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■波瀾万丈メイドカフェ■

神無月まりばな
【2181】【鹿沼・デルフェス】【アンティークショップ・レンの店員】
 エル・ヴァイセの空に、銀色のしずくのような、星が流れていく。
 ひととせの終焉と、新しい年への再生を寿くような流星雨。
 ――年が変わる、その日。
『星の湖』の傍に設えられた『月光のテラス』に於いて、
 貴族たちによる、年越しの舞踏会が行われる。

 広大なテラスには、隣国ルゥ・シャルム特産の星光石が敷き詰められ、
 銀色の星に似た小花が、溢れんばかりに飾られる。
 騎士たちはいかめしい鎧を脱ぎ、絹の夜会服に着替え、
 さんざめく貴婦人たちを踊りの輪にいざなう。
 令嬢も令夫人も、くゆらしていた扇を従者に渡し、
 誘われるままに騎士の手を取って、
 夜空の銀の軌跡に負けじと、ステップを踏むのだ。

 踊り疲れた人々に、おずおずと飲み物を差し出すのは、
 まだ物慣れぬ、美しいメイド。
 そこここで交わされる囁きに、そっと耳を澄ませば、
 聞こえてくるのは、
 新しい恋の始まりや、
 錯綜した愛憎劇や、
 大いなる陰謀――

波瀾万丈メイドカフェ

【第一幕】まずは衣装や設定の打ち合わせなど

 特に何のイベントなどなくとも、年の暮れというのは妙に気ぜわしいものだ。
 ふだんから、草間興信所やアトラス編集部に顔出しして調査にいそしんでいるような、常識外れのひとびとにとっても、それは同様に違いない。
 集客が激しく心配だった弁天は、広報にあたり、またも、以下のような誇大広告気味なチラシを作成した。
 さりげなく、メイドがドジっ娘化することを伏せているのがポイントである。
 
 ☆★───────────────────────────────────────★☆ 
        メイドカフェ『エル・ヴァイセの年越し舞踏会』へようこそ 
☆★───────────────────────────────────────★☆ 
         
        執事喫茶『への27番スペシャルα』にいらしてくださったかたも、
        大人の余裕でさりげにスルーなさったかたも。
 
        このたび、1日……いえ、1泊2日に渡ってメイドカフェを開催する運びとなりました。
        企画スタッフ一同、満を持してお送りする大イベントです。
        メイドに扮するも良し、エル・ヴァイセの貴族に扮するも良し。
        マニアな方には、後方をお手伝いいただく選択も!
        この機会にどうぞ、ご参加くださいませ。
              
        ○ご参加特典
         1)パティシエ田辺聖人氏のスイーツが食べ放題!
         2)希望者には『tAilor CROCOS』の糸永大騎氏が衣装を作成します!
         3)道楽屋敷のメイドさんと、アンジェラ・テラーさんが、メイドスタッフとして参加!
         4)熊太郎さんの執事姿を間近で鑑賞できます! 
        
        なお、年明けには、会場を移して新春百人一首大会を行う予定です。
        そう簡単には帰さない……いえ、ごゆっくりお過ごしくださいね♪

                      メイドカフェ運営委員会 スタッフ一同

  ☆★───────────────────────────────────────★☆ 

 参加特典を蛍光ピンクで強調したのが功を奏したのか、反応は上々であった。
 蛇之助と鯉太郎が、草間興信所とアトラス編集部でチラシを配布してまもなく、犠牲者……もとい、参加希望者は、暮れの忙しい時期だというのに、わざわざ井の頭公園に集まってくれたのである。

「弁天さまぁ〜。どうして執事カフェではないのでぇすか……」
 みやこの頭に乗っかって、大奥様な不条理妖精こと霧樹八重は、うえええええ〜と目幅泣きしながらジビジビ鼻をすする。
 以前、公園を訪ねてきたとき、鯉太郎に登っていた八重に対し、みやこは「次は私に♪」と言ったため、リクエストに応えてみたらしい。大奥様、律儀である。
「まあまあ。希望とあらば『執事喫茶:ひたすら大奥様に尽くしましょう倶楽部』は、おぬしの都合の良い日に再編しようほどに。今回は我慢しておくれ」
「……わかりましたでぇす。きょうは『めいどしゃん』を体験するのでぇす!」
 きゅっと涙を拭くやいなや、八重は、じぃぃぃぃぃと大騎を見つめた。
(メイド服をつくってほしいのでぇす。アンビリーバブルなほどキュートでエクセレントなのがいいでぇす〜〜〜〜)
 身長10センチ用メイド服を素敵に作りやがれビームを受け、一瞬、大騎は遠い目をしたが、そこはそれプロフェッショナル。
 弁財天宮1階カウンターに設置された参加者受付コーナーの横に、衣装受注所&作業台を設置させ(フモ夫とポチが素早く動いた)、黙々と製作を開始する。
「私、衣装のご用意のお手伝いをします。糸永様とご一緒できるなんて、夢のようです」
 大騎のそばにそっと立ち、静修院樟葉はそっと頭を下げた。右手には、どこかで入手したらしき広報チラシ(「メイド」の部分にアンダーラインが二重線で引いてある)を握りしめ、左手には大きなトランクを持っている。
「おお。初めましてな娘御じゃの。スタッフ参加希望かえ?」
「はい。メイド服のことなら何でも承ります」
 樟葉は、カウンターの上にトランクを乗せた。その蓋を開けたとたん。
「うぉぉぉぉー?」
 弁天は絶叫した。
 ざっばーんずざざざざっっ。まるで日本海の荒波のように、多種多様なメイド服が溢れ出る。瞬く間に弁財天宮1階の床一面が、メイド服で埋め尽くされた。
 ヴィクトリアン風、ランカスター風、プランタジネット風、ハノーヴァー風、ランカスター風、オルレアン風等のコンサバ系から、ゴスロリ、和風、チェック柄、ヒョウ柄、黒レース、ラブリーハート等のネタ系まで、巨大クローゼットぎっしり3つ分くらいの量はあろう。
「……どうすればこの大量の服がトランクひとつに収まるのじゃ。まるで4次元ポケッ(ぴーっ)ではないか」
「わぁ♪ メイドさんのお洋服がいっぱーい!」
 勢いよく走り込んできた愛らしい少女が、服の海にダイブした。
「お? その物怖じせぬ天真爛漫っぷりは……チカ? うむ、チカじゃな。久しいのう」
「こんにちは、弁天ちゃん。今日はね、万輝ちゃんもいっしょなの♪」
 メイド服に埋もれてばたばたしながら、千影は後ろを振り返る。彼女のあるじ、栄神万輝が、苦笑しながら手を差し伸べた。
「しょうがないな、チカは。大事な衣装が皺になるよ」
 その手を掴んで、千影は立ち上がる。
「だってー。楽しそうだったんだもん。ね、弁天ちゃん。チカもメイドさんになってもいい?」
「もちろんじゃ」
 弁天が言うなり、樟葉が素早く服の山の中を探る。
「おまかせください!」
 物静かで古風な様子に似合わぬ、生き生き浮き浮きらんらんらんなハイテンションぶりであった。いかに樟葉がメイド服を愛しているかが、ひしひしと伝わってくる。
「千影さんには、そうですね――これこれ、この衣装が似合うと思いますよ。如何でしょう?」
 樟葉が差し出したのは、黒地のミニ丈メイド服だった。光沢のあるしなやかな生地で、裾に緑の縁取りがあり、千影の黒髪と緑の瞳によく映える。
「わあ。かわいー」
 目を輝かせたその瞬間、千影はすでにメイド服を身につけていた。樟葉の能力であるところの早着替え術だ。
 時間にして0.1秒。
 きゃっきゃっと喜ぶ千影の頭を、弁天はぐりぐり撫でる。
「樟葉がいて良かったのう。それにしても、ご主人さま同伴とは見上げた心がけじゃ。褒めてつかわす」
「えへへ。あのね、チカ、黒いうさ耳もつけたいの。そしたら、静夜ちゃんとおそろいでしょ?」
 静夜というのは、かたちのうえでは、「アイテム」として携帯している黒いうさぎのことだ。おなじ主の魂から生まれた存在であるらしい。
「静夜ちゃんはねぇ、チカのおとうとなの☆」
 取りだした黒うさぎを頭にのせてくるくる回り、千影はいっそうはしゃぐ。
 万輝はくすくすと笑った。
「チカは、メイドがどういうものなのか、知ってるのかい?」
「しってるもん! あのね、メイドさんにもランクがあるの! ハウスメイドさんにパーラーメイドさん――だってお家にもメイドのお姉ちゃんがいたもの。あれ……でも、どんなしごとをすればいいのかな?」
「案ずるより実践じゃ。形から入れば良いのじゃ」
 無責任なことを言う弁天に、万輝はなおも笑う。
「今日の趣向はメイドカフェだってね? チカがどうしてもっていうから一緒に来たんだけど、何だか面白そうだね」
「せっかくじゃから、万輝も参加するがよいぞ。さぞかし騎士の衣装がハマることじゃろう」
「うん、そうしようかな」
「いっそ騎士団長はどうじゃえ? フモ夫を部下にして」
「あはは。いいかもね。フモ夫って、ものすごく親近感あるんだよね。チカに似てるし」
「うむうむ。これ、ご指名じゃ、フモ夫。おぬしの役どころは、キマイラ騎士団長の忠実な部下ぞ」
「……………はい。何なりと」
 ものすごく長い間を置いてから、ファイゼは応える。役回りが気に入らないわけではなく、あふれかえるメイド服に足を取られて転びそうになり、体勢を整えていたところだったのだ。
「何なら、フモ夫もメイド服着る?」
「そそそそれだけはお許しをっ」
 ファイゼはすでにプレイベントで、ツンデレメイド『ファイジェリン』に扮した過去がある。伏し拝む様子を見て、万輝は、笑って手を振った。
「大丈夫、冗談だよ」
「弁天ちゃん、チカね、鯉太郎くんがメイド服着てるの見たいー」
「そうかそうか。他ならぬチカの希望じゃ。鯉太郎も喜んでかなえてくれようて。これフモ夫」
「かしこまりました。ご要望はお伝えいたします」
 ものすごく気の毒そうな顔で、ファイゼは、野外ステージにて会場設営中の鯉太郎に伝えるべく、走るのだった。

「はじめまして。今日ここで、メイドカフェみたいな催しがあるって聞いたんだけど、あたしもメイドに――」
 入口からあふれ出さんばかりの服をかき分けるようにして、高柳月子が現れた。シャープなまなざしの和服美女である。
「……なれそうね。服は、この中から選んでいいの?」
 すばやく状況を見て取った月子は、弁財天宮に初めて訪れたとは思えぬ物慣れた仕草で、メイド服を物色しはじめた。
「そうですよ。えっと?」
「高柳月子」
「月子さんだったら、和風が似合いそうですねっ! 今のお着物にエプロン、いいえ、むしろ割烹着を合わせると素敵です!」
 樟葉がにこにこといい、服の山の中から目的のものを探し当てた。
 次の瞬間。月子は真っ白な割烹着を身につけていたのである。
「すごい早業」
「ほほう」
 目を見張る月子を上から下まで眺め、弁天は何度も頷く。
「メイドというよりは大正浪漫なお屋敷の女中ぽい雰囲気じゃが、これはこれでアリじゃな。白いうさ耳などをあしらえば、新たなる萌えの地平線が追求できようぞ」
「うさ耳女中……」
 月子は考え込む。気まぐれにこの公園に足を向けてみたけれども、もしや自分は、引き返せない世界に入りかけているのではなかろうか。
「お似合いでいらっしゃいますよ」
 落ち着いた青年の声が、月子に掛けられた。見ればデュークであった。ポールにリージョアにコンラートといった面々を指揮し、一枚一枚きちんきちんとメイド服を畳んで整理している。
「私は母を早くに亡くしまして、メイド長だった女性が何かと面倒を見てくれました。月子どのは、義理の母とも言えるそのひとを、彷彿とさせます」
「ふぅん? あたし、お義母さんに似てるの?」
 喜んでいいのかどうか微妙な月子に、デュークは生真面目に断言する。
「はい。お顔立ちと雰囲気が少し。凛々しいところのある女性でしたので」
「べんてんさま。こんにちは」
「……ん? どこからか聞き覚えのある声が?」
「ここ」
「おお、月弥か。これはまた、思い切ったちみっこさじゃの」
 カウンターから身を乗り出さなければ見えない位置に、ちょこんと立っていたのは石神月弥だった。本日の外見年齢は、ぐっと幼く、3歳そこそこといったところである。
 こんな子にメイド服を着せて働かせたりしたら、いろんな意味で当局(ってどこだろう?)が黙っていないのではなかろうか。
「もしやおぬし、メイド希望かえ? その魅了無限大悩殺力抜群の愛くるしい姿でメニューを持ち、『ごちゅうも?』とか小首を傾げて、オーダーなど取るつもりではなかろうな?」
「だめ?」
「……くぅ。多少は免疫のついておるわらわですら、今、くらっときてしもうた。駄目とは言わぬが、会場中が悩殺死体の山になって、あとが大変そうじゃのう」
 弁天がため息をつくと同時に、月弥はメイド姿に変身した。
 樟葉が選んだのは、襟元に結んだ大きなリボンがポイントの、スカート襞がたっぷりあるエプロンドレスだった。
    
