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■親子のイロイロ■

志摩
【5566】【菊坂・静】【高校生、「気狂い屋」】
「うっ、うっ……小判たん……!」
「…………いい加減うざいぞ……」
「なっ、貴様だって、貴様だって……うぐっ……」
 銀屋、その和室。困っているのは藍ノ介。泣いているのは千両。
 そろそろどうにかしなければな、と藍ノ介は溜息をついた。
「小判と喧嘩したぐらいで汝……」
「うるさっ……小判たんのプリン食べたのは悪かったが、あ、謝ったんだぞ!」
「プリンか……それくらいで……」
「貴様も奈津と羊羹で同じような喧嘩をしたことあるだろうが……」
「うっ……」
 べそべそ泣きながらも千両は藍ノ介の痛いところをちゃんとつく。
 相当に凹んでいるのはその雰囲気から良くわかる。
「ど、どうすればいいんだ俺は……!」
「知るか」
 一人悩む千両を冷ややかに見る藍ノ介なのだが、そろそろどうにかしないとうざいと思っているらしい。
「……そこにいるやつらに相談してみろ」
「そ、相談に、のってくれるのか……?」
 期待に満ちた目で、千両は見てくる。
 断れそうに、ないようだ。




親子のイロイロ



「どーにかしてくれ」
「……あたし、何か別の事で来た筈なんだけど……しょうがないなぁ」
 本当に困っているのだ、という視線を受け、法条風槻は溜息をつきながら了承した。
「千両さんと小判君が喧嘩って珍しいね……」
「喧嘩の原因は、千両が小判のプリンを食べたからだ。小判は二階で奈津と一緒にこもっておる」
 菊坂静の言葉に藍ノ介は溜息混じりに答える。
「なら私は小判君を説得してみるわ。落ち着かないと話にならないものね」
 そういうと、小坂佑紀は階段を上がって二階へ。
「親子ならプリン一つでそんな風に喧嘩ができるの? あ、親子だからできるのかな……」
「わしも奈津とは些細な事でしたな……静はしなかったのか?」
「えっ……僕の親は、小さい頃に、事故で亡くなりました……言ってませんでしたっけ? まぁ、今は千両さんと小判君の仲直りの方が先だよ……僕のことはどうでも良いから」
 微かに動揺したが、静はすぐに普段と同じ笑顔を浮かべた。
 それに藍ノ介はただ軽く、頭を撫でる。
「じゃあ、食べた時の前後の状況と、小判にばれた時の受け答えでこれからの対応変わってくるよね。まぁ、誠心誠意見せるしかないか」
「小判たん……ううっ……プリンは、普通にここの冷蔵庫に入っていたのを……食べた……名前無かったし……で、食べてるとこを小判がみて……それ以来怒って……うぐっ……」
「それだ千両さん、プリンを作って小判君にプレゼントしたらどうかな?」
「そうね、普通にコンビニで買ってくるのはありきたり、高級洋菓子店のもいいけどやっぱり手作りが妥当かな」
 静と風槻は、手作りが一番とそれをおす。千両はその勢いに、そうしようとまだずーんと沈みつつ立ち上がった。
「台所は勝手に使っていいぞ」
「あ、レシピ……パソコンない?」
「ん、あるぞ。あそこだ」
 風槻は作り方をぱぱっと手際よく調べてプリントアウト。そしてそれを千両に押し付けるように渡した。
「小判のプリンは、千両が作らなきゃ駄目よ」
「そうだね、そこはしっかりと千両さんが。僕は……その食べちゃったプリンを買いに行くから占領さんは頑張ってプリン作ればいいよ」
「私は、手伝うかな。皆の分も作って」
 ということで二手に。
 静は近所のコンビニへプリンを買いに。
 藍ノ介もついていくと言い出し二人で。
 往復十分の距離は、短い。
「なんで一緒にきたの?」
「む、道に迷うといかんからな」
「でも目と鼻の先なのに」
「……良いのだっ! わしはゼリーが食べたいから買いに行くのだ! あとコンビニでカップ酒買うのだ」
「あはは、なるほど。そういうことにしとこうかな」
 静はくすっと笑う。
 そしてコンビニで、二人騒ぎつつプリンやゼリー、そのほかも色々と買いこんで。
「プリン作っておるのにプリン買うのか……」
「失敗した時のためだよ。大丈夫だと思うんだけど……万が一ね」
 がさがさ袋揺らしつつ、二人は店へ。
 帰るとなにやら奥の台所から騒ぎ声。
「……なにしとるんだか……」
「買ってきたプリン、正解かも」
「ああ、ボール傾けない!」
「は、はいっ!」
「頑張ってるようだな……」
「そうだね、もうちょっとみたい」
 帰ってきた静と藍ノ介は、風槻と千両のどたばたにちょっと笑う。
 そしてプリン製作も再開。
 タネを裏ごしして、カラメルソースがすでに入っている容器へ。
 そして表面の泡を取って湯煎の鍋に。
「うまくできるといいな……」
「できるわよ。さて、千両はプリンできる間に小判に謝ってきなさい」
「うう……」
「そうだね、行ってきた方が良いよ」
 ほらほら、と千両は台所から追い出される。
「大丈夫かなぁ…」
「大丈夫でしょ」




