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■+ 幼夢の館〜水晶の扉〜 +■ |
大木あいす |
【2872】【キング=オセロット】【コマンドー】 |
+ 幼夢の館〜水晶の扉〜 +
「あらあら、いらっしゃいませ。ここの扉を開けたってことは、ちょっと暇なのね? ふふ、隠さなくてもいいわ。15分くらいで終わる暇つぶしよ。さあ、そこの椅子に座って、選んでちょうだいな」
ウェーブのかかった灰色の髪に小さなティアラを乗せた女が水晶玉を乗せた机を前に座り、座るよう目線で促している。
座ってみると、目の前にこう書かれたメニューが置いてあった。
【あなたは、どんな世界の主人公を体験したいですか?
1、赤ずきん
2、桃太郎
3、シンデレラ
4、浦島太郎
*性別など関係なく、その物語に基づかれた夢の世界へご案内します】
「さあ、あなたは何を選びますか?」
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+ 幼夢の館〜水晶の扉〜 +
お客が物語を選ぶ前に、女はララと名乗り自己紹介をする。それがいままでの流れだったが今回は違った。
「久しぶり、だな。どうだ、その後はいかがかな?」
そうララに問いかけたキング・オセロットは真紅のソファーに深く腰掛けていた。ララは水晶玉を見つめながら頷き、微笑んだ。しかし、その表情は曇り。
「……まあまあ、かな」
オセロットのほうへ向きなおし、小さく呟くように語り始めた。
アセシナートの軍人としてエルザードに進軍したこと、アセシナートの軍人としてエルザードの勢力を確かめていたこと、ララはオセロットと敵として出会い、今現在、アセシナートの軍人の職務を放棄して、姉のところに部下とともに転がり込んだこと、水晶玉で物語を見せ続けていること――。それらをオセロットに語った。オセロットは目を閉じ静かに聴いた。
「……そうか」目を開いて、「少なくとも今は、それを責めるつもりはない。むしろ付き合おう。物語は任せる。好きな世界へ連れて行くといいさ」
「いまはこれを人の暇つぶしに役立てているの。時間も短くしてね」片目をつむり、「あなたのことは嫌いじゃないから、変なところには連れて行かないよ。さあ、この水晶を見て――」
ララはニコリと笑うと水晶玉に手をかざした。
「私の頭の中のイメージを水晶に転移させて、オセロットさんへ。そのイメージがだんだん濃くなっていくから……さぁ、力を抜いて、あなたは――」
ほのかな温かさが頬を撫で、優しく物語へいざなった。“つもり”だった――。
□■■
「オセロットさん、オセロットさーん!」
呼んでいる?
「起きてください!」
ララか?
ちょっと待ってくれ。体が、なぜか動かないんだ――
「もお、こうしちゃうぞぉー!」
「ッ?!」
口に痛みを感じ、目を開くとルディアがいた。どうやらベッドで寝ているようだ。体の上にはルディアが乗っかっていて、指でオセロットの口をひっぱっている。オセロットが起きたことを確認すると、その手を放し、ゆっくり床に足をつけた。
「お昼寝しすぎですよ。今日はおばあ様の家へ、サンドイッチとワインを届けてくれるって約束なのに、はやく行かないと暗くなっちゃいます!」
少し怒ったような口調でルディアは話した。西洋風の街娘姿のルディアは手提げ型のカゴに焼けたばかりの香ばしい香り漂うバターロールにハムと玉子をこぼれそうなくらいはさんだサンドイッチを入れ、銘柄と年代を確信してワインを入れた。
「はい。あ、そうそう」
オセロットにカゴを手渡し、はっと思い出した。
「飢えた狼には注意してくださいね。いってらっしゃーい!」
手を振るルディアに見送られ、オセロットは言われるがまま家を出た。そしてお婆様の家までの道順を聞き忘れたことに気づいたのは数十歩歩いてからのことだった。
■□■
心配せずともお婆様の家までの道のりは最初に右へ行くだけで、あとは一本道だった。
「こんにちは、お姉さん」
森の中の道を歩いている最中、木の上から誰かが飛び降りてきた。相手に殺気は感じられないが、
「なぜ自身がここにいる。なにかあったのか?」
狩人風の格好をしたララがオセロットに近づいて耳元で囁いた。
「きかんあず」
綺麗なオセロットの髪を撫で、
「ちょっと忘れ物があったから。ふふ、完成です。それじゃ、頑張ってね〜」
ララは地面に片手をつくと、ウインクしてさっと飛び上がった。もう姿は見えない。
「なんだったんだ……あ」
服装が変わっている。今までは、黒いコートの普段の服装だった。だが、今はふわふわとしたレースの白いワンピースに、赤いずきん。着替えたい。だが、引き返して着替えようにも後ろを振り返ったとき太陽が傾いていた。
時間がない。
片手で頭を押さえながら、煙草を銜えた。
「進むしか……ないのか」
ここは森の中。いるのは小鳥か野兎くらいだ。人の気配はしない。
オセロットは足を急がした。
森が、抜ける。
■□■
眩しかった。
森の中とはいえ、頭上には太陽があり、木や草はあまり覆い茂ってはいなかった。だが、森を抜けるとそこは別世界だった。
赤、橙、黄、桃……。鮮やかな花々の絨毯が敷かれ、綿飴のようにふわふわした草むらからは白兎の親子がぴょこんと飛び出てきた。それに驚いた蝶が舞い、ひらひらと花びらが一枚二枚と落ちた。すぐそこに小屋があり、煙突からは薄い雲がもくもくしている。
「……綺麗ですね」
「あ、あぁ、そうだな」
迂闊だった。人の気配を感じ取れていなかった。大きな茶色い帽子を被っているが、さいわい知っている人物ではなさそうだ。
「私はこれで。先を急いでいるので失礼する」
