■IF■
九十九 一 |
【1252】【海原・みなも】【女学生】 |
ここではないどこか
今の話かも知れないし
今ですらないかも知れない
こう選択していたら
あの時選んでいたら
似ている世界
全く違う世界
夢うつつ
平行世界
まほろば
それすなわち『もしも』の世界
「もしこうだったらとか考えた事ある?」
「……そうだな、ああ言う出会い方してなかったらどうなってたんだろうとか?」
「何で疑問系?」
「いや、そっちはどうなんだよ」
「そうね……」
少し考えてから。
「年齢が逆だったら面白かったのに」
「………それで喜ぶのはごく一部だろ」
「……あなたは?」
話しかけたのは別の相手、急に話を切り替えられ驚きはしたが。
「そうだな、人だったらとか……考える、もしくは俺と同じでも良い」
「人をワーウルフにする気か?」
「なんだって良いんだ、別に」
「私は、あの時から術が使えてたらはっきり言えたのかも何て思ったり」
それは、他愛のない会話。
「何の話をしてるんだ?」
顔を出した相手に、同じ問をかけてみる。
「………度去年の万年遅刻ライターが真面目に仕事してくれたらいいとは思いますよ」
「うわ、痛」
最後に、もう一つ。
「どんなもしもが見てみたい?」
問いかけられたのはあなた。
どう、答える?
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IF 〜新しい世界〜
世界の半分が神様だったのも。
世界の半分が巫女だったのも。
全てが決められていたのも……。
全部全部、昔の話。
あたしは目覚めたばかりの新しい世界で、神様と生きていく。
まっさらな世界。
長い間木になっていたからでしょうか?
外の姿に戻ってからは見る物全てが新鮮に感じられます。
文化や装飾、全てが私が知っている物と違っていましたから。
本当に多すぎて何から話そうか迷ってしまいそうな程です。
ですから順を追って少しずつ、身の回りで起きた事を話させて貰いますね。
どうか笑わずに聞いていてください、あたしにとっては何よりも大切な日常ですから。
目覚めたあたしに神様は色々な所を見せてくれました。
一箇所に立っていただけでは見ることの出来なかった世界。
離れた土地では既に街が出来ていました。
海沿いにある赤い煉瓦で出来た道と、白い壁で出来た町並み。
あたしが知っているよりもずっとささやかではありましたが、今まで見た誰よりも自由で生き生きとしています。
全てが決まっていた世界では考えられないほどに幸せそうでした。
神様と色々なところを見て歩きながらふと立ち寄ってみたのは、親子連れの露天商でした。
「これ、かわいいですね」
「本当? ありがとう、お姉さん。初めて作ったんだ」
「そうなの? 凄く素敵です」
親の隣で小さな女の子が一人、お父さんのまねをして小さなお店を開いています。
売り物は細い糸と細かい宝石を寄せ集めて作った装飾品。
「うれしい、一つあげるね。お父さんにはまだ売るのは早いっていわれてるから」
「えっ、いいの?」
「うん、ほめてくれたから。きっともっとがんばれる」
嬉しそう笑って、小さな手で腕に通してくれました。
まだ初めて間もない飾りはちぐはぐな形をしていましたけれど、とてもかわいらしいです。
「ありがとう、大事にするね」
「もっとうまく作れるようになったら、また来てね」
「楽しみにしてます」
「良かったね、みなも」
「はい」
手を振り別れると、あたしを来るのを待っていた神様が隣に並んで歩き出しました。
その反面、新しい世界にも闇と言える部分は存在します。
地震や洪水、日照りによる天災。
人と人同士の争い。
前の世界が滅びた時のように簡単に人が死んでいきました。
予測の付かない出来事は、あまりにもどかしくて辛い出来事でした。
「何が起きるか解らないから良いんだよ」
あたしもそう思います。
まだ目覚めて間もないけれど、明日がどうなるか解らない日々をとても大切そうに生きていましたから。
けれど決まりと規則よりも、人の感情が優先される世界では絶え間なく争いがおこりもします。
争う理由すら知らない人が犠牲になったのには目を背けたくて堪りません。
当の本人である人達もそう思い、願っていたようで……僅かに残された過去の遺物から神様の姿を想像し寄せ集め、祈りを捧げるようになりました。
それに答えるように眠っていなかった、あるいは目覚めた神様の中には沢山の人の願いを人の側で叶えている人もいます。
けれど加護を受けているのは本当に少数で、神様が居ないところの方が大多数です。
今通った街もそう。
後どれくらいかは解りませんが、なにか人の手では防ぎようのない事が起こるのだと知っていました。
