■おそらくはそれさえも平凡な日々■
西東慶三 |
【1136】【訃・時】【未来世界を崩壊させた魔】 |
個性豊かすぎる教員と学生、異様なほど多くの組織が存在するクラブ活動、
そして、「自由な校風」の一言でそれらをほぼ野放しにしている学長・東郷十三郎。
この状況で、何事も起きない日などあるはずがない。
多少のトラブルや心霊現象は、すでにここでは日常茶飯事と化していた。
それらの騒動に学外の人間が巻き込まれることも、実は決して珍しいことではない。
この物語も、東郷大学ではほんの些細な日常の一コマに過ぎないのである……。
−−−−−
ライターより
・シチュエーションノベルに近い形となりますので、以下のことにご注意下さい。
*シナリオ傾向はプレイングによって変動します。
*ノベルは基本的にPC別となります。
他のPCとご一緒に参加される場合は必ずその旨を明記して下さい。
*プレイングには結果まで書いて下さっても構いませんし、
結果はこちらに任せていただいても結構です。
*これはあくまでゲームノベルですので、プレイングの内容によっては
プレイングの一部がノベルに反映されない場合がございます。
あらかじめご了承下さい。
|
二つの願い
〜 少女の想い 〜
話は約五分ほど前に遡る。
「ぢゃ切り札……そろそろ逝ってみよっか☆」
水野想司(みずの・そうじ)の発したその言葉に、金山武満は思わず息を呑んだ。
想司の理不尽なまでの強さやムチャクチャさを、武満はよく知っている――というより、思い知らされている。
その想司が、この無数の怨念に囲まれた状態で、はたしてどんな「切り札」を出してくるのか。
その詳細については、とても彼の想像力の及ぶところではなかったが――これまでの彼の「活躍」を考えれば、あっと驚くような手段で戦況を変えてしまうことも十二分にあり得るように思われた。
が。
「いいえ」
不意に耳元から聞こえた声が、すぐにそれを否定した。
「『私と私達』を殺し尽くすには消去力か歌……その二つしかない。
……もしもそれ以外の方法があったなら……時空跳躍者などという存在が生まれ、過去に戻ってくる必要など無かったのだから」
なるほど、言われてみればその通り――などと、納得している場合ではない。
「い、いつの間にっ!?」
その声の主が訃時(ふ・どき)であることに気づき、慌てて長衣を持って後退する武満。
怨念に対しては一定の効果を発揮する異常結界排除装置も、さすがに訃時の本体の行動を制限できるほどの力はないらしい。
そんな武満を追いかけるでもなく、彼女はこう続ける。
「……此処で貴方達が戦う必要は無い。
だから……もう一度だけ好機をあげる。
そこで倒れている魔王さんも連れて此処から帰って。今すぐに」
その様子に、武満は微かな違和感を覚えた。
それはあくまでただの錯覚かもしれない。
はっきりしたことを言うには、彼はあまりにも訃時について知らなさすぎるかもしれない。
それでも。
今目の前に立っているのは、おぞましいほどの美しさを秘めた、訃時という「バケモノ」ではなく。
――自分の気持ちを押し殺し続けてきた、一人の哀しい少女のように思えてならなかった。
そんな彼の動揺には全く気づかぬ様子で、訃時はさらに言葉を続ける。
「今回の事件があってもIO2は残る。異能者を玩具としか見なさない者達も。
複数の国家に跨り法の束縛も受けず……異能者を正義の名の下に貪りつくす組織。
そんな組織を誕生させる下地と大義を彼らに与えた……虚無の境界」
「頭」の潰れた組織がそのまま瓦解するかというと、必ずしもそうではない。
むしろ、生き残ったIO2の地方支部は、今回の事件を機にさらに先鋭化することも考えられる。
そして、いずれに転んだにしても、IO2の弱体化自体は避けようがない。
その機に乗じて、虚無の境界が立て直してくる可能性も十二分にあるだろう。
「そんな世界だからこそ……貴方達みたいな人達が生きていなきゃいけない。
二人が消えて、草間さん達が殺され、東郷も消えたなら……今度こそ何も無い。
貴方達が守るべき場所へ……帰って」
確かに、その言葉には十分な説得力がある。
けれど。
これは――誰の言葉なのだろう?
