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■シシュウ草を探して■ |
川岸満里亜 |
【2447】【ティナ】【無職】 |
ファムル・ディートの元弟子、ダラン・ローデスが魔術の勉強を始めて半年が経つ。
「やっぱ、修行の成果を見るには、実践だよなー。実際どれだけ使えるのかわかんねーし」
半年間の修行で、見える範囲の物に何らかの影響を及ぼすことが出来るようになっていた。ただ、その規模はごく僅かであり、実戦で役立つレベルではない。
「なあ、ファムル! 魔力を高める薬くれよ〜。それがあれば、俺様の魔術でどんな相手でも一撃必殺だろーし」
ダランはベッドに近付き、横になって本を読んでいるファムルを、両手で揺すった。
最近、ファムルはこうして読書で一日過ごすことが多い。
というのも、ついに材料も底を付いてしまったからだ。
客が来るか、ダランが器物破損でもしてくれなければ、収入を得ることができない。
「またバイトでもするか……」
ファムルは一人呟きながら、ページを捲る。
「おい、聞いてんのかよ!」
「聞いとらん」
ファムルにとっては、ここで修行を続けていてくれた方が都合がいいのだ。
早く成長して、魔術で家ごと吹き飛ばしてくれたら申し分ない。
乞損害賠償!
ああ、夢の新築ぅ〜。
しかし、ダラン次の言葉で、ファムルの妄想は吹き飛び、あっさり商談は成立することになる。
「んじゃ、相場の10倍払うからさ!」
「よし! それほど必要だというのなら仕方あるまいっ」
勢いよく本を閉じ、ファムルは飛び起きたのだった。
そのまま連れ立って研究室に向かい、ファムルは薬品棚から、小瓶をひとつ取り出してダランに渡した。
「魔力を高める薬の在庫はこの1回分で最後だ。効き目は直後のみってところだ」
「げげっ、それじゃ全然たんねーよ。作ってくれよ〜」
「材料がないんだから、仕方ないだろ」
「それじゃ、俺がその材料集めてくればいいんだろ」
「なるほど、それは良案だ」
ファムルは紙とペンを取ると、材料と採取のできる場所をメモし、ダランに手渡した。
「ええっと、店で買えないものもあるのか……シシュウ草?」
「1度に採取できるのは……お前1人じゃ、せいぜい1回分だろうな。聖都を離れる場合は、護衛を雇った方がいいぞ。一回分入手の為に、薬を1回分使っては本末転倒だろ」
「いいよ、それでも。修行の一環だ!」
こうしてダラン少年のシシュウ草採取の日々が始まったのだった。
探索場所リスト
1)噴水公園(発見率:極少 採取難易度:易)
2)レイル湖(発見率:少 採取難易度:普)
3)郊外の地下道(発見率:普 採取難易度:難)※前後編
4)底無しのヴォー沼(発見率:高 採取難易度:極難)※前後編
5)ファムルの診療所内
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『シシュウ草を探して〜降ってきた声〜(前編)』
「ちょっと暗いけど大丈夫だぜ〜。俺が守られてやるからな!」
「…………」
「それとも、こんな暗い道を選ぶなんて、他に目的あったり!?」
「…………」
「そうか、黙ってるってことは、やっぱりそうなんだ! 俺に興味が……あてっ!」
「……はなして」
振り払っても、振りほどいてもくっついてくるその物体を、ティナは壁にこすり付けて振り落とそうとする。
それでもしつこく、くっついているため、仕舞いには壁にガンガンぶつけることで、ようやく彼女は解放された。
「いてててっ、んだよー! 逸れたら大変だろ、くっついてた方がいいってば!」
再びティナに抱きつこうとする少年を、ダッシュでかわす。
どうしてこんな依頼を受けてしまったのか……。
人狐のティナは1人、ため息をついた。
このダラン・ローデスという少年と出会ったのはほんの数時間前だ。
なんでも、シシュウ草という変わった草を探しているらしく、道中の護衛を頼まれたのだ。
探索場所として候補に出ていた場所から、今回ティナとダランが選んだのは「郊外の地下道」であった。
……で、地下に入るなり背後からダランがぎゅっとティナに抱きついてきたのだ。
