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■戯れの精霊たち〜火〜■ |
笠城夢斗 |
【3385】【ルイミー・アクロス】【超常魔導師】 |
『精霊の森』にたったひとつだけ建つ小屋を訪ねると、中にはなぜか暖炉があった。
しかも、火が入っている。
「やあ、いいところへ来たね」
この森に住むという青年が、暖炉に木の枝をくべながらこちらを向いた。
「どうだい、あったまっていかないかい?」
――それ以前に、寒くないんだけれども。
反応に戸惑っていたら、青年は意味を取り違えたらしい。
「暖炉は好きじゃない? じゃあこっちはどうかな」
連れて行かれたのは小屋の外――裏側。
そこには、なぜかごうごうと燃える焚き火があった。
「こっちの火力はまた凄いよ。あったまるよ」
――いやだから、寒くないんだけれども。
青年は眼鏡を押し上げながら、上機嫌そうに言った。
「うん。今日は暖炉の精霊も焚き火の精霊も元気だ。きっとキミが来てくれたからだな」
はい?
「つまりね。火の精霊がいるんだよ。暖炉と焚き火のそれぞれに」
銀縁眼鏡のふちが、火に照らされて赤く染まった。
「彼らはそこからまったく動けない。ずっと燃えているだけっていうのも退屈らしくてね……だからさ。キミの体を彼らに貸してくれないかな?」
火の精霊を体に宿す?……危なくないか?
「うん、まあ。ものすごく熱いと言えば熱い。宿らせた当人よりも、宿らせた人に触る人間のほうが熱いだろうねえ」
爽やかに言うことじゃないと思うんだけれども……
「ついでに、彼らは気性も荒いよ。はは、やっぱり怖いかい? ならせめて、遊び相手になってやってくれないかな」
眼鏡青年はどこまでも気楽に、そう言った。
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戯れの精霊たち〜炎、ここに集いて〜
エイミー・アクロスは、炎の気配に引かれてこの森にやってきた。
「生き物の気配がしないな……」
それなのになぜ炎の気配があるのか釈然としなかったが、深く考えている場合ではなかった。エイミーは今怪我をしていたのだ。
痛む腕を押さえながら、炎の気配をさぐりつつ歩く。
――エイミーはフェニックスの祝福を受けた有翼人だ。その翼は炎のように染まった優美な赤色。
かつて、フェニックスの祠を護っていたことがあった。妹とともに。
そのときにフェニックスの祝福を受け、翼も赤く染まり、熱い体温をさずかり、触れるものを次々と火傷させてしまってから手袋をはめるようになった。
今の彼女は炎で傷を癒すことができる。だから炎の気配をさがしていたのだ。
森の中に入りしばらくして――
エイミーは小首をかしげた。小屋がある。
「こんなところに小屋……?」
そしてその小屋の陰に強い炎の気配を感じ、今は小屋の謎より怪我を治すほうが先決だとエイミーは小屋の陰に回った。
小屋の後ろには、かなり大きく焚かれた焚き火があった。
「ありがたい……」
エイミーはしゃがみこみ、炎の中に怪我をした腕をそっと差し入れる。
――普通の炎とは、どこか違う気がした。暖かく力強いのは当たり前なのだが――
「なんだ……? この炎は……」
エイミーは傷を癒しながら、しげしげと焚き火を観察した。
まるで応えるように、焚き火が揺れた。
「意思でもあるような……」
つぶやいたそのとき。
ラン ラン ランララン
――聞き覚えのあるハミングが聴こえてきた。
エイミーは眉間にしわを刻んだ。
ハミングが歌に変わり、歌がハミングに変わり、楽しそうなその声はだんだん近づいてくる。
エイミーはため息をついた。
「ルイミー……」
「え? あ、お姉さま!」
歌声の主が焚き火までやってきて、そこにいた自分そっくりの存在を見つけて声をあげた。
エイミーはじっと妹を見る。
ルイミーはきょとんと姉を見る。
姉妹。どこから見てもそっくりである。ただし表情以外。
「お姉さま……お怪我をなさったの?」
「案ずるでない。この程度、すぐに治る」
「そう……ですか」
そしてルイミーは、不思議なことをした。
「ウェルリさん。お姉さまの傷、癒してあげてくださいね」
と――なぜか焚き火に話しかけたのだ。
そしてもっと不思議なことに、焚き火は大きく揺れた。返事をしたかのように。
