■彼女はアイドル! 〜とりあえず、はっぴーえんど?〜■
ともやいずみ |
【6612】【安藤・浩樹】【高校二年生】 |
週刊誌でのことも一段落……?
そして彼女と自分の関係は……。
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彼女はアイドル! 〜とりあえず、はっぴーえんど?〜
七種くるみ、熱愛中!
そんな見出しが表紙に小さくついた週刊誌を、安藤浩樹は手にとる。コンビニで売られているそれを眺め、浩樹は小さく笑った。
*
浩樹とくるみの交際が明るみに出てから――。
くるみの熱心なファンからは嫌がらせを受けると思っていた。くるみ自身もそのことは覚悟していたようだった。
だが、それもない。
ありがたいことに、くるみのファンからは暖かい応援の言葉を貰った。浩樹としては、信じられないことだった。
それだけ彼女のファンは良心的、ということなのだろう。
学校に登校した浩樹は鞄を持って玄関に向かう。自転車置き場から玄関までの道のりで、早速クラスメートに声をかけられた。
「よっ! 安藤」
「あ、おはよ」
笑顔で返事をすると、クラスメートの少年はハアと嘆息する。
「おまえが七種くるみのカレシとはなぁ。世の中って狭いよな」
「まだ言ってる。この話題、もうそろそろ飽きてこないか?」
「身近に芸能人の知り合いがいるってのは、すげーことだとオレは思う!」
なぜか拳を握りしめるクラスメートに、浩樹は苦笑した。
「しかもあの七種くるみ! 『真夜中の紅茶』のあの子だぞ!」
「う、うん」
「顔も可愛いし胸もデカいし、いかにも天然な感じ! いいなぁ〜」
羨ましがられている……と思っていいのだろうか?
うーんと悩んでいる浩樹の肩に手を回してくる。
「実は性格悪いとか、ないよな?」
「まさか。明るくていい子だよ?」
「おーおー、言うね言うね」
肩に回していた手を戻したクラスメートは、にやっと笑う。
「ま、おまえもクソがつくほど真面目だし、お似合いなんじゃねーの?
正直女に興味があるとは思わなかったんだけどな、オレ」
「あの……それ、どういう意味……?」
「オレの中の安藤のイメージって、目指せ東大! 目指せ高給取り! って感じだったから意外だったぜ。彼女作ってラブラブってのはさ」
「えっ、あ、いや……ラブラブってほどベタベタしてるわけじゃないよ、僕たち」
「いやいや! みなまで言わなくともよい!」
妙に芝居がかった口調で言うクラスメートに、浩樹は呆れるしかない。
それにしても……。
(クラスでの僕のイメージってそうだったのか……)
別にいい大学や職業を目指しているわけでもないんだけど……。
(ガリ勉っていうイメージなのかな……。確かに眼鏡かけてるし、誰かとゲーセンに行くわけでもないし……)
「あ、おまえって確か写真部だよな?」
「そうだけど?」
「七種くるみの着替え写真、売ってくれ!」
手を差し出してくるクラスメートをじとり、と睨む。相手はしばらくして、「冗談だよぉ」と苦笑いをした。絶対……冗談じゃなかったはずだ。
移動教室の最中、廊下を歩く浩樹に担任が声をかけた。
「お、安藤。授業で出していた宿題のプリント、集めておいてくれるか?」
「あ、はい。わかりました」
「…………」
じっ、と見つめられて浩樹は怪訝そうにする。
「あの……僕の顔、何かついてますか?」
そんな浩樹の肩に、ぽん、と担任は手を置いた。
「色々大変だろうが、頑張れ」
「……はぁ」
「んー……コホン。ところで七種さんは、今度ドラマに出ることとかないのかな」
「はあ?」
「先生が好きな女優さんと共演することがあれば、ぜひサインを貰ってきて欲しいのだが」
「…………先生」
呆れる浩樹の前でごほんごほん、と激しく咳払いする。
「なんてな。冗談だ、冗談」
(冗談……じゃないでしょ、先生)
なんてことを思っていると、担任は続けた。
「いやしかし、本当に大変だな。だが先生はいいことだと思うぞ。応援しているからな!」
「ありがとうございます」
「何があっても挫けるな! 先生はおまえの味方だぞ!」
力んで言われ、浩樹は圧倒されてこくこくと頷いただけだった。
――こんな調子で、浩樹は学校でも祝福されてはいた。祝福……だとは思う。少なくとも敵になるような人はいなかった。
一番の難関であろうくるみのマネージャーには、
「結果オーライだ。だが、くるみのイメージを損なうようなことだけはするんじゃないぞ」
と、言われた。認めてくれて……いるんだろう、一応。
絶対に警察の世話になるようなことはするなとか、散々きつく言われたのである。
*
<窓の外!>
夜、くるみからそんなメールが来て、浩樹は窓に近寄る。
隣の家のベランダに、くるみが居た。
「くるみちゃん!」
また窓からこちらに来ようとしているのだろうか?
