■All seasons■
雨音響希 |
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【5566】【菊坂・静】【高校生、「気狂い屋」】 |
All seasons
夢と現実、現実と夢、そして現実と現実が交錯する館、夢幻館。
「おや・・？どうしたのですか？本日はなにも予定はありませんが・・・。」
穏やかな微笑をたたえながら、青の瞳を細める男性が１人。
どう見ても高校生にしか見えない彼の名前は沖坂 奏都（おきさか かなと）。
この夢幻館の総支配人だ。
「そうですねぇ。たまにはゆっくりとしていかれてはどうです？何時もは・・色々と騒がしいでしょう？」
眉根を僅かにひそめ、苦笑交じりでそう呟く。
「けれど・・騒がしいのもまた一興。貴方のお望みのままに。」
奏都はそう言うと、大きな両開きの扉を押し開けた。
金具の軋む音が耳障りなまでに甲高い音を立てる。
「何処かへ行きたいのでしたら、それもまた一興。全ての扉は全ての場所へと繋がっているものですから。そう、それこそ、夢へも現実へも、過去へも未来へも・・。」
クスリと、小さく微笑む奏都は恐ろしいまでに艶やかな妖艶さを放っていた。
女性めいた艶かしさは、恐怖と紙一重だ。
「過去へも未来へも・・は、少々大げさすぎましたね・・。さぁ、どうぞ。夢幻館へようこそ。」
促されるままに中に入る。
今度は音もなく、扉が閉まった。
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All seasons 【 向日葵の行方 】
◆☆◆
夏も真っ盛りだと言うのに、門から夢幻館へと続く真っ白な道の両側にはシクラメンが淡いピンク色の花を緩やかに広げ、風に揺れている。その隣ではコスモスが咲き乱れ、さらには桜の花弁が真っ白な道の上に点々と淡い色の雨を降らせている。
・・・胸糞悪い。
神埼 魅琴はそう思うと、苦々しい表情で狂い咲く花々に視線を向けた。
狂った花も、夏だと言うのに吹く涼しい風も、全て全て・・・この館の周囲では“自然なこと”。
住人へのあてつけのように毎回毎回、季節を違えた花を植えるアイツも・・・狂ってる・・・
行き場のない怒りはやがて、ふっと体内に取り込まれる。
・・・誰が狂っていようと、そう・・・自分が、一番・・・
「はれぇ〜？魅琴ちゃん？？」
甲高い声が聞こえ、魅琴は顔を上げた。
ピンク色に近い淡い茶色の髪を頭の高い位置で結んだ片桐 もなが、門から中に入って来る。
とてとてと危なっかしい足取りで入って来て・・・ドスンと、魅琴の目の前に白い箱を置いた。
「デカ。つか、なんだこれ。お前、どっから持ってきたんだよ」
「んーっとね、蓮ちゃんに持ってけって言われたの」
「はぁ？なんで蓮のとこなんか行くんだよ」
「だって、来いって言われたんだもん！」
「で？中身は？」
「・・・さー。なんかね、いーものって言う事しか聞いてない」
「いーものぉ？」
まさか、曰くつきの怪しげな商品を押し付けられたんじゃねーだろーなぁ。
魅琴がそう思ったのも無理はなく、以前から何度かそう言うことがあったのだ。
夜中に徘徊するうさぎのぬいぐるみだとか、刀を振り回しながら追いかけてくるフランス人形だとか・・・。
だいたい、フランス人形なのに刀なんか持つなっつーの。・・・いや、銃持たれたらなおさらどうしようもない事態になるな・・・。ここは刀で良かったと思って諦めるべきか・・・。
「なんだろーねぇー？」
もなが小首を傾げ、さらさらと流れる髪を風に靡かせる。
愛しいと思う気持ちになんとか歯止めをかけ、魅琴は箱を持つと立ち上がった。