ルイミーは嬉しそうに微笑んだ。
「ウェルリさんも元気そうだわ。お姉さま、この炎には精霊が宿っているのですよ」
「精霊……?」
「――それは僕が説明したほうがいいのかな」
突然背後から声がして、エイミーははっと振り向いた。
そこに、青と緑の入り混じった髪――緑の瞳を持つ青年が立っていた。
とっさにエイミーは腕を焚き火から出し、
「誰だ!」
と叫んでいた。
ルイミーがおっとりと、
「お姉さま、警戒なさらなくても大丈夫ですよ」
それに応えるように青年は軽く両手をあげて、敵意のないことを示した。
「ルイミーさんによく似た気配の方がいらっしゃって、おまけにルイミーさんご自身がいらっしゃったものだから、さっきからウェルリが歓喜していてね。――ああ、僕はクルス・クロスエア。一応この森の守護者をやっている」
「お久しぶりです、クルス様」
ルイミーがちょこんと頭をさげた。
エイミーは釈然としない顔で、クルスを見た。
「クルス……殿? ウェルリ?」
「ウェルリというのは、その焚き火に宿る火の精霊のことだよ」
「火の精霊……」
エイミーは視線をクルスからはずし、焚き火に戻す。
焚き火はゆらゆらと揺れていた。まるで喜びのダンスでもしているかのようだった。
そこにたしかな意思を感じ――
エイミーはゆっくりうなずいた。
「なるほど。嘘ではないようだ」
「信じてくれて助かるよ」
クルスは微笑む。
その様子を嬉しそうに見ていたルイミーが、
「クルス様。わたくしは今日もウェルリ様を宿して外に出たいと思ってこの森にまいりました」
と言い出した。
「宿す?」
エイミーが不審そうな声をあげる。
かくかくしかじか。精霊は誰かに体を借りなくては森から出られない――
「ルイミー。そなたはこの焚き火の精霊を宿してゆくというのか」
「はい。お友達ですもの」
「ふむ……」
エイミーが少しだけ残念そうな顔をする。
クルスが少し笑って、
「火の精霊はもうひとりいるんですよ。小屋の中の暖炉に……」
エイミーはじろりとクルスを見た。
「何が言いたい」
「――暖炉の精を、ぜひ宿して森の外に出てくれないかな、と」
エイミーは焚き火に、怪我をしていた腕をつっこんだ。
「傷が治ってからだ!」
ルイミーがぷっとふきだした。姉エイミーがわくわくしているのを隠せずにいるのがおかしかった。
「何がおかしい!」
「い、いえ、お姉さま」
早くお怪我を治してくださいね――と、ルイミーは笑顔でそう言った。
フェニックスの祝福を受けた二人にとって、火の精霊を宿すことはまるで一体感――
何の弊害もなく、ふたりの体にすべりこんできたそれぞれの精霊。
『何しやがんだクルス!』
エイミーの体に宿るなり、暖炉の精霊グラッガが大声をあげた。
エイミーが顔をしかめて、
「うるさい精霊殿だ」
とぼやく。
『俺は森の外には出たくないと言ってるだろ……!』
「いいからおとなしく外で遊んできなさい」
『森の外は嫌だ!』
「うるさいと言っている」
ウェルリを宿しているルイミーにはグラッガの声が聞こえず、クルスが何かをなだめている理由も、姉が眉をひそめている理由も分からなくて首をかしげるばかり。
ウェルリが、
『グラッガは森の外に出るのが嫌いでねえ……』
とルイミーの中でため息をついた。
え、とルイミーは手で口を押さえた。
「そんな精霊様もいらっしゃるのですか」
『ほら、外には滅多に行けないだろう? 好きになったものもその場限りかもしれない。それが嫌なんだよあの子は。贅沢モンさね』
『ウェルリ、うるさい!』
「うるさいのはそなただグラッガ殿!」
エイミーは一喝した。
逆にグラッガを宿しているエイミーには、ウェルリの声は聞こえない。
『一回でも見られるようになっただけあたしら幸せモンだってのに、まったくあの子はねえ』
『ウェルリの馬鹿野郎!』
「うるさいと言っているだろう!」
「え、あの、グラッガさんは何と言ってらっしゃるのですか?」
……なんだかわけが分からなくなっている。
クルスがぽんぽんと手を叩き、
「ほらウェルリもグラッガも一度黙りなさい。お仕置きするぞ」
守護者の有無を言わせない口調に、さしものグラッガも黙りこむ。
「まずは体を貸してくれたお二人に感謝すること。いいな」
『もちろんさ! ありがとうねルイミー』
「いえ、そんなこと……わたくしもウェルリ様に会いたかったですし」