 千両と小判はちゃぶ台を前に座る。
 そして周りには何かあったときのために全員待機。
「小判たん、プリン食べて、本当に悪かったと思ってる」
「うん。それはわかってる……プリン食べたのは怒ってない……多分」
「え?」
 その先の言葉を小判はなかなか言わない。
「小判君、ちゃんと言わなくちゃ」
「う……」
 佑紀が促して、小判はじーっと千両を見る。
「プリンは……千パパにあげようと思ってたんだ……けど勝手に食べちゃうから……」
「じゃあ、これを小判君があげてやり直しすれば良いよ」
 小判の言葉を聞いて、静はプリンをとん、と目の前に置く。
 小判はいいの、と聞いて静が頷くとそれを千両に差し出す。
「い、いつもお仕事お疲れ様ー」
「あ……ありがとう」
 双方照れつつはにかみつつ。
「ちゃんと仲直りしたみたいね、よかったじゃない。ま、折角だからこっちのプリンも」
「や、出さなくていい!! 出さなくていい!」
 止める千両を気にせず風槻は台所へ。
 そして帰ってきたその手には先ほど作ったプリンが。
「見た目大丈夫だし。できてるんじゃないかな」
 少し食べてみると立派にプリン。
「普通にプリンだな……プリン……千両が作れるならわしにも」
「無理だと思うわ」
「僕もそう思うなー」
 藍ノ介の呟きは佑紀と静に一刀両断。
 そんな様子を奈津ノ介がみて笑う。
「そういえば、小判君、もう一個、言う事あるんじゃないの?」
「あー……」
「何だ?」
 佑紀に言われ、小判は千両を見る。
 その視線には何か凄みがあった。
「千パパ、千パパには……か、彼女っているの? お仕事とか言って彼女に会いに行ってるとか……」
「小判、千両が仕事で会うのは大体、遙貴だぞ」
 千両が答えるより前に、笑いながら藍ノ介が言う。
 その言葉を受けて、小判は千両に確認をと聞いた。
「そうなの?」
「そう」
 こっくり頷いて、千両は答える。
 嘘は言っていないのは誰にもよくわかった。
「そっか、そっか! ならいーや! 千パパ大好きー!」
「小判たんっ!!!」
 二人ひしっと抱き合って。
「元通り、だね」
「そうみたい」
「一件落着のようね。ま、よかったわ」
 こうして親子の喧嘩は無事に終わったのでした。




「助かった」
「んー? ああ……」
 夜、皆帰って、小判ももう寝ている。
 藍ノ介と千両は二人で屋根に上がり酒を酌み交わす。
「気にするな」
「貴様にしては珍しくオツムが回ってくれて驚きだったな」
「うるさい」
 千両は藍ノ介をからかうように言った。
「……そのうちちゃんと話すんだろ?」
「ああ、話す。ただ、今はまだ早いからな。姫も望んでない」
「小判、嫉妬するぞ、きっと」
「う…………でも、姫は俺より小判が大事なんだよな」
 しゅーんとしながらこくんと一口。
「姫の子、みたいなもんだからな……」
「汝も同じようなもんだろう」
「そうだといいんだが……ま、仕事で会っているのは遙貴ってことになったから、口裏あわせ頼むか……」
「でもバレても彼女じゃないから大丈夫だろう。彼女、ではない」
「気持ちの問題だっ! 姫は、姫は俺にとってなぁ!」
「あー……わかったわかった……」
 そのうち解る真実を、今はまだ伏せて。




<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5566/菊坂・静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」】
【5884/小坂・佑紀/女性/15歳/高校一年生】
【6235/法条・風槻/女性/25歳/情報請負人】
(整理番号順)


【NPC/小判/男性/10歳/猫】
【NPC/千両/無性別/789歳/流れ猫】
【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】

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■         ライター通信          ■
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 いつもお世話になっております、志摩です。
 親子は、ちゃんと仲直りしたようです。
 ノベル執筆中にプリンが食べたくなってしまいました(笑)
 さてさて、最後にちょっと謎を残しつつ、いずれわかる事でございます!
 このノベルで一つでも気に入ってくださる所があれば嬉しく思います!
 それではまた会えるときを楽しみにしております!