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■IF■

九十九 一
【1252】【海原・みなも】【女学生】
ここではないどこか

今の話かも知れないし
今ですらないかも知れない

こう選択していたら
あの時選んでいたら

似ている世界
全く違う世界

夢うつつ
平行世界
まほろば


それすなわち『もしも』の世界

「もしこうだったらとか考えた事ある?」
「……そうだな、ああ言う出会い方してなかったらどうなってたんだろうとか?」
「何で疑問系?」
「いや、そっちはどうなんだよ」
「そうね……」
 少し考えてから。
「年齢が逆だったら面白かったのに」
「………それで喜ぶのはごく一部だろ」
「……あなたは?」
 話しかけたのは別の相手、急に話を切り替えられ驚きはしたが。
「そうだな、人だったらとか……考える、もしくは俺と同じでも良い」
「人をワーウルフにする気か?」
「なんだって良いんだ、別に」
「私は、あの時から術が使えてたらはっきり言えたのかも何て思ったり」
 それは、他愛のない会話。
「何の話をしてるんだ?」
 顔を出した相手に、同じ問をかけてみる。
「………度去年の万年遅刻ライターが真面目に仕事してくれたらいいとは思いますよ」
「うわ、痛」
 最後に、もう一つ。
「どんなもしもが見てみたい?」
 問いかけられたのはあなた。
 どう、答える?

IF 〜神様とみなも5〜


 全ての理が決められた世界。
 半分の人は神様。
 半分の人は巫女。
 一見まとまりのない世界に思えるが、神様が多いことで逆に調和が保たれている。
 これも全て世界に起きることすべて、予定調和で進んでいくからこそだ。
 一点の歪みもない。
 全て起こるべくして起きること。
 太陽の沈む刻が決まっているように、明日の天気が決まっている。
 けれどそれも今日までのこと。
 神様は眠る。
 人は死ぬ。
 世界は滅ぶのだ。



 ■

 とてもよく晴れたある日。
 今日は、とても特別な日だった。
 約束通りに来たみなもに神様が改めて教えてくれる。
 この日の為に本当に色々な支度をしてきた。
 終わるための、新しく始めるための準備。
 ここまでは誰かや皆で決めたことだけれど、その先はまだなにも決まっていない。
 自由を望み、それを手に入れようと動いたからこそ世界を壊してしまわなければならなかった。
「ちゃんと、また出会えるから」
 安心させるように語りかけてくれる。
 みなもにとって神様の言葉は絶対だ。
 きっとまた会えると解っていても、胸に痛みを感じずにはいられない。
「は、はい……神さま……」
 大丈夫、きっとまた出会える。
 理解はできるのに、膝から力が抜けてペタリとその場に座り込む。
 神様達が眠り、全てがなくなってしまう。
 この日の為にやるべき事はしてきた。
 心の準備もしてきたし、言いたいことも色々あったはずなのにうまく言葉に出来ない。
「ええと、その……」
「みなもらしいね、寝る前にその顔が見れてうれしいよ」
「か、かみさまぁ」
 こうなると解っていたら、家に帰らずに神様と過ごしたのに。
 どうして神様はこんなにも意地悪なのだろう。
「ボクもみなもも少し眠るだけだから、大丈夫だよ」
「は、はい……」
 ペタリと座り込んだままのみなもに手を差し出す。
 小さな手。
 これから向かえる終わりと再生の間。
 長い時間を触れることは出来ないのだと思うと、それだけで一つ一つの動作を大切にしようと思えてくる。
「さあ、始めよう」
「はい、神さま」
 しっかり手を握り替えし、みなもははっきりと頷いた。