 入口付近にそっと佇む、すらりとしたシルエットに弁天は気づいた。まるで凶悪テロリストを尾行中ででもあるかのような思い詰めたオーラに覚えがあり、弁天は声を掛ける。
「これこれ。そこにいるのは夕日であろう? 恥ずかしがらずに入ってこぬか」
 言われて夕日はびくっとしたが、すぐにさりげない態度で、つかつかとカウンター前に進み出る。
「こんにちは。えっと、先日はお世話になりました」
「うむうむ、執事喫茶ぶりじゃのう」
「今日は、その」
「よしよし、みなまで言わずとも良い。おぬしの気持ちはよぉぉくわかっておる。お客さま参加者として来てくれたのであろう?」
「あ……いえ」
 夕日は口ごもる。執事喫茶のときがそうであったように、あやしげなカフェに潜入捜査する、という大義名分は一応あったのだが、それはあくまでもタテマエであって……。
「違ったかえ? そうか、メイドの方か。わらわとしたことが読み違えるとは! 樟葉、出番じゃ!」
「かしこまりました」
 すっかり衣装スタッフと化した樟葉が、夕日にふさわしい一品を探し出す。
 あっという間に、今まで着ていたスーツはどこへやら、夕日はミニ丈のメイド服を身につけていた。パニエで膨らませたスカートから覗くレースが、何とも可愛い。
「これ、ちょっと、短いんじゃ?」
 スカート丈を気にする夕日に、樟葉はにこにこと言う。
「脚がとても綺麗でいらっしゃいますから、その方がお似合いですよ」
「樟葉や。オプションで小物をプラスすることは可能かえ?」
「はい。メイド関係のグッズでしたらなんなりと」
「……夕日は、眼鏡をかけたら萌え度がアップするのではないか?」
「さすが弁天さま。良いお考えです」
 そして夕日は、あれよあれよという間に、眼鏡っ娘メイドとなったのだった。
 果たして「眼鏡」がメイド関係グッズに該当するかどうかは、このさい、追求しないこととする。

「流星雨を眺めながらの舞踏会なんて、素敵な年越しね」
 羽柴遊那が現れたのは、幸い、あらかたのメイド服が畳まれて、きちんと並べられたあとだった。おかげで、デュークを始めとした幻獣騎士たちも、身仕舞いをただしてレディをお迎えすることができたのである。
「ようこそ、おいでくださいました」
 まだ開催前だというのに、まるで仕えるべき貴婦人が目の前にいるかのような礼を、デュークは取った。
「遊那どのは、お客さまとしてのご参加ですか?」
「ええ。いつもの大晦日だと、身内の皆で、幼馴染の兄の家に入り浸っているんだけど。ここに来るのも悪くないと思って」
「きっと糸永どのが、相応しいドレスを仕立ててくださるでしょう」
「マエストロのおめがねにかなうかしら? 設定は、あなたの縁戚ということにしたいの」
 遊那は微笑み、デュークはかしこまる。
「それは有り難い限りです。実際には、私の親族には、遊那どののような優雅な女性はおりませぬゆえ」
「あなたに想いを寄せている女――という流れを加えても、ご迷惑じゃないかしら?」
「光栄です。むしろ、私などで宜しいのかどうか、申し訳なく」
「ほほーう。設定段階からいいムードじゃが、遊那や、本番ではわらわたちはライバルゆえ、心するようにな」
「ふふ……。楽しそう。ねえ、弁天さま。今日は、友人の娘を連れてきたのよ。蘭ちゃんも一緒に」 
「弁天さまー! こんにちはなのー!」
 遊那が後ろを振り向くと同時に、藤井蘭が姿を見せた。可愛らしいフェアブロンドの少女の手を、小さな紳士よろしく、エスコートするかのように引いている。
「おお、蘭。ガールフレンド同伴とは、隅に置けぬのう」
「はじめまして、水鏡雪彼です。蘭ちゃんや遊那ちゃんから、いつもおはなしきいてます」
 きちんとお辞儀をした雪彼に、弁天は顔をほころばせた。
「行儀の良い娘御じゃの。生育環境の良さがしのばれる。じゃが、もちっとくだけてもよいぞ?」
「はい、弁天ちゃん……じゃなくて、ばぁやちゃん?」
「……ばあやコスプレは別の機会にな。何やら事情通じゃの。可愛いうえにお利口さんじゃ。……このような娘御と親しいとは、蘭は甲斐性持ちさんじゃのう。くのくのっ!」
 弁天に肘でつつかれてよろけながら、蘭はちょっと照れた。
「雪彼ちゃんは、大事なお友だちなの」
「うむうむ。そう思える友人を得るのは、存外に難しいものじゃ。縁を大切に、ずっと仲良くな」
「はいなの」
「しておぬしらは……察するところ、ふたり揃ってメイドかえ?」
 蘭と雪彼は、大きく頷く。
「それではわらわが、おぬしたちの衣装を見立てて進ぜようかの。これ大騎。遊那のためにエレガントな貴婦人用ドレスを作成せい。素材は緑のサテン、華やかな刺繍入りでな。レースをあしらう場合は金で。蘭と雪彼には――そうじゃな、清楚な藍色の長袖ランタンスリーブに、スカートはクラシカルなロング丈、可愛いフリルの白エプロン、胸もとにはシックなギャザー、それから」
「いいからまかせろ! ……すまん、樟葉。衣装を作る手助けも頼む」
「かしこまりました。おまかせください」
 放っておくとどこまで続くかわからない弁天の注文を、大騎は手を休めずに遮った。

「ちょっと弁天サマ。蛇之助はどこ?」
 弁財天宮の入口から顔だけを覗かせ、嘉神しえるはフロア内を見回す。
「はて……? どこへ行ったのかのう〜〜? 先ほどまでここら辺にいたのじゃが?」
 弁天は白々しくとぼけた。実は、しえる来訪の気配を素早く察し、すれ違いになるように、蛇之助には地下4階の新年会用イベントフロアの設営を申しつけたのである。
「やっと休みが取れてここに来れたというのに! 邪魔する気ね」
「そんなことはないぞえ〜〜。蛇之助なぞどうでも良いではないか。わらわの天使は相変わらず美しいのう。さぁさ、もそっと近う。今、伝説の仕立て師が、おぬしのためにゴージャスなばあや服を作成してくれるからのう〜」
 ばあや服作成までは聞いてないぞ、と、大騎の合いの手が入る。
「ばあやは弁天サマでしょ。私はメイドになりに来たの」
 しえるがそう言った途端、すっかり心得た樟葉が衣装チェンジを行った。
「しえるさんは、ゴージャスなメイドさんが似合いますね。こんな感じでどうでしょう?」
 豊かな襞を持つロング丈のスカートに、繊細なレースをあしらったエプロンを合わせた衣装である。決して華美なデザインではないのに、しえるが身につけると、ドレスと見まごうばかりの華やぎが出た。
「ありがとう。いい感じだわ」
「お、お似合いです、しえるさんっ!」 
 蛇之助が、せえぜえしながら、地下に続く階段を登ってきた。何とか設営を終わらせたらしい。
「蛇之助ー。久しぶり。もうね、仕事が切羽詰まってて、なかなか時間が取れなくてごめんなさいね」
「いいんです。こうしてお会い出来ましたし」
「メイドカフェ開店中は、何かと理由つけて厨房に入り浸るようにするわね」
「お待ちしてます」
「こらぁ! わらわの目の前で、そんな打ち合わせをするなぁぁー!」

「お久しぶりです、弁天さま」
 水のゆらめきに似た、柔らかな声に振り向けば、セーラー服姿の海原みなもが微笑んでいた。
 その清楚さに変わりはないが、表情がどこかしら憂いを含んでいて、年齢に似合わぬなまめかしさを醸し出している。
「みなもっ? みなもではないか。ほんに久しぶりじゃのう」
「なりきりカフェ、楽しそうですね。あたしも参加していいですか?」
「もちろんじゃとも。帰ると言っても帰さぬぞ」
「ありがとうございます。なんか、発散したいなぁ、なんて思ってたところなんです」
 ふうとため息をつくみなもの肩を、弁天は掴んで揺さぶる。
「何かあったのか、みなもっ! おぬしのような中学生が、発散しなければならんほどストレスをためておるとは。文科省はいったい何をしておるのじゃ、けしからん」
「そんな大げさなことがあったわけじゃ、ないんですよ。ただ、気分転換したいっていうか」
「アケミもシノブもミドリも、おぬしの来訪を心待ちにしていたぞえ。次はいつ来てくれるのかと、まあうるさいこと。すぐに呼びにやらせようほどに」
 みなもが弁財天宮を訪れた時点で、すでにポールは『への27番』へ走り、アケミとシノブとミドリに伝えていた。彼女たちが、息せき切らせて駆け込んでくるまでに、さほど時間はかからなかった。
「きゃあああー! みなもー! 久しぶりねぇ!」
「あいたかったわぁー!」
「今日はゆっくりしていけるんでしょう? ちょうどメイドカフェの日だし、お客様になるといいわ」
 奪い合うように3人に抱きつかれ、みなもはしばらくもみくちゃにされた。
「今日の催しは、どんな内容なんですか?」
「それがね。どうやら、愛憎と陰謀がテーマらしいのよ」
「みなもに『憎』は似合わないでしょう。『愛』だけでいいわよ」
「じゃあ、禁断の愛っていうのはどう? 女騎士のみなもが、あたしたち3人と恋に落ちるの」
 きゃあー! みなもを中心にしたハーレムねー。すってきー! と、叫んでから、アケミは、人魚の騎士にふさわしい衣装の相談をしに大騎のもとへ行き、シノブは鎧や槍といった装備品について、アンジェラ・テラーに頼み、ミドリは、髪型やアクセサリーを見繕ってくれるよう、道楽屋敷のメイドを呼ぶ。
「女性騎士って、格好良いですわよね。弁天さま、わたくしも是非、そういう設定にさせていただきますわ」
 カウンター前に立ち、受付を済ませたばかりの鹿沼デルフェスが、みなもの支度を眺めながら、にこやかに言う。
「おお、デルフェス。おぬしも来てくれたのか。師走はアンティークショップ・レンも、さぞ忙しいであろうに」
「そうですわね、後顧の憂い無く新年を迎えたいとお思いになるお客さまが、多数来店されますから。ですがそんなときこそ、弁天さまやハナコさまのお姿を見て、心を癒されたく思うのですわ」
「嬉しいことを。ハナコは今、野外ステージ、もとい『月光のテラス』の厨房にて準備中ゆえ、開店後には会えようぞ」
「こういうメイドカフェって初めてなのですけれど……立場は自由に設定して宜しいのですわね?」
「うむ、あらかじめ詳細を詰めておくと、一層演技が冴えるというものじゃ」
「それではわたくしは、アイゼン公爵家の外戚に当たる、男爵家の女騎士ということにさせていただきますわ。ところで……」
 デルフェスは、ふと声を潜める。
「さきほど、こちらへ向かう途中で、『月光のテラス』付近を通りましたところ、マリーネブラウさまのお姿をお見かけしたのですけれど」
「それそれ。マリーネはなんと、自らスタッフとして加わりたいと言いだしてのう」
「まあ素敵。マリーネブラウさまはどういう設定ですの?」
「まんまじゃ。身分を隠して厨房に携わり、貴族たちの動向をチェックする女宰相。演技力がなくとも地で出来る」
「まあ。ではわたくし、マリーネブラウさまと異母姉妹ということにいたします。弁天さまが扮するところの、玉の輿志願のメイドBを慕っており、デュークさまにちょっぴりジェラシーを感じておりますの」
「それはまたドラマチックじゃのう。したがデルフェス、会場ではくれぐれも、マリーネには気をつけるようにな。あやつは素で何か企んでおるかも知れぬのじゃ。わらわも対策はしてみるが……」
 そう言って弁天は、しばし考えに沈んだ。

