■某月某日 明日は晴れると良い■
ピコかめ |
【2778】【黒・冥月】【元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】 |
興信所の片隅の机に置かれてある簡素なノート。
それは近くの文房具屋で小太郎が買ってきた、興信所の行動記録ノート……だったはずなのだが、今では彼の日記帳になっている。
ある日の事、机の上に置かれていたそのノートは、あるページが開かれていた。
某月某日。その日の出来事は何でもない普通の日常のようで、飛び切り大きな依頼でも舞い込んだかのような、てんてこまいな日の様でもあった。
締めの言葉『明日は晴れると良い』と言う文句に少し興味を持ったので、その日の日記を読んで見る事にした。
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某月某日 明日は晴れると良い
抜き打ち休み時間参観
珍しく誰もいなかった草間興信所。黒・冥月の弟子であり、興信所の小間使いである小太郎の机には英語のノートが一冊置いてあった。
「……これは……?」
気まぐれに興信所に寄った冥月は、そのノートを手に取り中をめくる。
と、そこにはつい昨日、手伝ってやった宿題の内容が書かれてあった。
「全く、せっかく手伝ってやったというのに忘れるとはどういうことだ……」
間の抜けた弟子にため息をつき、冥月は影を操ってこの宿題ノートを届けてやろうと思ったのだが、一つ思いつく。
ただただノートだけを送ってやると、何の罰にもならない。
宿題を忘れたペナルティは受けてもらおう。
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冬の終わりも近付き、春の香りがかすかに漂い始める近頃。昼が近くなればそれなりに暖かい。
春眠暁を覚えずの言葉通り、一度寝てしまえばこのポカポカ陽気に呑まれてそのまま眠りこけてしまいそうだ。
ダルい。もの凄くダルい。
だが、ダルいからと言って小太郎いじり……もとい、彼への罰を諦めるわけには行くまい。
そのために着替えまでしてここまで来たのだ。
今から諦めて帰るなんて、思いもつかない。
「しかし、最近穿いてなかったからな……随分と慣れないものだ」
冥月は小さく零しながら、春風にそよぐスカートを押さえた。
見かけから言えば、少し目つきがきついが、優しいお姉さん風だろうか。
V字ネックのカットソーの上に薄手のカーディガンを羽織り、下には膝丈くらいのフレアスカートを穿いている。
全体的な色調が黒いのは仕方ないとしても、装い的には十分春っぽいだろう。
春→ほんわか→優しげ。
いつもの冥月ならあまり考えがたい恰好だった。彼女自身、やはり似合わないな、と自嘲するぐらいだ。
だが衆目はそう思わないのか、風にそよぐ、その長く艶やかな髪を押さえる様を、ほぉと無意識の内にため息を漏らして足を止めていた。
そんな周りの態度を気にした風でもなく、あくまで主観で似合わない、と思っている冥月は小太郎の中学校へ急ぐ。
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いやだが、路程をこなす内に『そうでもないかもしれない』と思ってしまう辺り、慣れとはすごいものだ。
冥月は中学校に着く頃には自分の恰好を気にすることもなく、昼休み直前の学校に入り込んだ。
と言っても別に不法侵入とかそういう類の行動ではなく、堂々と正面から玄関に入る。
「あの……何かご用件でしょうか?」
来客用玄関に入ると、事務員の人が冥月に声をかけた。
若い女性の事務員は、一瞬冥月の端麗な容姿に言葉を失くしかけたが、やっと自分の役目を思い出して呼び止めた、といった感じだろうか。
冥月は笑って答える。
「三嶋 小太郎の身内の者です。忘れ物を届けに来たんですが……担任の先生はいらっしゃいますか?」
心持ち高い声を出す。この恰好に似合う、やわらかい人格の演技だ。
「は、はい……三嶋 小太郎さん……二年A組ですね。少々お待ちください」
事務員の答えを受け、冥月は微笑んで頷く。
こういう時は、冥月からその忘れ物を事務室で預かり、小太郎を呼び出して取りに来させるのが普通だろうが、事務員はそこまで気が回らなかったらしい。
新人なのか、それとも突然現れた美人を相手にテンパったのか。
それは定かではないが、事務員は担任の先生を呼び出した。
担任は中年男性。ブラブラとダルそうに歩いてきたのだが、冥月の姿を見て少し緊張した様子で口を開く。
「わ、私が三嶋くんの担任の市江ですが、どうかいたしましたか?」
市江先生にも冥月は惜しまず営業スマイル全開で受け答える。
「忘れ物を届けに来たんですが、私、日本の中学校って初めてなもので……少し見学させてもらってもよろしいでしょうか?」
「け、見学ですか? それは私では判断できかねますが……」
中学校にも体面はあろう。いきなり抜き打ちで見学させて悪評が立ってしまうと困る。
出来ればちゃんとしたアポイトメントを取ってから来て欲しいのだが……
「ダメ、ですか?」
冥月に上目遣いに見上げられて、中年男性の思考がグラつく。
あのね? V字ネックから肌が覗いてるんですよ。
「わわ、わかりました。それでは私のクラスまでならご案内しましょう」
「本当ですか? ありがとうございます」
可憐。そんな言葉が市江先生の心に刻まれただろうか?