その疑問に答えるかのように、訃時は――いや、少女はこう言った。
「何も救えなかった……。
……大事な人を……こんな事にしてしまった、『私』と同じに……ならないで」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 奇跡の予感 〜
次に口を開いたのは、想司だった。
だが、彼の口から出たのも、また彼の言葉ではなく。
「その災厄は誰にも消すことはできません。しかし一つだけ災厄を葬る方法がありました」
まるで昔話か何かを語るように、想司は言葉を繋いでいく。
「『一人』を生贄とすれば良いのです。
彼には何もありません。いえ、昔は持っておりました。
けれど今はもう思い出だけしか持っていないのです」
しかし、それは、ただの昔話ではなく。
哀しげな目で見つめる少女の前で、想司は微かな笑みを浮かべて話を締めくくる。
「『さて……貴方は彼を殺さないでいられましょうか?』」
……消去力の伝承だったかな?
確かに、時音君を殺すのが手早い事なのだけれど♪」
ここまでくれば、いかに鈍感な武満と言えども、彼が何を言いたいのかの想像はつく。
災厄というのは、訃時のことで。
そして、生贄にされる「彼」とは――風野時音(かぜの・ときね)のことであろう。
だとすれば。
時音を死なせることで、この事態は収束する。
けれども、それは必ずしも望ましい結果ではない。
少なくとも、この場にいる者たちにとっては。
その思いに答えるかのように、想司は一拍おいてからこう言い放った。
「だが! 断るっ☆」
その言葉に、少女が微かに驚いたような表情を浮かべる。
「オルレアンのあの子の時に消去力には復讐を誓っているというのはあるけれど♪」
想司は独り言のように一言そう呟くと――その言葉の意味するところがわかった者が、はたしてこの場にどれだけいたかは不明だが――少女の目を見てこう続けた。
「……でもね?
それをしたら……『私の君』の夢が全部全部消えてしまう」
彼女に残された、最後の夢。
それは――きっと、時音のこと。
「だって……彼は彼女に告白できたよ。
更には彼女は君の唯一の誤算……その打開方法に気付いたみたい」
喜びと、寂しさと、期待と、不安と。
その他諸々の感情が複雑に入り交じったような表情で、少女は次の言葉を待つ。
そんな彼女に、想司は小さく、しかしはっきりとこう告げた。
「つまり……君の願いは叶えられる」
驚きと、嬉しさと、疑いと、希望と。
それら全てが、少女の動きを止める。
彼女の唇が微かに動くが、そこから発せられるべき言葉は、なぜか出てこない。
「私」ではない「私達」がそれを止めているのか――あるいは、その思いが複雑すぎるが故に、言うべき言葉が見つからないのか。
その全ての停滞を押し流すかのように、いつもの調子に戻った想司がビシッとポーズを決めた。
「何よりも……このマジカル☆ソージーっ♪
ご近所の皆様に愛と正義を押売りするが天命!
不可能という事象は覆す事こそ生き様っ!
故にご近所の皆様が阿鼻叫喚に陥ろうとも♪ 退くわけにはいかないのさっ☆」
きっぱりとそう言いきると、想司は一度指を鳴らす。
その合図とともに――倒れていたはずの魔王・海塚要(うみずか・かなめ)が起きあがり、何の脈絡もなく突然巨大化したのだった。
本来ならばここで説明キャラの解説が入るはずなのだが、生憎現場には「驚き要員」の武満しかいないため、地の文で説明すると。
想司の切り札こと「法王☆幻魔拳」とは、対象の潜在能力を寝ている間だけ――まあ、額にナイフをぶっ刺して昏倒させるのを「寝ている」と呼んでいいかどうかははなはだ疑問だが、意識を失っているケースも含めた、かなーり広い意味での「寝ている」間と解釈すればどうにかなるような気がしないこともない、というか、便宜上そういうことにしておく――無理矢理開花させるという超大技なのである。
ちなみに、最後に指を鳴らしたのはあくまでただの合図であり、「法王☆幻魔拳」自体は、想司が要にナイフを投げつけた時点ですでに仕掛けられていたことは言うまでもない。
「な、なんだってー!?」
はい、驚き要員お仕事ご苦労。
とまあ、それはさておき。
「ぬはははは! 萌え探求の幾星霜!
