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■ワンダフル・ライフ〜特別じゃない一日■

瀬戸太一
【4984】【クラウレス・フィアート】【「生業」奇術師 「本業」暗黒騎士】
 お日様は機嫌が良いし、風向きは上々。

こんな日は、何か良いことが起きそうな気がするの。


ねえ、あなたもそう思わない?


ワンダフル・ライフ〜人を呪わば?〜







「…というわけなのでち」
 語り終わったクラウレスは、ほぅと一息つき、両手で支えている紅茶のカップに目を落とす。
その彼の真正面の椅子に腰掛けている私は、うんうんと頷きながら彼の言葉を肯定する。
「そうよねー、良く考えれば不公平よね」
「よくかんがえなくても、ふこうへいでち!」
 クラウレスはぺちん、と小さい手でテーブルを叩き、大きな声で叫ぶ。
金色サラサラの長い髪に幼く可愛らしい顔、そして少し高い舌ったらずな言葉で意気込むものだから、迫力は全く感じられない。
…とはいえ、彼が憤慨していることは伝わるので、私はどうどう、と宥めるように笑いかけた。
「クラウレスさんの仰ることは分かるわよ。用はクラウレスさんだけがアレをしたってのが気に入らないのよね」
「そうでち。かれもするべきだとおもうのでち。ひとにたよってばかりじゃだめなのでちよ、また、おんなじことがあるかもでちゅち」
「そう言われればそうよねえ」
 うーん、と私は頬に手を当てて考え込む。…確かに事情を知っている私とすれば、クラウレスさんが憤慨する気持ちも分かるし、納得も出来る

。…けど。
「でもね、アレはやっぱり、似合ってる人がするほうが…」
「にあってるとかゆーもんだいじゃないのでち!」
 要らないことを口出しして、またもやテーブルをぺちんと叩かれてしまった。失言失言。
「ともかく、かれもするべきでちよ。…それにはるーりぃしゃんのきょうりょくがひつようなのでち」
「…私?」
 唐突に指を指され、きょとんと目をぱちくりする私。即座にクラウレスからの鋭い視線が飛んだ。今まで全く他人事だと思って相槌を打っていた

ことがバレてしまったようだ。
 …仕方ないわねえ。こういうことに協力するのは吝かじゃあないけど…。
「そうね。元はといえばうちの店が原因の事件だったし」
「…! きょうりょくちてくれるでちか」
 クラウレスの言葉に、私はにっこり頷いた。
「ええ。手を貸してあげてもいいわ」
 その言葉を聞き、クラウレスは諸手を挙げてひゃっほうと喜ぶ。
その様を見つめながら、私は心中である計画を立てていた。…無論、目の前のクラウレスには決して悟られないように…。














 数日後。

約束どおり再来したクラウレスに私、それから新しくリースも加えた三人は、店の中でこそこそと話し合っていた。
「りーすしゃんもきょうりょくちてくれるでちか、ありがたいでち」
「まあねー、こんな楽しそうなこと、見逃す筈がないじゃない?
それはそうと、大したこと思いつくわね、クラウレスちゃん。まさかアイツにアレさせようだなんて…」
「たまにはわたちとおなじものをあじわってもらわなくちゃ、でち。わたちのおもいつきでなく、しぜんのせつりなのでちよ」
 そうこそこそ囁き合って、ニヤリと笑う二人。当の私から見ても、限りなく怪しい。
「それで、るーりぃしゃん? かんじんのけいかくは、どうなってまちゅか」
「そうそう。あのね、あれをこうしてああしてぺらぺ〜ら…」
 私の説明を聞き終わると、クラウレスはうんうん、と満足げに頷いて、親指を立てた。
「ぐっじょぶでち、るーりぃしゃん、りーすしゃん。かんぺきでちね」
「ふふ。アイツのお昼ごはんに軽い睡眠薬を混ぜておいたからね。今頃はぐっすりお昼寝中よ」
「ぬかりはないでちね…!」
 そうして、三人でくっくっく、と笑いあう。
…私は別の意味で笑いがこみ上げてきそうになって、寸前でセーブした。
いけないいけない、アレのことはリースにもまだ知られてないんだもの。
クラウレスさんに悟られたら、全て終わってしまうわ…!