『俺は感謝なんかしねえぞ!』
「なんとかわいげのない!」
クルスは苦笑して、
「グラッガはそのうち大人しくなるから。よろしくお願いします、エイミーさん」
「まったく……とんだ精霊だ」
エイミーは腰に手をあてて、やれやれとため息をついた。
**********
エイミーとルイミーの姉妹は、街に出かけた。
街のにぎやかさに、ウェルリが歓喜した。
『わぁお! いいねえいいねえこの熱気! 人間ってのはやっぱりすごいねえ!』
「どこへ行きましょうか、お姉さま」
ルイミーが姉に尋ねる。
『人の多いところは嫌だぞ』
とグラッガが言ったそばから、
「商店街に行く」
エイミーは即答した。
『ショウテンガイ? そりゃどんな場所だい?』
ウェルリがルイミーに訊いた。
「色んなものを売ってる場所ですけれど……でもお姉さま。今の時間、商店街はとても込む――」
「うるさい。行くと行ったら行く」
「……そうですか」
姉の頑固さには慣れているルイミーは大人しく従った。
『おい、人の多いところは嫌だからな?』
グラッガがしつこくエイミーに言いつけるが――
エイミーが知らん顔してたどり着いたは商店街。
時刻はちょうどお昼前。商店街に人が集まりやすい時分である。
グラッガが苛立って、かあっと熱くなる。
『くそ……なんなんだよ。うっとうしいなこの人間たち』
エイミーに人がぶつかるたびに、グラッガますます熱くなった。
その熱さはエイミーにはどうということもないものの……
「たしかに……この人ごみはうっとうしい」
エイミーは少しだけいらいらしていた。
エイミーもルイミーも、体温が異常に高いため人に触れることを自ら禁じている。
しかし今日は――
「ルイミー。服屋でバーゲンセールをやっているそうだ。行くぞ」
エイミーがさらに人の集まりそうな場所を提示してくる。「妾たちの服は手に入りにくいのだ。今のうちに安く手に入れておくにこしたことはない」
「はあ……」
『ばーげんせーるってぇのはなんだい?』
『まさかもっと人がいたりしねえよな?』
ウェルリの再びの質問。グラッガの引きつった質問と重なって。
「ええと……人がいっぱいいます」
『アぁ!?』
ルイミーの声は聞こえているグラッガが、エイミーに非難の声をあげた。
しかしエイミーは知らん顔。遠慮なくバーゲンセールに行き、その熱気の中に飛び込んでいく。
ルイミーもエイミーも燃えるような体温の持ち主である。バーゲンセールではひとり勝ちできる。
満足する分だけ買って、エイミーはほくほくとした顔で服屋を出た。
『畜生! もっと人のいないところ行けよ!』
爆発するのをこらえているグラッガのせいで、エイミーの体温急上昇中。
『いやあ、楽しかったねえ』
上機嫌のウェルリの影響で、ルイミーの心は高揚感たっぷり。
それでもルイミーは、まだまだ理性を失ってはいなかった。
「お姉さま……もっと人のいない場所にいきましょうか」
ルイミーが提案したそのとき、
がっ! とルイミーの細腕がつかまれた。
『ルイミー!』
ウェルリが声をあげる。
ルイミーがよろけて、どすんと背後の人物にぶつかる。
背後の人物は、ちょうどルイミーの腕をつかんだ張本人だったらしい。
「何をする!」
エイミーが即座に反応して、ルイミーの反対の腕をつかむ。
ルイミーがゆっくりと振り向いた先、背後にいた男は大柄なひげの男だった。にやにやと笑い、
「そっくりなウインダーだな。なあ姉ちゃんたちよ、ちょっと俺たちと遊んでいかねえかい?」
「断る!」
エイミーは即答して、妹の腕をつかんでいる大男の手を放させようとつかみかかった。
「お、お姉さま……」
『ルイミー、動いちゃいけないよ。腕が折れちまう』
ウェルリがルイミーに囁きかける。
『ばっか、俺は火の精霊だろ。あんたも似たようなもんだろ』
グラッガがエイミーに言った。
エイミーはすぐにその言葉の意味をくみとり、炎を生み出した。
ぎゃっと大男の悲鳴があがる。大男の腕が燃える。
炎には耐性のあるルイミーが、その隙に姉に引っ張られ救いだされた。
「このアマ……!!」
まわりから、大男の仲間らしき屈強の男たちが集まってくる。
『上等だ!』
「焼き尽くされたい者から出てくるがいい!」
エイミーは片手に炎を、片手に妹の手を取り鋭い声を放つ。
『面白いねえ!』