慌ててベランダに出た浩樹に、くるみは手を振った。
「や。元気みたいね、浩樹君」
「くるみちゃんこそ……」
久しぶりに見た、生身のくるみだ。テレビ越しには見ていたが、こうして目の前に居るのを見るのは本当に久々だった。
「なんか、不思議だね」
「なにが?」
不思議そうにして訊き返すと、くるみは柔らかく微笑んだ。その笑みに浩樹はどきりとする。
「だっていっつもは、こうして会うだけでも気をつけなきゃ、って二人で注意してたのに」
「……そうだね」
浩樹も微笑み返す。
もう誰にはばかることなく、くるみと会うことができる。恋人同士として、堂々と街中を歩けるのだ。
(うーん、堂々とっていうのはおかしいかもしれないけど……)
このまま変装もせずに外を歩けば、プライベートなどないも同然だ。
これからもくるみは芸能界にいる以上苦労することだろう。だが、前ほどではない。くるみとの関係を知られた以上、浩樹は前ほど隠れて……この間のデートのように別々に行動することもないだろう。
「これからは、手を繋ぐことも……周りを確認してからすることないんだよね?」
「うん、そうだよ」
くるみの言葉に浩樹は頷いた。
いちいち周囲を確認して、手を握ることもない。気軽にできる。
浩樹は少し俯き、それから顔をあげた。
「あのね、くるみちゃん」
「なあに?」
「こうやって一緒にいることが、僕は嬉しいよ」
突然の浩樹の言葉に彼女は目を丸くし、首を傾げる。
「こうやってずっと一緒に居たい。できれば同じ時間を過ごしていたい」
「…………」
ぽかん、としているくるみの様子に浩樹は気づかなかった。自分の、今の気持ちを言葉にするのに夢中で。
「これからの未来、一緒に生きていけたらいいなって思う……。あと何年か先かわからないけど、家族になれたらいいね、くるみちゃん」
にっこり笑顔で微笑むと、くるみが真っ赤になっていることに驚いた。
「あ、あれ? 僕、なにか変なこと言った???」
「……浩樹君、今の……あの、プロポーズなの、かな?」
小さな声でうかがうように見てくるくるみに、浩樹は数秒ほど呆然として…………真っ赤に顔を染める。
そう言われれば、そうとれてしまうような……気が……。
(うわぁ……僕、なんてこと……!)
目をあちこちに移動させる浩樹は、小さく言う。
「で、でも……その、僕はそう思ってるから。嘘じゃないよ」
「…………浩樹君」
くるみのほうをそっと見ると、彼女は頷いた。
「うん。いつか家族になれたらいいね」
*
目覚ましの音が、うるさい。
「うぅ〜……」
うめく浩樹は布団の中から手を出して音の原因を探す。だが手には当たらない。
布団の中から頭を出し、浩樹は目覚ましを探した。
(うるさい……)
どこだろうと目を動かすと、やや離れた台の上で鳴っているのが見えた。
(そうだ。会社に行かなきゃ……)
むくりと起き上がりベッドから降りると、目覚し時計に手を伸ばした。
目覚ましを止めて溜息をつく。その時だ。ドアが開いた。
「起きろ〜!」
勢いよく入ってきた幼い少女に浩樹は驚く。
「わっ、ちょ」
「てーい!」
掛け声をかけて飛び掛ってくる少女を受け止め、そのまま尻餅をついた。
「いたっ」
「あれぇ、起きてる?」
「起きてるよ、ちゃんと」
苦笑すると、幼い少女はぷうっと頬を膨らませた。なんだかドングリを頬に詰めたリスのようだ。思わず浩樹は吹き出して笑う。
「あはは。なんだ、その顔!」
「起こして来いってママが言ったもん!」
「そう。ごめんね」
「ぷぅー!」
さらに頬を膨らませる少女に浩樹は笑いを堪えられない。ぶくく、と手で口をおさえて笑った。
浩樹は立ち上がった。
「ママはどうしたの?」
「ごはんつくってるー!」
「そっか」
「ねえねえ早くぅ!」
「待ってよ。顔を洗わないとね」
あれから数年の歳月が流れた。浩樹は会社に勤めるごく普通のサラリーマンだ。
顔を洗って歯磨きをすると、少女に手を引っ張られて台所に向かう。
「早くしてよパパ! トロいよ!」
「どこで覚えたの、その言葉……」
呆れる浩樹はよたよたと歩いた。着替えなければならないなあ、とぼんやり思いながら。
台所では朝食を用意している女性がいる。彼女は浩樹と少女の姿を見て、にっこり笑った。
「起きたんだ。おはよ」
「おはよう、くるみちゃん」
そう返事をすると、くるみはムッと顔をしかめた。ちょいちょいと指を軽く振る。
「『くるみちゃん』じゃないでしょ?」
「だ、だって癖だし……」
今さら直せない。
くるみは腰に両手を当てた。
「呼び捨てって言ってるのに!」
「しょうがないじゃないか。
あっ、後ろ後ろ!」
煙がのぼっている!
浩樹に指摘されてくるみはこちらに背を向け、悲鳴をあげた。
「わーっ、焦げちゃう!」
焦げた目玉焼きを眺め、浩樹は小さく笑う。
なんて平和なんだ。そして、なんて幸せなんだろう。
顔をあげると、くるみががっくりと肩を落としているのが目に入った。
「ママ、元気だしてー」
「うん。たまにだもんね。そうだよね」
なんて微笑ましい光景。
(ぷっ。そっくり)
浩樹は顔を逸らし、笑いを堪える。
くるみは芸能界を引退して、今ではこうして専業主婦だ。子供もいるし、彼女は今が幸せだという。浩樹も同意見だ。
「ちょっと浩樹君、早く食べないと会社遅れるわよ」
「そうだよパパ!」
「はいはい。今日も頑張りますよ、お父さんは」
浩樹は目の前の焦げた目玉焼きを、口に運んだ。
外は今日も晴れている――――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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PC
【6612/安藤・浩樹(あんどう・ひろき)/男/17/高校二年生】
NPC
【七種・くるみ(さいくさ・くるみ)/女/17/アイドル】
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■ ライター通信 ■
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最終話までお付き合いくださり、どうもありがとうございました安藤様。ライターのともやいずみです。
数年後の姿も書かせていただきました。いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。
最後まで書かせていただき、大感謝です。
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