「風は冷てぇけど、日差しは本物だからな。ほら、中入るぞ」
「はぁーい！」
帽子の被っていない頭を撫ぜ、自分の影の中にもなを入れる。
夢幻館の両開きの扉を開け、真っ赤な絨毯の上に箱を下ろし・・・
バリっと開ければ、中からは可愛らしいブルー地のセーラー服と・・・１枚の写真が入っていた。
◇★◇
夢幻館の門の近くに捨てられたように落ちていた黄色い花に視線を向けると、菊坂 静は少し迷った後でその花を手に取った。太陽の下よく育った大輪の花は美しい。
どうしてこんなところに向日葵なんて・・・？
困惑しながらも、静はそれを夢幻館の中に持って行こうと決めた。
・・・それはもながそこに置いたものであり、そして・・・魅琴の姿を確認して慌ててその場に捨ててしまった花であったのだけれども・・・勿論、静はそんな経緯は知らない。
季節を違えたこの館の中に、季節に相応の“自然”を入れることは、ただの足掻きでしかないことを知っていて・・・それでも、決して自分達は狂ってなんかいないのだと証明したくて持ってきた向日葵。
白い道の両側に咲く花はどれも淡い花ばかりで・・・向日葵の黄色がやけに浮いて見えた。
両開きの扉をかちゃりと開ければ、そこには真っ白な箱がポツンと置かれており、その傍には魅琴ともなの姿があった。
「あ、静ちゃ・・・」
満面の笑顔を向けようとして・・・笑顔を凍りつかせたもなが、静の手元に視線を向ける。
「どうして・・・」
「え？あの、これは・・・門のところで拾って・・・」
持って来てはいけないものだったのだろうかと困惑の表情を浮かべようとした静の視線が、真っ白な箱の中に吸い込まれる。赤い絨毯に置かれた白い箱の中に見えるのは・・・鮮やかなブルー地のセーラー服・・・。
赤・白・青なんて、カラフルな色合いだとどこか遠くで思いながら、静は魅琴の持った写真に目を奪われた。
黒髪美少女が写った写真は・・・確か、あの時・・・蓮が・・・
「なっ・・・なんで・・・写真と服が・・・？」
「もながな、蓮から“いーもの”っつって貰ってきたものなんだ」
「も・・・もなさん・・・？？」
なんだか笑顔が怖い魅琴。
何をされそうになっているのか分かり、もなに必死の助けを求めるものの、難しい顔をしたまま固まっているもなは静の顔すらも見ていない。完全に静は孤立していた。
「な、ちょっと着てみろよ」
「え・・・ちょ・・・いやです！」
あんな目に遭うのはもうこりごりだとばかりに、静は向日葵の花をその場に捨てると走り出した。
その後を追ってくる魅琴。
「・・・うわぁぁぁぁぁぁぁっ！！！！！」
絶叫しながら走る静と、楽しそうに追いかける魅琴。
普段ならばこんな危機的状況に陥っている静を助けるべく、もなが小さな体でロケランでも担いで走ってきてくれるはずなのだが・・・どうも今日のもなは様子がおかしかった。
夢幻館の入り組んだ廊下を走る。
それが命とりなことを知っていながら、静は疾走した。
赤い絨毯が目に痛い。ズラリと並んだ同じ扉は威圧感を持っている。
「・・・捨てたはずなのに・・・」
静と魅琴が去った玄関では、もなが黄色の向日葵を見詰めながらポツリとそう呟いていた。
「捨てなきゃ・・・。ここには、イラナイモノだから・・・」
黄色の向日葵を踏みつける。
体重をかけて・・・ゆっくりと・・・花弁が落ちていくさまを見詰めながら、もなは涙を流していた。
◆☆◆
最初から分かっていたことではあったが、こんなにすぐに決着がつくとは思っていなかった。
元々、体力Ｂ級の静が体力Ｓ級、さらには運動神経特Ｓ級と言う、人外な運動能力を誇る魅琴に敵うはずはなかった。それでも、静も男の子だ。それなりに逃げられるのではないのかと思っていた節だって少しはあった。
