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■おそらくはそれさえも平凡な日々■

西東慶三
【0759】【海塚・要】【魔王】
 個性豊かすぎる教員と学生、異様なほど多くの組織が存在するクラブ活動、
 そして、「自由な校風」の一言でそれらをほぼ野放しにしている学長・東郷十三郎。

 この状況で、何事も起きない日などあるはずがない。
 多少のトラブルや心霊現象は、すでにここでは日常茶飯事と化していた。

 それらの騒動に学外の人間が巻き込まれることも、実は決して珍しいことではない。
 この物語も、東郷大学ではほんの些細な日常の一コマに過ぎないのである……。

−−−−−

ライターより

・シチュエーションノベルに近い形となりますので、以下のことにご注意下さい。

 *シナリオ傾向はプレイングによって変動します。
 *ノベルは基本的にPC別となります。
  他のPCとご一緒に参加される場合は必ずその旨を明記して下さい。
 *プレイングには結果まで書いて下さっても構いませんし、
  結果はこちらに任せていただいても結構です。
 *これはあくまでゲームノベルですので、プレイングの内容によっては
  プレイングの一部がノベルに反映されない場合がございます。
  あらかじめご了承下さい。
一筋の光

〜 無間の闇 〜

 一切の光すら差さぬ闇の中に、風野時音(かぜの・ときね)はいた。

 いや、そもそも「いる」という表現が正しいのかどうか、それすらすでに判然としない。
 ボロボロのはずの身体からも、すでに痛みはかすかにしか伝わらず――それはつまり、彼の身体の感覚自体が消えかかっていることを意味していた。

(死ぬのかな)

 ふと、そう思った。

 特に感慨はない。
 そのことを恐れ、また悲しむには、死はあまりにも身近なものになりすぎていた。





 時音にとって、死は常に彼の隣にあるものでしかなかった。
 それこそ、まだ物心がつく前――両親と暮らしていた頃からずっと。

 その両親が殺され、彼が未来へと向かった後も、それは少しも変わることはなかった。
 むしろ、その後に起きた二つの事件が、彼に消えずまとわりつく「死の匂い」を動かし難いものにしたと言ってもいいだろう。

 一つは、彼が姉と慕った女性が、訃時(ふ・どき)の手に落ちた、あの忌まわしい事件。
 異能者たちを憎む人間によって罠にかけられた彼女は、その心の焦りを突かれ、訃時に取り込まれる結果となった。
 その彼女が、仲間で、そして友であったはずの退魔剣士たちを次々と切り刻んでいく様は、忘れようと思っても忘れられるものではない。

 そしてもう一つは、その直後、彼らの留守中に「異能者狩り」が彼の「故郷」を襲った事件。
 この二つの事件で、時音はその時もっていた全てを失い、心に大きな大きな傷を負った。

 それによって心が壊れてしまった時音は、一度は「姉は他の友人とともに、訃時によって殺された」という記憶を捏造し――ある意味では、それもまた真実なのだが――本当の記憶を封印さえしたが、それでも心の傷を塞ぎきるには遠く。
 誰かの悲鳴を聞く度――あの日の惨劇の光景が、友人たちの無惨な死に様が、何度でも時音の脳裏に甦ってきた。





 時音はそれを止めたかった。
「人間」を憎む代わりに「虐殺」という行為を憎んだ時音が辿り着いた答えは、「目には目を、歯には歯を」の報復を行う代わりに、この悲劇の連鎖そのものを止めること。
 そしてその日から、それだけが時音の生きる目的となっていた。
 友の死が、何度も何度も繰り返し浮かぶのは――きっと、「この惨劇を終わらせてほしい」という、彼らの無言の訴えだから。





 だから、時音は戦った。
 戦って、戦って、戦い続けた。
 その身を焼かれ、抉られ、貫かれ――本来ならば何度も死んでいてもおかしくないほどの傷を負いながらも、それでも時音は戦い続けた。

 その間も、「死」はいつも彼の隣にあり、たびたび彼に手を差し伸べてきた。
 まるで、「もう休んでもいいんだ」と語りかけるかのように。

 それでも、時音がその手を握り返すことはなかった。
 恐れていたわけではない。
 憎んでいたわけでもない。
 むしろ、彼の命と引き替えに全て終わらせることができるのなら、彼は喜んでその命を投げ出しただろう。
 けれども、まだ何も終わっていなかった。まだやるべきことがあった。
 だから、彼はそれを無視し続けた。

 ただ、それだけだった。





 死すら拒絶して戦い続けた「戦士・時音」。
 その心のうちには、すでに「人間らしい望み」の類は何一つなく――今にして思えば、「ヒトとしての時音」は、すでに一度死んでいたのかもしれない。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 眩しさ故に 〜