 ぎしっ ぎしっ。
ゆっくりと板鳴りを響かせながら、階段を上っていく私たち。
先導しているのは私。私の後ろには、秘密道具その1を片手に握るクラウレス、しんがりは秘密道具その2を構えるリース。
向かうは廊下の向こう、”彼”の私室。
 廊下に立ち、きょろきょろと辺りをうかがってから、音を立てないように気をつけて進む。
この家の廊下は年季が入ってるから、少しでも気を抜くと鳴ってしまうのだ。
抜き足差し足忍び足、で彼の部屋の前に辿り着く。無論、ノックなんてしない。
ドアのノブを握り、ゆっくりと開け、素早く身体を滑り込ませる。
三人ともが部屋の中へ無事侵入できたことを確かめると、私は二人に親指をくいっと向けて合図を出した。
二人、クラウレスとリースは私の親指が指した方向に目を向け、ゆっくりと忍び寄る。
部屋の隅で丸まっている”それ”は、二人の気配にまるで気づくことなく、すうすうと寝息を立てていた。
「いい? 1,2の3でいくわよ」
「らじゃーでち」
 小さな声で二人はそう囁き合い、がばっ!と”それ”に飛び掛った。



 そして数十分の格闘のあと。
二人は達成感に満ちた笑顔で額に浮かんだ汗を拭っていた。
「うまくいきまちたでち! やっぱりこういうのはふいうちにかぎるでちよ」
「ほほほ、全くだわ! ざまあないわね、銀埜」
 二人はひとしきり自分たちの功績に浸ったあと、揃って手を腰にあて、悪の幹部宜しく、床に横たわる”彼”に嗜虐に満ちた視線を送った。
”彼”は床の上でもぞもぞしながら、怒っていいのか呆れていいのか分からない、そんな複雑な表情を浮かべていた。
「あの…これは……。そういう趣味をお持ちだったんですか?」
 そんな彼の言葉に、クラウレスは一瞬むっとする。上手く彼に自分の意思が伝わっていないからか、それとも自分の趣味を誤解されたからか。
 だが彼―…銀埜の戸惑いも最もだ、と私は思う。
気持ちよく犬の姿で昼寝をしていたところを唐突に羽交い絞めにされたかと思うと、あれよあれよという間に特別製のロープで手足を縛られ、床

に転がされている現状。咄嗟に人間の姿に戻ってしまったので、尚更怪しい格好になってしまっている。
 また何か変な遊びが始まったのか、と呆れた顔を見せた彼は、二人の背後に私を見つけ、眉をぴくりと動かした。
「…ルーリィ。あなたの差し金ですか?」
「いいええ、違うわよ」
 私は反射的にぶんぶんっと首を振る。ここで彼の恨みを買っちゃたまらないわ。
何せ今回の目的は、ただ銀埜を緊縛することじゃないもの。
「私じゃなくって、今回の事を仕組んだのは、彼よ」
 私はニッコリ笑って、クラウレスを指差した。クラウレスは、へっ?と驚いた顔をしている。
「ね? クラウレスさんから話を持ちかけてくれたのよね?」
「ま、まあ…そういわれればそうでちが」
「ほぅ…。クラウレスさんが、ですが。何を企んでるのかは知りませんが…ご覚悟はしてらっしゃるのでしょうね?」
 少し事態を把握したのか、銀埜は野生に戻った目つきになって、きゅうっと鋭くクラウレスを睨む。
クラウレスは思わずうっと怯むが、すぐに立ち直り、
「ふふ…そんなたいどをちてられるのも、いまのうちでちよ! ぎんやしゃんには、わたちとおなじおもいをちてもらうのでち!」
「…はぁ?」
 銀埜は思わず眉間に皺を寄せる。
「どういうことですか?」
「まっ、つまりあれよ。この前の家族の仲建て直し事件覚えてる?」
 そんな二人の間にリースが割って入り、銀埜にそう尋ねた。銀埜はああ、と頷き、
「あの少女の件ですか。それがなにか?」
「あのとき、わたちはじょそうされられたでち。でもはなちをもちかけてきたぎんやしゃんはしなかったでち!」
「…はい? でもあれは、私は犬の姿で彼女と面識があったから―…」
「もんどうむようでち! ぎんやしゃんもするべきなのでち!」
 クラウレスはそう言い放ち、じゃきん、と手の中の秘密道具その1を構えた。それを見て、ゲッと唸る銀埜。
ちなみに秘密道具その1とは、何の変哲も無い注射器である。
でもその中にたっぷり入っている液体はピンク色で、怪しいことこの上ない。
「ちょっ、何を考えてるんですかあなたは!」
「しぜんのせつりなのでちよ!」
 ふっふっふ、と注射器を構えるクラウレス。暴れだした銀埜の身体をリースが押さえる。
「ちょっとちくっとちまちゅけど、おとなちくしてくだちゃいね〜」
「こらぁ―――っ!!」
 クラウレスの身体越しに銀埜の断末魔が聞こえ―…私はそっと合掌した。