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道中、二人は生徒用玄関を通る。
昼休みが始まったようで、大勢の生徒が外へ出て行くのが見える。
手にはボールやら弁当やら、思い思いの物を持っていた。
「こらー、外で弁当を食うのは禁止だぞー」
「はーい」
市江先生のやさしめの咎めを適当な返事で答えつつ、生徒はそのまま外へ駆け出して行ってしまった。
「良いんですか? 止めなくて」
「ええ、何度言ったって聞きませんし、それにあまり校則で生徒を縛り付けるのも可哀想でしょう?」
八割方、言いわけの様に聞こえたが、冥月は別に気にすることもなく、玄関を通り過ぎる。
玄関のすぐ近くに玄関ホールがある。
玄関ホールには売店と飲み物の自動販売機がある。
先程、弁当を持って外へ出て行った生徒もいたし、この中学はどうやら給食制ではないらしい。
「給食よりも、生徒たちが食べたいものを食べた方が良いでしょう? そういう考えらしいですよ、ウチの校長は」
冥月の視線に気付いたのか、市江先生が先手を取って答えてくれた。
玄関ホールの横にある階段を上る。
やはり階段とは学校において移動の要。
自分の行きたい場所に行くには、ほとんどの場合階段を使うだろう。
それ故、冥月と市江先生の横をよく生徒が横切っていった。
「……え? あれ、誰……?」
そんな声が聞こえた。まだ幼さを残す声だったので多分生徒だろう。
声のした方を見ると、そこには学ランを来た男の子が二人。
冥月をみて色々と疑問を募らせているらしい。
「い、市江センセ、まさか先生の彼女じゃ……」
「馬鹿! 違うよ! この人はお客様だ。おぅ、お前ら、教室に三嶋いるか確かめてきてくれ」
「わ、わかりました」
どうやら小太郎のクラスメイトであったらしい。市江先生が受け持っているようだ。
その生徒二人は先生に言われてすぐに今来た道を戻っていった。階段を駆け上がっているところを見ると、教室はまだ上らしい。
「すみませんね、ウチの生徒が……」
「いえ、元気があってよろしいですね」
頭を掻いて謝る市江先生に、冥月はやはり営業スマイルギュンギュンで答えた。
踊り場を抜けて二階。右手にずうっと廊下が伸びていた。
「向こうは特別教室が並んでます。理科室とか、音楽室とか」
「ギターの音が聞こえますけど……音楽室を開放してるんですか?」
「ええ、生徒から要望がありましてね。昼休みの暇な時間にギターを弾きたいとか。全く、最近の子供は何でもやりますな」
そう言って市江先生はがははと笑った。
冥月も作り笑いを返しながら、なんとも生徒に甘い学校だな、という感想を持った。
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先程の男子生徒二人が自分たちの教室へ帰還する。
「ご、号外!」
ドアを開けて第一声はそれだった。
その声に弁当をつついていた生徒、大富豪をしていた生徒など、教室に居た全員が彼らに目を向けた。
「い、市江センセがすっげぇ綺麗な女の人を連れて教室に向かってる! どうやらこのクラスの一男子に用があるらしい!」
「すごく綺麗な女の人?」
女子の一人から怪訝な声が聞こえた。
この手の男子の物言いに信憑性がない事を知っているのだろう。
だが、そんな不信感バリバリの返答を気にせず、二人は教室の中を見回す。
「あ! いた、小太郎!」
「……ん? 俺?」
全く関係ない、と弁当をつつきなおしていた小太郎。唐突に名指しされ、また驚いて顔を上げる。
周りにいた友人二人も小太郎に目を向ける。
「お前、なにしでかしたんだ?」
「先生に呼び出されるなんて、小太郎らしくないね?」
「全く身に覚えがない。きっと冤罪だろ。さっさと濡れ衣を取り払ってきてやるさ」
