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■姫、来たる■

志摩
【5686】【高野・クロ】【黒猫】
 のびのびと午後の昼下がりのお茶タイム。
 室内は明るく、そして穏やかだ。
 そんな雰囲気だったのに、場が暗転する。
 足下にある畳の感触も無く、上下左右の感覚もない。
「これは……」
「あはー誰かの仕業だねー壊しちゃう?」
「そうも言ってられないみたいですよ、南々兄さん」
 と、ふいにあたりが明るくなり、そこに黒い毛並みの獣がたす、と軽い足音をたてて降り立つ。
 豹のようにしなやかな、そんな肢体。そして鋭い牙と爪。
 向けられる眼光は鋭く、敵意をあらわにしている。
「やっつけるしかないよねー」
「そうですね、ということです、皆さん」
 にっこりとまぁ大丈夫でしょうと奈津ノ介は笑った。



姫、来たる



 それはゆっくりと時間流れるある日の午後。
 平和で穏やかな時間の中で突然の異変。
 決まってのんびりとお茶タイム中の出来事。
 不意に耳鳴りのような音がして、視界が暗闇に覆われる。
 上下左右、あるけれども内容な世界。
「何!?」
「真っ暗……停電? あ、パソコンのコンセント大丈夫かな……」
「コンセントって……風槻さん落ち着いてますね」
「困りましたわね。お久し振りにお邪魔しましたら、妙な事になりましたわね」
 のんびりそんな心配した風もなく亜真知は苦笑交じりな困り顔で言う。
 と、暗闇からすぅっと現れる黒い毛並のもの。
 黒豹。
 のどの奥を鳴らして、こちらに敵意を向けてくる。
「ゆっくりできるん極楽で、ええ気分やったのに……台無しやわ」
 今まで奈津ノ介の膝の上でごろごろしていたクロは、不機嫌を思い切り露にして立ち上がる。
「何があっても不思議はないですからね、ここは」
「奈津ノ介さん、緊張感ないね……棍があれば僕も一緒に戦うんだけど……」
「棍なら、そこに」
「え?」
 静が言われて振り向くと、自分の後ろに朱色の棍がある。暢気に茶を飲んでいる間はなかったはずなのに。
「……なんであるの?」
「不思議が起こる場所ですから」
 不思議であるものの、それがそこにあるのはありがたい。
 静はそれを持って立ちあがる。
「私は後ろに下がってるわね、邪魔にならないように」
「私も、任せた」
 佑紀と風槻は後ろに下がる。
「では私が防御担当いたしましょう」
「是非お願いしますね」
 亜真知はにこりと笑っていい、自らの周りにいくつかの光る球体を浮かせる。
「思い切りいかせてもらおか」
「そうだね、手加減いらなさそうかな」
「はい、なっつーいってらっしゃーい」
 と、暢気に南々夜は言って座り込む。
「え、南々夜さん!?」
「ボクいなくても多分大丈夫だし……ね」
「そやね、任せとき。運が無かったんやな、今は猫の姿やからな――運がないんはうちらやない、その黒い獣の方や……消し炭にしたる」
 邪魔された恨み、とギラギラするクロ。
 ぐっと体を落として飛び掛ってくる態勢の黒豹。
 静は棍を構え、クロは鬼火をぼぅっと浮かび上がらせる。
 ふっと相手が踏み込んで爪を振りかざすのをよける。
 体を返す一瞬に、棍を叩き込むのは静。
「!?」
 棍は相手の体に入ったはずなのに、なんとなくその手ごたえが薄いような気がして感じる違和感。
「静さんっ!」
 その違和感に気をとられていると、尻尾がしなって棍をはじくように動いてくる。
 だがそれは見えない壁にばちっと阻まれる。
「油断大敵ですよ」
 それは亜真知の張った防御壁。静はありがとう、といってまた気を引き締める。
「こんどはうちやで!」
 しゅっと身軽に躍り出て、爪を伸ばしがっと遠慮なしに黒豹の目を狙い攻撃。
 その攻撃は当たる。
 だがその傷はすぐに塞がってしまう。
「その相手ー、多分物理攻撃そんなきかないよー」
「それなら……」
 みてるだけ、の南々夜の言葉に攻撃方法を切り替え。
 奈津ノ介が炎飛ばし、黒豹がそれを避けた先には、クロの鬼火。
 ごぅっと燃え上がるそれは黒豹にまとわりつくように燃え上がる。
 だがしかし、身震い一つ黒豹がするとその炎が飛び散る。
「消えへんはずやのに」
「きっと、この空間のせいでしょうね」
 飛び散った炎は空間に吸い込まれるように消えていたのを見て、冷静に奈津ノ介は言う。
「空間が問題なの? それならどこかほころびないか探してみようか」
 と、風槻は言ってあたりを見回す。
 どこも真っ暗。
「……空間ぶち破ればこっちが有利になるわよね。あ、でも銀屋に戻って調度品破壊も困るかなぁ」
「それはとっても困ります」
 風槻のつぶやきは奈津ノ介に聞こえていたようで、即座に答えが返ってくる。
「となると、もうここで頑張るしかないんだね」
「そうですね」
「では私もお手伝いしましょう」
 と、亜真知がすすっと前へ。
 そろそろ見ているのも飽きたし、ささっと終わらせてしまいましょうという雰囲気で笑顔を向ける。
「ここで駄目なら一斉攻撃、ですね」
「そういえば、この様な事がお好きな方がいらっしゃいましたわね」
 ああ思い出した、とぽんと一つ手を打ち亜真知は言う。
「誰か、います?」
「ええ」
 会話しているうちに、黒豹はまた距離を詰めてくる。
 タイミングを合わせて一気に畳み掛ける。
 だがそれはどれも、かき消されてしまう。
 不意打ちに一瞬、後ろへ下がるが、それと同時に空間がぱらぱらと崩れる。
 その崩れた先には、見慣れた銀屋の風景。
 それぞれもといた位置に、いる。
 黒豹は後ろに下がり、入り口の方へ立ち、ふっとその姿を消す。 
