――?
あなたは話す、かの人との思い出を、その方翼に。
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夜と昼の双子 〜輝きを失った月に光を
ランディム=ロウファは髪をかきあげ呟く。
「………一体、何がどうなってるんだ?」
構成を読み解く力に長けている自分が読み解けない力。
ベッドの上の少女――マーニ・ムンヂルファリは、他に何も見えないと言う様にまっすぐにランディムを見据えている。
ぱっと見るだけで、ソール・ムンディルファリと比べてなお警戒心が強そうなマーニの瞳を見て、ランディムは従業員を下がらせ、ベッドサイドの椅子に腰掛け直した。
「兄さんは、どうしたんだ?」
彼の様子見れば、今までここにソールが居たのだろうことが予想がつき、マーニはランディムに問いかける。
まるで尖ったナイフのようなマーニに、ランディムは一度眉根を寄せるが、彼女はきっと何も知らないのだろうと、最初の狼狽から見て取れて、ゆっくりと話し始めた。
「ソールは、あんたに変わっちまった」
「え……?」
そんなランディムの言葉に、マーニは驚きに唇を薄く開く。
「どういう、意味?」
「夜明けと共に、あんたに姿が変わったんだ」
ランディムは一瞬彼らの事を二重人格かと思いかけたが、そう決め付けてしまうには安直過ぎるため、すぐさまその考えは捨て去った。
「兄さんが、あたしに……」
マーニは驚愕に瞳を見開いたまま俯く。
「呪いは……」
そして、小さく呟いた。
名前の通り、ソールは夜に、マーニは昼にだけ、動けるのではなかったのか。と―――
「呪い…か」
何となくその可能性を考えなかったわけじゃない。
(にしても……)
ランディムはうぅむと唸る。
(ソールの妹って俺が想像してたのと全然違うじゃねーか)
姿も似ているとは言いがたいような気もするけれど、ソールの瞳と髪が夜を表しているかのような濃紺の空と月ならば、マーニ姿はまるで昼を表す青空と太陽。
どこか根本で繋がっていると思わせるような何かは持っている。
「まずソール……兄さんとの話をしたほうがいいな」
マーニは今だ勘ぐっているような表情で頷く。
ランディムは話し始める。数日前の夜、男達に絡まれて無反応だったところを助けたこと。
そして、今マーニがいる此処――ランディムの喫茶店で一度珈琲を飲ませたこと。
「そいや、あの時ほわっと笑ったか?」
「笑った…のか?」
信じられないと言う様なマーニの声音に、ランディムは苦笑して勘違いだったかもしれないが。と、付け加える。それほどに微かに……だったのだから。
けれど、マーニの視線がその言葉に一気に尖った。
「兄さんと、これ以上関わるな」
いきなりの宣言にランディムはきょとんと瞳を瞬かせる。
「話しを聞けば分かる。兄さんはあなたに大分心を許したようだ」
「お、嬉しい事言ってくれるじゃないの」
仏頂面のままであっても、あれで充分懐いていたのだ。ただ表情が出にくいせいで分かりにくかっただけで。
「だからこそ、これ以上あたし達に関わるのは止めた方がいい」
マーニはぎゅっとシーツを握り締める。
「あなたを失ったら、兄さんはまた心を捨ててしまう……」
握り締めた彼女の拳は微かに震えていた。
「失うってのは、アレか」
この場合、きっと可能性として一番大きい理由は―――死。
マーニは答えない。けれど、その俯いた瞳は語っている。まるでそれが運命だと言っているようで。
「俺は運命や宿命っつー言葉が大嫌いだ」
そんな言葉一つが個人の意思や望みを束縛することがランディムには我慢ならなかった。
「運命や宿命じゃない」
マーニは首を振る。けれど、ランディムはマーニを見つめ言い募る。
「現に今こうやって永遠に解放される事の無いそれを背負ってるじゃねーか」
その言葉にマーニはぐっと唇をかみ締め俯く。
「そんな救われない結果が待ち受けるなら、俺は運命なんて嫌いだ」
「……嫌いという気持ちだけでどうにかなればよかったのに」
搾り出すように吐き出された言葉。
「結局、あたし達が他人に関わらなければ済む話しなんだ」
ランディムは、一度ふっと息を吐く。
