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■no name sweets 〜イートイン編■

櫻正宗
【3844】【レムウス・カーザンス】【クォーター・エルフ】
 まだ空は藍い。
 繁華街は賑わいの名残を惜しむように、ひっそりとしていた。
 路地裏も同じようにひっそりとしていたのかもしれないけれども、そこだけは違っていた。
 外見の上品なイメージとは違い、中はなぜか賑やかだった。
 小さな小さなパティスリーはいつものように開店準備に追われていた。

「アッキーさん。卵から、ヒヨコが生まれましたっ」
「チーフと呼べ」
「アッキーさん。腕が疲れましたっ」
「チーフと呼べ」
「アッキーさん」
「五月蝿い。 さっさと軽量のひとつでも済ましやがれっ」
 厨房の中には男が二人、今日の準備にとりかかる。
 無駄口叩くアシスタントに、黙々と手を動かしては今日の店頭に出すものを作り上げていくパティシエ。
 そうこうしてるうちに、焼き菓子が焼きあがれば店内全体に広がる程よく甘い香り。
 クリームを搾り出しながらデコレートしていけば、店内に広がる優しい時間。

 そうこうしているうちに繁華街は目を覚まし、再び賑わいを見せ始める頃。パティスリーも開店時間になる。
「いらっしゃいませ。」
 元気のよい声が店内に響いた。
 午前中から昼過ぎまでバイトの代わりにアシスタントがフロアも担当する。

「では、こちらへどうぞ。」
 そうして差し出されたメニューはなぜか2冊。
 普通にメニューがかかれているもの。と何故か何もかかれてないまっしろなもの。
 
「お気に召さなければ、なんでもお作りさせていただきます。」
 聞えたのはパティシエの声。
 ひと段落ついた厨房から顔をだし、お客に声をかける。
 何も書かれてないメニュー。とメニューのあるメニュー。

 さて、ご注文はどうしましょう? 
no name sweets 〜イートイン編

 今日も店は暇だった。
 バイトが学校の都合で今日は休みらしく、尚乃は仕方なく店頭に立っていた。
 あまりに暇すぎてそのまま寝てしまえると思えるほど。
 昼下がりの陽射しは暖かく心地よい、これは眠れと言ってるに違いない。そんな勝手な思い込みさえ出てくる。
「あー……かったりぃ」
 漏らす言葉、イツ来るかわからない客を待ちながら尚乃は少し身を屈めてショーケースの上に顎を置く。
 その下には色とりどりのケーキが並んでいた。
「尚乃ー」
「へーい」
 厨房から自分を呼ぶ声が聞こえた。あぁ、またなんか雑用頼まれるよとか思いながら、イヤイヤ返事を返しつつ、尚乃はなるだけゆっくりと厨房へと向かった。
 それは小さな彼なりの抵抗らしい。