 それが変わったのは――再び、歌姫と出会ってからだった。

「死人」となっていたはずの時音。
 思い出以外の全てを失い、他に何一つ持たなかったはずの時音。

 そんな彼を、彼女は愛してくれた。

 側にいてくれた。
 抱きしめてくれた。
 笑いかけてくれた。

 遠い昔に失ったはずの温もりを、彼女は当たり前のように時音にくれた。
 遠い昔に死んだはずの「ヒトとして」の時音を、彼女は再び甦らせてくれた。

 ――あの時、未来世界の牢獄で、最初に彼女に出会った時のように。

 優しくて、綺麗で、それでいてどこか儚げで。
 まるで桜のような彼女の存在は、時音にとっては奇跡だった。
 たった一度ではなく、繰り返される優しい奇跡。
 ほんの一時でも、血や鉄や絶望で染め上げられた深紅と黒の世界から、時音を救い出してくれたその優しい手。
 その一時が、時音にとってどれほど幸せであったことか。





 しかし。
 時音には、その幸せを素直に受け入れることはできなかった。

 今さら、ヒトに戻ることなどできなかった。
 そうすれば――きっと、これまでのようには戦い続けられなくなってしまう。
 それは、死んでいった皆に対する裏切りではないだろうか?
 そして、ここまで時音が殺してきた者たちの死をも、無駄にする行為ではないのだろうか?

 その後ろめたい気持ちが、時音の中にはいつもあった。





 そして、それ以上に。

 時音は怖かった。
 自分自身の呪われた運命に、彼女まで巻き込んでしまうことが。

 誰にでも、例え虐殺者にでも、彼らなりの「正義」はある。
 それを阻止するということは、当然その「正義」に、そしてそれと同じ「正義」を持つ者全てに立ち向かうことを意味する。
 だから時音は憎まれる。無数の憎悪や殺意を、その一身に浴びることになる。
 それがどんなに辛いことか、時音は身に染みてわかっていた。

 それでも、時音はそれに耐えられる。自分一人なら。
 けれども、そこに誰かを――大切な人を巻き込むかもしれないとなれば、それはまた別の問題だ。

 時音が彼女を受け入れれば――きっと、彼女をその辛く苦しい運命に巻き込んでしまう。
 それは彼女を苦しめることになり、そのことが自分自身の苦しみをますます深くする。
 そして――きっと、最後には彼女を殺すことになってしまう。

 そのことが、時音には怖かったのだ。





 そんなことは、彼女を素直に受け入れられない言い訳に過ぎない――そう言い切れたら、どんなによかったことか。

 時音は知っている。
 自分に関わった人間がどのように破滅してきたかを。
 時音は知っている。
 どんなに力のある者でも――あの姉でさえ、その運命から逃れられなかったことを。
 時音は知っている。
 どれほどの想いがあろうと、この地獄はそんなものを容易く飲み込んでしまうということを。





 だからこそ、時音は極力自分の想いを隠し続けていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 ふれあう想い 〜

 誰かの声が聞こえて、時音は意識を取り戻した。

 一人は歌姫。
 そして、もう一人は――訃時。

『なのに……貴女はそんな彼に夢を求める』

 声は聞こえても、意識は戻っても、身体は相変わらず動かなかった。
 それでも、二人の姿がはっきりと見えた――いや、あるいはそれすら幻だったのかもしれない。

 いずれにせよ、そんな彼の目の前で、訃時が歌姫に笑いかけた。

『それは……とてもとても残酷な事なのに』

 歌姫の愛と優しさ。
 それ故に時音が感じていた苦悩。
 そんなことは、全て訃時にはお見通しだったのだろう。
 それくらいのことは、時音だってとうにわかっていた。

 けれども。

 その直後に、時音が感じたのは――歌姫の、隠し続けていた想いだった。

 時音の苦悩も、何もかも、歌姫はすでにわかっていた。
 そして――それが、結局は時音を失うことにつながることを、彼女は何よりも恐れていた。

 苦しんでいたのは、悩んでいたのは、時音だけではなかったのだ。

 それでも彼女はそれを必死に隠してきた。
 それを知れば、きっと時音がますます悩み、苦しむだろうとわかっていたから。

 時音を想っていたからこそ、言わなかった。言えなかった。

 時音自身と同じくらい――あるいは、それ以上に辛かったはずなのに。





 気づいた時には、あれほど動かなかったはずの手が、ひとりでに動いていた。

 自分の想いを伝えることは、相手を苦しめることだと思っていた――お互いに。
 しかし、そのこと自体が、実はお互いをよりひどく苦しめていた。

(そうか……姉さんが告げなかったのは……何も言ってくれなかったのは……)