「所詮俺なんて赤の他人」
そして椅子の背もたれに深く背を預け、マーニの表情を正面からではなく視界の隅で確認する。ゆっくりと体勢を整え、位置としては真正面となる壁――そしてそれを越えた想いに視線を定める。
「これからあんた自身の願いがどうなるのかを決めるのは俺でも呪いとやらでも無い。あんた自身の意思だ」
「あなたは幸せな人だ」
マーニは真剣な眼差しでランディムを射抜く。
「あたし達が願えばどうにかなるなんて本当に思っているのか?」
「思うさ、願いは自分のもんだ」
「だからあなたは幸せだと言うんだ」
ふっと視線の力が弱まり、マーニは顔を伏せ弱々しく口にした。
「願うだけなら何度も願った」
そして彼女は膝を抱えて顔を埋める。
「願いは…届かないものだ」
彼女の言葉で分かった。どうして彼が孤独の道を進まざるを得なかったのか。けれど、それを許容して引き下がるようなランディムではない。
「呪いを解く努力はしたのか?」
そりゃ、自分に関わってきた人達が次々と死んでいく様を何度も見ているうちに、悲しみを感じないよう感情を捨てていったソールの気持ちも分からなくもない。
けれど、逃げてばかりでは何もならないのだ。
「全力で立ち向かったのかよ」
ランディムの言葉にマーニはただ淡々と告げる。
「呪いは解けない」
「そう信じ込んでるだけじゃないのか?」
「あなただって死ぬと言われたら関わらないだろう!?」
きっと鋭い瞳を向けてマーニは叫んだ。
ランディムはふっと肩を竦めて、やれやれと言うような動作で両手を広げ首を振る。
「そりゃ…俺だって、バッドエンドが待ち受けるなんて知ってれば、こんな出来事に関わりたかねーよ」
「そうだ、それが素直な反応だろう。あなたは間違ってない」
誰だって自分が可愛いのだ。死ぬと分かっているのに関わるような酔狂な人間なんて居るはずがない。
けれど、ランディムはその後、ふっとマーニに笑いかけた。
「バッドエンドじゃなけりゃいいのさ」
「何が言いたい?」
ランディムはその笑みをどこか喰えない微笑に変える。
「エンディングなんて最後まで分からない」
決められた運命なんて嫌いだ。行き着く先が分からないからこそ人生は面白い。
「物好きだと、言われただろう」
初めてであったときにソールに言われた言葉をぴしゃりと言い当てられるとは思わなかった。
「だがな、それを人は渡世の仁義って言うのさ」
いつものどこか飄々とした口調でそう告げると、ランディムは反応を見るようにマーニに視線を向ける。
「そのなんとかの仁義なんてものは知らない。バッドエンドにはなりたくないんだろう」
マーニはベッドから起き上がり身なりを整える。
「行くぞ。スコール」
そしてフードマントをばさっと翻し扉へと歩く。
「願え。諦めるな」
呼びかけに一瞥を返し、マーニは部屋から出て行った。
ランディムは椅子に座ったままベッドに肘をついて、組んだ手にコツンと額を当てる。
今ここで彼女が言うように関わる事をやめても、ソールが傷を負うことに変わりは無い。ただ……その深さが違うだけで。
呪いとは、“誰か”――“何か”かもしれない――が“かける”ことで成立するものだ。
だったら、その呪い解いてやろうじゃないか。
☆―――登場人物(この物語に登場した人物の一覧)―――☆
【2767】
ランディム=ロウファ(20歳・男性)
異界職【アークメイジ】
【NPC】
マーニ・ムンディルファリ(17歳・女性)
旅人
☆――――――――――ライター通信――――――――――☆
夜と昼の双子にご参加くださりありがとうございます。ライターの紺碧 乃空です。
第四話にてパートナーが逆であるのは、大切であればこそ告げたくない真実もある。という事情からです。もう1つ理由もあるのですが、ネタバレになりますので最終話で、と言うことで。
何とか掛け合いからランディム様らしさを出せていればいいのですが……頑固な娘で申し訳ない限りです。兄貴がんばってください!
それではまた、ランディム様に出会える事を祈って……
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