しかし、それが甘い考えであったことは身をもって知ることになる。
結局捕まり、セーラー服片手に迫る魅琴。
背後は壁で、逃げ場はどこにもない。
もなを呼ぼうにも、現在位置状況把握不可能なだけに、呼ぶに呼べない。
「・・・やっ・・・やめっ・・・嫌だぁあっ！」
静は叫ぶと、ぎゅっと目を瞑り・・・ポロリと涙が零れた。
自分でも思いもよらないことに少し戸惑いながらも頬を流れる涙を拭い、次から次に溢れてくる涙をどうするすべもなく、半ば呆然とした表情で固まっていた。
「・・・悪かったな、そんなにイヤだったか？ちょっとふざけただけなんだが・・・」
苦笑しながら魅琴が手を伸ばし・・・ビクリと震えられ、手を引っ込める。
どうしたものかと少し考え、この場は自分ではなく他の者に任せようとクルリと背を向け・・・
「ごめ・・・泣き止むから・・・いかないで・・・」
服の裾を掴まれてはどうしようもなく、困惑しながらも魅琴は足を止めた。
早急にもなでも呼んでこの場をどうにかしてほしいと言う気持ちなのだが・・・
魅琴は泣かれるのが苦手だった。
泣かれて、慰めると言う術を知らない。泣かれるとメンドクサイと、正直では思うのだが・・・勿論、そんな事を口に出して言うほど愚かではない。可愛い子、綺麗な子大好きな魅琴だが、中身は案外冷たい。
・・・泣かれてメンドクサイと思わない人も中にはいるが・・・それは特殊な事情が絡んでいる場合のみだ。
恋人や家族、信頼できる仲間ならばなんとかしようとは思うのだが・・・。
握っている手が微かに震えているのを感じ、魅琴は盛大な溜息をつこうとして・・・なんとか飲み込んだ。
「あのな、静？」
クルリと振り返れば静が上目使いで見上げている。
・・・そんなにイヤだったのだろうか？
魅琴はゆっくりとその頭を撫ぜた。
静が驚いたように目を見開き、少しだけ頬を染める。
「悪かったな」
「あ・・・いや、僕も・・・」
「静、手を放してくれ」
優しく言われ、静は手をゆっくりと放した。
握っていた部分がしわになっており、少しの後悔が静の胸を支配する。
「まぁ、この制服は・・・そうだな、冬弥にでも着てもらうか」
「え？冬弥さんに？・・・入らないんじゃ・・・」
「そこはちょちょっと改造してもらって・・・」
笑っていた魅琴の顔が凍りつく。
窓の外に何かを見つけた様子で、血相を変えて走りだす。
「え？魅琴さん・・・？」
少し高い位置に取り付けられている窓の外、淡いピンク色のワンピースを着たもなが何かを燃やしているのが見えた。
立ち上る灰色の煙・・・真っ赤に燃える炎・・・
「魅琴さん待って・・・！！」
静も魅琴の後に続くと走り出した。
◇★◇
空に吸い込まれていく煙を見ながら、もなは眩しい太陽の光に目を閉じた。
鼻をつく臭いと、足元でパチパチと音を立てる炎・・・。
向日葵が焼ける音を聞きながら、もなはゆっくりと深呼吸をした。
これで大丈夫。向日葵は、もうない。この館に正常なものはイラナイ。あっては、いけない・・・。
風に揺れるシクラメンもコスモスも、望んでいない。今の季節、夏の花はイラナイ。
ゆっくりと目を開け、焼けて炭になった向日葵を靴底で潰す。
「どうして・・・静ちゃん、持って来ちゃったんだろう・・・」
静がこの館に訪れた時の事を思い出す。
真っ赤な絨毯、真っ白な箱、明るい色をした向日葵、鮮やかなブルー地の・・・
「あぁぁあぁぁぁぁぁぁっ！！！！！！！」
もなが絶叫する。
「大変！魅琴ちゃんを止めないと！！」
もなが慌てて走り出し・・・夢幻館の両開きの扉から、魅琴が血相を変えて走ってくる。
「もなっ！！！」
「魅琴ちゃん！良かった・・・人の道を歩めたんだね」
