■Dead Or Alive !?■
ひろち |
|
【6786】【瑠守・真央】【歌神【フィネアーノ】獣巫女】 |
「・・・何やってんだ、お前・・・・・・？」
草むらにレジャーシートを広げサンドウィッチを頬張る深紅に、綺音は問いかけた。
彼はいつもの気の抜けきった笑顔を向け答える。
「何ってピクニック。普通は明るい時にやるものなんだろうけど、ここには太陽が昇らないからね。綺音も一緒にどう？」
「阿呆か、お前はーーーーーー！！」
深紅ごとシートをひっくり返した。
「痛・・・っ！って、あー！サンドウィッチが！結構凝って作ってみたのに・・・」
「そんなことしてる暇あったら仕事しろ、仕事！そんなんだから厄介な仕事が回ってくんだよっ」
ここ太陽が昇らない街・ナイトメアでは人間の命の管理を行っている。ここでいつ誰が死に、誰が生まれるのかが決められているのだ。一日に消える命と生まれる命の数は予め決められており、その通りに調節するのが深紅達の仕事である。人間界では「死神」と呼ばれているらしいが、ナイトメアでは「生命の調律師」と呼んでいた。
「厄介・・・って、仕事来たの・・・？」
「そーだよ。ただし、上の奴らのミスの尻拭い」
「ミス？」
綺音は溜息をつき、数枚の書類を深紅に投げた。
「何これ。写真・・・・・・？」
「それ、明日死ぬ予定の奴ら」
「じゃあ、この人達がちゃんと死ぬか見届ければいいんだね」
「それがさあ・・・間違いなんだってよ」
「間違い・・・？」
深紅が顔をしかめる。
「そいつら、手違いでリストに入っちまったらしいんだ」
リストというのはその日に死ぬ人間の名前が記されているもので、そのリストに載った人間は一部の例外を除き、死ぬことになっている。
「え？じゃあ、この人達が死ぬと・・・」
「生命のバランスが崩れるんだと」
バランスが崩れると何かとんでもないことが起こる・・・・・・らしい。
「ど・・・どうするの・・・？」
「それが今回の仕事。その写真の奴らが死ぬのを全力で防げ・・・だってさ」
|
Dead Or Alive !?
青い空と青い風
今日は何か
素敵なことが起こりそう
「・・・歌だ」
急に足を止めた深紅を綺音が振り返った。
「あ？歌？」
「聴こえない？」
そう言われてみれば。
微かに歌声が聴こえてくる。綺麗で、どこか惹きつけられるものがあった。
「楽しそうだね」
「ていうかさ、深紅」
「何？」
相変わらずほのぼのとしている相棒に、今回の仕事内容が記された書類を押し付ける。
瑠守・真央。１１歳。歌神の血を引いているという少女。
「歌・・・ってことは、これ歌ってる子が・・・？」
「そういうこと。ぼさっとしてないで、行くぞ」
【温もりを探して〜瑠守・真央〜】
歌を頼りに歩いていくと、広い墓地に出た。深紅がへっぴり腰になりながら後ろを付いてくる。
普段死者を相手に仕事をしているのに、何がそんなに怖いのかと尋ねると、墓場そのものの雰囲気が苦手なのだという。
「・・・あの子か・・・？」
墓地には生きた人間は一人きりしかいなかった。
墓石の一つに腰を下ろし、良く通る澄んだ声で高らかに歌う女の子。
「瑠守真央さん？」
深紅が控えめに声をかけると、歌がぴたりと止まった。ゆっくりとこちらに向けられた目はドキッとするほど冷たいものだった。
歌の雰囲気とのギャップに顔をしかめたくなる。
「邪魔しないでくれる？せっかく皆の為に歌ってたのに」
皆・・・というのは、周りにいる幽霊達のことか。心なしか彼らの視線が痛かった。
彼女は完全に機嫌を損ねてしまったようで、こちらをただ睨みつけている。
綺音は深紅に目配せをした。子供の相手は彼の方が上手い。綺音だと余計に険悪になるのがオチだ。
深紅が真央に優しく微笑みかける。
「邪魔したことは謝るよ。君に凄く大事な話があるんだ。訊いてくれないかな？」
「嫌」
即答。
ばっさり切られた深紅は泣きそうな目を綺音に向けた。
大抵の子供と女は落ちる深紅の微笑み攻撃が効かないとは。
もたもたしている暇はないし、これはもう実力行使しかない。
「え・・・っ」
綺音は真央の腕を掴むと、そのまま素早く引き寄せ肩に担ぎ上げた。
妙なことに巻き込まれてしまった。
突然現れた謎の二人組に墓地の外まで連れ出されたと思ったら、唐突に死を宣告されたのだ。