神様ほどはっきりは解りませんが、巫女であるからこそ解ってしまったことです。
何らかの理由でこの街が滅ぶのはあたしにとっては変えることの出来ない現実でした。
けれど……。
「……神様」
「ダメだよ、みなも。ボクは見守るだけってきめたんだ」
あたしが何かを言うより早く、人差し指をピンと立てはっきりと言い切られてしまいました。
目覚めて少ししてから神様の方から言い出したことです。
更に話を聞くと決まりはない世界だけれど、自由になった世界ではあまり人に特別な力を使わない方が良いとの事でした。
確かに前の世界のように、容易く力を使ってしまえば人はそれに慣れてしまいます。
困ったことがあっても助かるのだと思わせてはいけない。
たくさんの神様達が眠ってしまった世界では、人はもう人が持っている力でしか生きて行かなければならないのだからと。
「そう、ですね……」
「助けてあげようなんて思ってる?」
「あたしは……」
出来ることなら助けたいです。
隣にいる神様ならそれが出来ます。
指先一つで争いを無くし、突如として起こる天災を沈めることも出来ると知っていました。
けれどそれは神様の力であってあたしの力ではありません。
お願いすれば、気が向いた時にしてくれるかも知れませんけれど……違う気がします。
神様の力でお側に居る事が出来たとしても、あたしは神様ではないのですから。
「そんなに真剣に悩まなくっても。まあ、みなもらしいけどね」
くすくすと笑う神様。
今の神様は、あれほど強かった力をあたしを長生きさせる為に使っています。
もちろん神様の楽しみのためにも使ってはいましたが、それとはまた別の話です。
今も昔と変わらずに、神様は私の祈りだけで力を補っていました。
「……はい」
うまく笑えなかったせいかもしれません、神様が立ち止まり後ろを振り返ります。
ほんの少し人の居る方を見てから、あたしの方に顔を上げて口の端を持ち上げ、それはそれは楽しそうに笑いました。
うまく言えませんけれど、実に慣れ親しんできた何かを思いついたときの笑み。
ただ一つ解っていることは、神様が楽しんでいるという事。
「みなもらしいけれど、たまには素直にならないとね」
「は、はい」
「お願いがあるなら、ちゃんと口に出していわないと。みなもの願い事を叶えるのはイヤじゃないしね」
「はい……」
これから何が起きるのでしょう。
どうか無理難題ではありませんように。
胸の前当たりで手を組んでみましたけれど、祈りを捧げるようなその仕草はあまりにも滑稽でした。
どうしたって、あたしの全ては神様の言葉によって決められるのですから。
「さあ、いってごらん」
願い事、それだけは決まっています。
先を促され、どうか意地悪なことにならないようと思いつつ答えを返しました。
「どうか、少しだけ……力を貸してください」
「ん、もっと詳しく」
「あの子を、あの子のお父さんを……あの街を助けてあげてください」
言葉が増える度に大きくなっていく願い事は、まぎれもない真実でした。
確かにあたしの力によって出来ることではありませんでしたが、神様ならそれが出来ます。
言葉を交わしてしまった子があの場所にいるのに、滅ぶことを知っているのに、助ける方法をがこんなにも近くにあるのに……。
何一つ放っておく事なんて出来ません。
「ホント、わがままだねぇ、みなもは」
「ご、ごめんなさい」
「みなもらしいよ」
楽しそうに笑ってクイと手を引っ張り、街が全て見渡せる程に高い位置へと連れて行かれました。
下を見ると眩暈がしそうな程の高さは、そこに居るだけで手や頬が冷たく冷えていきます。
傾きかけた体を神様がしっかりと抱きしめてはくれましたけれど、強い風が吹き乱れた髪が目を覆い視界を悪くもしました。
「神様……っ」
「そうそう、何が起きるかは解った?」
指を鳴らす音が耳に届くと全身が温かく包まれます。
淡い光は神様の加護のおかげだと聞かずとも解りました。
「いいえ、はっきりとは……ありがとうございます神様」
ホッと息を付くと神様が街の側にある海の方を指さしました。
下からでは解りませんでしたが、ここから見る空はとても不安定で恐ろしい物でした。
「どういたしまして。これから嵐になって、みんな沈んじゃうんだ」
「………」
神様の背中越しに見せられた光景はあまりにもあっけない終わりの前兆。
事前には何一つ知ることなく、気付いたときにはもう逃げる事なんて出来ないのです。
災害を人ならざる力で回避することは良い物か迷っていたとしても、今ならまだ間に合います。
変えることが出来るのです。
「じゃあ少しでも悩まなくてもすむように、みなもにやらせてあげる」