 おそらく、あの時もそうだったのだろう。
 結局、それには最後まで気づくことができなかった。

 けれども、今は違う。
 今なら――今度は、まだ間に合う。

「……幸せだよ……今だってそう」

 伸ばした手が、そっと歌姫の頬に触れる。
 その言葉に、微かに歌姫の手が震えた。

 今まで、お互いに伝えずにいたこと――その全てが、自然と言葉になってあふれ出る。

「……何人も何千人も殺した……大切な人の命まで。だから何も言う事なんか出来ないと思った。それが僕の罪と報い」

 人を愛する資格も、また愛される資格もないと思っていた。
 そんなものは、全て思い出の中に置いてきたと思っていた。

 それでも、そんな思い出の中から、彼女は再び時音の所へ戻ってきた。
 時音が置いてきてしまったはずの、大切な物を持って。

「でも……君だけは……君は……そんな僕に生きていてほしいといってくれた」

 他の誰も――時音自身すら、すでに望むことを止めてしまったこと。
 それを、彼女はその思いの全てを込めて願ってくれた。

「それは……違う、それだけじゃない。君の全部は僕をずっと……救ってくれていた」

 時音が復讐鬼へと堕ちそうになった時も。
 最後に残った友を、そして兄にも等しかった仲間を失った時も。
 過去の惨劇の記憶に苦しんだ時も。

 そして――今も。

 一つ一つの場面が、ありありと浮かび上がってくる。
 自然と目頭が熱くなり、言葉が途切れそうになる。

 この一言を言ったら、きっともう戻れない。

 けれども、時音は言葉を止めようとは思わなかった。

「……最初に牢獄で逢ったあの日から……心から……愛してる……」





 不意に、何か温かくて柔らかな感触があった。
 聞こえてきた鼓動の音から、時音は自分が歌姫に抱きしめられていることに気がつく。

 何も見えないけど。

 今は、その目の前の闇すら暖かく感じる。
 ――その向こう側に、彼女がいると知っているから。

 温かい雫が数滴、時音の頬に落ちてくる。
「やっと……言ってくれた」
 微かな、しかしはっきりとした声が、時音の耳に届く。

 時音の頬を濡らしているのは、彼女の涙か、それとも自分の涙なのか。
 もはやそれすら判然とはしなかったが、歌姫の想いだけははっきりと感じられた。

 今までで一番大きな喜びと――そして、それに勝るとも劣らない強い決意。

「……死なせない。その為なら私……」

 その声にまぎれて、懐中時計の鎖の音が微かに聞こえた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 キーワードは『法王☆幻魔拳』!? 〜

 一方その頃。

「……す、すげぇ……」
 金山武満は、目の前の事態がさらにとんでもない方向に進んでいくのを、半ば呆然と見守っていた。

「我輩! とうとう世界を征服したのであるぞぉ♪ 諦めないでヨカッタ♪」
 さっぱりワケのわからないことを口走りつつ、すっかり巨大化した「萌え魔王」こと海塚要(うみずか・かなめ)が、白目を剥いたまま怨念の海と怪獣大決戦を繰り広げている。
 胸元に何やら警報機のようなものがついていて、しばらくしたら点滅し始めそうだったり、なんだかあまり長時間はもたなさそうな気がしたりするのが気になると言えば気になるが、一人で無数の怨念を引き受けて戦う様はそれなりに頼もしいと言えなくもない。

 そんな大騒ぎを尻目に、水野想司(みずの・そうじ)は楽しそうに笑った。
「これでまずは倍は話が早く進むかなっ♪ 『私』の君が見やすくなったっ♪」
 銀の刃を構えた彼の視線の先には、想司の策略によって怨念のカーテンを奪われた訃時の「本体」が立っていた。
「まるで……玩具箱の様な人……」
 その顔に、楽しげな微笑みが浮かんだように見えた。

「……どうなる? どうなんのよこれ!?」
 いつの間にやらすっかりお茶の間の皆さんの代弁者と化してしまった武満の声に、答えるものは一人としていなかった――。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1219 / 風野・時音 / 男性 /  17 / 時空跳躍者
 1136 /  訃・時  / 女性 / 999 / 未来世界を崩壊させた魔
 0759 / 海塚・要  / 男性 / 999 / 魔王
 0424 / 水野・想司 / 男性 /  14 / 吸血鬼ハンター(埋葬騎士)

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。

・このノベルの構成について
 今回のノベルは、基本的に四つのパートで構成されています。
 今回は一つの話を追う都合上、全パートを全PCに納品させて頂きました。

・個別通信(海塚要様)
 今回はご参加ありがとうございました。
 今度はいきなり巨大化……何と言いますか、もうほとんど何でもありになってきているような気がしますが、こんな感じの描写でよろしかったでしょうか?
 もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。