何でも人間の命を管理しているナイトメアという場所があって、二人はそこから来たらしい。
そのナイトメアに存在する「死亡予定リスト」。そのリストに真央の名前が手違いで載ってしまったというのだ。
助けに来たと言う二人に、真央は冷たい視線を向けることしかできなかった。
「別にいいんだけどね。死んでも」
これといって生に執着があるわけでもない。友人は幽霊ばかりだし。死んだら丁度いいのかも。
それにこの二人には歌を邪魔されている。何となく助けてもらうのは癪だった。
――後者が本音だろう。くだらない意地を張るな
ビーストの声がしたが、無視。
「お前なあ・・・軽々しく死んでもいいなんて言うんじゃねーよ」
「何よ。お説教しに来たの？あたしの命なんだから、どう使おうとあたしの勝手でしょ」
「真央ちゃんっ！」
ぱちんと両頬に軽い衝撃が走った。深紅という名の青年に叩かれたらしい。真央の頬に手を添えたままで、真っ直ぐに瞳を覗き込んでくる。
「・・・自棄になっちゃ駄目だよ」
「自棄になんて・・・」
――その者の言う通りだな。少し落ち着け
「でもあたし、本当に・・・」
――そなたが死ねば、我も困る
「・・・」
自分のことを引っ張りだしてくるとは。
卑怯者と罵ってやりたい。
――そなたには生きていて欲しいだけだ
真央の心情を読み取ったのか、そんな答えが返ってきた。自然と溜息が漏れる。
「・・・わかった。もう死んでもいいなんて言わない」
「本当！？」
「でも、あなた達のことは嫌い。あたしはあたしで勝手に動くから、あなた達も勝手にすれば？」
我ながら可愛くない発言だ。にも関わらず、深紅は満面の笑みを浮かべていた。
「ありがとう！」
・・・・・・何がそんなに嬉しいのよ
調子が狂う。
動揺を隠すように、真央は背中を向けた。
「ほんっっっとーに、可愛くないガキ」
真央の後ろを歩きながら、綺音は毒づく。深紅はのほほんと「そんなことないと思うけど」と笑った。
お気楽な奴だ。
「で、真央ちゃんの死因って何なの？」
「それがさ・・・不明って書いてあるんだよな」
「え？」
死亡予定リストの記載は割と曖昧なものが多く、正確な時刻や場所等が記されているものもあれば、そうでないものもある。
ただ最低限、大雑把でも死因くらいは記されているはずなのだ。
死因が記されないもの。
それは生きている人間が死にまったく関わらない時。
つまりは犯人が幽霊等の場合である。
――厄介なことになりそうだな
真央の隣に強引に並ぶ深紅の姿を見送りつつ、綺音は小さく呟いた。
何故。
こうも付き纏ってくるのだろう。
「ねえ」
「何？」
「別にこんなに近寄らなくても、あたしのことは護れるんじゃないの？」
ここは墓石以外は何もない墓地だ。危険なものなど見当たらないのだから、どう考えてもここで急に死ぬなんてことは有り得ない。
「ちょっとさ、真央ちゃんのこともっと近くで見てみたいなーって思って」
「え・・・」
「綺麗だよね」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
綺麗って・・・
「何が？」
「真央ちゃんの目。あと髪も。すっごく綺麗」
驚くほど真っ直ぐにぶつけられた言葉。
深紅の目には揺らぎが少しもなかった。嘘は・・・ついていない。ついていないと思うのに、どうしても信じられない。
「・・・・・・馬鹿じゃないの」
結局吐き捨てるような言葉しか出てこなかった。隣で深紅がクスクスと笑う。
「・・・真央ちゃんって人間嫌い？」
「・・・嫌い。特に男の子は」
「そっか。ごめんね」
何故、謝る。
視線で真央の問いかけに気付いたのか、深紅は頭をかいた。
「だって、僕も綺音も男だからさ。あ！女装すればいいかな？」
「じょ・・・」
「何でそーなるんだ！」
後ろから綺音の腕が伸びてきて、深紅の首を軽く締め上げる。
「いだ！いだだだだだだっ」
「真央。こいつの話にいちいち付き合ってやる必要はないぞ。馬鹿だからな」
「酷っ！」
真央はただ、二人のやり取りをぽかんと口を開けて見守ることしかできなかった。
この人達は・・・・・・何？
――真央？どうした・・・？
わからない。
どうして嫌だと思わないの。
どうしてこんなに心地良いの。
どうしてこんなに胸が高鳴るの。
「・・・・・・綺音・・・さん？」
気付くと、綺音の服の裾を引っ張って尋ねていた。