「……えっ」
「大丈夫、ボクも手伝うから。でもメインで動くのはみなもだからね」
「えっ、ええっ……っ!?」
やっぱり普通の方法では済まないようです。
何かと聞くより早く口笛を吹くと背中がざわりと動き出しました。
皮膚の上を手で撫でられるような感覚は気のせいではありません。
「風を操って、雲を散らせばいいんだよ、簡単でしょ」
「あっ、あああ………!」
説明される間も肌の下から何かが動き、外へ広がっていこうとしています。
柔らかく皮膚を押し広げ、服を突き破り大きく育っていく何か。
「うん、きれいきれい」
「いっ……ひゃぁ!?」
私の視線では見えない物を神様は容易く見ることが出来ます。
今までは存在しなかった物が、新しい体の一部として作られていくのを感じました。
形もわからないものが神経を通しあたしの体になっていきます。
ばさりと羽ばたくそれは、真っ白な翼。
「かみさ、まっ……これは?」
動かし方もろくに解らないのに、果たして必要だったのでしょうか?
鳥は生まれ持った本能で飛び方を知っているといいますけれど、あたしは鳥ではないのです。
もしここで手を離されでもしたら、下に落ちるまで飛べる事なんて到底出来そうにありません。
「何事もまず形からってね」
「それは……」
「似合ってるし良いでしょ」
ああ……そんなにも楽しそうに微笑まれては、何も言えなくなってしまいます。
つまりは遊びたかっただけなのだと改めて気付きました。
「これで、雲を払えば良いんですよね」
「うん、みなもがボクに祈るように集中して、雲にどこかに行って欲しいと願えばいいよ。翼とか動かしながら」
「……はい」
最後の一言、翼の部分が後から付け加えたのは気のせいでしょうか?
出来るだけ気にしないようにしながら、雲を見て意識を集中させます。
「そうそう、細かいことは気にしない。翼もしっかり動かしてね」
どちらも初めてのことでしたから、それを一度にするのは大変そうでした。
けれど人の命がかかっていますから、いわれた通りにやってみます。
「………っ、ん」
背中から生える翼と、目の前の雲。
動けと飛んでいってください、どちらにも意識を集中します。
上手く行っているのでしょうか?
羽ばたく音が聞こえる度に翼の付け根がちりちりと痛みました。
同時に大きな力の流れを感じましたが、どうなっているかはまったく解りません。
ただただ力に翻弄されてしまいます。
「だいじょうぶ」
「……はい」
ポンポンとあやすように背中を叩かれ、いつの間にか目を閉じていたのだと知りました。
「ほら」
「………あ」
固く閉じていた目を開くと目の前には真っ青な空と海。
まだ実感は沸きませんが、上手く行ったようです。
「おつかれさま、みなも」
「……ありがとうございます、神様」
心地よい疲労感。
背中に回した手に力を込め、ゆっくりと目を閉じました。
このまま眠ってしまうのは……どう頑張っても止められそうにありません。
「おやすみ、みなも」
「おやすみなさ、い……」
眠るのを見届けて貰えるなんて、いつもとは逆の立場のようだと思いつつ心地よい睡魔に身をゆだねてしまいました。
夢を見ました。
何年か後。
再び女の子と出会い、露天商に広げられた物を見せてもらっています。
約束通りにもっと上手に作れるようになったアクセサリーを、どれが似合うかおしゃべりしながら選んでいました。
それはとても楽しいくて幸せな光景。
これから訪れるだろう未来の話。
本当か解るのは、まだ先ですけれど……。
いずれ訪れるその時を、あたしは楽しみに待つことにしました。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1252/海原・みなも/女性/13/中学生】
→もしも、全人口の半分が神様だったら?
そして、残り半分がその神様に仕える巫女だったら?
新しい世界になった、その後の話。
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■ ライター通信 ■
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※注 パラレル設定です。
本編とは関係ありません。
くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
こういう事があったなんて思わないようお願いします。
発注ありがとうございます。
今回は一人称にしてみましたが、楽しんでいただけたら幸いです。
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