■おそらくはそれさえも平凡な日々■
西東慶三 |
【2239】【不城・鋼】【元総番(現在普通の高校生)】 |
個性豊かすぎる教員と学生、異様なほど多くの組織が存在するクラブ活動、
そして、「自由な校風」の一言でそれらをほぼ野放しにしている学長・東郷十三郎。
この状況で、何事も起きない日などあるはずがない。
多少のトラブルや心霊現象は、すでにここでは日常茶飯事と化していた。
それらの騒動に学外の人間が巻き込まれることも、実は決して珍しいことではない。
この物語も、東郷大学ではほんの些細な日常の一コマに過ぎないのである……。
−−−−−
ライターより
・シチュエーションノベルに近い形となりますので、以下のことにご注意下さい。
*シナリオ傾向はプレイングによって変動します。
*ノベルは基本的にPC別となります。
他のPCとご一緒に参加される場合は必ずその旨を明記して下さい。
*プレイングには結果まで書いて下さっても構いませんし、
結果はこちらに任せていただいても結構です。
*これはあくまでゲームノベルですので、プレイングの内容によっては
プレイングの一部がノベルに反映されない場合がございます。
あらかじめご了承下さい。
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はがねんと鬼と女王様
〜 過ぎたるは及ばざるよりある意味大変 〜
モテないよりは、モテた方がいい。
漠然とこう尋ねれば、恐らくほとんどの人は首を縦に振るのではないだろうか?
だが。
「過ぎたるはなお及ばざるが如し」というわけではないが、何事にも限度というものがある。
惚れ薬の効果がありすぎたばかりに、自分を慕う女たちによってその身を引き裂かれた男の逸話を出すまでもなく、「モテすぎる」というのも、端から見ている分には羨ましいかもしれないが、当人にとっては災難以外の何物でもなかったりするのだ。
そして、そんな「災難」に遭っている人物の一人が、不城鋼(ふじょう・はがね)であった。
鋼は走っていた。否、逃げていた。
後ろから黄色い声援とともに追いかけてくるのは、彼のファンクラブに所属する女の子たち。
この騒々しい追いかけっこも、すでに神聖都学園の放課後には普通に見られる光景となっていた。
普段なら、この追いかけっこは校庭を突っ切り、校門を抜け、追いかける女の子たちが諦めるなり脱落するなりして自然消滅するまで続くのであるが、この日は少し違う展開となった。
鋼が校門の近くまでさしかかった時、不意に一台の黒のスポーツカーが現れ、校門前に停まったのである。
「乗って」
開いたドアの中から聞こえる声は、確かに聞き覚えのあるものであったが、その声の主が誰だったかまでは、すぐには思い出せない。
ともあれ、なんにせよこれは鋼にとってはチャンスである。
いいかげんこの追いかけっこにもうんざりしていたところであるし、鋼が思いつく限りで、よりにもよって鋼を拉致しようなどという剛の者などいない。
鋼が言われるままに車に乗り込み、ドアを閉めると、スポーツカーはその加速のよさを存分に発揮し、あっという間に追っ手を引き離した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 悪い意味でビンゴ 〜
「いや、助かっ……」
ほっと一息ついた後、鋼は隣の人物に礼を述べようとして……途中で凍りついた。
いたのだ。鋼を拉致しようとしたとしても不思議のないような相手が。
「礼はいい。私も用があって君を迎えに来たのだからな」
そう言って、軽く微笑んだその人物とは――私立東郷大学の保険医・最上京佳(もがみ・きょうか)、通称「鬼最上」。
彼女とは、以前東郷大学の夏祭りで出会ったことがある。
悪党連合の罠にかかった鋼を救ってくれた恩人……と、言えないこともないのだが。
結局その後にいろいろとあったせいで、鋼は彼女のことを苦手としていた。
虎口を逃れて龍穴に入るとはまさにこのこと――などと、その時と同じようなことを考えずにはいられない鋼であったが、逃げるにはすでに手遅れである。
かくなる上は、どうにかして彼女の言う「用」とやらを早急に済ませ、早々に退散するより他にないだろう。
