コミュニティトップへ



■おそらくはそれさえも平凡な日々■

西東慶三
【0424】【水野・想司】【吸血鬼ハンター(埋葬騎士)】
 個性豊かすぎる教員と学生、異様なほど多くの組織が存在するクラブ活動、
 そして、「自由な校風」の一言でそれらをほぼ野放しにしている学長・東郷十三郎。

 この状況で、何事も起きない日などあるはずがない。
 多少のトラブルや心霊現象は、すでにここでは日常茶飯事と化していた。

 それらの騒動に学外の人間が巻き込まれることも、実は決して珍しいことではない。
 この物語も、東郷大学ではほんの些細な日常の一コマに過ぎないのである……。

−−−−−

ライターより

・シチュエーションノベルに近い形となりますので、以下のことにご注意下さい。

 *シナリオ傾向はプレイングによって変動します。
 *ノベルは基本的にPC別となります。
  他のPCとご一緒に参加される場合は必ずその旨を明記して下さい。
 *プレイングには結果まで書いて下さっても構いませんし、
  結果はこちらに任せていただいても結構です。
 *これはあくまでゲームノベルですので、プレイングの内容によっては
  プレイングの一部がノベルに反映されない場合がございます。
  あらかじめご了承下さい。
奇跡への賭け

〜 魔王の独白 〜

(まずは暴走する魔王様の独白を小一時間……もかからないので、当面の間お聞き下さい)

我輩の名は海塚要(うみずか・かなめ)。
全知全能にして全身に覇気を漲らせる優美な漢である。
(……と、本人は主張している。その真偽については判断の分かれるところ)

そして……そんな我輩には……更に、更に皆様をアッといわせる秘密があるのだ。

聞きたいであろう?
うむ! ならば教えてやろう!
実は我輩! ここだけの話! 魔王だったりするのである! 魔を統治する王!
(……ごめん、最初でバラしちゃった)

……って誰であるか!? マゾ王と書いて略してマ王などと言う悪い子は!?
魔物の魔である故! 間違わぬよろし!
(……いや、でもある意味後者でも間違ってない気もするんだけど)

……こ、コホン。
さ……さておき本日我輩は数多の邪魔者まとめて! 我が偉大な軍勢により殲滅し!
とうとうこの江戸城に入城し! 今正に海塚幕府を建国せんという所なのである!
(……もちろん、ご承知の通りそんなはずはない。全ては彼の妄想の産物である)

さあ! 今こそ我が覇道の始まり……。

『要っちの背中っ☆ 突き刺したくてドキドキ♪
 これが歓喜っ!? レッツオーバーキルって事なんだね☆』

 ……今……今何か恐ろしいデジャブが背中を駆け抜けたが一体!?
(暴走中でもしっかり聞こえる水野想司(みずの・そうじ)の声。完全にトラウマ化している模様)

 ふ…………ちょっと疲れておる。
 今まで我輩の覇道は全て順風満帆。何ら問題など無かったはず。

 なのに……全てが暴走する十四歳の掌で踊らされている錯覚を覚えるなんて?
(もちろん錯覚ではない。さっきのショックで現実が徐々に侵食してきつつある様子)

 そうとも。
 叶うなら水野と怨念女の共倒れを計りつつ、実は多難な恋の為に一肌脱ぐ我輩の姿をブル魔同志武満のカメラで放送させたならば!
 色んな意味で美味しいのではなかろうかと壮大な計画を思いついたはずが……!
『法王☆幻魔拳』……いうに事欠いて拳といいながらナイフ投げつけてきやがった奴によりマッハで瓦解したなど……あろうはず……そもそも水野等という奴と会った覚えなど我輩には……!?

(……以上、マ王……じゃない、魔王様 in 妄想世界でした)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 戦いは続く……微妙なまま 〜

「なあ、一ついいか?」
「何?」

 戦場からほど近いビルの屋上に、二つの人影があった。

 一人はパワードスーツを着込んだ青年――金山武満。
 ついさっきまでは一応「人型」をしていた彼のパワードスーツは、つい先ほど自動操縦で届けられた新開発のアタッチメントパーツを装着したせいで、さながら年末の歌合戦の名物歌手のごとく、舞台なら絶対に衣装さんより大道具さんの担当になりそうな格好になっていた。
 しかし侮るなかれ、これでも飛行能力付与の上、攻撃力・防御力・抗魔力・そして肝心要の異常結界除去装置の出力などを、軒並み数倍に高めてくれるお役立ちパーツなのである。
「できたてホヤホヤで即実戦投入中、もちろんテストは最低限しかしていない」という辺りに多少不安を覚えるものの、そんじょそこらの妖怪変化程度なら三分で十二匹程度ではない数をサクサク蹴散らせることは間違いない。