友人二人の探りに、小太郎は飄々と答え、教室の出入り口から小太郎の元へ寄ってきた男子生徒二人を向かえる。
「三嶋 小太郎! お前の身柄を拘束する!」
「な、なんなんだよ。俺が何をしたって言うんだ」
「まずは我らの問いに答えろ。お前、あんな綺麗なオネーサンと何処で知りあったぁ!!」
血の涙を零しそうな勢いの羨望を込めて、男子生徒が小太郎に詰め寄る。
「お、オネーサン!? 誰のことだ?」
「しらばっくれるか、このちびっ子!」
「チビって言うな! てめぇ、喧嘩売ってんのか!」
「喧嘩売ってるのはお前だろう! あんなオネーサンを学校に呼び出して何をしでかすつもりだ!」
「呼び出してねーよ! まず、そのオネーサンが誰だかわからん!」
「問答無用! 貴様は我ら男子全員を敵にまわしたと思え!」
「っふ、馬鹿を言うな、俺にも味方はいるぜ。なぁ、利明、大輔!」
そう言って小太郎が今まで一緒に弁当を食べていた二人に声をかけるが、二人とも首を振った。
「残念だが小太郎、そういう事情なら俺はお前の敵だ。いや、お前は俺の敵だ」
「ごめん、小太郎。僕も面白そうだから向こうにつくよ」
「う、裏切り者!?」
孤立無援の小太郎の運命やいかに!
だが、そんな祭りも男子たちだけが盛り上がっているだけで、女子たちは彼らを馬鹿だなぁ、と遠巻きに眺めるだけだった。
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三階に登る階段の途中、二人の女子が勢い良く階段を下ってきていた。
「早くしないと売り切れちゃうよ!」
「麗しのコロッケパンを私の手に!」
どうやら売店で売っている人気のパンを狙っているらしい。
随分出遅れているようだが、大丈夫なんだろうか?
いや、出遅れているが故にこれほど急いでいるのだろう。
階段を一段抜かしに跳び、スカートの裾をはためかせて階段を風の如くに駆け抜ける。
が、やはり羞恥心はあるようで、一瞬、大きく広がってしまったスカートを押さえるのに気をそらした女子の一人が階段を踏み外してしまった。
「あ、危ない!」
もう片方の女子が手を伸ばすが間に合わない。
これは転倒→大怪我のコンボかと思いきや、転んだ女子を冥月が受け止めていた。
「大丈夫?」
受け止めた冥月は優しく声をかける。
声をかけられたほうの女子は目を丸くする。この学校にこんな綺麗な人が居ただろうか、と。
「急ぐのは良いけど、もう少し身だしなみに気を使った方が良いわ。ほら、スカートの裾がめくれてますよ」
冥月は女子のスカートをパッパと払い、埃を落とすとともにめくれた裾を直してやった。
「あ、ああ、ありがとうございます」
頬を染めながら、慌てた女子が礼を言う。
そしてすぐに冥月から離れ、一つ頭を下げて、また脱兎の如くに階段を駆け下りていった。
「元気な生徒ですね……」
何の反省も見られない女生徒を見送って、冥月は一つ呟いたという。
この小さな事件がその女生徒の将来に大きな影響を及ぼしたとか及ぼさなかったとか言うのは、また別の話。
そんなこんなで、やっとこ一年A組の教室。
「案内、ありがとうございました」
「いえいえ、また、何か用があれば職員室に来てください」
市江先生はそう言って来た道を戻っていった。聞いた話によると職員室は二階だという。
まぁ、彼のことは気にせず、今は小太郎に宿題を届けなければ。
冥月は一つ咳払いをし、教室のドアを開ける。
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教室の中は祭状態。……というか何か儀式が行われているようだ。
羽交い絞めにされた小太郎に、一人の男子生徒が彼の眉間に人差し指を指す。
それも触れるか触れないかの微妙な距離を保っているので、眉間がこそばゆい事この上ない。
「や、やめろー! いっそ触れ!」