怖い〜、寒い〜。逸れないため〜。などと、色々理由をつけてはいるが、適当なこじつけだということがティナにでもわかる。
周囲の他に、ダランの動きにも注意しながら先へと進む。
「この先……」
地下に下りて数分歩いただろうか。分かれ道にたどり着く。
「えっと、この先はなー。……なんだっけ」
ダランが地図を取り出した。
「一番右は魔女の通路。中央は、くぼ地へ続く道。左は、元盗賊のアジトとして使われていたらしいぜ。あと、この他に試練の道ってのがあったみたいだ」
「どれ、行く?」
「中央!」
ダランは即答した。
「中央の道を抜けた窪地にシシュウ草が生えてるって話だし、今回はティナと二人っきりだから、無難に中央〜」
そういいながら、幼い子供のように中央の道に駆けてゆく。
僅かに、獣の臭いがする。
ティナは駆けてゆくダランを追い越して前に出る。どうみてもこの少年には戦闘能力はない。ならば、自分が護衛をせねばと……。
「ティナ、俺を守ってくれるのか〜! うれしーぜ〜!」
「!?」
飛びついてきたダランから慌てて飛びのく。
どうやら、身近な小獣にも注意しなければならないらしい。
通路は整備されており、歩きやすかった。
ただし、時折怪物の亡骸を目にすることがあり、その度に、ダランは震えながらティナの腕をぎゅっと掴んでくる。
「ち、ちゃんと始末も出来ないへっぽこ冒険者が多いみたいだな〜。俺様なら、骨まで焼き尽くしてやるってのに!」
でも、実行をしないあたり、実際は極炎魔法使えないのだろう。
ダランが強がったり震えている時には、ティナは手を振り解くことはしなかった。何故か、そうした方がいいのだと思えた。
「……来る」
「な、何が?」
ティナの聴覚が足音を捉えていた。
人間ではない。四足だ。
「で、でたー!!!」
ダランが背後から抱きついてくる。
「グルルルルルルルッ」
現れたのは、豹のような怪物であった。
「うわああああっ。あ、あっちに行け! 俺達なんか食っても旨くないぞー!!」
「ダラン、離れる。……ティナ戦う!」
怪物が飛び掛ってくる。
しかし、ダランはティナにしがみつき、離そうとしない。
怪物に限らず、この種の動物とは山で散々戦ってきた。
ティナは怪物の鋭いつめの一撃を体を捻ってかわした。
「うわっ」
バランスを崩したダランが尻餅をつき、ティナから離れる。
ティナはステップを踏み、怪物の注意を自分に引き付ける。
再び繰り出された怪物の腕を、ティナは自らの爪で裂く。同時に浮かび上がった上体の下に入り込み、喉元に牙を突き刺す。
「うわああああっ」
悲鳴を上げたのは、ダランだった。
絶命した怪物と、怪物の血で顔を赤く染めたティナの姿に、ダランは後退りをする。
「怪我、ないか?」
ティナの言葉に、ただ首を上下に動かすだけで、おびえているように見える。
都合がいいかもしれない。これで、彼も自分にくっついてくることはないだろう。
怪物の血を拭い去って、歩き出す。
ダランは、倒れた怪物の側を駆け足で通過し、ティナの後に続いた。
「な、なあなあ、怪物がいるってことはさ、この先のくぼ地にもあんなのがうようよしてんのかな?」
「多分。でも、心配ない」
これまで遭遇した獣からして、自分が暮している山の野生動物とそう変わりはないだろう。
「そ、そうだよな! 俺様がいれば、どんな怪物だって恐れをなして逃げていくさー」
寧ろ、ダランがいなければ、ティナの威嚇で多くの獣を退けることができそうなのだが。
どのくらい歩いただろうか。
この中央の通路には、所々に明りが点されており、また何度か分かれ道に差し掛かったが、進むべき道はティナの嗅覚で判断できたため、これまで大きな問題は起きていない。
体力のないダランが時折駄々をこねて休もうと言い出す為、ペースはのんびりであったが、怪物の状態や空気の匂いから、そろそろ目的地が近いことがわかる。
外は昼を少し回った頃だろうか……。
太陽の光が、射し込んでいる。
「おおっ、出口だ出口だ〜」
地下道の終点は上り階段になっていた。
ダランが疲れを忘れて走り出す。
彼が踊り場に差し掛かった時だった。
突如現れた黒い物体が、ダランの足下を駆け回る。
「わわっ!」
不完全に怪物化した昆虫だ。害はなさそうだ。
よろめいたダランに、ティナは駆け寄ろうとした……瞬間。
ガキッ!