 と、そんなことはさておき。

「なんか、さっきから巨大魔王の様子がおかしいんだけど……どうなってんだ?」

 その武満の言葉に、もう一人の少年――想司は天使のような笑みを浮かべて、目の前の「巨大魔王」に目をやった。

「要っち♪ 君の幕府がどんな香ばしい王国かは興味深い所だけど☆」

 その表情には、ほんの僅かな陰りすら見られない。
 ……が、だからと言ってその言葉の内容もそうかというと、必ずしもそうとは限らない辺りが想司の恐ろしいところなのである。
「幻魔拳から制限時間内に目が覚めないと……♪ もれなく全身の骨格が……☆」
「おい、それってひょっとしなくても思いっきり諸刃の剣……!?」
 さらっと不穏当なことを言う想司に、すかさず武満がツッコむ。
 なんだかすっかり漫才コンビと化してしまっているが、そんな二人の漫才を周りが黙って見ているほど戦場は甘くない。

 魔王が何やらぶつぶつ言っている隙をついて、訃時(ふ・どき)が二人の方へと突っ込んでくる。
 それを二人は間一髪のところで回避すると、武満が怨念の間を縫うように――あるいは切り裂くようにして飛び、その背(?)を蹴って、今度は想司の側から訃時へと仕掛けていった――。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 託された願い 〜

 一方その頃。

 歌姫は、手の中の懐中時計を見つめていた。

『時計は……貴女の歌に力を与える』

 これは、あの「未来」で両親から託されたもの。
 そして――脳裏に甦ってくるのは、これを手にした後に聞いたあの言葉。

『握り締め歌うだけでいい。
 時空の綾織の彼方から歌に導かれた多くの力が……「願い」が集められる』

 いつだったか、この時計をとある青年に見せたことがあった。
 彼はこの時計から「何か」を感じ取り、そしてそれをこう表現した。
「時間を彷徨う多くの想い」と。
 その時は、「それがこの時計の力の源なのかもしれない」くらいに思っていたが――。

 実際は、それどころではなかったのだ。
 この時計は、多くの――それこそ、無限にも近い「願い」を呼び集めるための鍵。

『その時……貴女に叶えられない事は無くなる』

 それはまさに、想像を絶する力を得られる最後の切り札。

 しかし。

『でも……大きい力は代償が求められる』

 この時計の力を教えてくれた「彼女」は、そうも言っていた。

『集まった力は訃時と同じ。もし操れなかった時は必ず大きな反動を貴女に刻み付けてしまう』

 訃時という存在は、怨念、つまり負の「願い」の集合体ということもできる。
 あるいは、それらの「願い」が、呼び出したものをも乗っ取り、取り込んでしまったもの、と言うべきか。

 この時計によって集められる「願い」も、正と負の差こそあれ、本質的には同じものである。
 そう考えれば、この「願い」が暴走し、訃時のようになってしまう危険性もないとは言えない。

 まさに、この時計は諸刃の剣なのである。

『ごめんね……こんな事押し付けてしまって』

「彼女」は全て知っていた。
 全てを知った上で、一つの願いを歌姫に託した。

『でも……これは私には出来ないことだから……』

 私にはできない。
 その彼女の読みは、不幸にも当たっていた。

 その、今や訃時となってしまった少女から託された願いは――歌姫自身の願いでもあった。

『あの子を……助けてあげて』

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 光る絆 〜

 光刃。
 風野時音(かぜの・ときね)や訃時が使うそれは、一言で言ってしまえば、使用者の「心の力」を刃という形で具現化させたものである。

 故に、それは使用者と、その心のありようによって様々な色や形をもつ。

 あの少女の光刃の色は、穢れなき白。
 それが、訃時へと変じた時、今のような戦慄の紅へと染まった。

 かつて時音が戦い、大きな犠牲を払いながらも打ち破った邪悪なる魔剣士。
 彼の振るう光刃は、まさに「黒い光」としか形容しようがない漆黒の刃だった。

 その時音が、未来で戦っていた頃に振るっていた光刃は、氷のような冷たい蒼だった。
 しかし、今の時音の振るう光刃は、同じ蒼でも、もっとやすらぎを感じさせる優しい蒼に変わっている。

 そして歌姫の光刃は、美しい桜色。
 その特性は柔にして剛。まさに歌姫に相応しいものといえよう。
 けれども、その光刃を振るうのは、ほとんどの場合歌姫自身ではなく、時音である。

 ならば。
 時音に歌姫の光刃が使えるのなら、その逆も――つまり、歌姫が時音の光刃を扱うことも、理論上は可能なのではないだろうか?