「それで、用というのは?」
鋼の問いに、京佳は顔色一つ変えずにこう答える。
「ああ、実は悪党連合の連中が学外でまで何やらやり始めてな」
悪党連合。
またしても聞きたくなかった単語を耳にして、鋼のテンションが一気に地の底まで下がる。
だが、京佳はそんな鋼の様子に一切注意を払うことなく、淡々と言葉を続けた。
「学内でやっている分にはいいのだが、学外まで出るといろいろと支障が生じるということで、学長から直々に止めてくるように指示があった」
彼らの「活動内容」を考える限り、「学内ならばいい」という問題でもない気がするのだが、そこは「あの」東郷大学のこと、常識で考えるだけ損というものである。
「で、俺にそれを手伝えと?」
鋼がそう確認すると、京佳は一度小さく頷いた後、鋼にとってはさらなる追い討ちとなる事実を明かした。
「今回の一件には女王征子(めのう・せいこ)が絡んでいることが判明しているし、君ならば囮としても戦力としても期待できる」
女王征子。
悪党連合の「絶対女王」として君臨する女性で、前回鋼を罠にかけた張本人である。
どうやらその際に鋼のことを気に入ったようであったし、わりと単純そうでもあるから、確かに鋼が囮になれば食いついてくる可能性は高い。
「そういうことか……」
「そういうことだ。力を貸してくれないか」
最上京佳に悪党連合、そして女王征子。
これだけ鋼にとってまずい条件が揃っている以上、今すぐにでもごめんなさいをしてとっとと事件からも車からも降りたい気分ではある。
けれども、「あの連中があちこちで暴れるかもしれない」と聞かされては、やはり放っておくことはできない。
「この状況でイエスもノーもない気もするけど。
まあ、そんな話を聞いて放っておくのも寝覚めが悪いしな」
鋼がそう答えると、京佳は満足そうな笑みを浮かべた。
「きっと君ならそう言ってくれると思っていた」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 鬼と呼ばれる理由? 〜
「……で、どうしてこうなるんだ?」
京佳に案内されてきたのは、郊外のとある廃工場だった。
「街中で戦うわけにもいかないだろう。
君を囮にして、連中をここへ誘い込む」
鋼の問いに淡々とそう答えつつ、京佳が携帯電話をとりだして撮影を始める。
被写体となっているのは、もちろん鋼である。
「それにしたって、この扱いは……」
ちなみに、現在の鋼の状態を簡単に説明すると。
「廃工場の壁際の柱の一本に、後ろ手に縛り付けられている」ということになる。
当然、この作戦を発案したのも、鋼を縛り付けたのも、他ならぬ最上京佳その人である。
「心配するな。ちゃんと引っ張れば千切れるくらいにはなっているはずだ」
確かに、鋼の力で思い切り引っ張れば、どうにか千切れないことはないだろう。
その配慮はありがたいが、できることならもっと作戦自体に配慮がほしかったところである。
そんなことを考えている間にも、京佳は素早くメールを打ち、どこかへと送信して携帯を閉じた。
「ひょっとして、女王征子に?」
「ああ。不城鋼は預かっている、奪いたければこの廃工場まで来い、とメールしてやった」
どうして彼女が征子のメールアドレスを知っているのかも謎と言えば謎だが、それ以前に、これではどっちが悪党かわかったものではない。
鋼がそのことを尋ねてみると、京佳は小さく笑ってこう言った。
「毒を以て毒を制す、だ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 いろいろと予想外の展開 〜
それから、どれくらい経っただろうか。
廃工場の入り口に、いくつかの人影が現れた。
先頭に立っているのは――もちろん、女王征子。
その後ろには、数人の悪党連合の下っ端と、二体のパワードスーツの姿も見える。
「よく来たな」
「何のつもりか知りませんけど、不城鋼は私がいただいていきますわ」
相変わらずどっちが悪役かわからない様子の京佳に、一歩も引くことなく応じる征子。
一瞬、二人の間に激しく火花が散る。
「そんなことより、学外で活動しようなどとは一体どういう了見だ?