地下道の中に、金属音が響いた。体の中には、鈍い音が木霊する。
続いて、激しい痛み。声も出ないほどの、激痛がティナを襲う。
「テ、ティナっ!」
駆け寄ってきたダランを襲うかのように、倒れこむ。
「あ、ああああっ」
「テ、ティナ、足……罠にっ!!」
歯を食いしばりながら、自分の足を見る。
……人間の罠だ。
人間が獣を仕留めるためにかけた罠に、かかってしまったのだ。
「まって、とってあげるから!」
金属がティナの足を挟みこんでいる。
「あっ、う……っ」
金属には刃が仕込まれており、足に食い込んでいるようだ。挟み込んでいる金属に触れるだけで、痛みが激増する。
それでも、これを外さなければ、ここから動くことさえできない。
ティナは手を伸ばし、ダランとともに、足を挟んでいる金属に手をかけるが、びくともしない。
「くそっ、他に外す手段は……あっ! ティナ、歯食いしばってちょっと我慢してろ」
外す方法を見つけたのかと、ティナはダランにいわれたとおり、歯を食いしばり目を瞑る。
ガキン!
次の瞬間、ティナは締め付けから開放された。それでも痛みがなくなったわけではない。
外れた金属をティナの足からダランが剥がす。ティナは傷ついた足首を両手で包み込む。
「お、折れてる……よな?」
ダランが心配そうにティナの足を見つめる。
「包帯、俺もってるぜ! で、でも治療の仕方とか知らないんだけど……」
「血、止める。ここ縛って」
「う、うん、わかった!」
ティナに言われたとおり、ダランはティナの足を縛った。
ティナは軽く足を、床についてみる。
「っ……」
ダメだ、激痛が走る。
「ティナ、帰ろう! お、俺、背負うのは無理だけど、肩貸すからさ」
ダランの言葉に少し迷った後、ティナは首を左右に振った。
この階段を上れば、目当ての草が手に入るのだ。
あとほんの少し、ほんの少しなのだ。
「じゃあさ、俺シシュウ草採ってくるから、ティナはここで待ってて!」
「ティナも行く。依頼、だから」
「いやいやいやいや。俺の依頼はここまでだぜ」
ダランはティナと最初に交わした契約書を取り出す。簡易的なものだが、一応約束として互いにサインをした書面だ。
「ほら、依頼の内容『郊外の地下道の護衛』だろ。地下より先は、俺の仕事だかんな!」
確かに、そういう契約だった。シシュウ草を採取するのはダランの役目ではあるのだが……。
「じゃ、急いで採ってくるから、ちょっとだけここで待っててくれよな!」
「あっ」
ティナがそれ以上言葉をかける間もなく、ダランは階段を駆け上って行った。
……1人になると、更に痛みが増してきた。
多分、これは怪物の侵入を食い止めるための罠の一つだろう。獣に反応するように作られていたのだ。
この世界には、獣人だって沢山存在しているのに……。
人間って、やっぱり酷い。
血は止まったが、足の腫れはじょじょに酷くなっていく。
立ち上がろうとして、激しい痛みに蹲る。
と、その時。
「うわっ」
小さいけれど、確かに聞こえた。
ダランの声だった。
怪物に遭遇したのかもしれない……。
でもそれなら、ここに逃げてきそうなものだ。
ダランは魔術師の見習いだと聞いている。まだ殆ど魔法は使えないそうだが、ファムルから魔力増幅薬を受け取っているので、いざという時にはそれを使って怪物を倒すことも、逃げることも出来るはずだ。
ティナの体がビクンと震えた。
血の臭いがする。
自分のものではない。
今までなかった臭いが……上から。
上から落ちてくる。
ティナは思わず立ち上がった。途端、痛みに襲われ、片足を上げた。
その傷ついた足の指に、こつんと何かが触れた。
「これ……」
身をかがめて拾い上げる。
瓶だった。
それが何かは、臭いでわかる。
ダランがファムルから受け取っていた薬瓶だ。
「あの、時」
罠を壊す時、ダランは薬を使ったのだろう。
ティナは上を見上げた。
契約は、地下道の護衛だった。
四つ這いになれば、地下道の入り口へは1人でも戻れるだろう。
だけど……。
上るのは無理だ。くぼ地での戦闘は尚。
無理をすれば、折れた足がより複雑に折れ、元に戻らなくなる可能性もある。
ダランはただ、転んだだけかもしれない。
あの臆病者の彼が逃げ戻ってこないのだから、無事だと考えていいはず……。
でも……。
ティナは痛みに耐えながら、ダランを待っていた。
出血をしたせいか、酷く寒かった――。
――To be continued――
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2447 / ティナ / 女性 / 16歳 / 無職】
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