 さらに、歌姫はこうも考えた。
 互いの光刃が使えるほどに文字通り「心が重なって」いれば、それを媒介に、彼の光刃を――すなわち、彼の魂を取り込み、自分の眷属とすることはできないだろうか、と。

 もちろん、実際にそんなことをしようと思えば、それ相応の力が必要になる。
 今の歌姫の力では、到底無理な話だろう。
 だが、あの時計を使い、無限にも等しい「願い」の力を味方につけられれば?
 本当に訃時にも匹敵するほどの力が身につくのであれば、そうできる可能性は飛躍的に高まるはずだ。

 もっとも、そうしてしまえば、時音は人ではなくなる。
 それでも、人でこそなくなるが――時音を救うことはできる。

『心の剣と絆を最期まで信じる事だね』

 いつか、想司が彼女に言った言葉。
 それは、つまり、このことなのではないだろうか?

 当然、時音は反対するだろう。
 だから、彼にはこのことは知らせない。
 近づきすぎた心を読まれないように、懸命に想いを押し殺す。





 と。

『……色んな事を聞かせてほしかった』

 不意に、時音の心の声が聞こえてきた。

『一緒に歩いて……歌を聞かせてもらって……桜を見て。二人で』

 歌姫も覚えている。
 その一瞬一瞬を、まるでアルバムをめくるかのように思い出せる。

『自分が何をしたのか? 自分はどういう者なのか? 皆を忘れるのか? わかっている!』

 歌姫にもわかっている。
 時音の心の中に絶えずあって、彼の心を凍らせてきたその想いを。

『けれど……それでも思う。
 叶うならば……ずっと言えなかった事だけれど……』

 歌姫にも見えている。
 彼の心の氷が溶け、その下から顔を出した、彼の「人間らしい心」が。
 そして――それが、本当に望んでいることが。

『どうしたら……どうしたら……生きていてもいいのだろう……?』

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 決断の時 〜

 時音が、生まれた時から抱えてきた「消去力」という爆弾。
 そして、その運命故に、歩くたびに重ねてきた「罪」。

 歌姫のことが好きだからこそ、そんな運命に巻き込みたくはなかった。

 だから、いっそのこと突き放してしまおうと思ったこともある。

 しかし、そうすることはできなかった。
 本当は、一緒にいたかったから。

 とはいえ、それを素直に言うには、やはり彼の運命が邪魔をして。
 時音はずっと、近づくことも、離れることもできずにいた。





 怖くないと言えば嘘になる。
 消去力はまだブラックボックスのようなもので、歌姫にもわからないことがたくさんある。
 それに、魂が消滅しかかるほどの無数の傷痕――そのまま取り込めば、歌姫にも少なからぬ影響が出ることだろう。

 だが――それが何だ?

 決して離さぬように、時音の頭を強く胸に抱きしめる。
 そして――静かに、懐中時計の蓋を開く。

「歌姫……」

 何かを言いかけた時音の唇に、そっと人差し指を当てて制する。

『どうしたら、生きていてもいいのだろう?』

 その答えが、もしまだ見つかっていないのなら。

 ――私はずっと一緒だから――だから、答えを二人で探しにいこう?

 歌姫のその「願い」に応えるかのように、辺りに眩い光が満ちた。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0759 / 海塚・要  / 男性 / 999 / 魔王
 0424 / 水野・想司 / 男性 /  14 / 吸血鬼ハンター(埋葬騎士)
 1136 /  訃・時  / 女性 / 999 / 未来世界を崩壊させた魔
 1219 / 風野・時音 / 男性 /  17 / 時空跳躍者

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 撓場秀武です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
 そして、ノベルの方大変遅くなってしまって申し訳ございませんでした。

・このノベルの構成について
 今回のノベルは、基本的に五つのパートで構成されています。
 今回は一つの話を追う都合上、全パートを全PCに納品させて頂きました。

・個別通信(水野想司様)
 今回はご参加ありがとうございました。
 今回は魔王様と後半のシリアスパートが中心なので、想司さんの出番は少なめ……なのですが、それでも十分すぎるくらいに存在感があるのはやはり想司さんだからでしょうか。
 ともあれ、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。