 そして、からからと引き戸が開く音。
「やっぱりあなたでしたのね」
 その相手に向かって、亜真知は微笑む。
「知り合いがいるとは……やっぱり来てみるものね」
「ひーめー」
「南々夜もいたの、そう。なるほどね」
 長い水色の髪の少女は微笑んで、入ってくる。
 敵意はまったくないが、今までのことを考えると、警戒してしまう。
 けれども南々夜と亜真知は知り合い同士。
「話が良くわからないんだけど……とりあえず安全?」
「ええ、安全よ。まずは……誤らないといけないわ。戯れが過ぎたわね、ごめんなさいね」
「お戯れだったのね……まぁ、誰も大怪我してないし……」
 まぁいいか、というノリで佑紀はため息一つついた後で笑う。
「過激なご挨拶だね。ある意味お茶目とも取れるかなぁ……まあ、あたしに被害及ぼさない限りだけど」
 そして風槻もあまり気にはしていない、と軽く流してゆく。
「わらわは、白華姫。好きに呼んでくれてかまわないわ。南々夜、どの子?」
「あ、なっつー? なっつーは」
「やっぱりその子ね」
 南々夜の視線追い、ふっと瞳細めて白華姫は笑う。
「大きくなったのね……あなたが小さいときに一度会っているの」
「そうなんですか?」
「そう」
 ふふ、と笑い白華姫は静に視線を向ける。
 そして、笑まれる。
「さっきのが戯れですか……戯れるのもいいですけど程度や相手も考えて気を付けて下さいね?」
「まぁ、話を聞こうか、戯れや言うてるけど何か理由があるんやろ? 言うとくけど今日のうちはええ時を潰されて機嫌が悪い、下手な事言うたらこらえんで?」
 静は困り顔で、クロは圧力かけるように言う。
 白華姫は、それにもふふ、と笑う。
「理由は、必要だったから……これからきっと、不意打ちが多くなるからその練習。わらわの使い魔の子、あのまま置いていたら当分眠りにつくことになりそうだったから、打ち切らせていただいたの。安心したわ、大丈夫ね」
「姫は、気にしてたからねー」
「ええ……ところで、あの子はいないのかしら。いたらぎゅーってしてあげようと思っていたのに……」
「? 南々夜さんと知り合いって事は、他の人とも知り合いって事?」
「全員と、知り合いよ」
「千両さんと小判君は、もうそろそろ帰ってくるんじゃないかと思います。僕が買出し頼んでたので」
 奈津ノ介が言うと白華姫はそう、と言って嬉しそうに笑う。
「白華姫さんは……千両さんや小判くんの親戚の方ですか? いえ、何と無くそう思ったんですけど……」
「そう思う?」
「直感で」
 静の問いに、またふふ、と笑う。
「親戚というか……」
「小判と千両の関係者なん? まさか……千両の恋人とか?」
 ちょっと言葉を詰まらせたところにクロが言う。
「一時期はそうだったことも、あったわね。親で恋人のようなものかしら」
「千両さんにそんな甲斐性があったなんて……データに入れておきましょう」
 と、引き戸の開く音と、足音。
「ただいまー!! あれ? お客さんいっぱいだ。あ、おねーさーん!」
 小判が元気に入ってくる、手を振りながら。
「あ、初めまして! こんにちは!」
「……こんにちは」
 白華姫は少し寂しそうに笑いながら小判に言葉をかける。
 そして千両を見る。
 千両は、なんでここにというような表情で硬直中だ。
「……千両さんの方が立場が弱いのね」
「え、千パパとあのおねーさん知り合いなの?」
 と、佑紀にじゃれながら小判は言う。
「……姫、なんでここに……」
「様子を見に来たの、大きくなったわね……なんていえないわね。もとから大きいもの」
「お、お久しぶりで……その……何と言うか…………」
「何?」
「う…………」
 微笑む白華姫、押し黙る千両。
「千ちゃんがんばれ」
「そうね、頑張って千両さん」
「うん、頑張るしかないよ」
「ほらほら、小判君も応援応援」
「千パパファイトー!」
「子に応援されたら気合いれなあかんね」
 口々に、思い切り遊ばれているとわかる雰囲気でそれぞれが言う。
「いや、その……お元気ですか」
「それが本当に、言いたいことなの?」
「……とりあえず、荷物置かせてください」
 買い物したもの持ったままでは、とそれを預け、千両は向き直る。
 そして、白華姫の前に、膝を着く。
「我が君、時間ですか?」
「いいえ、それはまだ。今日は本当に、見に来ただけよ」
「そうですか」
「では千両、深守になって」
「え? あ、はい」
 千両は言われて猫の姿に戻る。白華姫は抱きかかえて、撫でる。
「これからも、深守と小判を、よろしくね」
「深守?」
「千両の、昔の名前よ。わらわは猫姿を深守と呼ぶの」
「ねー、俺とあなたはお知り合い? 俺初めて会ったよね?」
 小判は自分を知っている風な白華姫に身を乗り出して聞く。
 白華姫はええ、と笑う。
「あなたは……あなたの生まれた瞬間にわらわは一緒にいたの。わらわは一緒にいれなかったのよ」
「じゃあ……俺のママとか?」
 その問いには笑んで答えない。
 ただ笑むだけ。
「……さて、わらわはあまり長居できないの。そろそろお暇するわ。今日はお邪魔してごめんなさいね。あと、少し深守を借りるわね」
「千パパいってらっしゃーい」
 さようなら、をそれぞれ言って、白華姫は出て行く。
 扉の閉まる音。
「……実際のところ、あの二人の関係はどうなんですか、南々兄さん」
「気になるわね、どうなの?」
「え、ボク良く知らないけど……大事な人同士っていうのは、確かじゃないのかなー」
 そう言って、南々夜はあやふやに誤魔化す。
 突っ込みは、千両が帰ってきたときに本番と、なる。