 ■

 二人が来たのは広い野原。
 これから壊れてしまうのが惜しいくらいにキレイな場所だ。
「みなもが居る場所だからね、頑張って眺めのいい場所選んだんだよ」
 いつの間にと尋ねかけ、はたと気付く。
 これまで探していた様子はなかったのだから、時間があったとすれば昨日みなもが帰ってからだ。
「……探してくれていたんですか?」
「うん、よく気付いたねみなも」
 嬉しそうに笑う神様。
 とても嬉しくて抱きしめたくなるぐらいだった。
 手を伸ばしかけたみなもに、にっこりとほほえみ神様が続ける。
「ビックリさせたかったのも本当だけどね」
「あ、あはは……」
「ほらほら、ここに座って」
 苦笑するみなもに手で座るようなジェスチャーをしてみせた。
 すぐに神様の前で膝をつくと、よしよしと頭を撫でてくれる。
 本当のところは、半々といった所だろう。
 からかいたいと思う反面、照れ隠しでもあるのだと気付いてしまった。
 いつも遊ばれてしまうけれど、良くしてくれているのも解ってる。
 だからこそ眠りから覚め、新しくなった世界でも一緒にいたいと言ってくれたのだ。
「ちゃんと起こしに来るからさ、ここでまっててね」
「はい」
 神様が眠る間、みなもの魂は木になって過ごすことになる。
 世界が再生し、神様が起きるまでは人の姿では待つことなど出来ないのだから。
 撫でられた箇所が暖かくなり、木になっていくのが少しだけくすぐったかった。
 肌から水分が失われ、乾いた樹木の肌と化した足は地中へと深く根を張りはじめる。
 いままで何度も作り替えられていたからだろうか、変化は痛くも恐ろしくもない。
 ネコにもされたしベッドや服にもなったのだ。
 だからこそ解ることもある。
 何かに変化させられたときも丁寧にされていたけれど、今日のは特別丁寧で緻密な変化だった。
 細胞のひとかけらも残さずに変えられていくのが残された体を通して感じ取ることが出来る。
 肌の上を撫でる手はこんなにも優しい。
 木になった箇所へ触れる手はこんなにも大切にされている。
「元気に大きく育つようにね。雨にも嵐にも地震にも負けないように」
「は、は……い」
 うまく話せなくなってきたけれど、 時間をかけてはいたから完全に木になってしまうまでもう少し掛かりそうだった。
 神様はその手間も楽しむように手間をかけて変化させていく。
 少なくなってきた生身の部分。
 頭をぽんぽんとあやすように撫でる。
「最後に……もう動けなくなるけど、飽きたりしないようにね」
「………」
 返事をしたかったのに、声が出ない。
 変わりに頷くと神様は満足したように笑った。
「おやすみ、みなも」
 おやすみなさい、神様。
 爪先から頭のてっぺん、髪の一房、思考まで木に染まったみなもの刻はゆっくりと流れていった。
 


 ■

 木になったみなもが見ることが出来たのは滅んでいく世界。
 激しい嵐が吹き荒れ、長い間日照りが続きもした。
 大きな地震も起きたし雪が視界を真っ白に染めたこともあった。
 まだ若い木に過ぎなかったみなもが無事でいられたのは、神様の恩恵が合ってこそだろう。
 何度も朝と夜とを繰り返す内に人の数が減り、命のある物の存在の気配が消えていく。
 木になっていたからかだろう、想像していたような激しさはどこにもない。
 神様が眠りについた世界で、残された人々は静かに命を終えていった。
 決められていた通り人は死ぬ。
 眠るように世界は終わりを向かえた。 



 ■

 動く物がなくなった世界。
 時が止まったかに思えるときの中で、確かに変化は起きていた。
 何十、何百と何千と朝と夜とを繰り返す内に枝は伸び葉も増えていく。
 みなもの足下でも短い草木が育ちはじめ、枯れた大地の上ににも範囲を広げていった。
 ジッとしていると不思議と感覚が早く感じられる。
 まるで早送りでもしているかのように草木が伸び、川が遠くまで伸びていった。
 みなもにとっては短く、そして長い時をかけて育っていく世界。
 植物と同じだ。
 種や芽さえ残っていれば、根元から切り取られたって新しい命になって甦ることが出来る。
 何も知らない、まっさらで無垢な命。
 目の前で育つ草木や、足下まで伸びてくる川から新しい命が生まれて来る頃。
 また神様に出会えるのだ。
 辺りの景色が一変した頃、みなもは周囲を見下ろせるぐらいの大きな木に成長していた。
 まだまだ掛かるだろう。
 早く会いたい。
 
