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■I’ll do anything■

九十九 一
【0164】【斎・悠也】【大学生・バイトでホスト(主夫?)】
 都内某所
 目に見える物が全てで、全てではない。
 東京という町にひっくるめた日常と不可思議。
 何事もない日常を送る者もいれば。
 幸せな日もある。
 もちろんそうでない日だって存在するだろう。
 目に見える出来事やそうでない物。

 全部ひっくるめて、この町は出来ている。


始まりの場所


「許可が降りたようで何よりです」
『悠也にも手間かけさせたしな。後はこっちに来て確認してくれ。頼まれてた書類も送って置いた』
「確認しました。少し寄り道をしてから向かわせてもらいます」
『解った、それまでにこっちの用も済ませておくから』
「よろしくお願いします」
 幾つか言葉を交わし、静かに電話を置く。
 少し前からあることで動いていたが、狩人からの電話でそれがほぼ纏まったと連絡が入ったのだ。
 事の発端は少し前に起きたコール、タフィー、ディドルの起こした事件。
 一応の解決を見たことだが、その後もするべき事は幾らでもある。
 事件に関わった物それぞれが出来ることをしていたのだが、その中で悠也が協力していたのは現在もIO2に身柄を確保されている二人の事。
 ディドルに関しては別の人が引き受けているから任せるとして、タフィーに関しては悠也が預かることに決め、実現できるように動いてきた。
 タフィーとも話をしたし、IO2に手を回しもしている。
 前例があっただけに、思っていたよりもすんなりと事が進んだのも幸運だろう。
「お待たせしました」
「それは構わないのだが、本当に良いのか?」
「風波は無理だと思いますか?」
「いいや、元した事を考えると誰もが驚くだろうがね」
 小さく喉を鳴らして笑う風波に、悠也が微笑み返す。
 詳しく事情を知る者や、事件に関わった者以外に風波がどういう存在であるかは伏せられていた。
 ただの斎悠也の式神としてなら誤魔化しようがある。
 そう、手順さえ踏めば、風波をタフィーの保護監査役としておくことも出来てしまった。
 これに関しては多少荒っぽい手段を用いもしたのだが、上手く行ったのでよしとしよう。
「もう前のようなことはないと思っていますから」
「一度は死んだ身だ、大人しくしているよ」
 何もしないという確証は、短い間だが行動を共にしていた事にもよるが……彼が今から何をしたところでえる者が何もないと悟ったことが大きい。
 いま手にしている物を無くすリスクを考えれば、そんな危険な行動は取らないだろう。
「彼女のためにも、ですね」
「その通り」
「このまま直行と行きたいところですが、用事を済ませてからにしましょうか」
「任せるよ、こういう待ち方も悪くない」
 出かける時間だと風波は立ち上がり、その姿を鳥へと変化させる。
 これも悠也が施した術の一つだ。
 任意で姿を変化することが出来る。
「人型の時はどうします? 俺に似せることも、他の姿にすることも出来ますが」
「そうだな、式神だと解っているのなら……」
 ニッと楽しげに風波は笑って見せた。



 某幽霊マンション。
「いってきます」
「気をつけてな……って、言うまでもないか」
 りょうに手を振られながら、リリィがくすくすと笑った。
「タルト、全部食べちゃダメだからね」
「解ってるって」
「足りないようでしたらまた作ってきますよ」
 今日はリリィに買い物に付き合って貰えるように頼んでいたのだ。
 おみやげのフルーツタルトを渡し、マンションを後にする。
 タフィーが外で暮らすとなると、色々と必要な物も出てくるだろう。
「りょうから話は聞いてたけど……実際に見るとびっくりよね」
「それだけ強い繋がりがあったのだと思いますよ」
 一応触媒能力はタフィーから分離されているものの、コールの影響はとても大きく残されていた。
 あの事件から経過した時間は、タフィーにも少なからず変化をもたらしている。
 あまりない例だというが、取り込んだ相手の身体的特徴も受け継いでしまうのだとは狩人の言葉。
「りょうもそれで背が伸びたみたいだし。あっ、この服かわいい」
「目が媒介になっているからですね。今のタフィーさんによく似合いそうです」
「よかった、他に何にしようかな」
 見た目がある程度自在に変化できるリリィなら、変化したタフィーの服を選ぶのにも最適だ。
 他にも服を買いそろえ何事もなく買い物は完了。
 重くなりそうだったので先にマンションの方へ送ってしまう。
 家具や日用品、その他の物は既に運び込んである。
「沢山選べて楽しかったぁ、タフィーちゃんによろしくね」
「喜んで貰えて何よりです。伝えておきます」
「それじゃあまたね、かなみさんの所に遊びに行くって約束してるの」
「今日はありがとうございました、また今度」
 IO2本部の入り口でリリィと別れ、狩人とタフィーが待っている部屋へと足を向ける。
 そろそろ狩人の用事も片付いている頃だろう。