 レムウス・カーザンスと水滝・刃は二人で並んで歩いていた。
 先ほど二人で外で昼食を終え家へと向かっている途中、何がどうなったのか小さな路地を二人で歩いていた。
 なんの変哲もないただの路地、どこまでも真っ直ぐで何もなくて、もしかするこのまま次の通りに出てしまうのではないのだろうかとか、もしかしたらこの路は間違いだったんじゃないのだろうかそんな気さえしても不思議じゃない細い路地。
 歩いているのはレムウスと刃しかいない。
 静かな路地だった。
 そんな路地の途中に突然ぽかりと現れだす小さな店。
 そんな店があるなんて気配もなかったのに、本当に突然に。
「――――ぁ」
 先に店に気がついたのはレムウス。
 そうして歩く速度が次第にゆっくりとなり、店の前まで来れば自然と止まった。
「どうした?」
「ぁ、いや。………ここでお茶でもどうだ?」
「あン?……さっきメシ食ったところだろ?」
「それはそうだが…………」
 店の前で立ち止まった二人。
 レムウスはちらりと店内が覗き見れる窓から中を覗いてみた。
 そこにはショーケースに並んだ色とりどりのケーキが綺麗に並んでいるではないか。
――――――――――美味そうだ。
 ケーキに釘付けになっているレムウス。それはもう自分を呼んでいる様にしか感じられない、レムウスは刃の方を向いて提案する。
 刃はレムウスの言葉を聞きながら、呆れたように言葉を返す。その返事に少々ムッとしたような困ったように少しだけ眉を顰めたレムウスは少し強引に刃の腕を取り歩き出す。
「いいじゃないか、付き合えよ」
「はいはい」
 刃はレムウスの好きにさせながら、やれやれといった風に声を上げる。
 レムウスはゆっくりとケーキ屋の扉を開けた。
 扉につけられている呼び鈴がカランカランとなった。
 二人が入った店内には誰もいなかった。
「あれ?」
「休みなんじゃないのか?」
「休みなら、店の扉は開いてないだろう」
 刃が態と少し意地悪な言葉をレムウスに掛ける。
 その言葉にレムウスは少々むっとしながら刃に食って掛かろうとした時、厨房の扉が開きそこからひとりの青年が現れた。
 先ほどパティシエに呼ばれて引っ込んでてた尚乃だった、
「いらっしゃいませ」
 尚乃は従業員らしく軽く頭を下げて、接客を始める。
「えー、と。持ち帰りですか?」
「あ、いや。できればここで食べたいのだけれども」
「あぁ、はいはい。それではこちらにどうぞ」
 突然現れた尚乃の存在にレムウスは先ほどの会話を聞かれていやしないかと、少々びくびくしていたものの尚乃はごく普通に接客していくのに安心を覚えた。
 レジがおいてあるカウンターからメニューを取れば、尚乃は小さいながらもきちんとした喫茶スペースに二人を案内する。
「こちらでいいですか?」
「ぁ、はい」
 尚乃が案内したのはゆったりとしたソファ席。
 それにレムウスが返事を返し、刃は席に着く。
「それじゃぁ、決まったら呼んでください」
 席についたふたりに尚乃はメニューを渡す。
 ふたりに2冊ずつ。
 普通のメニューとそうでない何も書いてない真っ白なメニュー。それは彼にしてみればいつものことで、当然のこと。だからすぐに問いかけられたレムウスの言葉もいつもどおり聞きなれたものだった。
「こっちのメニューは白紙なんだが?」
「そっちはうちのパティシエが、お客様からのご希望のスウィーツを作らさせて貰う様のメニューです」
「ご希望?」
「えぇ、噛み砕いて言えば好きなもの何でも作る。ってことです」
「それじゃぁ………和洋折衷なものでも大丈夫か?」
「和洋折衷ー?大丈夫ですよ。もっと細かい指定とかあっても大丈夫ですし」
「いや、特別何もない。……異なる文化の融合を見て見たいのだが」
「えぇ、分かりました。じゃぁ、和洋折衷であとはパティシエのお任せで」
「あぁ、それで良い。あ、それから紅茶も一緒に貰おう」
「はい。で、そちらのお客様はどうされますか?」
 レムウスは白紙のメニューの存在を知れば、何でもいいということに異文化の組み合わせだと出来るかと思っただけだった。何か深い意味は別になかった。
 レムウスの注文の後に尚乃は、刃の方を向き注文を尋ねる。
「あぁ。お勧めのものを貰おうか」
「定番商品か、季節の商品か?どうします?」
「そうだな、出来ればそのパティシエの聞いてきてもらってもいいか?今何が一番お勧めなのか」
「はい、じゃぁ、ちょっとお待ちください」
 お勧めという言葉に尚乃はこの店の定番で出しているものなのか、それとも季節商品なのかどちらかを提示したのだが刃は『パティシエとしてのお勧め』を聞いてきた。
 尚乃はそれじゃぁ直接聞きに行くと、一端二人の元を離れて厨房の方に向かった。
「アッキーさーん」
 厨房の扉を開きながら、中にいるパティシエに話を聞きにいく。
 レムウスはずっと尚乃を見ていた。
 言葉遣いはイマイチだけれども、接客態度は人を不快にさせることはなかった。
 何故そこまでにコチラに気遣いをしてくれるのだろうか、深く考えなくてもおそらく単純なことだろうと尚乃が戻ってくるのを待つ。
 尚乃は程なくして戻ってきた。
「すみません。えっとですね、パティシエが言うには今だとモンブランがお勧めだと言ってました。あと和梨のいいのが入ったので、今日は和梨のタルトも用意ができるらしいです」
「そうか、それじゃぁ。それを頂こう。あ、ケーキに合うコーヒーと一緒に」
「はい、分かりました。じゃ、注文確認します。和洋背中のデザート、紅茶と一緒に。モンブランと和梨のタルトコーヒーと一緒に。以上でいいですか?」
 尋ねられた、レムウスと刃は『構わない』と、いう風に軽く頷いた。
 それを確認してから、尚乃は軽く頭を下げて厨房へと戻っていった。
 そこに残ったのはレムウスと刃の二人。