「…ふぅ」
 麗らかな午後。窓から入る陽は温かく、春の訪れを感じさせてくれる。
先程の悪の科学者っぷりなど無かったかのように、クラウレスは優雅な仕草で紅茶を口元に運ぶ。
「…あと2分ってところかしら」
「いがいとはやいでちねー」
「そうでもないわよ。もう30分ぐらい経ってるもの」
「そうでちか。おちゃちてると、じかんをわすれちゃいまちゅ」
 …ああ、何てのんびりしたティータイム。
銀埜に打ったあの薬品が効果を表すまで、30分。肉体改造の薬は、効き目が現れるまで長いのだ。
「…どんなのになってるでちかねー」
「そればっかりは見てみないと分からないわねえ。あの服、着てくれるかしら」
 肉体が変貌したあと、さすがに着るものがないと辛いだろうから、と、銀埜の部屋に可愛らしい衣装を置いてきてある。
実を言うとリネアの服だったりするのだが、当のリネアには秘密。ああ良かった、あの子が遊びに出かけてて。
 リースのそんな呟きに、クラウレスはぐっと拳を握って熱い目で言った。
「だいじょうぶでちゅ。わたちはぎんやしゃんをしんじてまちゅから…!」
 …そういう風に信じられても迷惑だと思うわよ、クラウレスさん…。

 そうして、更に2,3分。あまりの動きの無さに、このままただのお茶会で終わってしまうのか―…と思われたそのとき。
 ぎしっ、ぎしっ…という、まるでホラー映画を思わせるような床鳴りが響き始めた。
その音を敏感に察知し、私たち三人はがたっと椅子を立つ。
胸を高めかせながら、カーテンの向こうをジッと見守る。…やがて、カーキ色のカーテンがひらりと舞い―…
「…これで満足ですか? 緊縛趣味の方々」
 嫌味のたっぷり篭った台詞と共に、一人の少女が姿を現した。
髪は肩までの銀髪、華奢な背格好はクラウレスとほぼ変わらない程度に幼い。
年相応に胸は薄いのではっきりとは分からないが、その顔立ちは何処からどう見ても乙女である。
「……!」
 私はその姿を見て、思わず絶句した。
クラウレスは額を拭い、
「なかなかどうして…ぴんくけいがおにあいでちゅね…!」
 ぐぬぬ、と何故か悔しそうに唸る。…あれ?もしかしてそれって嫉妬?
「ふっ」
 銀埜は銀髪をさらりと流し、
「褒め言葉と受け取っておきましょう」
 と、達観したように言った。…まるでもう一人のクラウレスさんを見ているかのようだわ…。
 こんな状態を一番喜びそうなリースの反応が無い、と探してみると、部屋の隅で芋虫のように丸まって呻いていた。
どうやら可笑しすぎて声にならないらしい。…銀埜の怒りにさらに油を注ぎそうなので、あの子のことは放っておくことにする。
「ねえねえ、クラウレスさん」
 私はぽん、とクラウレスの背を叩き、こそっと耳元で囁いた。
「いつかのクラウレスさんみたいに…あの格好、写真に収めておきたくない?」
「!」
 私の言葉に、クラウレスは目を丸くする。
リースの肉体改造の薬は、持って半日。何かの形で現世にとどめておかないと、さっさと切れてもとの姿に戻ってしまう。
 私の意を察してか、クラウレスはニヤリと笑い、親指を立てた。
「ぐっじょぶでち、るーりぃしゃん。…でも、かめらはあるでちか?」
「…それがあるのよね〜」
 私はニッコリ笑い、小型のポラロイドカメラをクラウレスに差し出す。
クラウレスは顔を輝かせそれを受け取り、「ますますぐっじょびでちよ!」と嬉しそうに言った。
 そしてポラロイドカメラを構え、
「ぎんやしゃん、はいちーず、でち〜!」
 眉を潜めた少女銀埜を、パシャリと写す。げ、と銀埜が硬直している間に、カメラは正方形の紙切れをべっと吐き出す。
「クラウレスさん、何て事を…!」
「ふふふ。いいざいりょうができたのでち」
 現像されるのを待って、駆け寄ってきた銀埜にバン、と突き出す。
自分の愛らしい?姿を見事写され、がーんっ!と固まる銀埜。クラウレスは満足げにけらけらと笑い、
「これでつぎからはぎんやしゃんもおなじことができるでち〜! いいたいけんになったでちねっ」
「うう…なんて馬鹿なことを…」
「いいかげんにかんねんするでち! なれればたのしいでちよ」
 見事な勝利に酔いしれるクラウレス。私はそろそろかな、と思い、彼に”引導”を渡すことにした。
「ええ、そうよね。いいこと言うわ、さすが第一人者さんね」
「そうでち! …いやいや、そのかたがきは、きょうでおわりでち!」
「いいえ、終わらないわよ。…ねえ、うさぎさん?」
 私はニッコリ笑い、頭上からクラウレスさんの頭を―…いや、”耳”をぽふ、と掴む。
「……うしゃぎ?」
 果てしなく嫌な予感がしたのか、クラウレスは自分の頭をぺたぺたと触った。
そこにあるものの存在に気づき、今度は顔を青くしながら、自分のお尻を触る。
 漸く事の次第に気づいたクラウレスは、声にならない叫びをあげた。
「…ほら…言いましたでしょう。何て馬鹿なことを…と」
 そんな銀埜の呟きが、当のクラウレスに聞こえたかどうかは…本人しか知らない。