 待ち合わせの場所は今までタフィーが居た何もない部屋ではなく、きちんとした待合室だ。
「お待たせしました」
「こっちも今来たばかりだ」
「悠也さん、こんにちは」
 軽く会釈をしたタフィーの姿は、少し前とは驚く程に変わっていた。
 基本的な顔立ちは変わっていないが、身長と手足はすらりと伸びている。
「痛みはありませんか?」
「はい、170で落ち着いたようです。髪よりも早く伸びたぐらいですよ」
「確かに」
 ほんの数ヶ月の間に10センチは背が高くなっただろう、知らない人が見れば驚くほどの成長具合だ。
 コールも背が高かったからといわれれば納得できるような、そうではないような。
 背が伸びてしまったのは事実なのだから、納得するより他にないだろう。
 もちろん身長以外にも変化はある。
「嬉しそうですね」
「出られるということもありますけど、何か良いことがありそうな気がして」
 おっとりとしているが、口調や表情からはっきりと感情が伝わってくる。
 感情を得られつつあるのは良いことだが、勘が良いことに関しては少しばかり驚かされた。
 今日タフィーと風波を始めて会わせるつもりだったのである。
 当然、風波の詳細は伏せてあるし、悟られないような細工も幾つも施してあった。
 だからタフィーが感じたのはただの偶然。
 風波のことに気付いたともいっていないから反応しないのがベストだ。
「いいことあると良いですね」
「はい、きっと何かあるって思います」
「さてと、外に出るまえに最終的に確認が幾つかあるわけだ」
「お願いします」
 狩人が本題に入りながら話を変える。
 書類の何枚かを読み、名前を書いていく。
 ここに至るまでに重要なことはほぼ済ませてしまっていたから、本当に最終的なことだけだった。
「こっちの書類はこれで終わりだ、後の説明は悠也よろしく」
「ご苦労様です」
 書類のチェックをしている狩人に変わり、悠也が外に出てからの説明を続ける。
 生活費に関しては既にタフィーと風波に話してある。
 肝心なのは二人を会わせるときの事。
 何一つ言っていないのに良いことがあると言ったほどだ、風波の意思を尊重するなら隠し通した方が良いだろう。
 すうっと流れるような動作で左腕をあげ、手の甲に式神で作り出した小鳥を乗せる。
 基本的に黒い色だが、頭部にほんの少し白い模様と柿色のくちばしが特徴的だった。
「何か疑問があれば彼から聞いてください」
「………彼?」
「人型にもなれますよ」
 じっと小鳥を見るタフィー。
 これ以上不思議がられるまえに、早く説明をしてしまった方が良いだろう。
「初めましてタフィー、風波と言います」
 笑いかけながら指しだした手を前に、タフィーは今までとは別の意味で動きを止める。
 驚くのも無理はない。
 なにしろ目の前の相手が今のタフィーとそっくりだったのだから。
 人型を尋ねた時の答えは『今のタフィーそっくり、ただし男で』だった。
 何故かと尋ねたら風波曰く、都合が良いとの事。
 信じ込ませる為には驚かせて、その間に説明したほうが納得してくれるとも言う。
 彼女のことは彼の方が知っているから任せることにした。
「よろしくお願いします、風波さん」
「風波で良いですよ」
「……よろしく、風波」
 おずおずと手を握り返すタフィー、まだ不思議そうではあったが、一応は風波と言うことで納得してくれたようである。
「私に用があるときは声をかけてください」
 そう言い残し鳥の姿へと戻る風波。
 背後で狩人がトンと書類を纏め終えた。
「書類の方は問題なし」
「お疲れ様です」
 これでIO2でやるべき事はお終いだ。
 悠也が振り返ると、まだ何か不思議そうな顔をしている、気になっているのは風波ではなく別の事らしい。
「実感が沸きませんか?」
「それもあります。でも、どうして色々してくれるんだろうって」
「何時までもあのままという訳にはいきませんから。それに、ずっとここに閉じこめられているのも彼の本意ではないと思いませんか?」
「……!」
 少しの沈黙の後、はっきりとタフィーが頷く。
「本当にありがとうございます」
「いいえ、困ったときはお互い様ですよ。これからゆっくり慣れていきましょう」
「はい」
 みとれるような微笑で語りかける悠也に、タフィーがおっとりと笑い返す。
 外に出てからを決めるのは彼女自身。
 ここが彼女の新しい始まりの場所。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0164/斎・悠也/男性/21歳/大学生・バイトでホスト】

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■         ライター通信          ■
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発注ありがとうございました、楽しんでいただけたら幸いです。
補足としては、風波があの姿を選んだのは、
タフィーに何かあった時にすり替わるためだったりします。