「舞踏会か……。幻獣姿のままで開催したら素敵だろうなぁ。それにしても準備段階から華やかね。公爵さんも幻獣騎士さんたちも、お疲れ様」
「シュラインー! 待っておったぞ。幻獣バージョンな舞踏会は怪獣大決戦もどきになりそうじゃから、しばし保留にさせておくれ」
 弁財天宮にシュライン・エマが顔を見せるなり、弁天は駆け寄った。手にはちゃっかり、前回、執事喫茶を開催したときに用意した、スタッフ用制服を持っている。
「それはともかく助かった。後方主任を頼むっ!」
「いきなりね。そのつもりで来たからいいんだけど。……何かあった?」
「それがのう。呼んでもおらぬのにマリーネブラウがやってきて、厨房で皿洗いをすると言いだしおった」
「マリちゃんが自分から? そんなに公爵さんに会いたいのかしら」
「そのような可愛らしい理由ではなかろうて。何か陰謀を企てておるのじゃ。おそらく――」
 弁天は小声で、シュラインに何事かを耳打ちした。
 シュラインが頷いた、ちょうどそのとき。衣装受注所付近では、守崎北斗が衣装制作中の大騎を前にして、絶叫、いや懇願、いや土下座を行っていた。
「俺のスーツも作ってくれぇー! こー、よくわかんないけどクラシックなやつ。騎士なんてガラじゃないし、メイド服なんてとんでもない……っていうか、何で兄貴がメイド参加なんだよぉぉぉーー! 恥ずかしいよぉぉぉー!」
「黙れ」
 泣き崩れる弟に一蹴り入れ、守崎啓斗は淡々と、樟葉に希望を伝える。
「機能的で、動きやすい服を見繕ってくれ」
「わかりました。啓斗さんでしたら、ストイックな伝統的デザインが良いかも知れませんね」
 そして、すぐに着替えは終わった。
 漆黒のロング丈ワンピースに白いエプロン、シンプルなカチューシャというスタイルである。
「これこれ、そう泣くな守崎弟。兄上の晴れ姿、とくと目に焼き付けておくがよい」
「だって弁天さま。俺たち井の頭公園に来るの初めてなのに、いきなり兄貴が何かしでかしたりしたらって、もう気が気じゃなくて心配で心配で」
「そんなに心配することもなかろうて。啓斗がつけている銀のブレスレットは、『メイドさん万能達人スキルの証』であろう? して、おぬしたちが住まうからくり屋敷は、今は正常に稼働しているのかえ?」
「うん、なんとか。……あれ? はじめましてだよね? 俺たちのこと、知ってんの?」
「守崎家のからくり大暴走騒動は、一時、ゴーストネットOFFの『要チェック☆不思議スポット』スレッドをにぎわせておったからの」
「そうなのか。ううう、恥ずかしい」
 そんなやりとりをしている間にも、大騎は樟葉とともに作業を進め、遊那のドレス、蘭と雪彼のメイド服、北斗のスーツは着々と形づくられつつあった。

 ちなみに八重のメイド服はもう完成しており、着替えも終わっていた。サイズは小さくとも、いや、小さいからこそ要求される神業的技術が凝縮した芸術品である。
 八重は、みやこの頭のうえに乗っかったまま、うーんと伸びなどしながら、
「そういえばメイド組はまだ、けも耳になってないでぇすね。いつ、そのヤバげなお薬を飲みまぁすか?」
 などと、受付補助に入っていた熊太郎に聞きながら時間つぶしをしていたところ。
「おにんぎょうだぁ。かわいいーっvv」
 新たな参加者が、弁財天宮を訪れた。素晴らしいデザインとしっかりした縫製の着物風ドレス(前もって大騎に作成依頼していたと思われる)に身を包み、ちりめんのテディベア(なぜか執事服を着ている)と手提げを抱えた、7歳くらいの女の子である。
 その大きな目はひたとみやこを、いや、みやこの頭上の、糸永大騎渾身の芸術的メイド服を着た八重をロックオンしている。
「あたしは、人形ではないでぇすよ……?」
 いやんな予感に、八重は思わず身を伏せた。
 しかし少女は、テディベアと手提げをカウンターに置いてから、八重をみやこの頭の上からひょいと持ち上げてしまった。そして、自分の胸にぎゅっと抱きしめたのだ。
 全力全開。善意100%。手加減なしの子どもの力というのは、結構強い。
「かわいーーっv かわいーーっv かわいいいいいっっっっvvv」
「ぐふっうぇおhgghっう゛ぁ! 何するでぇすかぁ〜〜〜」
 八重の顔は青ざめ、身体はイナバウアー状態。もう少しで、二度と戻れない遠い世界へ逝ってしまいそうだ。
「あの、お嬢さん? ちょっと力を緩めてくださいませんか。でないと八重さんが」
 大奥様のピンチを見かねて、熊太郎がおずおずと少女に声を掛ける。
 少女ははっとして、熊太郎を見、自分のテディベアを見る。それまでは、カウンター奧に、動いて話すテディベア(しかも執事姿)がいることに気づかなかったのだ。
「……こんにちは。くまさん」
「こんにちは。お名前は?」
「ななお。おとわ、ななお」
 音羽七緒は、魂を抜かれたように、ぼうっと熊太郎を見つめる。くたっとなり、お花畑が見え始めた八重は、間一髪のところで助かった。
「七緒さん。いいお名前ですね。今日のメイドカフェには、どんな形でご参加なさいますか? お客さま? それともメイドさんかな?」
「くまさんは、どんなおしごとなの?」
「僕ですか? 執事役ですよ」
「じゃあ、ななお、メイドさんやる。このドレスに、エプロンつけるの。あのね、これ、パパが発注してくれたドレスなの。いいでしょ」
 言いながらも、七緒の双眸は熊太郎から離れない。
「熊太郎さんはとても魅力的なのです。私も狙っているのです」
 七緒の後ろに並んで、受付の順番を待っていたマリオン・バーガンディが、にこにこと言う。
「おやマリオン。おぬしはてっきり、ヒゲのパティシエのスイーツに惹かれての参加かと思っておったぞ」
 横から口を出す弁天に、マリオンは笑みを崩さずに応える。
「田辺さんのスイーツは当然、大前提なのです。でも今日の設定は、エル・ヴァイセにおけるクマ研究の第一人者として知られている、バーガンディ子爵なので」
「……クマ研究とな。学術関係も極めると、マニアックな方向に走るものよのう」
「クマと言っても、ぬいぐるみのクマ専門です。蒐集癖があって、お目当てのクマを見るとお持ち帰りしたくなるのです」
「……ますますマニアックな」
「そんなわけで、今日は熊太郎さんをお持ち帰りするべく、陰謀を巡らしてみるのです」
「ええと……」
 どこにどう突っ込むべきかわからず、熊太郎は助けを求めるように弁天を見る。しかし弁天は、
「ええい、熊太郎はわらわのダーリンなのじゃ。誰にも渡さぬ。七緒とマリオンは、たった今からライバルじゃ!」
 と叫んで、熊太郎の首にしっかとしがみついた。
 何の役にも立たない対応に、蛇之助は肩を落とす。
「弁天さまー。スタッフにセクハラはやめてくださいよう」

「ええ!? 今日は『井之頭本舗』は休業?」
 何も知らず聞かされず、チラシを見かけることもないままに、偶然出向いた者もいた。
 法条風槻である。
 来てみて吃驚、というのは前回の執事喫茶に於いてもそうであったから、ある意味、彼女に取っての仕様と言えようか。
「……お蕎麦、食べに来たのに。あのとき、とても美味しかったから」
 意気消沈する風槻に、みやこが頭を下げる。
「そうだったんですか。申し訳ありません。今日はお店を使わないし、みんなメイドカフェにかかりっきりなので、完全に閉めちゃってるんですよ」
「残念だなあ」
「風槻ではないか。おぬしとも執事喫茶ぶりじゃのう」
 事情説明のため、弁天もすっとんできた。
「残念ながら、おぬしの愛する徳さんは、今日は蕎麦を打てぬのじゃ」
「愛してるわけじゃないんだけど。でもそうか、わかった。じゃあ、帰ろうかな」
「まあそう言わずに」
 帰してなるかと、弁天は風槻の服を掴む。
「徳さんは、蕎麦打ちを休んでいるというだけで、スタッフには加わってくれてるのじゃ。つまり」
「つまり?」
「ご指名可じゃ」
「……うーん」
「おぬしが望めば、徳さんに幻獣騎士のコスプレをさせることも可能じゃぞ〜。徳さんマニアにはたまらぬこの機会、どうじゃ、お客さま参加ということでひとつ」
 そして風槻は、こうなった以上は楽しむことを決意した。
 王室菓子職人、田辺聖人の従姉妹にして、『徳の騎士』カヴィアーに憧れる、人間(幻獣)観察に長けた伯爵令嬢という設定である。
 なお、カヴィアーはキャビア→チョウザメ→鬼鮫、という連想であるが、しょせん弁天のネーミングセンスによるものなので、チョウザメは鮫の仲間ではないと知っていてもスルーするのが得策であろう。

「何やら不思議な集まりだのう……。これはどのような遊びなんじゃ?」
涼しげな目元を緩め、その男はふふと笑った。只人には理解しえない、深淵を見据えているようなまなざしだが、しかし今はくつろぎのひとときなのだと割り切っている風でもあった。すらりとした長身に、紺の作務衣が映える。
「むむっ? いつの間にやら初顔の男前が受付に! おまかせくだされ、わらわが手取り足取り教えてしんぜようぞ」
 いそいそとカウンターに戻った弁天に、男は、大鎌の翁と名乗った。やはり、人ならぬ存在であるらしい。
 気まぐれに都内を散歩していたところ、偶然にこの公園に足を向けたのだそうだ。
 弁天を見て、翁は目を細める。
「手取り足取りとな。それはありがたい。……ほほう、井の頭の弁財天が、このような美人とはの」
「ほっほっほ、なんとも正直な殿方じゃ。取りあえず、わらわの名刺を渡しておこう。裏に、プライベートなメアドが記載されておるゆえ」
「まあまあ弁天さま。お客さまをナンパしてどうなさいますの! 翁さん、不肖、アンジェラ・テラーがご説明させていただきますわ!」
 すっ飛んできたアンジェラは、弁天をぐいと後方に押しやった。咳払いをひとつして、「メイドカフェ『エル・ヴァイセの年越し舞踏会』」の趣向について話す。
 ふむふむと翁は耳を傾ける。聡明な彼は、すぐに理解したようだった。
 即座に「お客さま」として飛び入り参加を決め、詳細な設定も決まった。アンジェラがメモを取りながら確認する。
「お名前はフェイン=アルバドレーさま。名門アルバドレー侯爵家の当主。アルバドレー家はアイゼン家の西にある辺境領で、アイゼン公爵デュークさまとはライバル関係。性格設定は、かなりの女好きということで、よろしいのですね?」
「うむ。舞踏会の招待を受けて参加したところ、メイドBに一目惚れしたことにしようかのう」
「ま、メイドBのほうで宜しいんですの? メイドAもおりますのに」
「おぬしはおぬしで美しいがのう」
「あらあら、お口がお上手ですこと」
「ええい、どかぬかアンジェラ〜。男前の受付はわらわが担当するのじゃあ〜」
「おっ、なんだなんだ、弁天さまじゃない美人さんが受付にいるぞ?」
 やはり飛び入りらしき来客が、受付カウンターにいるアンジェラに微笑みかけた。がっしりした体躯に燃え立つような赤毛。古武術家、彼瀬春日。恐妻家な42歳である。
「まあ、いらっしゃいませ、弁財天宮にようこそ。いまひとつ事務能力のない弁天さまの代わりに、わたくしアンジェラ・テラーが承りますわ」
「せっかくだから俺も参加させてもらおうか。今回はメイドカフェだっていうが、いわゆるカフェという形態じゃないようだな」
「はい。流星雨を見ながらの、ロマンチックな年越し、そこここで行われるラブ・アフェアと陰謀を堪能しつつ、選りすぐりのけも耳メイドをご鑑賞ください、というテーマですの」
「騎士を演じながらのラブ・アフェアか。任せろ! ポチとかフモ夫とかも騎士なんだろう? 俺も口調に気をつければ、特に問題は無いのではないかな?」
「それはもう、ばっちりですわ。きっと、野性味溢れる騎士さまにおなりです」
「これアンジェラ。わらわも春日と話を」
「弁天さまはそろそろ着替えてくださいまし。糸永さーん、春日さんのために、臙脂色の夜会服を作成してくださいなー!」