「うるせー、それじゃあ拷問にならないだろうが。開放してほしくば言え! あのオネーサンとはどういう関係だ!?」
「知らねぇって言ってんだろうが! まずそのオネーサンとやらの素性を教えろ!」
「知るわけないだろうが。だが、お前が白状しない限りこの拷問は続くぞ」
「鬼か、お前ら!」
そんな男子の不思議な儀式を遠巻きに眺めるか、若しくは最早興味を失って仲間内でおしゃべりに耽る女子たち。
なんとも不思議な教室二分状態に、多少気圧された冥月だが、もう一つ咳払いをして小太郎に声をかける。
「こーたーくん!」
ゾワリ、と背筋に寒気が走る。自分で言っててなんだが、冥月自身少し気持ち悪かった。
だがまぁ、言うなれば旅の恥はかき捨て。これ以降、そうそうこの中学校に近づく事はあるまい。
だったらやりたい放題やったって良いじゃない。
「き、来た! 件のオネーサンが来たぞぉ!」
「だがしかし、こ、こたくん!?」
「お前、そんな風に呼ばせてるのか!」
「今、初めて呼ばれたよ! 誰だ、俺をそんな名で呼ぶのは!?」
小太郎も探そうとするが、首まで固定されているので視界の範囲内でしか探せないようだ。
どうやら冥月の姿も見えてはいないらしい。
そして、師匠冥月がそんな名で自分を呼ぶとは思いもよらないらしい。声で判断できそうなものだが、小太郎は気付いていない。
「え〜、私の事、知らないって言うの?」
「知らん!」
即答の小太郎に多少カチンと来たので、小太郎を拘束していた男子生徒を遠ざけ、小太郎を自由にさせる。
そして、やっと冥月の姿を確認した小太郎に、ニッコリと微笑みかける。
「まだわからないかしら?」
「……し、ししょっグォ!!」
小太郎が言葉をつむぎ終わる前に、彼の唇に人差し指を押し当てる。
と言っても、それが彼が台詞を途中で止めた理由ではない。冥月が小太郎の背に手を回し、痛そうなツボを圧してやったからだ。
声を失くした小太郎は、冥月の操る腹話術人形のようになってしまった。
「酷いな、昨日だって一緒に夜遅くまで宿題を手伝ってあげたのに、それを忘れて行っちゃうし……」
「夜遅くだとぉ!」
冥月の言葉の一部に過剰反応する周りの男子。
夜遅く、オネーサンと二人、それだけで中学生男子は燃え上がれるのだ。恐るべし、中学生。まぁ実際はユリもいたのだが。
だが、そんな羨望に任せて小太郎に八つ当たりするのも、身内らしいオネーサンを前にしては憚られる。
口惜しそうに小太郎を睨みつける男子諸兄。だが、その視線を受ける小太郎は最早意識を失いかけている。それぐらい、ツボが痛い。
「ハイ、これ。ちゃんと届けたからね」
冥月は小太郎のものらしき机に英語のノートを置く。
それによってツボ指圧の痛みから解き放たれた小太郎は、一瞬で意識を取り戻し冥月に向き直る。
「おいコラ、なんだってこんなふざけた真似をしてるんだ、ししょ……!」
だがまたも冥月に止められる。今度はおでこ同士をぶつけて、気恥ずかしさのために小太郎が口をつぐんだのだった。
「こら、こたくん? そんな言葉遣いじゃ良い大人になれないわよ?」
そんな風にやわらかく叱る冥月だが、真意はそこではない。
冥月は小太郎の胸に指を這わせ、文字を書く。即ち『今、私の事を師匠と呼べば殺す』。
じゃあなんて呼べと!? と尋ね返そうとした小太郎だが、それよりも素早く冥月が背を向けたのでその言葉も飲み込まれた。
「皆さん、毎日この子がお世話になっています。これからも仲良くしてくださいね」
絶品スマイルの冥月に男子一同熱狂。
「するする! 超仲良くするから、オネーサンのお名前を!」
「おま、ずるいぞ! ケータイ番号とメアドを!」
「うるせーぞお前ら、好きな食べ物は!?」
「理想の男性のタイプは!?」
「俺、俺なんかどうですか!?」
「絶賛、年上の彼女募集中!」
「それよりもまず、その気になるスリーサイズをですね……っ!」