 
  ■

 何度も朝が来て、何度も夜が来た。
 気の遠くなりそうな時間の中でも、心はみなものままでいられたのは向かえに来てくれるという約束があればこそ。
 見届けるしかできないけれど、変わっていく景色を教えてあげたい。
 眠っている間に見た景色は、こんなにも素晴らしい物なのだと。
 多い茂る葉がざわりと揺れる。
 葉の一枚一枚を撫でていく風がくすぐったい。
 かつて……こんな景色を見たことがあった。
 確かそう。
 服になった時、力を扱う様子をみなもにも解るように見せてくれた事は……今でもはっきりと思い出せる。
 今のみなもが見ている光景は、それにとてもよく似ていた。
 時間も場所も違うけれど、同じ景色を見ているようで嬉しくなってくる。
 早く聞いて欲しかったけれど、それよりもうまく話せるだろうか?
 前に見たときも同じ様な感動を味わったけれど、記憶としては素晴らしい物だったという感覚意外は砂時計のように消えていってしまったのだ。
 おそらく、人の身にはあの記憶は大きすぎたのだろう。
 今度はどう説明しようか?
 その答えは、目の前の景色を見ながらゆっくりと考える事にしよう。
 幸いにして、時間だけはあるのだから。


 ■

 あれから、どれ程の時間がたったのだろう。
 もう解らなくなってしまったけれど、足下で育つ草花は木々と言って差し支えないほどに太く大きく成長している。
 それら全てが見下ろせるぐらいに、今のみなもは大きく成長していた。
 何万年もの時を生き抜いてきた大樹。
 人が何人も集まって手をつなぎ、ようやく一回りできるような大きな木。
 それが今のみなもだ。
 見渡す限り森が広がり、視界が緑と空の青で埋め尽くされる。
 前の世界の遺物も朽ち果て、滅びた気配もどこにもない。
 新しく生まれたばかりの世界。
 神様は、まだ、だろうか?
 永い永い時間は、時間の感覚をどんどん引き延ばしていく。
 生身の持つ感覚など等になくしてしまった。
 思い出そうと気をつけなければ、かつては人の姿をしていたことも危ういほどに。
 それ程の時がたってしまった。
 早く、会いたい。
 待つのは苦痛ではないけれど、それでも……。
「みなも」
 ざわりと葉が揺れた。
 ドキリと胸がなった。
 どれ程振りだろう。
 名前で呼ばれるのは。
「おはよう、みなも」
 木の幹に触れる小さな手。
 なんて懐かしい。
 涙が溢れそうだった。
 人であった頃の感覚を急速に取り戻していく。
 体温、呼吸、地を歩く足。
 それから……。
「神様」
「おまたせ、みなも」
「かみさま……っ」
 声と、抱きしめるための両腕。
 撫でて貰える髪も全部。
「もう、自由だからね」
「はいっ」
 ここまでが今までのみなも。
 なら新しくなった世界で、自由になった世界で得られる物は?
 それも神様が教えてくれた。
 みなもが、自分で考えて出したことだ。
「みなも、みなもはどうしたい?」
「これからも、ずっと一緒に」
 自由になった世界で、みなもが選ぶこと。
 新しい世界へ、ようこそ。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1252/海原・みなも/女性/13/中学生】

 →もしも、全人口の半分が神様だったら?
 そして、残り半分がその神様に仕える巫女だったら?

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったなんて思わないようお願いします。  

発注ありがとうございます。
気付いたら後半が一気にかき上げることが出来て書いていて驚きました。
また頼んでいただけたら嬉しく思います。
満足いただけたら幸いです。