 そして。
「うふふ〜! さっ、二人ともニッコリ笑って! いくわよー!」
  パシャっ! パシャっ!
 絶え間なくシャッター音が鳴り響く中で、クラウレスの絶叫が間に入る。
「にっこりわらえるわけないですのー! いいかげんにしなさいですの!」
「ふふふ! その口調で何言っても逆効果よ」
 そんな台詞ぐらいで、こんな滅多に無いシャッターチャンスを無駄にしてたまるものですか!
「うぅ…るーりぃしゃんめ…!ですの」
「…その口調も呪いの一種ですか?」
 急遽設えた壇上では、ピンクハ○ス系の衣装を着た銀埜と、白いふわふわしたウサ耳と尻尾が生えた”お雛様”クラウレスさんが、仲良く並ん

でいる。
「わたちがしるわけないですのー! まんまとはめられたですの…」
 壇上のお雛様が思わずおよよ、と泣き崩れる。さらにぱしゃぱしゃ撮る私。この写真、現像したら店のあちこちに飾ってやるんだから!
「結局さぁ、あれよね。あんたの計画どおりってわけ」
「さあ、とりあえずノーコメントにしとくわ」
 少し呆れた顔で私の横に立つリースに、私はそんな風に返した。
「あんたの魔法道具を使えば呪いにかかるって分かってるクラウレスちゃんに、わざわざ魔法がかかったカメラを使わせるなんて…。
計画以外の何者でもないじゃないの」
「ふふ。まあ、いいじゃない?」
 ちなみに、私があのポラロイドカメラにかけた魔法は、規定よりも少しだけ充電が長持ちするように、と。
それにクラウレスさんが気づくかどうかは賭けだったけど、どうやら私が勝ったみたいね。
「クラウレスさん、これに懲りず、また挑戦しにきてねー!」
 私がそう叫ぶと。
「おぼえてろですのー! つぎはおもいどおりにはいかないですの!」
 …そんなクラウレスさんの絶叫が返って来たので、私は更にコレクションが増えそうだな、と期待しました。

 ごちそうさま!


 







                 おわり。





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▼ 登場人物 * この物語に登場した人物の一覧
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【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】

【4984|クラウレス・フィアート|男性|102歳|「生業」奇術師 「本業」暗黒騎士】

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▼ ライター通信
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お久しぶりです、ご依頼ありがとうございました!
またもやの遅刻、申し訳ありません…!
そして雰囲気お任せしますとのことでしたので、色々と弄ってしまいました。
気に入って頂けると大変嬉しいのですけども…!

うさみみと尻尾、大変似合いそうだなあと思いながら書かせて頂きましたv
それではまた、どこかでお会いできることを祈って。