「ちょっと待って」
桃色の花をオセロットに握らせ、
「この花をあの人に渡してください」オセロットを見上げて、顔がはっきりと見えた。青い髪の少年が笑っている。「ララの世界が少しずつ少しずつ、こんなにも明るいお花畑になっています。どれもこれも、あなたの――。あ、僕がこんなこと言っていたなんて言わないでくださいね。それでは、頑張って下さい」
少年はひらひらと手を振って森へ入っていった。今から思えば、どこかで見かけたような、そんなことないような……
まぁ、いい――。
花をカゴに入れ、扉をノックした。
■■□
「赤ずきんかい? どうぞ、お入り」
そんな、会話を想像していた。
しかし実際には悲鳴しか聞こえてこなかった。無言で扉を開くとそこは、森を抜けたときのように別世界だった。
光を受けて鈍く光る絨毯の先には誰かがしゃがみこみ、横たわる何かの腹に顔を付けていた。何かを咀嚼する音だけが響いている。
「……」
動きを止めた。こちらに気づいたのか、ゆっくり鋭くつりあがった目がオセロットを見た。腕で口元を拭いニヤリと笑った。
「ヤメテクダサイネ、銃ヤ刀デ私ヲ狩ルノ」
返り血を浴びた黒い肌。鋭く伸びた四肢と爪。魔物や悪魔の類を連想させる外見。その外見からは想像できぬような透き通った声。知っている声。
「オセロットサンモ食ベル? 美味シイデスヨ」
鋭く尖った白い歯を見せ笑った。
「……」
オセロットは見ていた。そいつの後ろに横たわる肉塊を。白く長い髪を。
「……」
「ドウシタノ?」
「……目を覚ませ」
オセロットは閉まりかけていた扉を全開した。
「こんな世界を持っているおまえが、こんな闇で生きるな!」
腕を掴み、引っ張り上げた。恐ろしく冷たい体温が手から伝わり、血が滴れ落ちる。
「ヤメテ、ヤメテ、明ルイノ嫌イ!」
「逃げるな」
抵抗されても力ずくで家から引きずり出した。
「イヤダ、戻ル! ココ、嫌イィ!」
「誰にでも闇の部分はあるが、あなたの闇は深い。でも、こんなにも明るくて綺麗なところを持っているんだ。ララ。少しは浅くなってもいいはずだ」
もうそろそろ陽が落ちてもいい頃だった。でも、この花畑だけは昼間のように明るく、優しい太陽の光が降り注いでいる。
その光が2人を包んでいた。
「どうだ、これがあなたの世界だ」
「ァ……あ……」
腕からララの震えが伝わってきた。
「大丈夫だ、安心しろ。あなたは一人ではない」
オセロットはカゴに入れていた花を取り出し差し出した。
「誰かは知らないが少年から花を預かっている。青い髪の少年だ。それと、サンドイッチとワインを持っているのだが、一緒に食べないか?」
差し出された花とオセロットの言葉にララは驚いていた。もごもごと何かを話していたが、聞き取れなかった。
次第に震えはとまり、太陽の光を浴びて、徐々に姿が変わっていった。黒い肌は白い肌へ。鋭く伸びた四肢も爪も元通りになった。
改めて、オセロットの手を握った。
「喜んで」
灰色の髪に銀製のティアラをのせ、笑顔で答えた。
「ありがとう――」
〜〜〜〜
「おかえりなさい、オセロットさん。サンドイッチ、食べそびれてしまいましたね。ルディアさんが作ったお料理、美味しそうなのですが……」
そうだ、夢――。
「……全然赤ずきんっぽくなかったぞ」
苦笑しながらララはお盆に皿を乗せ、運んできた。
「私のイメージを水晶に転移させて、それから……だったのがいけなかったのかもしれません。赤ずきんの話ってお婆さん、食べられちゃいますし」
オセロットの前にハムと卵のサンドイッチを置いた。
「あまり自信はないのですが食べてみてください」
「……毒は入ってないだろうな?」
「だ、大丈夫です!」
慌てるララの隣で一つ取り、口に運んだ。
「……。食べられる」
「食べられるに決まっているじゃないですか!」
「ははは、悪かった」
ララは顔を真っ赤にさせて怒った。だが、急に顔を俯けた。
「……ごめんなさい。私、私ね……言いたかった。伝えたかった」
まっすぐオセロットのほうを向き、
「私はこうして素直に感情を出せるのも、闇から少しずつ出てこようとするのもみんな――。みんな、オセロットさんのおかげです」
さっきとはまた違う感情で顔を真っ赤にさせた。
「見ててね、これからたっくさん良い事して見返してやるんだから……」
曇りのまったくない、まるで太陽の陽射しのような笑顔を。ララがその生まれてはじめてした表情を後姿で隠した。
恥ずかしすぎて、顔から火が出そうだったから――
後ろを向いていたせいで、オセロットの表情がほんの少し崩れたことに気づかなかった――
「ララ。外へ行こう。今日は天気がいい」
「あ、サンドイッチ残してる! 待ってください、オセロットさーん!」
「……サンドイッチだったのか」
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2872/キング=オセロット/女性/23歳/コマンドー】
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ライター通信
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お久しぶりです。ご参加ありがとう御座いました!
いかがでしたでしょうか?
おまかせ、ということで、赤ずきん……と、したかったのですが、どうもララの思念が表に出てきました。オセロットさんの少し崩れた表情を想像しながら、失礼したいと思います。
質問に対するお答え、ありがとうございました。
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