「……つまりませんわ」
 メイリーン・ローレンスは、彼女にしては珍しい人間の姿で受付カウンター前に腰掛け、山と積まれたメイド服を眺めていた。
 メイド希望の参加者は次々に衣装を選び、その魅力を最大限に引き出している。みなそれぞれに可愛らしく、もしくは美しい。
 それが悪いというわけでは、もちろんない。ないのだが――
「どうした、お嬢さん。受付はしないのか?」
 まだ作業に取り組みながらも、大騎が声をかける。
「もう、しましたわ。後方支援ということで」
「後方? あんたなら、メイドか貴婦人のほうが似合うだろうに」
「女の子ばかりのメイドカフェは、わたくしにはあまり楽しくありませんの」
「そうかも知れんのう。メイは、貴婦人というよりは貴腐人……いやなに何でもないげほごほ」
 わざとらしく咳払いをした弁天は、メイリーンの肩をぽんぽん叩く。
「まあ、おぬしはひととおり家事一般をこなせることじゃし、後方が強化されればわらわも安心じゃ。マリーネブラウの様子も見て欲しいしの。もし余裕があれば、おぬしも着替えて、月光のテラスで踊れば良かろうて」
「あらそんな。わたくしは一応下働きの設定ですもの。表立って楽しむようなことはしませんわ」
「そうなのかえ?」
「ええ、表立っては、ね」
 メイリーンの瞳がきらりと輝く。なかなかどうして、後方も波乱含みのようであった。

「それでは、メイドの皆さんはこちらへ。ただいま、けも耳化薬をお配りいたしますね」
「チラシには記載しておりませんが、勘の良い皆さまはお気づきかと存じます。これは『ドジっ娘化薬』でもあります。効果は3日ほど続きますが、後遺症等はございませんのでご安心を」
 アイゼン家の新メイド長に扮した道楽屋敷のメイドと、筆頭執事の役回りの熊太郎が、メイド参加者たちに薬入りジュースを配布していく。
 どんな種類のけも耳が出現するかはランダムなのだが、本人が強く念じれば、望むものになる可能性が高いらしい。
 そして、メイド服を着た面々はみな、人並み外れた能力のもちぬしであったので、それぞれ希望のけも耳を得ることとなった。
 列記すると、以下のようになる。

 ◇露樹八重…………うさ耳(白)
 ◇千影………………うさ耳(黒)※アイテムの黒兎「静夜」とおそろい
 ◇高柳月子…………うさ耳(白)
 ◇石神月弥…………うさ耳(薄茶)※アンリ元帥に激似
 ◇藤井蘭……………猫耳(白)※ふわふわもふもふ
 ◇水鏡雪彼…………狐耳(金色)※尻尾つき
 ◇嘉神しえる………猫耳(黒)※ゴージャスな毛並み
 ◇守崎啓斗…………猫耳(茶色)
 ◇神宮寺夕日………うさ耳(白)
 ◇音羽七緒…………くま耳(ピンク)
 ◇唄鳥………………猫耳(黒)

「……あら? ちょっと待って」
 それに最初に気づいたのは、シュラインだった。
「八重さん、千影さん、月子さん、月弥くん、雪彼ちゃん、蘭ちゃん、しえるさん、啓斗くん、夕日さん、七緒ちゃん――たしか、メイド希望者はこの10人だったはずよね? 弁天さん」
「お? どこかで数え間違えてしもうたかのう。ええと、お客さま参加は、万輝、遊那、みなも、デルフェス、北斗、マリオン、風槻、春日、大鎌の翁の9名で、後方支援は、樟葉、シュライン、メイリーンの3名のはず」
「ええっ? 10+9+3だと22ですわよね? でもそれだと計算が合いませんわ。受付参加ノートには、23名の記録がありますのよ」
 アンジェラが首を捻る。
「あの。メイド参加者のかたは、11人いらっしゃいます」
 道楽屋敷のメイドが言い、一同は息を呑む。
 そのとき――
 見覚えのないメイドが、そっと片手を上げた。腰まである長い黒髪が美しい、小柄な少女である。オーソドックスな黒のロング丈スカートに、白いエプロン。メイドキャップをあしらった正統派スタイルだ。
「すみませぇん。あたしが漏れてるんだと思いますぅ。つい、恥ずかしくって、皆さまにご挨拶しなかったものですから……。着替えは自分で済ませて、お薬も隠れてこっそり飲んじゃいましたぁ」
「それはまた、シャイが過ぎるぞえ。すわ怪奇現象かと思ったではないか。おぬし、名はなんと申す?」
「『唄鳥(うたどり)』とお呼びくださぁい」
「唄鳥……さん……」
 ふと、シュラインが考え込む。
「どうしたえ? シュライン」
「いえ。……ちょっとね」

(草間興信所に登録している調査員には、『唄鳥』という名前のひとはいないはず……。偽名かしらね。けも耳ドジっ娘化薬を飲んだとき、性別転換も念じたのだとしたら、男性だった可能性もあるわ。だって)
 ――声には、聞き覚えがあるもの。
 疑問を確かめるべく、シュラインは言ってみる。
「ねえ、唄鳥さん。味噌ラーメンの具は、何が好み?」
「ノーコメントですぅ。シュライン後方主任」

 ――やっぱり、ね。
 
【第二幕】謎のメイドによる年越し舞踏会報告書

 えっとぉ、こんにちは。唄鳥っていいますぅ。
 シュラインさんが、舞踏会の状況をレポートにまとめて、弁天さまに報告してねって仰ったんですぅ。そんな大役、不安なんですけど、精一杯頑張ろうと思いますぅ。
 ……あ、ごめんなさい。語尾のちっちゃい「ぅ」は、話し言葉の時だけにつけますね。読みにくいと思いますから。