「けしからん、けしからんぞぉー!」
熱狂しすぎて、最早何がなんだか判らない状況だ。
その一つ一つに応答するには、質問の声が被りすぎている。聖徳太子ばりの聞き分けをしなければどうやら無理そうだ。
だが最後の最後に聞こえてきた一つの質問、それにはどうやら答えられそうだ。
「小太郎とはどういう関係なんですか?」
インフルエンザでもかかったのか、とでも言うぐらい体温を上げる男子の中で、一人だけ冷静そうな男子が尋ねる。
その質問に、冥月はにやりと笑う。
「こういう関係」
小さく呟くように言い、小太郎を後ろからハグする。それによって、小太郎の後頭部に胸が当たっており、それに気がついた小太郎が顔を真っ赤にした。
そして、別の理由で周りの男子も顔を真っ赤にする。
「小太郎ぉぉ……てめぇ、美味しいなぁ、おい」
「ま、まて、誤解だって! 落ち着け!」
「それじゃぁ、私はこれで」
昼休みも終わりそうだったので、冥月はパッと小太郎から離れ、教室を後にした。
「それじゃあね、こたくん」
「ま、待て! この状況をどうにかしてから帰れ!」
そんな小太郎の言葉を無視し、冥月は微笑んで教室のドアを閉めた。
その後、教室の中から断末魔のような声が聞こえた気がしたが、多分気のせいだろう。
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「今日は師匠を呪う日……今日は師匠を呪う日……」
興信所に帰ってきてから、冥月と武彦の大爆笑を浴びながら小太郎は呪詛のように呟き続けていた。
彼の顔には油性マジックで額に『淫魔』とでかでかと書かれてある。
一生懸命こすって落とそうとした努力は見て取れるが、全て綺麗に落としきるには力が足りなかったようだ。
まだ文字は読めるレベルだった。
「お前、っぷぐふふふ……淫魔ってお前……」
「ぎゃはははは! いいぞ、小太郎! 馬鹿みたいだ!」
「くそぅ、なんだって俺がこんな目に」
一種イジメとも取れそうだが、これは仲間の愛情表現である。決して小太郎がいじめられているわけではない。
「師匠も、なんだってあんなカッコして学校に来たんだよ!?」
「ん? 面白かったろ?」
「面白くねぇっつの!」
「なんだ? 冥月も何かやったのか?」
「草間さんにも見せてやりたかったぜ、師匠の女装ゲフっ!」
冥月の鉄拳一閃。小太郎の頬に突き刺さる。
「よく聞こえなかったな、もう一度言ってみろ、小太郎」
「いえ、なんでもないです……」
不遇、小太郎少年の受難はまだまだ続きそうである。
「まぁ、でも、今日はアイツが休みでよかったよ……」
「あ? 何か言ったか?」
「別に……」
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
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■ ライター通信 ■
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黒・冥月様、毎度どうもありがとうございます! 『キャラの原型が……』ピコかめです。
所々、小僧をからかういつもの師匠が見受けられますが、全体的にキャラ違くね? って感じですね。
ど、どんなもんなんでしょうか。
ファッションセンスというものを、俺の体中から搾り出して考えた服装ですが、非情に悩んだ反面、楽しく調べ物ができましたよ。
色々と検索している内に、俺にも知的探究心なるものが欠片でもあるんだなぁ、と再認していたものでした。
知らない事を知っていくって楽しいねっ☆ まぁ、あの服装で満足していただけるやらわかりませんが。
では、また気が向きましたらよろしくどうぞ!
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