学外でいろいろと騒ぎを起こされては東郷大学全体に迷惑がかかる。断じて認められん」
この作戦のためにわざわざ廃工場の隅っこで縛られている鋼としては、「そんなこと」扱いされるのは非常に心外なのであるが、それ以上に問題なのは、征子の次の言葉だった。
「あら? それはただのブラフですわ。
そう言えばきっと風紀の目が外に向き、学内の警備がおろそかになると思って、試しにそう言ってみただけですの」
つまり。
わざわざ彼女を誘い出すようなマネをしなければ、悪党連合が学外に出てくることもなく。
一言で言ってしまえば、完全に徒労だったのである。
もっとも、肝心の悪党連合の方にしても、京佳の誘いに乗って征子がホイホイと出てきてしまっては、結局こちらも学内が手薄になってしまい、せっかくのアドバンテージが消滅してしまう。
そういう意味では、連中の企みを見事に打ち砕いた、と言えなくもない。
「とはいえ、これはまたとない好機ですわ。
あなたにも、この前の借りを返さなければなりませんし」
征子のその言葉とともに、パワードスーツが前に進み出てくる。
それを見届けて、京佳がこう口にした。
「もういいぞ」
その一言を合図に、鋼が縄を引きちぎって前線に加わる。
「パワードスーツは私が引き受ける。君は雑魚の掃討を頼む」
「わかった」
それだけ言葉を交わすと、二人は同時に目の前の敵に仕掛けた。
鋼にとって、たかが悪党連合の下っ端など、必殺技を使うまでもなく、鎧袖一触でなぎ倒せる程度の相手である。
一方、悪党連合がどこからか入手してきたパワードスーツも、戦車を軽々と投げ飛ばす京佳の敵ではなく、ものの二十秒ほどで両腕をもがれ、折り重なってうつぶせに倒れたままじたばたもがくだけの奇妙なオブジェと化した。
「さて、観念してもらおうか」
疲れ一つ見せない京佳に、征子は一度唇を噛み……不意に、鋼の方を向いてこんな事を言い出した。
「不城鋼! あなた、私が欲しくありませんの?」
「……は?」
その唐突な言葉に、思わず鋼の目が点になる。
「あなたが私たちの側につくというなら、この私がたっぷりとかわいがってさしあげますわ」
確かに彼女は世間一般の基準で見ればかなりの美人ではあるが、「モテ過ぎて困っている」鋼に色仕掛けが通用するはずもない。
「いや、だから……」
とはいえ、そんなことをストレートに説明するのもどうかと思って、ただ曖昧に苦笑するに止める鋼。
すると、それをどう誤解したのか、征子はとんでもないことを言い出した。
「そう……この私より、その年増女の方が――」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 鬼神、覚醒 〜
一瞬にして、世界から音が消えた。
唇が乾く。
膝が震える。
この廃工場を、いや、ともすれば付近一帯を覆うような、純粋にして強烈なる殺気。
いくつもの修羅場をくぐり抜けてきた鋼でさえ、一瞬でも気を抜けばその場にへたり込んでしまいそうになるほど強烈なその殺気の中心に――怒れる鬼神の姿があった。
「今……何と言った?」
完全な静寂の中に、その鬼神――京佳の静かな声と、足音だけが響く。
一歩、一歩、征子に向かって歩みを進める京佳。
それに対して、征子は完全に腰が抜けたのか、逃げることすらできずにその場に座り込んでいる。
やがて、京佳が征子の目の前に辿り着き……一瞬冷たく凍った目で彼女を睨め付けた後、いきなり彼女の細い首を鷲掴みにした。
「……小娘が……言うに事欠いて」
そのまま征子の身体を持ち上げ、締め上げる。
征子は必死の形相でバタバタともがくが、それが何かの役に立つはずもなく。
本来なら彼女を助けなければならないはずの悪党連合の面々も、皆金縛りに遭ったように声を発することすらできずにいた。
「きょ、京佳さん! それ以上やったら本当に死んじまうぞ!?」
精一杯の気力を振り絞って、鋼はそう叫んだ。
しかし、京佳は一切手を緩めることなく、ぽつりと一言こう答えただけだった。
「『バカは死ななきゃ治らない』とも言うからな」
どうやら、先ほどの一言で完全に京佳の逆鱗に触れてしまったらしい。
このままにしておけば、ほぼ間違いなく征子は殺される。
いくら悪党連合の幹部とはいえ、さすがにそれを見過ごすわけにはいかない。
今、この状態で動けるのは、京佳を除けば鋼ただ一人。
つまり、鋼がどうにかして、この状況を収めるより他に手はないのだ。
……だが、どうやって?