手に持ったブルー地のセーラー服を見て安堵したもながそう言い・・・
「もなさん！！」
魅琴の後に続いて走ってきた静の目が心なしか赤いことに気付き、もながハタと足を止めた。
「もな、今なにを燃や・・・」
「この・・・魅琴ちゃんの変態っ！！破廉恥っ！！」
走ってきた魅琴のお腹にキレのあるパンチをのめりこませる。
・・・ドゴっと言う鈍い音を、静は確かに聞いた気がした・・・。
「もう！知らなぁいっ！！静ちゃん、行こっ！身の危険だよっ！」
プリプリ怒っているもなに手を取られ・・・真っ白な道の上で唸っている魅琴に同情の視線を送る。
何で走り出したのかは知らないが、恐らくもなのためを思ってのことだったのに・・・
「もなさん、あの・・・魅琴さんは・・・」
「魅琴ちゃんに何かされたんでしょー！？もー、信じらんなぁいっ！！」
「あの・・・」
「・・でも、良かったね、静ちゃん。セーラー着せられなくて」
「へ？」
「・・・イヤだったんじゃないの？？」
「イヤ・・・だったけど・・・」
「写真がさ、イヤそうな顔してるなぁって思ってたから」
両開きの扉を開き、冷房の効いた中に入る。
真っ白な箱を爪先で蹴ってどかしたもなが、お茶でもしようと声をかけて部屋に入っていく。
真っ赤な絨毯の上、先ほどまであった向日葵の花がなくなっている。
・・・もながどこかに持って行ったのだろうか？・・・それとも・・・
「何してるの、静ちゃん？」
「あ・・・何でも・・・」
静がもなの方に行こうとした瞬間、背後の両開きの扉が開いた。
お腹を押さえながら肩で息をした魅琴が幽霊さながらの表情で立っており・・・
「もーーーーなーーーー！！！」
地獄の底から聞こえているのではないだろうかと思うほどに低い声をあげる。
「なによっ！！」
「お前、なによって・・・！！人の腹にパンチを・・・。・・・ぜぇぇぇってぇセーラー服着せてやるっ！！お前、写真撮って蓮んとこに送り返すぞっ！！！？」
「なんであたしに着せるのよ！そもそもそれ、静ちゃんので・・・」
「ルッセー！！」
・・・目が本気だ・・・
「きゃぁぁぁっ！！！静ちゃん助けてっ！！！」
「え！？あの・・・えぇぇぇっ！！！？？」
もなが静の手を引いて走り出す。
その後を追うのは魅琴だ。
運動能力Ｓ級の２人の対決に巻き込まれた静は・・・勿論、その後数日疲れが体に残った・・・
≪ E N D ≫
◇★◇★◇★ 登場人物 ★◇★◇★◇
【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
5566 / 菊坂 静 / 男性 / 15歳 / 高校生、「気狂い屋」
NPC / 神崎 魅琴
NPC / 片桐 もな
◆☆◆☆◆☆ ライター通信 ☆◆☆◆☆◆
この度は『All seasons』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
そして、いつもいつもお世話になっております。（ペコリ）
ギャグ・・・なのでしょうか（苦笑）
シリアスも入れつつ、ギャグでもあり・・・。
魅琴が人の道から外れそうで、このようなお話にさせていただきました。
今回は素の魅琴がちょこっと出せたかなぁと思います。
・・・魅琴は結構冷たいです。自分の興味のあるもの以外は無視と言うか・・・
恐らく、今現在ではもなが１番なのかと（全然報われてませんが）
それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。
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