 会場の野外ステージ、じゃなかった、『月光のテラス』には、うっとりするような音楽が流れています。
 ご参加のかたに恵まれて、想像以上ににぎやかな舞踏会になったため、急遽、ルゥ・シャルム公国亡命者居住区域 『ろの13番』から、音楽隊要員を徴収したのです。
 ジルベール大佐、マクシミリアン少佐、ギュスターヴ中尉、エティエンヌ軍曹、オディール伍長という、生え抜きの面々です。ふだんは可愛らしいうさぎ型幻獣のみなさんですが、今日ばかりは楽器演奏の都合がありますので、人間形に変身なさり、楽隊の制服に身を包んでいます。
 しかも、楽隊を指揮しているのは、誰あろうアンリ元帥でした。
 ……張り込みましたね。高額の依頼料で定評のあるみなさんに来て頂くと、お支払いも大変なことになると思うんですけど。
「さっき、弁天さま……いえ、メイドBが柱の影で見積書差し出されて、蒼白になっていたよ、お兄さま」
 情報通で有名な伯爵令嬢、風槻さまが、スイーツをサーブしている聖人さまに、そっと囁いています。
 風槻さまと聖人さまは、いとこ同士の関係でいらっしゃるとか。伯爵家の縁戚にありながらあえて菓子職人の道をお選びになった聖人さまを、風槻さまは、まるで実の兄のように思われているとのことです。
 風槻さまがお召しになっている青いドレスは、伝説のマエストロ、糸永大騎さまがお仕立てになられました。背中が開いていない、シンプルな青いドレスで、袖と裾に伯爵家の紋章が入っています。
「僕もそれ、きいたなの〜。弁……メイドBさん、『請求書は翌々々月締めで頼む〜。これこのとおり』とか、いってたの」
 蘭さんが、ふかふかの猫耳をぴこぴこさせながら、聖人さまから渡されたお皿を受け取ります。
「ねこ耳メイドはみた! なのー。でも、いつもの井の頭公園とかわらないなの? いちおう、写真をとったの」
 さりげに鋭いことを仰りながら、とてとてと、ファイゼさまのところへ運んていきます。
「ファイゼさま。おかし、どうぞなの」
「これは蘭どの。いやあ、可愛らしい猫耳ですねぇ」
「ごほーしします、なの」
「ごっ……!」
 なぜかファイゼさまは、お菓子を喉に詰まらせてしまいました。慌ててアンジェラさん……メイドBさんがすっ飛んできて、背中をとんとん叩きます。
「しっかりなさって! 今日はそこここで猫耳がてんこもりですのよ。いちいち萌え死んでいたら、命がいくつあっても足りませんわ!」
 蘭さんは蘭さんで、とてっと転び、
「ふにゃ! おかしがばらばらになっちゃったなの……」
 と、しょんぼりしてから、
「……えっと……。ここに代わりのおかしがあったなの」
 などと呟いて、別のテーブルにあったお菓子を自分が持っているお皿に混ぜました。
 それはどうやら、しえるさんのために、ポールさまとリージョアさまとコンラートさまが争うように取り置きしておいた分のようです。
 しえるさんはメイドの立場ながら、貴婦人顔負けの気品を漂わせていて、犬系幻獣の騎士さまは、しえるさんに絶対服従と言っても過言ではないほど、弱いのです。
「色がいっしょなの。だいじょうぶなの」
 ――全然大丈夫じゃないと思うのですが。
 案の定、ポールさまはすぐに、大事なお菓子がなくなっていることに気づきました。
 でもドジをやらかしたのが、猫耳の蘭さんで、申し訳なさそうにぴこっと耳を伏せながら「ごめんなさいなの……」と大きな瞳を潤ませて言われた日には、怒るどころか胸きゅんです。
 固まってしまったポールさんをよそに、お皿を持ったしえるさんは、
「じゃあ、この、いろんなもの混ぜちゃったお菓子はいったん、厨房に戻すわね」と、むしろいそいそと言いました。厨房にいる蛇之助さんの顔を見る口実が、これでできたのです。
 ですが、メイドBさんは目ざとくそれをキャッチし、邪魔をするべく動きました。
 まず、バーガンディ子爵がオーダーなさった、特選スイーツ超山盛りのお皿を運んでいた七緒さんの背を、ちょいと押します。
「きゃあん!」
 よろけた七緒さんはすっころんだ拍子に、お皿ごと聖人さんに激突しました。聖人さんは、取り分け中だった『青リンゴの器を使ったシャーベット 〜完熟リンゴのピューレ添え〜』を、いくつもころころと転がしてしまい、注文を取りにとっとこ走っていた月弥さんがそれにつまずいて、リンゴと一緒に転がりました。
「び。びぇ〜」
 泣きべそをかきながら転がる月弥さんを、アンリ元帥がさっと抱き上げて助けます。
「大丈夫かね? 月弥。ほら、涙を拭いて」
「……ぐし。ありがと。おとさま」
(今の、聞きましたか?)
(月弥どのはもしや、アンリ元帥の隠し子だったでありますか!?)
『ろの13番』の楽隊は、曲を奏でる手を止めて、騒然としました。確かに、月弥さんの薄茶のうさ耳は、アンリ元帥のそれと似通っていたのです。謎は謎を呼び、風雲急を告げます。
 それはともかく、リンゴのひとつは雪彼さんの足もとに当たって、『ラベンダー風味のクレーム・ブリュレ』を運んでいた雪彼さんを、やはり転ばせてしまいました。哀れクレーム・ブリュレは、お皿ごと飛び散ってしまったのです。
「くすん……。田辺ちゃん、ごめんなさい……。おかし、だめにしちゃった」
 たとえドジっても、作り手の気持ちを斟酌するのが、雪彼さんの良いところですね。涙ぐむさまも可憐です。
 これはこれでシャッターチャンス。アイゼン公爵家の縁戚にあたる貴婦人、遊那さまが、演技をちょっぴり中断してカメラを向けています。
「ん……! 雪彼、可愛い! あとで皆に見せてあげなくちゃ」
 七緒さんの頭には八重さんが乗っかっていました。
 打ち合わせのとき、人形と間違えられてあやうく抱き殺されそうになったあと、八重さんは七緒さん登りを決行したようです。その七緒さんがすっころんだため、当然、八重さんも宙に飛びます。
 すっとんだ八重さんは、騎士の春日さまご注文の紅茶を持っていた啓斗さんの肩に当たって落ち、啓斗さんはただでさえ歩きにくい長いスカートを踏んづけてしまいました。
「む……」
 どんなときにも、啓斗さんは無表情を貫いています。今も、内心かなり焦っているらしく、頬がほんのり朱くなっていますが、表情に崩れはありません。何という精神力でしょうか。
 大きくバランスを崩しながらも、超人的な運動神経により、とうとう啓斗さんは体制をたてなおしました。
 幸い、紅茶は無事でした。ですが、身体を傾けた瞬間、フェイン=アルバドレー侯爵さまのオーダーを受け、珈琲を入れていた千影さんに、肘を当ててしまったのです。
 千影さんは、珈琲豆を盛大に焦がしました。
「あれぇ? コーヒー豆、こげこげしちゃった。ちょっと失敗……?」
 ちょっとどころか、吹き上がった火柱は珈琲豆をあっという間に消し炭にし、まるでどこかの火祭りのように、夜空までも燃やしそうな勢いです。ここが室内じゃなくて、本当に良かったです。
 焦がした拍子に珈琲豆はいくつか床にこぼれ、お水を運んでいた夕日さんが足を滑らせました。
 しりもちをついた拍子にコップは床に落ち、水は全部こぼれ、ガラスのかけらが散らばります。
「これ、夕日! 何をしておるのじゃ。注意力散漫じゃぞ」
 そもそも、ご自分が引き起こしたことだというのに、メイドBさんは、先輩風を吹かせて夕日さんを叱ります。
「は、はい。すみません、B先輩っ!」
 夕日さんはけなげに謝りながら、短いスカートを気にしつつ、手探りで探し物をしています。
「メ、メガネ……。私のメガネはどこに……?」
 どうやら、転んだ拍子に眼鏡を飛ばしてしまったようです。コントのお約束のようで微笑ましいです。
 スイーツ全滅状態の憂き目を見ながらも、「こんなことだろうと思ったよ」と呟いて、聖人さまはその場で、新しいお菓子の作成に取りかかりました。
『メロンのスープ』だそうです。完熟メロンの果肉に、キルシュとグランマニエを加えて作るのだとか。
「あたしも助太刀しますよ」
 月子さんはずっと、聖人さまのそばで、アシスタントよろしく控えていました。ここぞとばかりに割烹着を腕まくりし、手にした食材を投入します。
 ……小倉や、うぐいす餡を。
「……おい!」
 聖人さまは慌てて、メロンが入った皿を月子さんから遠ざけますが、月子さんも負けてはいません。絶妙なコントロールで、横から斜めからあんこ玉を投げこんでいきます。
 あんこ入りメロンスープ。何だか、楽しそうです。
「あたしもお手伝いしますぅ」
 そこらへんに(何故か)タピオカがありましたので、隙を見てお皿に加えてみました。きっと、美味しくなりますよね。
「あのなあ、おまえら……。ドジっ娘になってるから、仕方ないといえばそうなんだが……」
 聖人さまはため息をつかれましたが、あたしはともかく、月子さんは、地でなさっているような気がいたします。
「皆さん、チームワーク抜群ですね。素晴らしいです。……ほうきとちりとりとモップは、ここに置きますね。あと、こちら、予備のメロンです。後方では、シュライン主任とメイリーンさんと樟葉さんがスタンバイしていますから、何かあったら、相談してくださいね」
 優しいメイド長さんは、メイドたちが一丸となってやらかしたドミノ倒しなドジを責めず、おっとりてきぱきと、収拾につとめるのでした。
 最初に七緒さんの背を押したメイドBさんは、メイドAさんにお仕置きの足払いを掛けられて、柱に顔を打ちつけていましたけれども。

 † †

『月光のテラス』の右端に広がるのは、夜の井の頭池――失礼しました、『星の湖』です。
 月の光を受けて銀色にきらめく湖を、心ゆくまで鑑賞できるよう、また、踊り疲れた貴族の皆さまが身体を休めることができるよう、ソファは十分な間隔を取って、湖を臨めるように置かれています。
 お飲み物やスイーツをご所望のかたは、お好みのお席に腰掛けて、メイドにオーダーを伝えていただくのです。
 メイドBさんを呼び止めてご注文なさったのは、キマイラ騎士団長の万輝さまでした。
 黒に銀糸をあしらった騎士服に、胸当て部分のみ銀の鎧をつけてらして、くつろいだ略式のすがたです。黒のロングサーコートをはおり、髪を掻き上げるさまを、王の後宮に住まう寵姫たち、アケミさま・シノブ さま・ミドリさまが、憧れの目で見つめてらっしゃるのでした。
「葛切りと抹茶を貰おうかな? もちろん準備は出来てるよね? ああ、抹茶はきちんと点てて持ってきてね」
「はい、万輝さま。ただいますぐに」
 玉の輿狙いのメイドBさんは、ご身分の高い殿方の前ですと、ころっと口調が変わります。
 厨房に行ったとたん、いつもの調子で、
「葛切りと抹茶じゃと? なんちゅう俺様な注文じゃ! ……抹茶の在庫が切れてる? ええい、鯉太郎、ひとっ走りせい!」
 と、叫んでおいて、しばし息を整えてから、しずしずと戻ってくるのです。
「お待たせいたしました、万輝さま。葛切りを――異世界のスイーツをお持ちしましたわ」
「……ほらよ、抹茶だ。しょーがねーから吉祥寺パルコ近くの日本茶専門店へ走ってすげぇ高いやつを……いえ、粗茶でございますがどうぞ」
 鯉太郎さんは、千影さんの要望どおり、樟葉さんに着替えを手伝ってもらい、ミニ丈のメイド服で登場しました。
 女性化薬に加え、後方スタッフ用ドジっ娘属性抜きけも耳薬を飲んているので、銀色の猫耳が出現しています。伸びた金髪を三つ編みにして赤いリボンで結んでいるあたり、吹っ切ったというか開き直ったというか、そんな感じです。
「うちにも、メイドみたいなのがいたけれど、彼女はどちらかといえば姉のような存在でね。女の子女の子してると、やはり華やかだね」
 いつの間にやら、アケミさまとシノブ さまとミドリさまを横にはべらせ、メイドBさんと鯉太郎さんを交互に眺めながら、万輝さまはご機嫌です。
「メイドBは美人だし、鯉――メイドKは可愛いし、居心地いいね。気に入ったよ」
「万輝ちゃんずるい〜!」
 天を焦がさんばかりの火柱の収拾はメイドAさんに丸投げして、千影さんが万輝さまのもとに走り寄ります。
 涙目になった千影さんを見て、真のご主人さまはにこりと笑いました。
「チカが何時までも来ないからだよ、ほらおいで。チカの特等席は空けておいたから」
 特等席――膝の上です。素敵ですね。
 膝に飛び込んだ千影さんを抱き留めて、万輝さんは仰いました。
「一曲、踊ろうか?」

「あっさりさらわれちゃったわね。もしかしたらって思ったんだけど」
「……私たちが束になってかかっても、千影さんにはかなわないみたい」
「仕方がないわ。私たちは後宮の女。騎士さまとの恋愛なんて、もともと許されない立場ですもの」
 席に取り残された、アケミさまとシノブ さまとミドリさまは、深いため息とともに、手に手を取って立ち上がった万輝さまと千影さんを見送ります。ふたりがフロア中央に進み出るなり、楽隊は、『エル・ヴァイセのワルツ 〜東京風アレンジ〜』を奏で始めました。
 万輝さまはとてもダンスがお上手で、千影さんを見事にリードしておられます。
 ステップを踏むおふたりが、会場中の注目を集める中、キマイラ騎士団副団長のひとり、みなもさまが、アケミさまとシノブ さまとミドリさまに声を掛けられました。
「あなたがたは、踊らないのですか?」
「まあっ……! みなもさま。舞踏会にいらっしゃるなんて、お珍しい」
「みなもさまが私たちにお声をかけてくださったわ。何て光栄なんでしょう」
「……ああ! 私たち、お話できる日をずっと夢見ていましたのよ。剣の修練をなさるお姿見たさに、そっと後宮を抜け出したりして……。でも影ながら拝見するのが精一杯で、こちらからはとても話しかけられませんでしたの。恐れ多くて」
 アケミさまとシノブ さまとミドリさまは、数多い後宮の女人のなかでも、とりわけ王陛下のご寵愛の深い方々です。その3人が、みなもさまを前にすると、まるで初恋の人に対する少女のように、ぽおっと頬をそめられるのでした。
 騎士道精神にあふれた、禁欲的な男装の麗人として、みなもさまはことに、後宮の女性たちに人気がありました。近づきがたい存在であるほど、ひとは心惹かれるものなのかも知れません。
 凪いだ海を思わせる青い鎧をお召しになったお姿は、異世界の神話に登場する戦乙女のようです。みなもさまは、3人にそれぞれ微笑むと、控えめに近づいたメイド長さんに、常に携帯している槍『マーメイド・スピアー』をお預けになりました。
 メイド長さんと入れ替わりに、この舞踏会の主催者、アイゼン公爵家のデュークさまがご挨拶にこられます。
「よく、来てくれたね。浮ついた舞踏会など敬遠しがちな君が」
「……滅多に会うことのかなわぬ女性たちもいらっしゃると、聞いたものですから。招待状を、ありがとうございます」
 礼儀正しく頭を下げてから、みなもさまは3人を振り返ります。
「まさか……。そんな」
「みなもさまが舞踏会にいらっしゃったのは……」
「私たちに、会うために?」
「はい。陛下のご寵愛深いあなたがたを想うのは、騎士道に反するばかりか、もしかしたら反逆なのかも知れませんが」
 そう仰ると、みなもさまはまず、アケミさまの手を取りました。
 ――そしてフロアには、新しいペアが踊り出すこととなったのでした。

「主催者のあなたは、どのご婦人と踊られるつもりなのかしら?」
 デュークさまに歩み寄ったのは、遊那さまでした。縁戚関係にあるおふたりは、小さい頃からのお知り合いでもあるようで、親しい雰囲気です。
 遊那さまは、洗練された貴婦人としても定評があるかたです。結い上げた髪の飾りが、光沢を押さえた金の薔薇一輪であるところといい、お手持ちの濃緑の扇が、さりげなくドレスの色味と合わせてあるところといい、ちょっとかないません。
「……君こそ、ずっと壁の花を通してきたようだが、誰か待っていたんじゃないのか?」
「私に何を言わせるつもり? 気の利かないひとね、デューク」
「お目当てがいるのなら、ダンスを申し込むのも迷惑かと思ってね」
「ずるいひと。私、妬まれているのよ? あなたに想いを寄せている、チャーミングなメイドさんに。魅力的な女性たちから僻まれるのは、むしろ望むところだけど」
「――踊って、くれないか?」
「喜んで。最初から、そう仰ってくださればいいのよ」