江戸城よ! 我輩は帰ってきた!」
いきなり妙なことを叫びつつ、その場に溢れる怨念を蹴散らし始める要。
そもそも、ここはアメリカ某所にあるIO2の本部であって、江戸城なんか全然関係ないはずなのだが、まあその辺りはツッコむだけ野暮というものであろう。
ともあれ、そんな大騒ぎをバックに、想司はもう一度彼女に笑いかけた。
「まるで……玩具箱の様な人……」
少女の顔にも、微かな笑顔が浮かぶ。
そして、その瞳には一滴の涙が。
それをそっと拭って、彼女は最後に一言こう言った。
「でも……ありがとう」
その次の瞬間には、すでに「私」の少女は、そこにはおらず。
ただ、「私達」の訃時がいるだけだった。
ほとんど移動要塞か巨大人型兵器かといった様子の要が、怨念の海を蹴散らしつつ、ついでにIO2本部の建物まで破壊していく。
それに合わせて、想司たちの戦いの場も、建物の外へと移っていったのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 運命の動く時 〜
一方その頃。
「……死なせない。その為なら私……」
歌姫のその言葉に、時音は慌ててこう言った。
「まさか……君一人で!? ダメだ! 絶対……」
初めて、生きたいと思った。死にたくないと思った。
けれども、歌姫を失うことは、それよりも遙かに恐ろしかった。
だから、精一杯の声で止めようとしたけれど。
その声は、自分でも呆れるくらいに弱く。
引き止めようとしてはみたけれど。
ほとんど、身体に力は入らず。
ただ、もどかしくて、情けなくて。
その想いを、不意に感じた温もりが断ち切る。
――まだ動いちゃダメ。
少し遅れて、抱きしめられたことに気づく。
こんなにも側にいる。その事実が、時音を少し落ち着かせる。
――大丈夫。貴方の思ったこととは違うから。
彼女の鼓動が、先ほどよりも強く聞こえて。
恐怖は消えて、かわりに少し気恥ずかしくなった。
見えないけれど。
そんな彼の様子に、歌姫が少し微笑んだような気がした。
――思ったことがあるの。あの光の色、そしてこの懐中時計。
時音の白。
歌姫の桜色。
そして、訃時の紅。
――今からするのは……貴方を悲しませてしまう事。
その言葉から感じられるのは、少しの辛さと、悲しみと――そして、強い決意。
――でも……これは私の願い。
歌姫の手が、時音の胸にそっと触れる。
これで、全ての不安が消えたわけではないけれど。
――だから……私を……信じて。
彼女にそう言われたら――信じるより他にない。そう思えた。
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1136 / 訃・時 / 女性 / 999 / 未来世界を崩壊させた魔
0424 / 水野・想司 / 男性 / 14 / 吸血鬼ハンター(埋葬騎士)
0759 / 海塚・要 / 男性 / 999 / 魔王
1219 / 風野・時音 / 男性 / 17 / 時空跳躍者
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
撓場秀武です。
この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
・このノベルの構成について
今回のノベルは、基本的に三つのパートで構成されています。
今回は一つの話を追う都合上、全パートを全PCに納品させて頂きました。
・個別通信(訃時様)
今回はご参加ありがとうございました。
今回は「訃時さん」ではない感じの描写が多かったので、その部分に関してはあえて名前を出さない感じにしてみましたが、こんな感じでよろしかったでしょうか?
もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
|
|