ウェルリがわくわくした声で言った。『ルイミー! あたしたちもどうだい!?』
「え……そ、それはちょっと……」
ルイミーが躊躇している間に、エイミーは次々と向かってくる男たちを燃やし始めた。
「お、お姉さま、やりすぎです……!」
「これくらいが丁度いいんだよ!」
『へえ、こんなところで意見が合うたぁな!』
けんかっぱやい火の精霊。グラッガはかっかとしてエイミーに力を貸していた。
「お姉さま……!」
ルイミーはあくまでも姉を止めようと一生懸命だった。
しかし、グラッガの苛立ちまでも受けて力の破裂したエイミーには届かない。
『ああ、あたしも混ざりたいねえ。こんなお祭り騒ぎ滅多にないよ!』
「ウェルリ様……!」
ウェルリの高揚感がルイミーに伝わってくる。ルイミーまで、炎を生み出してしまいそうになる。
やがて、男たちの誰かが――
ふいに、ルイミーの手袋を引っ張った。
すぽんと抜けた手袋。あ、とルイミーが言うより早く、ルイミーの手をつかもうとした男が悲鳴をあげた。
「あちぃいいいいい!」
「手袋、手袋を返してください……!」
ウェルリから伝わった高揚感が、ただでさえ熱いルイミーの体温をさらにあげてしまっていたらしい。ルイミーの素手に触った男が手に火傷を負って転げまわった。
「手袋を返してください……!」
ルイミーは泣きそうな声で言った。しかしもう遅い。ルイミーの手袋は、争いに巻き込まれて破れてしまっていた。
「………っ」
『ルイミー、ほら、反撃するんだよっ』
ウェルリは楽しそうに言う。
ルイミーの表情を見たエイミーがかっとなって、
「誰だ、妹の手袋を取ったやつは……!」
ますます怒り狂い炎を放つ。
商店街のあちこちで火事が起こった。何の関係もない通行人までも巻き込まれて火傷をする。
男たちが炎にまかれて転げまわる。不用意にルイミーに触った人間が、その手の熱さに悶絶する。
ルイミーがますますうつむいて、顔をあげなくなった。そんなことはおかまいなしに騒ぎは続く。
『ははっ! こういうケンカができることだけは森の外に出て楽しいことだぜっ!』
「そなたは困った精霊だな、グラッガ殿……っ」
エイミーが再度炎を生み出した瞬間――
「もう……もうやめてくださいっ!」
ルイミーが、
うつむいたまま、叫んだ。
びくっとエイミーが手の炎を消す。グラッガも気合をそがれたように高揚感を消した。
ウェルリが心配そうに、
『ルイミー?』
と声をかける。
ルイミーは顔をあげた。涙のたまった目で姉を見つめて、
「こんなこと……こんなこと楽しんでやらないで……!」
「ルイミー……」
「精霊様のせいだとしたら――わたくしは精霊様を嫌いになりたくはないのに!」
『………』
エイミーの中で、うるさかったグラッガが押し黙る。
『ルイミー……』
ウェルリの呼ぶ声にもまともに応えず、ルイミーはきびすを返した。少し走り、それを助走にしてそのまま赤い翼をはためかせて空へと。
「ルイ……ミー……」
エイミーは呆然と、妹が飛んでいくさまを見送った。
商店街は、警備隊と救護班でいっぱいになりつつあった。
**********
ルイミーは、街からほど遠い草原に降り立った。
しゃがみこみ、膝を抱える。――ひどく寂しい気持ちで。
『ルイミー……』
「わたくしとお姉さまは……常に一緒でした」
ルイミーはぽつりとつぶやいた。
「でも……いまだに重ならない部分があって……」
『それは当然だろう、ルイミー』
「……ええ、分かっています」
思い出すのは、炎で遠慮なく男たちを攻撃していた姉の姿。
『あんな風になっちまったのは、火の精霊を宿していたからさ。……すまなかったね』
「いいえ。――いいえ」
ルイミーは激しく顔を振った。
「わたくしは、誰も嫌いになりたくありません。……誰のせいにも、したくありません」
『ルイミー』
「お姉さまは昔から勝気な方でしたし――わたくしには優しかった」
草原に、風がふいた。
赤い翼に少し冷たく。
「知らないお姉さまを見るのは怖い……」
風に流された髪が、ルイミーの顔を隠した。
「わたくしたちは姉妹。一体なのに……」
分かっているのに、と。
知らない姉がどこかにいることは分かっているのに、と。
「全部知っている気でいる自分が、少し、憎いです」
『………』
頭の中から、ウェルリの寂しそうな気配が伝わってきた。