 ゆったりとしてそれでいて静かな時間は向かい合って話すのには丁度良かった、と、その時レムウスは思った。
 ゆっくりと術の話でもしようと先に切り出したのはレムウスの方
「刃。丁度いい機会だ、言っておきたいことがあるのだが」
「何だよ?」
「術のことなんだが……」
「術がどうかしたのか?」
「どうか。というか、このままの実力でいいのだろうかともっと上を目指すべきじゃないだろうか」
「あぁ、上ねぇ?」
「刃、私は真剣に話をしてるのだから、もうちょっと真面目に聞けないか?」
 レムウスがむ。と、眉を寄せて刃の方をじっと見た。
 刃といえばその視線からさりげなく逃げるように、軽く視線をあさっての方向に飛ばす。
「刃、聞いているのか?……私はだな………」
「聞いてるよ。きっちり修行してもっと強くなりたいって言うんだろ?」
「そうだ、強くなるためには……………」
「いや、でもさ」
 レムウスが熱く語りだすのを分かってのように刃がレムウスの言葉を遮り喋りだした。
 それは熱くなりだしたレムウスよりもゆっくりとそれでいて、語り口は静かだった。
「修行するのはイイケドさ」
「それならすぐにでも修行の準備に取り掛かろう」
「あぁ……でもなぁ」
「刃。お前というやつはもう少し真剣に考えようとしないのか」
 のらりくらいと刃はレムウスの言葉を交わしていく。
 それに痺れを切らしたのはレムウス。
 声を荒げることはなかったけれども、その声は次第に低く刃を見据える視線はきっとちょっと睨むようになってきていた。
「ならさレムウスもそのちょっと、いやカナリ女々しいとこをなんとかしないと修行なんてできないんじゃないのか?」
「……………―――――――む」
 都合の悪いところを刃に容赦なくつっこまれて、刃の一言に何か言い返そうとしていたレムウスの唇は閉じられて黙りこくってしまった。
 ここは刃の勝ちと言ったところだろ。

 レムウスが黙り込んで、しばらくしてからまた尚乃が厨房から出てきた。
「おまかせしました。こちらがお勧めの和梨のタルトとショコラモンブランになります」
 尚乃が説明をしながら1枚のプレートを刃の方に置く。
 少し大きめの白いプレートの余白を楽しむように上品にタルトとモンブランが並んで置かれ、それらを更に引き立てるようにヴァニラのジェラードが添えられ、チョコレートで周りを彩る模様が描かれていた。
「で、こちらが和洋折衷なデザートプレートになります」
 もう一枚のプレートはレムウスの方へ、刃と同じ白い皿の上にこちらはいろんなものが乗っていた。
「和洋折衷ということだったので、シブーストと柿とチョコのタルト、和梨のジェラード添えになります」
 簡単な説明をされたオリジナルのデザートはふわりとした林檎が入ったシブーストとクラッシュショコラを焼き込んだ柿のタルト。それに添えられたのは和梨の歯ごたえ残るジェラードと生クリームには小豆が添えられていた。
「それではごゆっくり」
 それぞれに紅茶とコーヒーも出し終えた尚乃は軽く頭を下げてその場を去る。
 目の前に置かれたデザートは予想していたものと全然違うもので、レムウスは見た目の楽しさだけで気分がウキウキしてしまう。
 銀色のフォークを手に取ると、何から食べようかと迷いながらも先に口に入れたのはシブーストだった。
 甘いカスタードの味が口の中に広がる中、シャリシャリという歯ごたえと共に林檎の酸味がカスタードの甘さを和らげた。
「………おいしい」
 自然とそんな言葉が出てきた。
 もう一口今度は柿のタルトを食べてみる。
 初めて食べる組み合わせのタルトに少しどうなのかと思ってはいたのだが、口の中に入れればチョコレートの苦味と甘さがたるとの上に乗せられた甘く煮詰めた柿に以外にも良く合っていた。
「おいしいな、刃」
 思わずケーキを食べながらレムウスは刃の方を向き、その美味しさに目を細めた。
「あぁ………そうだな」
 刃もタルトを口にいれながら、レムウスの言葉に同意した。
 レムウスの表情は大して大きく変化がないものの、刃から見ればおいしいケーキに上機嫌になる女子のように見える。
「あの………」
 ケーキを食べながらレムウスが尚乃を呼ぶ。
 声が聞こえた尚乃は二人が座る席の方を見て、呼ばれていることに気がつけばそちらに近寄る。
「はい?」
「このケーキが本当においしくて、出来ればパティシエ本人にお礼がいいたいのだが、いいだろうか?」
「あぁ、いいですよ」
 じゃぁ、ちょっと待ってください。なんていえば尚乃は厨房の扉を開けた。
「アッキーさん、お客さんがお呼びですよ」
「チーフと呼べ」
 そんな二人の些細なやり取りの後、厨房から出てきたパティシエ。
 ゆっくりと二人の席の方に近づき、頭を下げる。
「本日はご来店いただきありがとうございます」
「いや、そんな頭を下げないでくれ」
 頭を下げるパティシエにレムウスは言葉をかける。
「本当に美味しくて一言、何か言いたくて」
「それはありがとうございます。お客様においしいと喜んでもらう為に作っています。ですからそうやっておいしいと言って貰えることがなによりです」
「ただの思いつきで、異なる文化の融合を見て見たいなんておもったのだったが、そんなことを忘れてしまうぐらいにおいしい。まるで完璧な魔術のようだ…。素晴らしい」
「それは恐れ多いです。お気に召していただけたのなら、良かったですよ」
 レムウスはパティシエの作ったデザートを食べて、彼の実力が本物であることがわかりその感想を直接伝えたかったのだ。
 その言葉にまたパティシエは軽く頭を下げる。
「あの話の途中わるいのだけれども、このケーキがとても気にってしまったので、できれば持ち帰りようにできないか?」
 レムウスとパティシエの会話の間に刃がさりげなく入ってきた。
「えぇ、それはご用意させていただきます」
 持ち帰りの言葉にパティシエは刃の方を向き、快く承諾した。
 そうしてパティシエは程なくして、厨房の方へを戻っていく。
 レムウスと刃はまだ残っているデザートを楽しむことにした。