 デュークさまと遊那さまが踊りの場に加わると、舞踏会はいっそう華やぎました。
 お似合いのおふたりに、メイドBさんが地団駄を踏みます。
「むううううう! 何ということじゃ! あの生真面目なデュークが、珍しくもノって演技をしておるではないかっ! これっ、月子。せっかく作り直したメロンスープをてんこ盛りあんこスープスペシャルダイナマイツにするのはそれくらいにして、こっちへ来ぬか。そんなにいじめると、聖人がスランプになるぞえ」
 聖人さんに張りついて執拗にお手伝い(?)をしていた月子さんの腕を、メイドBさんはぐいと引きます。
「ものは相談じゃがのう。おぬし、義母として、公爵夫人にはわらわを選ぶよう、デュークにプッシュしてくれぬか?」
「……デュークさんのお義母さん似なのはリアルであって、設定じゃないんで」
「なら、なおさらじゃ」
「ちょっと弁天さまぁ。演技なんですからね。それ忘れないでくださいよ」
「蛇之助のようなことを言うでない。……ぬ? 蛇之助と言えば――しまったぁ! しえるの邪魔をしそこねたぞえ〜〜」
 そもそも、ドジのドミノ倒しを行ったきっかけは、しえるさんが厨房へ行こうとするのを防ぐためでした。
 なのに、ふと気づけば、フロアにしえるさんの姿はありません。
 メイドBさんは慌てて後方へ走るのでした。

「蛇之助。お待たせ〜♪ 田辺さんのスイーツ、持ってきたわよ。ちょっと床に落としちゃったんだけど、まだ食べられるし、勿体ないから」
「しえるさんが運んでくださるだけで、床に落ちようが地を転がろうが、貴重なお菓子ですとも。いただきます!」
 厨房の一角は、ラブい雰囲気で満たされていました。
 束の間の逢瀬というには、あまりにもささやかなひとときを過ごす、しえるさんと蛇之助さんを、後方スタッフの面々は、当たらず障らずそっとしておこうというか、まあ今だけだしどうせすぐにメイドBさんが駆け込んでくるしというか、ともかく遠巻きにしていたのです。
「独り身には目の毒だなぁ。シュラインちゃん。メイちゃん。マリーネちゃん。お茶でも飲もっか? 樟葉ちゃんも、衣装スタッフお疲れさま。メイドさんたちを堪能するのはちょっと一休みして、ゆっくりしなよ」
 ぽりぽり頭を掻いて、ハナコさんはお湯を沸かし始めます。
「あ、はい。ありがとうございます」
 樟葉さんは、それまでほとんど立ちっぱなしでした。お呼びとあらばマエストロの助手をしに駆けつけたり、着替えたい人がいたときは手助けしたり、あとはメイドさんたちの大活躍をうっとり見つめてトリップしていたのでしたが、ようやく我に返り、一息つく時間ができたのです。
「ハナコちゃんも座ったら? お腹すいたでしょ? 何か好きなもの作るわよ」
「シュラインちゃーん……」
 ハナコさんは涙ぐんで、シュラインさんの服の裾を握りしめました。
「ありがと。……あのね、ホントはね、ハナコもお姫さまみたいなドレス着て、踊りたかったんだ」
「よしよし。令嬢姿も似合いそうなのにね」
 シュラインさんは、ハナコさんの頭を撫で撫でします。ちなみにシュラインさんも、メイド化した鯉太郎さん同様に、ドジ属性抜きけも耳薬を飲んでおり、白いうさ耳が出現しています。
「きゃあああーーー!!!」
 どんがらがっしゃーーん! マリーネブラウさんの悲鳴が厨房に響きます。洗い終わったお皿を拭こうとして、床に落としてしまったのでした。
 ずっと厨房で洗い物をしていたマリーネブラウさんが、お皿を割ったのはこれで32枚目です。
「ドジっ娘化しているわけでもないのに、不思議ですわね?」
 メイリーンさんが、首を傾げます。
「マリちゃんは、火の幻獣だものね。水仕事が苦手でも、仕方ないわよね」
 よしよし、と、まるでハナコさんに対するように、マリーネブラウさんの頭も、シュラインさんは撫で撫でしました。
「……!」
 恥ずかしいのか屈辱でか、マリーネブラウさんの顔が真っ赤になりました。途端に、気温が上昇します。
 ……これでわかりました。真冬の、しかも屋外での舞踏会だというのに、全然寒くなかったわけが。
 マリーネブラウさんが、天然暖房の役割を果たしてくれていたのです。本人にその自覚はないようですが。
「……わかりましたわ。せいぜい燃えていただきましょう」
 まだ、マリーネブラウさんの真意はわかりません。メイリーンさんは、探るように見つめます。
 いざとなったら、特製の猫化薬入り紅茶を飲ませ、完全な猫に変化させる心づもりのようです。
 ちなみにメイリーンさんは、魅力的な黒い猫耳と、ふかふかの尻尾をお持ちの状態ですけれど、これは薬の効果によるものではなく、100%天然の自前なのでした。
 何と言っても天然ものには強烈な吸引力があります。
 見れば、後方の簡易椅子には、ファイゼさま、ポールさま、リージョアさま、コンラートさまといった面々が、放心状態で座ってらっしゃいます。
 しばしの骨休めにいらしているようですけど……。
 それにしては、様子が違うというか……。皆さん、何だか印象が違います。
 それもそのはず。
 メイリーンさんが、顔出しなさった騎士さまたちに、
「お疲れでしょう? 一休みなさっては如何?」
 と、とろけるような微笑で幻惑し、特製若年化薬(これも100%自前)入りの紅茶を振る舞ったのです。
 猫耳美女にお茶を勧められて、断る騎士がいようはずもありません。
 よって、青年騎士であった皆さまは外見年齢が若くなり、ファイゼさまが13歳くらい、ポールさまが12歳くらい、リージョアさまが15歳くらい、コンラートさまが14歳くらいになっているのです。
「しえるはどこじゃあー! ……む? どうした、フモ夫にポチにリルリルにコロ。そんなに可愛くならんでも、わらわはもちっと育った方がタイプじゃぞ?」
 駆け込んできたメイドBさんが、ふと足を止めます。
「わたくしの紅茶を、お飲みになりましたの」
「メイ〜〜〜。おぬしの仕業かぁ!」
「ちょっとした趣味ですわ。一応、主催のデュークさんは、除外いたしました」
「う、うむ。大人の配慮、感謝する。それはそうと、しえる〜〜〜。やはりここにいたかぁ〜〜!!!」
「あらぁ。B先輩。先輩は、玉の輿狙いなんでしょ? じゃあ、メイドと料理人助手のささやかな恋愛を、邪魔する必要はないんじゃないの?」
 しえるさんの言い分は、大変に筋がとおっております。が。
「それはそれ、これはこれじゃあ〜〜〜〜!!!」
 メイドBさんの信条は、『無理を通して道理にしてしまえ!』なのでした。

 まぐまぐまぐまぐ。
 もぐもぐもぐもぐ。
 ぱくぱくぱくぱく・
 むしゃむしゃむしゃむしゃ。
 とある席では、クマ研究の第一人者でいらっしゃるバーガンディ侯爵さまと、異世界風の衣装をお召しになった、騎士の北斗さまが、ただひたすらにスイーツを食していらっしゃいました。
 メイドさんたちの嵐のようなドジに見舞われながら、聖人さまが気合いで作った『王宮風クーベルチュールチョコレートのタルト』『公爵家のプチ・ポ・ド・クレーム』『風の森産ルビーフルーツのティヤン仕立て』『幻獣の谷ワイナリー製ロゼワインのジュレ』『ルゥ・シャルムオレンジとエル・ヴァイセライムのシャーベット』『王室庭園産の梨とアカシア蜂蜜のクラフティー』などなどです。
 本当は、趣向を極めるために、メニュー名に合わせた食材をエル・ヴァイセやルゥ・シャルムから輸入すれば良かったのでしょうが、いろんな大人の事情により、実際の仕入は吉祥寺駅北口の八百屋さんや、デパ地下の食料品売り場にお世話になった模様です。
「お待たせいたしました、バーガンディ侯爵さま。こちら、『薔薇と蝶のカスタード・プティング 〜ラウラ王妃御用達〜』でございます」
 追加の注文は、筆頭執事の熊太郎さんが自らお持ちになられました。オーダーが無事に届くまでは、いろんな紆余曲折がございまして……。
 プティングの上を彩る、繊細な飴細工の蝶やチョコレートの薔薇は、何度もメイドさんたちの餌食になりました。
 ひと踊りしたあとの千影さんが、「ふわぁ〜。きれ〜。おいしそ〜」と、ひょいぱく。
 七緒さんの頭の上に戻った八重さんが、「人生山折谷折(?)。まったく、メイドのお仕事は疲れるでぇすね。甘いものを補給するでぇす」と、ひょいぱく。
 七緒さんも一緒に、「おはなさんが、食べてっていってるーv」と、ひょいぱく。
 仕方なく作り直したプティングを、今度はしえるさんが運びましたが……。つまみ食いをするでもなく、ただ運んだだけなのに、テーブルに乗せた途端、プティングは毒々しい色に変わり、怪しい煙を放ったのです。何をどうしたらそういうことになるのか、現代科学では解明出来ないドジですが、しえるさんは、あまつさえ、それをカットしてサーブしようとしたのです。
 あやうく、メイドAさんが羽交い締めにして止めましたが、あのままでは、バーガンディ侯爵さまと北斗さまは、命までもカットされていたことと思われます。
 そんなこんなで、熊太郎執事が運ぶことになったのですが、それはそれで、別の波乱を呼びました。
 クマのぬいぐるみのコレクターでもあるバーガンディ侯爵さまは、何とかして熊太郎さんをお持ち帰りするべく、画策なさっていたのです。
「他にご注文がございましたら、何なりと」
「熊太郎さんをオーダーするのです。私の館に来て欲しいのです」
「勿体ないお申し出ですが、私は、公爵家に雇用いただいている身でございますので」
「熊太郎さんの身代わ……代わりの執事を調達して、アイゼン公爵にお許しをいただくので、私が迎えにくるのを待っていて欲しいのです」
「バーガンディ侯爵さま……。そんなにも私のことを……」
 熊太郎さんは、感動したご様子でした。
「筆頭執事として、フモ夫さんを推薦しようと思っているのです。騎士と執事の二足のわらじを履いてもらうのです」
 ……ファイゼさまは、わりと都合のいい騎士ですから、それもアリかもしれません。
 ですが、バーガンディ侯爵さまは、間近で見る熊太郎さんのもふもふと、目の前のプティングにすっかり癒されてしまったようです。お持ち帰り計画はどこへやら、このままなし崩しになってしまう気配濃厚でした。
「啓斗、さま。追加ご注文の、『宰相閣下の超大盛り激辛カツカレー』です」
「ぐほっ」
 啓斗さまは、プティングにむせました。甘いものだけではもの足りず、ガツンとくる食事系メニューを頼んだのですが、それを運んできたのが何と、生き別れの双子の兄、もとい、メイドさんになった北斗さんだったからです。
 北斗さんは事務的にカレー皿を置くと、表情を崩さずにテーブルを離れました。 
「くっ! せめてっ……せめて兄貴も客参加だったら、こんなに悩まねーってば……」
 お兄さまのことが心配で心配でたまらない北斗さまは、滝涙状態です。
 心労のあまり、刺激的な香りを放つカツカレーも口に留まらず、そのまま胃に流れ込んでいくありさまです。
 つまり。
 がつがつがつがつ。
 ぱくぱくぱくぱく。
 もごもごもごもご。
 むぐむぐむぐむぐ。
 ……禁断の、買い食い拾い食い貰い食いには該当しないため、食べることについては、特に罪悪感がないようでございました。