鋼は懸命に考え――そして、ある一つの方法を思いついた。
これなら、ひょっとしたら京佳を止められるかもしれない。
もちろん、その代償は決して小さくはないかもしれないが、もはや迷っている暇などない。
(こうなりゃ、一か八かだ)
鋼は一度大きく深呼吸すると、覚悟を決めてこう叫んだ。
「京佳さん! そんな連中の言うことなんか気にしちゃダメだ!」
その言葉に、京佳が微かに反応する。
もう一押し――「その言葉」を口にすれば、きっと彼女を止められる。
その確信を持って、鋼は言葉を続けた。
「京佳さんには、京佳さんなりの……その、大人の魅力、みたいなのが……あると、思うからさ」
大声で言い切るつもりが、やはり気恥ずかしさと迷いとに押され、いつしか声は小さくなり、歯切れも悪くなる。
それでも、その言葉は確かに京佳の耳に届いたようで――彼女は一瞬きょとんとした表情を浮かべると、やがて、締め上げていた手の力を緩め、征子の身体を無造作に放り投げた。
「うわっ、姉御っ!?」
宙を舞う征子を、やっとの事で金縛りから逃れた悪党連合の下っ端がどうにかこうにかキャッチする。
「ち、畜生、覚えてやがれっ!」
律儀にお決まりの捨てゼリフを残しつつ、足をもつれさせながら必死に逃げ去っていく彼らを、鋼は複雑な思いで見送ったのだった。
そんなこんなで、悪党連合が去ってしまった後。
「すまない、少し取り乱したようだ」
京佳は一言そう言うと、恥ずかしそうに頭を掻いた。
普段の彼女からはあまり想像できないその様子を少し新鮮に感じつつ、鋼は冗談めかしてこう聞いてみた。
「全然『少し』じゃないと思う……というか、殺してないよな?」
が。
それに対する彼女の答えは、全然冗談になっていなかった。
「もちろんだ。本気で殺すつもりなら、掴んだ時点で殺っている」
とまあ、いろいろと予期せぬ事態はあったものの。
こうして、今回も悪党連合の野望は潰え去ったのである。
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〜 感謝のカタチ 〜
その後。
来た時と同じように、鋼は京佳のスポーツカーの助手席に座っていた。
恐らく、鋼のアパートまで送ってくれるのだろう。
最初はそう考えていたが、それにしてはどうも方向がおかしい。
「ところで、今どこに向かってるんだ? 俺のアパートはこっちじゃないんだけど」
鋼の言葉に、京佳は相変わらずの様子でこう答える。
「私は君のアパートの場所など知らない。アパートに住んでいること自体初耳だ」
言われてみれば、確かに彼女に住所を教えた事はない。
もちろん今教えることもできないわけではないが――彼女に住所を教えるのは、さすがに少し不安な気がしないこともない。
ともあれ、今問題なのはそのことではない。
「じゃ、どこに……」
「私の家だ。せっかくだし、夕食でもどうかと思ってな」
以前あったことを考えれば、これも十分に警戒すべき展開である。
そんな鋼の様子に気づいているのかいないのか、京佳は一言こう続けた。
「今日はいろいろと手伝わせてしまったからな。その礼くらいはさせてくれ」
そうまで言われては、鋼としても無碍には断りにくい。
「まあ、食事だけなら」
控えめにそう答えると、京佳は嬉しそうに微笑んだ。
「そうか。これでも料理にはそれなりに自信があってな」
その横顔に、先ほどの修羅の面影はすでにない。
(こうしてれば、素敵なお姉さんって感じなんだけどな)
そんなことを考えて、鋼は軽く苦笑した。
と。
「それはそうと……さっきの言葉、嬉しかったぞ」
前を向いたまま、京佳がぽつりとそう呟く。
彼女の顔が赤く見えるのは、どうも沈みかけている夕陽のせいだけではなさそうだ。
その意外な様子に、少しドキッとしかけた鋼であったが。
彼女の次の一言で、別の意味でドキッとすることになった。
「その分の礼は、もちろん食事とは別にたっぷりさせてもらおう」
これは……明らかにまずい。
「えーと、礼ってまさか……?」
「私の口から言わせる気か? 食後のお楽しみだ」
楽しそうな笑みを浮かべる彼女の瞳には、明らかに獲物を捕らえた肉食獣のような光がある。
チェック・メイト。
「ちょ、ちょっと待てっ! これじゃ前と同じパターンじゃないか!」
「心配するな。ちゃんと朝は間に合うように送ろう」
「いや、そうじゃなくて! 頼む、降ろせ、降ろしてくれっ!」
「残念だな。たった今高速に乗ったところだ」
「な、なんだってええぇぇっ!?」
その翌朝。
神聖都学園の付近で、あの黒いスポーツカーが目撃されているとか、いないとか――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
2239 / 不城・鋼 / 男性 / 17 / 元総番(現在普通の高校生)
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■ ライター通信 ■
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撓場秀武です。
この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
さて、ノベルの方ですが、こんな感じでよろしかったでしょうか?
女王征子は、多分ツンデレです。
最上京佳は、ツンデレというより、クール→デレというか、そんな感じではないかと思うのです。
いずれにせよ、二人とも本当は(自分に)素直ないい(性格をした)娘ですので、よろしければまた気が向いた時にでも遊んで(遊ばれて?)やって下さいませ。
ともあれ、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
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