 二人とも各々のデザートを堪能し、コーヒーも紅茶も空になれば名残おしいけれども、そろそろ行こうかとどちらかともなく立ち上がり、会計を済まそうとする。
「今日は本当にありがとう」
「また来てください」
 刃が尚乃に礼を言う。
 尚乃が言葉を返していれば、厨房の扉が開きパティシエが出てくる。
「お持ち帰り用のケーキです」
 パティシエは二つ箱を持っていた。
 ひとつはもちろん頼まれた刃へと、そうしてもうひとつはレムウスへと差し出す。
「これは気持ちです。うちのケーキを気にってくれたあなたへの」
「ぁ、ありがとう」
 箱を受け取るレムウスにパティシエはそう言葉をかける。
 レムウスは少し戸惑いながらも小さくはあるものの、嬉しそうな笑みをパティシエに向けた。
「うちの実家は神社をやっているので、……商売繁盛のご祈願でしたら、いつでも駆けつけますよ」
 刃がパティシエから箱を受け取りながらそう申し出ては、パティシエに向かって小さく笑う。
 パティシエもその言葉に小さく笑み返した。
「それは心強い、いつかお願いに上るかもしれません」
 その時はよろしく。と、付け足して。
 レムウスと刃はゆっくりと店を出た。
 高かった陽はゆっくりと傾きかける時間になっていた。
 細い路地を歩きながらレムウスは振り返った。
 そこには何も変わらず、ケーキ屋がこじんまりとあった。
 また何かあればこの店に来て、おいしいケーキを食べたいものだと思うも早く家に帰って貰ったケーキを楽しみたいとも思った。


―――――― FIN





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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 
3844 / レムウス・カーザンス / 男性 / 28歳 / クォーター・エルフ
3860 /  水滝・刃 / 男性 / 18歳 / 高校生/陰陽師


NPC
尚乃→蒼井 尚乃/男性/20歳/Le Diable Amoureuxのアシスタントパティシエ
パティシエ→宮里 秋人/男性/28歳/Le Diable Amoureuxのオーナー兼チーフパティシエ


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        ライター通信          
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レムウス・カーザンス様

はじめまして、こんにちわ。
ライターの櫻正宗です。
この度は 【no name sweet 〜イートイン編】 にご参加下さりありがとうございました。
初めてご参加いただきうれしい限りでございます。

納期イッパイイッパイでの納品お待たせいたしました。
今回はお二人でのご来店ありがとうございました。
格好良いレムウスさんと刃さんとのやりとりが書けて楽しかったです。
レムウスさんの口調にちょっと四苦八苦しました。これで大丈夫なのかどうか少々不安が残るところではあります。
甘いものを食べて童心に戻るようなレムウスさんは偉そうに話すことはあれども、心優しい方なんだろうと思いました。
レムウスさんのお褒めの言葉にパティシエも嬉しかったことだろうと思います。ありがとうございました。

それでは、重ね重ねになりますが本当にありがとうございました。
それではまたどこかで出逢うことがありましたらよろしくお願いいたします。

櫻正宗 拝