 † †

「お美しいお嬢さん。流星雨が祝福するこの一夜、甘い恋のお相手はいかがでしょうか?」
 春日さまは、キマイラ騎士団団長の信任も厚い、武芸に優れた騎士さまです。彫りの深い顔立ちは野性味にあふれていて、ことに深窓の令嬢がたから、熱い想いを寄せられているのでした。
 素晴らしいルビーをあしらった、臙脂色の夜会服に身を包んだ逞しい体躯は、こと舞踏会ではひときわ目立ちます。
 春日さまは、妙齢の女性に対して大変まめでいらっしゃり、おひとりおひとり丁重に、しかも片っ端から、まんべんなく、お声をお掛けになっていらっしゃるご様子でした。
 あたしの見た限りで申し上げますと、貴婦人ですと、風槻さま、遊那さま、みなもさま、デルフェスさまに、メイドさんですと、千影さん、月子さん、しえるさん、夕日さん、メイド長、メイドAさん、恐れ多くもあたしにもお声がかりがございましたし、啓斗さんの存在も見逃しておけないようでした。
 ですが、風槻さまは、徳の騎士として名高いカヴィアーさまをお慕いなさっておりますし、遊那さまはデュークさまに想いを寄せておられますし、みなもさまは、アケミさま、シノブさま、ミドリさまと、禁断の恋の扉を開けたところであられます。
 デルフェスさまは――そう、女性騎士であられるデルフェスさまは、みなもさまと並んで、キマイラ騎士団の副団長をお勤めになられておられます。エル・ヴァイセの影の支配者とも言われる、宰相マリーネブラウさまとは、異母姉妹の関係でいらっしゃるとか。女性を守ることを信条になさっておられるかたで、男性との恋愛には、あまり興味をお示しになられません。
 メイド長さんや、メイドAさんやメイドBさんとはにこやかにお話になり、ことにメイドBさんがお気に入りです。殿方からのお誘いはスルーなさいますので、春日さまのアプローチは通じないようでございました。
 千影さんは万輝さまひとすじですし、月子さんは反射的にボウリング玉サイズの小倉餡(だんだんエスカレートしています)を投げつけてこられますし、しえるさんは、メイドの演技はどこへやら【霊刃:蒼凰】を召還していますし、夕日さんは驚いたあげくに転んでしまい、紅茶ポットとティーカップを粉々にし、メイドBさんからお叱りを受ける始末です。
 なお、啓斗さんは、口説かれたことにまったく気づかず、無反応なままでした。北斗さんの方が、心配のあまり意識を失いかけていたようです。
 ちなみに春日さまは、なぜかメイドBさんには声を掛けませんでした。先輩をさしおいて、騎士さまとアバンチュールに走るのも申し訳なく、あたしもお断りした次第です。メイド長さんと、メイドAさんは、さらっと流してらっしゃいました。
 そうそう、「あたしだって大人の女でぇすよ? なんでくどかないのでぇすか。失礼な」とは、八重さんのぼやきです。
 懲りずに春日さまは、難易度の高さでは勝るとも劣らない、後方スタッフの方々も口説かれました。
 結局、シュラインさんからは、春日さまと縁のある、某貴婦人の声色を使われて撃退され、メイリーンさんからは若年化薬入り紅茶を勧められ、樟葉さんからは、「女性化薬を飲んでくださいましたら、メイド服に着替えるお手伝いをさせていただくのですけれども……」と、にっこり言われてしまいました。
 それでも春日さまはあきらめません。物陰に隠れていた蛇之助さんの手をがしっと掴み、
「やっと見つけた。薬が苦手な俺が、君のために必死で調合した性転換香だ。男と女なら問題ないだろう?」
 と、夜会服から香水瓶を取りだして、蛇之助さんに嗅がせたのです。
「問題大ありです! 許してくださ〜い!」
 銀髪の美女と化した蛇之助さんに、春日さまは接吻を迫りました。
 あわや、というそのときです。
 世にも凄まじい蒼い炎のオーラに包まれたしえるさんが駆けつけて、蒼焔&雷最大出力モードの霊剣を振り上げました。
 同時に、どこからともなく飛んできた謎の銃弾が、春日さまのルビーに当たって砕け散ったのです。
 さしもの春日さまも、冷や汗をだらだらかき、ルビーの欠片をばらばきながら逃走するしかないようでした。
 ――なお、銃弾を放ったのは、春日さまとご縁の深い某貴婦人だという説が有力でございます。

 † †

 名門アルバドレー侯爵家の当主であられるフェイン=アルバドレーさまは、女性たちと駆け引きめいた言葉遊びを楽しむのを好む御方です。
 本日の舞踏会も、そのためにいらしたようでした。フェインさまはデュークさまにライバル心を抱いており、アイゼン公爵家の主催で行われる催しは敬遠なさるのが常なのですけれども、今日は、魅力的な貴婦人やご令嬢が顔をお出しになり、美しいメイドたちも多数控えているとあって、見過ごすわけにはいかなかったのでございましょう。
 フェインさまはことに、遊那さまに関心をお持ちのようでございました。アイゼン家の縁戚で、デュークさまの幼なじみでもある、名高い貴婦人。しかも遊那さまは、デュークさまを愛しておられるご様子。いっそう、ライバル心を掻き立てられたものと思われます。
「デューク以外の男が目に入らぬとは、人生の楽しみを逸するというものじゃ。あのような生真面目なだけが取り柄の男など、面白味がなかろうて。たまには他に、目を向けてみてはどうじゃ?」
 言い寄るフェインさまに、遊那さまは小悪魔的な微笑を浮かべます。
「つまりフェインさまは、人生の楽しみを教えてくださるのね?」
「いかにも。どうじゃ、今宵ひととき、わしと共に過ごしてみては?」
 フェインさまは、そっと遊那さまの手を握ります。遊那さまは振り払うでもなく、しかしやんわりと首を横に振るのでした。
「……ごめんなさいね。私、誠実な男性が好きなの」
「デュークさまぁ〜! お慕いしておりますー! 遊那さまには負けませんわぁ〜!」
 だだだだだーっと走ってきたメイドBさんが、突如、ふたりの間に割って入りました。
 がしっと、フェインさまに抱きつきます。
「……これはこれは。いきなりの愛の告白とは、大胆なメイドじゃの」
 ぎゅっと抱き返されて、メイドBさんは、あれぇ? とフェインさまを見上げ、ようやく、自分が人違いをしていたことに気づきました。
「あら、フェインさまでしたの。失礼しました、わたくしとしたことが」
「デュークと間違えたのか? 聞き捨てならんのう」
「申し訳ございません。同じ、黒の夜会服でいらしたものですから」
「……ほほう。なかなかに美しい。気の強そうなところも良いな。おぬしも、デュークでなければならんクチか?」
「え? あの、それはどういう?」
「玉の輿を狙っているのなら、相手がわしでも構わんじゃろう? アルバドレー侯爵家の領地は辺境にあるが、アイゼン公爵家よりも広大で、地味も豊かじゃ。ああ、このメイドに、アルバドレー産の赤ワインを」
 軽く手をあげて、フェインさまはメイドAさんを呼び止め、オーダーをなさいました。
 メイドAさんは頷いて、広大かつ豊かな辺境アルバトレー産ワイン(という設定の北海道産ワイン)を運んできました。
「おぬしが気に入った」
「ま……」
「どうじゃ、ふたりっきりで、静かなところで話さぬか?」
 どうやら、フェインさまはメイドBさんに一目惚れなさったようです。メイドBさんも、相手が好条件の侯爵さまとあって、まんざらでもなさそうでした。赤ワインを飲んだ頬が、朱に染まっています。
 そして、あまりにもうまい話にちょっと逡巡するメイドBさんを、フェインさまは軽々と抱き上げて、月のテラスから去ろうとしたのですが――

「お待ちくださいませ」
 それを止めたのは、デルフェスさまでした。
 ミスリル銀製のブレストプレートを煌めかせ、マントを翻した女騎士は、腰に下げたバスタードソードに手を添えました。
「そのメイドは、わたくしと踊る約束をしているのですわ。ご無体なことをなさらず、どうぞ、お返しください」
「デルフェス……。男爵家の女騎士じゃな」
 メイドBさんを抱き上げたまま、フェインさまは振り返ります。
 いつもは優美な騎士であられるデルフェスさまの、今にも剣を抜きかねないような殺気に、ふっと肩を竦めてから、メイドBさんを降ろしました。
「まあ良い。おぬしに免じて、今宵はあきらめるとしよう。次の機会には、どうなるかわからぬがの」
「ありがとうございます」
 デルフェスさまは、フェインさまに深々と頭を下げました。
「デルフェス……さま」
 少しワインに酔ったらしく、メイドBさんは、足もとをふらつかせています。
 さりげなく支え、デルフェスさまは少し心配そうに仰いました。
「お邪魔でしたか? 余計なことを、してしまいましたかしら?」
「いえ。少々、わたくしも舞い上がってしまい、自分を見失いかけていたようですので」
 メイドBさんは、ふぅうううと息を吐き――メイドAさんに言うのでした。

「メイドA、水を持てい!」
「いきなり何ですの、その態度」
「黙れ。おぬし、今のワインに何か細工をしたであろう? あの程度でわらわが酔うはずがないのじゃ!」
「ふ。ちょっと、南ヴァイセ産麦の蒸留酒(という設定の大分麦焼酎)を混ぜてみましたの。メイドBさんはお酒に強いから、ラブチャンスを逃がすのではと思いまして」
「余計なお世話じゃ!」

 † †

 年の変わる瞬間が近づき、いよいよ舞踏会は最高潮です。
 空を彩る流星雨は、なんと256色の輝きを帯び、美しい線を描いては消えていきます。
 これは、みなもさまの「水芸」によるものだそうです。裏事情を申し上げますと、企画段階では、流星雨の演出についての詳細は決まっていなかったのですが、みなもさまが来てくださったので一気に解決、ということのようでした。

「せっかくですもの、メイド長さんたちも踊りませんか?」
 デルフェスさまがそう仰ってくださったので、メイド長さんも、メイドAさんも、メイドBさんも、後方からはハナコさんとマリーネブラウさんも、それぞれドレスに着替えて踊ることになりました。
 女性騎士のリードで、代わる代わるターンをする光景はとても華やかな……はずなのですが、メイド長さん以外は、ドレスの裾に足を取られたり、デルフェスさまのおみ足を踏んだりして、どうにもさまになりません。
「これ、マリーネ。おぬし一応は、レディ教育を受けてきた身であろう? 何じゃ、そのよたよたした踊りっぷりは」
「……厨房でずっと立ちっぱなしだったからよ。あなたこそ、それでも芸の女神?」
「北海道産ワインと大分麦焼酎のちゃんぽんが抜けておらぬのじゃ〜」

 ずっとスイーツを食べ続けていたバーガンディ侯爵さまでしたが、ダンスが苦手ということではありませんでした。むしろ、その反対です。
 ただ、バーガンディ侯爵さまは大変な面食いでいらっしゃるので、「この舞踏会の参加者の中で、一番綺麗な人」としか、踊らない方針のようでした。
 ですがこの会場にいらっしゃるのは、美しいかたばかりです。そのため、どなたかおひとりを選ぶというのはとても難問だったのですが。
「仕方ないのです。あえて、波風を立ててみるのです。鯉太郎くんことメイドKさん、私と踊って下さいなのです」
「……………嘘だろ?」
 
 † †

 年が明けたその直後、踊り続けながら、遊那さまはデュークさまの耳元で囁かれました。
「今年もヨロシク。良き一年でありますように」
「こちらこそ、宜しくお願い申し上げます」
「年の初めに挨拶するひとが貴方で嬉しいわ」
「私もです」
 おふたりは人の輪を抜けて、星の湖の岸辺に立ち、水面に映る流星雨を、しばらく眺めておられました。

 そして、数十分後。
 雪彼さんは、くたくたになって、半分眠りかけています。
「こら、こんなところで寝ると風邪引くぞ?」
「雪彼ちゃん、だいじょうぶなの?」
「あけましておめでとう……むにゃ。蘭ちゃん」
「おめでとうなの」
「糸永ちゃん……。このおようふく、もらっていい?」
「ああ、そのために作ったんだから持ってけ。大人になったら、もっと綺麗なやつを仕立ててやる」
 