 それは、暗い闇の中で。
 静寂の中で、空気が震える。
「運命は、そのとおりに紡がれるのですか?」
「さぁな、そんなのは知らん」
「いつも、知らん存ぜぬだろう、お前は」
 東の要は西の守を睨む。
 北の魔女は、それをみて声を押し殺して笑う。
「白華」
「ごめんなさい、でも……ふふ」
「まったく。お前の子も俺の子も、貴様の子も、問題だらけだな」
「まぁ、一番問題なのは南のですよ」
「ああ……あそこは。南の自体が姿隠しているからな」
「これから、一波乱ありそうですね。大丈夫かしら……大丈夫だとは思うんだけど」
「大丈夫だと、思う」
「俺はそうは思わん」
 言葉を残して、話していたものたちの姿が消える。
 残ったのは、白華姫のみ。
「大丈夫よ。あの子達、一人じゃないもの……」




<END>





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【1593/榊船・亜真知/女性/999歳/超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【5566/菊坂・静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」】
【5686/高野・クロ/女性/681歳/黒猫】
【5884/小坂・佑紀/女性/15歳/高校一年生】
【6235/法条・風槻/女性/25歳/情報請負人】
(整理番号順)

【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/小判/男性/10歳/猫】
【NPC/千両/無性別/789歳/流れ猫】
【NPC/南々夜/男性/799歳/なんでも屋、実行者】
【NPC/白華姫/女性/999歳/北の魔女、前裁定者】

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■         ライター通信          ■
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 なんだかお久しぶり、の志摩でございます。
 此度はご参加ありがとうございました。
 いつもどなたがこられるかしら、わくわくとしていたりします。
 なかなか進まないこの世界なのですがこれからもとろとろもたもた進んでいきます。
 色々と回収できなくなりそうな伏線も、今回張ってあったりします。か、回収できるといいな…!
 ではでは、このノベルで楽しんでいただければ幸いです。
 本当にありがとうございました、またお会いできれば嬉しく思います。