「あたしの目と髪、どう思う・・・？」
「どうって・・・綺麗な色してるよな」
迷いのない答えだった。
人は嫌い。
嫌いなはずなのに。
「っ！？」
ふいに、物凄い力で腕を引っ張られた。深紅ではない。綺音でもない。
視線を下に下ろすと、５歳くらいの女の子が真央の手をしっかりと掴んでいた。
「え・・・」
「真央！そいつから離れろ！！」
綺音の声に反射的に腕を振り払おうとする。だが、どんなに力を入れても解けなかった。
こんな怪力の子供がこの世にいるだろうか？
この子供は・・・生きている人間ではない。
「そいつだ！お前が死ぬ原因！絶対に耳を傾けるなよっ」
死ぬ原因？
子供の顔が「寂しい」とこちらに訴えかけてくる。
お姉ちゃんも寂しいの？
友達いなくて寂しいの？
と。
「真央ちゃんっ」
深紅の声が遠い。だんだんとこの子供に取り込まれかけているのがわかる。
別に寂しいわけじゃない。だって人は好きじゃないもの。幽霊達と遊んでいる方がずっと楽しくて、気楽で・・・。
「真央っ」
・・・嘘よ。
本当は寂しい。
あたしはずっと寂しかった。
だったら一緒に行こうよと、小さな女の子の声がする。
それもいいかもしれない。
ねえ、一緒なら寂しくないの・・・？
遠ざかりかけた意識が―――ふと感じた温もりによって呼び戻された。
「真央ちゃん」
はっきりと、耳元で深紅の声が聞こえる。抱き締められているのだと気付くのに数秒かかった。
「真央ちゃん。幽霊の友達もいいかもしれない。でもね、死人にはこうやって君を抱き締めてあげることはできないんだよ」
「・・・」
「大丈夫。真央ちゃんはきっと、ちゃんと友達作れるよ。人間嫌いだっていつか克服できる。だから・・・・・・ね？」
腕にかかっていた重みがすうっと消えていく。
心地良い、血の通った暖かさ。
真央は目を閉じ、こくりと小さく頷いた。
仕事が終わったらすぐに帰らなければならないというのに、深紅は一体どこで油を売っているのだろう。
真央と並んで待っていると、やっと向こうから走ってくるのが見えた。手に何故かピンクの薔薇を一輪持っている。
深紅は真央の前に立ち息を整えると、彼女に薔薇を差し出した。
「え・・・」
「真央ちゃん。僕と友達になってくれませんか？」
「え・・・っと、この薔薇は・・・」
「友達の証」
――うっわー
気障過ぎる。
これを天然でやってのけるから、この深紅という男は恐ろしいのだ。
が
「・・・・・・ありがとう」
嬉しそうに微笑んだ真央に目を奪われてしまった。綺麗な笑顔だった。
――何だ。こいつ、結構いい顔するじゃん
この調子ならきっと心配ないだろう。
「深紅〜。今時薔薇を渡して友情の証なんて流行らない・・・っつーか、口説いてるみたいでいやーな感じだぞ」
「え？そうかなあ・・・？」
「綺音さんは・・・その・・・友達になってくれないの？」
恐る恐る真央が尋ねてくる。
綺音は目を瞬かせ、苦笑すると右手を差し出した。
「握手でいいか？」
「ねえ」
――何だ
「友達、二人もできちゃった。幽霊じゃなくて、人間の友達」
――あの者達も厳密に言えば人間ではないぞ
「うん。でも、あったかかったの」
――・・・そうか
「あったかかったんだ」
青い空と青い風
この晴れやかな気持ちがどうか
あの人達にも伝わりますように
fin
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
ＰＣ
【6786/瑠守・真央（るかみ・まお）/女性/１１/歌神【フィネアーノ】獣巫女】
ＮＰＣ
【鎌形深紅（かまがたしんく）/男性/１８/生命の調律師】
【紺乃綺音（こんのきお）/男性/１６/生命の調律師・助手】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
こんにちは。ライターのひろちです。
納品の大幅遅延、申し訳ありませんでした・・・！
クールなイメージの強い真央ちゃんでしたが、どうしても笑顔が見てみたいなと思ってしまったので、今回のような展開にしてみました。
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
本当にありがとうございました！＆すいませんでした！
また機会がありましたら、よろしくお願いします。
|