 † †

 それでは、この長い報告書の結びに変えて。

 ずっと壁の花でいらした風槻さまが、最後の最後で、『徳の騎士』カヴィアーさまと踊られたことと、
 マリーネブラウさんの目的が、実は、以前から目をつけていた、月弥さんのお持ち帰りだったことを記しておきましょう。
 
 とはいえ、
 小さな手でメニューを抱え、「ごちゅうも?」と首を傾げる月弥さんのいとけなさに、
 かの女宰相も、つい、二の足を踏んでしまったようなのですけれども。

【第三幕】新年会にようこそ

 かくして、メイドカフェ『エル・ヴァイセの年越し舞踏会』は幕を閉じたわけだが―― 
 もちろん、これで終わりではなかったのである。

「さあさ、そんなわけで皆の者、今から新年会じゃ! 百人一首大会に突入じゃ! ほれ蛇之助、仕切らぬか」
「私がですか? かしこまりました。ええと、和服に着替えたいかたは、お好みのものを貸し出しますので、どうぞお申しつけ下さい」
 一同を地下4階フロアに案内する前に、ひとまず、蛇之助は人数を確認することにした。
「みなさま、お揃いですか? それでは点呼を取らせていただきますね」
 23名の名前が、つぎつぎに呼ばれる。
 そして――
 22名の、いらえがあった。
 その中に、またも、メイド「唄鳥」はいなかったのである。

「謎の娘御よのう。いったい、何者だったのやら」
 首を捻る弁天に、シュラインは、小さなメモを差し出す。
「わかる人には、わかったと思うんだけども――はい、これ。唄鳥さんからの、メッセージ」
「何じゃシュライン。おぬし、事情を知っていたのかえ?」
「ともかく、読んでみて」

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   ご一緒させていただいた皆さま、弁天さま、企画スタッフの方々へ。
   お世話になりました。
   今から、とある交渉の場に臨まねばならないので、これにて失礼いたします。
   ご挨拶ができませんでしたことを、どうぞお許しください。
  
               唄鳥こと、ジェームズ・ブラックマン
  =====================================

「えええええっーーーーーっ!!!」

 新年の空を揺るがす、一同の驚愕の声。
「クロスケだったのか……。あの可愛いメイドは」
「なんてこった」
 聖人は眉間に縦皺を寄せ、大騎は頭痛を抑えるごとく、額に手を当てた。
「唄鳥(うたどり)、黒歌鳥=ブラックバード=ブラックマン。気障なネゴシエーターじゃ。すっかり騙されてしもうたわい」
 メモを見直し、弁天は、はっと目を見張る。
「……む? 今から仕事じゃと? けも耳ドジっ娘のままでかっ? それはいかん。黒衣の交渉人のブランドイメージが地に落ちるぞ!」
 慌てて、弁天はデュークに指示する。
「これ、デューク。すぐにジェームズを追うのじゃ。そして、交渉の場にはおぬしが同行し、『ジェームズ・ブラックマン』と名乗るように!」
「かしこまりました。本物のジェームズどののことは、先方さまには何と申し上げれば宜しいでしょうか?」
「『けも耳ドジっ娘助手』とでも言い張れば良かろう」

 敏腕ネゴシエーターの、新年における初仕事が、果たして成功したかどうか。
 それはもう、霊験あらたかな弁財天と、年越しをしたのだから――


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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○けも耳ドジっ娘メイドの皆様
【0554/守崎・啓斗(もりさき・けいと)/両性/17/猫耳(茶)/無表情属性】
【1009/露樹・八重(つゆき・やえ)/女/910/うさ耳(白)/人生山折谷折属性】
【2269/石神・月弥(いしがみ・つきや)/無性/100/うさ耳(白)/魅了悩殺属性及びアンリ元帥の隠し子】
【2163/藤井・蘭(ふじい・らん)/男/1/猫耳(白)/「ドジっ娘メイドは見た!」属性】
【2617/嘉神・しえる(かがみ・しえる)/女/22/猫耳(黒)/かしずかれ属性】
【3586/神宮寺・夕日(じんぐうじ・ゆうひ)/23/女/うさ耳(白)/眼鏡っ娘属性】
【3822/高柳・月子(たかやなぎ・つきこ)/26/女/うさ耳(白)/餡投入属性】
【3689/千影(ちかげ)/女/14/うさ耳(黒)/ご主人様限定属性】
【5128/ジェームズ・ブラックマン(じぇーむず・ぶらっくまん)/男/666/猫耳(黒)/属性はノーコメント】※メイド名「唄鳥(うたどり)」
【5689/音羽・七緒(おとわ・ななお)/女/7/くま耳(ピンク)/甘えんぼさん属性】
【6151/水鏡・雪彼(みかみ・せつか)/女/8 /狐耳(金)/未来の貴婦人属性】

○エル・ヴァイセの貴族の皆様
【0568/守崎・北斗(もりさき・ほくと)/男/17/キマイラ騎士団所属の騎士(服装は東京風)】
【1252/海原・みなも(うなばら・みなも)/女/13/キマイラ騎士団副団長】
【1253/羽柴・遊那(はしば・ゆいな)/女/35/アイゼン公爵家縁戚の貴婦人】
【2181/鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)/女/463/キマイラ騎士団副団長:マリーネブラウの異母妹】
【3480/栄神・万輝(さかがみ・かずき)/男/14/キマイラ騎士団長】
【4164/マリオン・バーガンディ(まりおん・ばーがんでぃ)/男/バーガンディ侯爵:くま研究(ぬいぐるみ専門)の第一人者】
【4451/彼瀬・春日(かのせ・はるひ)/男/42/キマイラ騎士団所属の騎士】
【6235/法条・風槻(のりなが・ふつき)/女/25/情報通の伯爵令嬢:田辺聖人の妹的存在】
【6877/大鎌の・翁(おおがまの・おきな)/男/999/騎士:アルバドレー侯爵家の当主:デュークのライバル】

○後方スタッフの皆様
【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/女/26/うさ耳(白)/うさ耳(白)な後方主任】
【4287/メイリーン・ローレンス(めいりーん・ろーれんす)/女/999/猫耳(自前)な貴腐人スタッフ(?)】
【6040/静修院・樟葉(せいしゅういん・くずは)/女/19/衣装スタッフ及び糸永大騎の助手:早着せ替えの達人】

○企画側スタッフ
【王室菓子職人:田辺・聖人/四つ辻茶屋より】
【伝説の仕立師:糸永・大騎/tAilor CROCOSより】
【アイゼン家筆頭執事:熊太郎/熊太郎派遣所より】
【アイゼン家新メイド長:道楽屋敷のメイド/道楽屋敷のメイド室。より】
【メイドA:アンジェラ・テラー/東区三番倉庫街より】
【徳の騎士カヴィアー:鬼鮫/公式NPC】
【エル・ヴァイセの騎士:デューク・アイゼン他『への27番』居住者】
〜その他、井の頭公園内より、メイドBとか元帥とか女宰相とか後方・厨房・雑用担当とかetc.

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、神無月まりばなです。
この度は年末年始のお忙しい時期に、けも耳ドジっ娘メイドカフェにご参加いただきまして、まことにありがとうございます。
お帰りになろうとする皆さまの足もとにすがりつき、激しくお引き留めしてしまい、申し訳ございません。
お引き留めついでに、新年会(百人一首大会)にも、なしくずしにご参加いただいております。
どうぞ本年も宜しくお願い申し上げます。

皆さまのおかげで、とても華やかでにぎにぎしい舞踏会と相成りました。大人数ゆえに成立するトリック(笑)を、こっそり仕掛けてみたり。
……ところで、うさ耳が一番人気でしたね。猫耳かな、と思っていたので、ちょっと意外。

□■守崎啓斗さま
依頼でははじめまして! ドジっ娘化薬さえ飲んでいなければ、啓斗さまは完璧なメイドさんだと思いますv クールさが素敵。

□■露樹八重さま
たとえこの場がメイドカフェであろうとも、つい大奥様と呼んでしまうスタッフをお許しくださいませ。お命ご無事でなによりです。

□■石神月弥さま
最初はアンリ元帥のお孫さんという設定を考えていたのですが、より波風が立つように、隠し子ってコトで! ……ああ、すっかりマリちゃんに目ぇつけられて。

□■藤井蘭さま
せっかくなので、雪彼さま、遊那さまとご一緒にいらしたことにさせていただきました。それにしても危険な猫耳メイドじゃのう。

□■嘉神しえるさま
かしずかれ体質+悲劇のカップルというダブルコンボでした。……はっ。しえるさまが何も破壊していない……! 

□■神宮寺夕日さま
眼鏡っ娘な夕日さま……。萌えっ(おいおい)。真面目なおつとめぶりといじらしさに感涙です。おつかれさまでした。

□■高柳月子さま
はじめまして! 妙齢の女性でいらっしゃるのに、デュークが義母似呼ばわりして申し訳ございません。親しみの表れということでひとつ。

□■千影さま
メイドさんズの中で唯一、特定の「ご主人さま」をお持ちなのが千影さまでございました。子猫ちゃん系のかたがうさ耳というのも可愛いですね。

□■ジェームズ・ブラックマンさま
素敵なプレイングに小躍りし、このような構成を取らせていただきました。年の初めの交渉が、無事成立しますように(祈)。

□■音羽七緒さま
はじめまして! かわいいのがしごと、を地で行くかたでらっしゃいますね。大奥様殺人未遂事件(おい)は、これからも末永く語り継がれることと思います。

□■水鏡雪彼さま
依頼でははじめまして! お菓子の国での大冒険は、きっと弁天もチェックしていると思われます。それにしても、メイド姿もお可愛らしい……。

□■守崎北斗さま
依頼でははじめまして! 北斗さまは本当にお兄さま思いなのだなあとひしひし感じ、目頭が熱くなったライターがここに。

□■海原みなもさま
いやもう本当に、募集段階では流星雨の演出を決めてなかったので、みなもさまがいらしてくださったのをこれ幸いと、水芸をお願いしてしまいました。騎士さまを働かせて申し訳なく。

□■羽柴遊那さま
執事喫茶でもそうでしたが、まわりがどんなにはっちゃけていても、遊那さまのシーンはエレガントになるのが不思議です(笑)。名演技をご披露いただき、ありがとうございました!

□■鹿沼デルフェスさま
おお、かっこいい。颯爽とした女性騎士ですね。デルフェスさまの役回りは、素でお出来になった気がいたします。

□■栄神万輝さま
万輝さまは、とてもナチュラルにお過ごしでいらっしゃいました。演技をなさらずとも、フモ夫よりよほど騎士団長らしいような……。

□■マリオン・バーガンディさま
くま研究の第一人者という設定に、息が止まるかと思うほどウケさせていただきました。熊太郎さん、ちょっと心が動いてたっぽいですよ?

□■彼瀬春日さま
妙齢の女子全員口説こうとは、ななななあんてパワフルな! わざとメイドAを外すのが、高度なテクと言いましょうか。

□■法条風槻さま
巻き込まれ型のように見えて、実は一番のチャレンジャーであるような気がいたします。徳の騎士さまと踊った、伯爵令嬢に乾杯。

□■大鎌の翁さま
はじめまして! 壮大なバックボーンをお持ちの神様にいらしていただき、光栄でございます。弁天を口説いてくださり、ありがとうございました。

□■シュライン・エマさま
執事喫茶に引き続き、後方主任には大変お世話になりました。シュラインさまなればこそ、あのような伏線も可能でございましたことよ。

□■メイリーン・ローレンスさま
後方の重鎮、メイリーンさまは、もしやマリーネブラウなど足もとにも及ばない陰謀家では、なんて思っちゃったり。

□■静修院樟葉さま
はじめまして! 樟葉さまのおかげで、着替え場所に悩まずに住みました。衣装スタッフ、お疲れ様でした。きっと糸永さんも感謝なさっていることと思われます。