不思議に思って、ルイミーは「ウェルリ様?」と呼んでみた。
『……今のあんたの心をあっためることが、あたしにはできないんだろうねえと思ったら、寂しくなっちまったのさ』
ウェルリはつぶやいた。
そう、今のルイミーの寂しさを癒すことができるのはたったひとり。
そしてそれは、自分じゃない。
**********
うつむいていたルイミーの前に、ふわりと静かに降り立った影がひとつ――
「ルイミー」
ルイミーとそっくりな声が聞こえる。
うつむいたまま顔をあげない妹に、
「……悪かった」
エイミーは静かに謝った。
そして片手の手袋がなくなった妹の手を取り、新しい手袋をはめなおす。
「もう……人を傷つけることには力を使わないから」
「……本当に……」
ルイミーはつぶやく。
エイミーはうなずいた。
その気配に、ようやくルイミーは顔をあげた。
「わたくしは……」
ルイミーはぽつりと、言葉を落とす。
「あんなに楽しそうに人を傷つけるお姉さまを、二度と見たくない……」
「悪かった。もう……二度としない」
グラッガ殿とも約束した――とエイミーは言った。
よかった、とルイミーはつぶやいた。
「これで……精霊様を嫌いにならずにすみます……」
ふと、エイミーの顔つきが変わった。意気消沈した、まるで男の子のような顔に。
「……ごめんな」
とエイミーの体で、その青年は言った。
エイミーの顔つきが元の姉に戻る。
「グラッガ様……?」
ルイミーが驚いたように、たった今、青年のようだった姉の顔を脳裏に思い描いた。
「直接言いたかった、んだそうだ」
エイミーはそう言って、そっと笑った。
**********
「……迷惑をかけたみたいだね」
精霊の森に帰るなり、守護者たる青年が静かにそう言った。
「悪かった。火の精霊を一度にふたりも連れて行くのは大変だっただろう」
クルスは頭をさげた。「僕の判断ミスだ。すまなかった」
赤い翼ののウインダーたちは顔を見合わせた。
そして、揃って「いいえ」と言った。
「クルス殿は何も悪くはない」
「わたくしたちの注意が足りなかったのです」
クルスは優しく微笑して、
「キミたちのような人に宿してもらって……グラッガもウェルリも満足だろうよ」
『うっさい、クルス』
『素直になんなよ、グラッガ』
頭の中で即座に交わされた会話に、ふたりのウインダーは笑う。
そして、
「もう……お別れか」
とつぶやいた。
別れの瞬間は、体が引きちぎられるような痛み――
火の精霊との一体感は、思わぬ悲しさを生み出した。
「また来ます……ウェルリ様」
焚き火に向かってルイミーは微笑む。
焚き火はゆらりと揺れて応えた。
ルイミーの胸に、ぽっと灯りがついた。
「また来てやってもよいぞ、グラッガ殿」
小屋の中で暖炉に向かってエイミーはふふんと笑う。
暖炉の火がぱちりとはねて、エイミーに降りかかった。
エイミーは笑った。
そして姉妹のウインダーは仲良く手をつないで森の外へ出て行く。
森の守護者に、暖かい目で見送られながら――
―Fin―
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【3385/ルイミー・アクロス/女/16歳(実年齢18歳)/超常魔導師】
【3422/エイミー・アクロス/女/18歳(実年齢20歳)/焔法師】
【NPC/グラッガ/男/?歳(外見年齢22歳)/暖炉の精霊】
【NPC/ウェルリ/女/?歳(外見年齢35歳)/焚き火の精霊】
【NPC/クルス・クロスエア/男/25歳?/『精霊の森』守護者】
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■ ライター通信 ■
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ルイミー・アクロス様
お久しぶりです、こんにちは。笠城夢斗です。
今回もゲームノベルへのご参加、ありがとうございました。
お姉さまとご一緒とのことで、姉妹関係を書かせていただけて嬉しかったです。一部お姉さんと違うシーンもございますので、どうぞそちらもごらんください。
よろしければまたお会いできますよう……
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