■第五の扉■闇の森■
陵かなめ
【3087】【千獣】【異界職】
第五の扉■闇の森

 扉扉扉。
 あたり一面の扉。
 その中で、また一つ扉が開いた。
 扉を管理するのは、ラビ・ナ・トット。彼は、また一つ、扉を開いた。
 しかし、扉の先は、闇だ。
「ええ、そうなんですよ、この先闇の森です」
 トットは、手にしていたランプを、そっと扉の奥へかざす。
 すると、かすかに浮かび上がる、木の影。さわさわと、風にそよぐ葉の音も聞こえる。
「もし、冒険に出発されるのなら、お気をつけください。闇は深く、時に人を飲み込みます」
 トットの声は真剣だ。
 何故なら、彼もこの先に広がる闇の森を知らない。知らないことはそれだけで恐ろしい。
 貴方は、この闇に何を見るのか。


■Q
●どの方向へ向かうのか?(東西南北)
●モンスターと出会った場合の対処は?
●その他、装備や闇の対策など。
闇の森
  ―闇が溢れる―

□Opening
 扉・扉・扉。
「……?」
 ここは、不思議な小屋だ。足を踏み入れて、千獣は不思議そうに部屋を見回した。嫌な感じはしないけれど、これは、とても不思議な光景だった。
「こんにちは」
 ふと、足元に目をやる。
 そこには、にこにこと千獣を見上げる小屋の住人がいた。ウサギのような耳と尻尾が特徴的だ。
「……、こん、にちは……」
 つられるように、挨拶を返す。
「はじめまして、ですよね、ボクはラビ・ナ・トット、トットとおよび下さい」
 小柄な住人は、もう一度丁寧にお辞儀をして微笑んだ。はじめましてかと言う問いに、千獣は頷いて答える。
 すると、トットは懐から丸い何かを取り出した。
「これは、扉の向こうで迷わないためのコンパスです」
 見ると、確かにそれは針がくるくると回っている。ただし、本当にくるくると回っているだけで、どこの方角も指してはいない。
「今はこの扉、闇への扉が開いていますけれど……」
 コンパスを握る千獣にトットは小さく声をかける。その様子から、この扉の先が決して、生易しいものでは無いと知った。
 けれど、千獣は、かすかに微笑み頷く。扉の先に待ちうけるもの、それが何であろうと、とりあえず先に進めば良いのだろうと理解した。
「はい、では、扉を開きますね」
 どうぞ、お気をつけて……。
 トットの言葉を背に受け、千獣は扉の先へ足を踏み出した。

 ▼千獣は【dimensionコンパス】を手に入れた!

□01
 まずは、闇だ。
 ぱたりと背後で扉が閉じられた事は分かった。その次には、背後に扉も無い。不思議なことだけれども、それがこの空間なのだ。
 風がふく。辺りは闇だけれども、何も無いと言うわけではなさそうだった。
 手元のコンパスを確認する。千獣は、東を見つめていた。
「……、ん」
 口から漏れる吐息。
 その瞳を夜目のきく獣の目に変える。
 うっすらと茂る木々。その間には、人が一人歩けるほどの道があった。暗い森、灯りの無い世界は、ずうっと昔に生きていた森にどことなく似ている。
 そんな森の風景を感じながら、千獣は歩きはじめた。
 たし、と。
 自分の足音が一番大きい。
 五感を研ぎ澄ます。さわさわとざわめく木の音を聞き、かすかに匂う土の匂いを感じた。辺りには、まだ何もいない。千獣は、それでも注意深く先へと進む。

□02
 ばさり、と。
 それは突然、千獣の上空を旋回した。上空から飛来したのは、大きな鳥だった。黒くて、大きくて、闇の空を覆うほどの巨大な翼が、ばさりと上下した。
 千獣は、風に飛ばされないように、腰を落として鳥を見上げる。
 ばたばたと、マントが叫ぶ。
 けれど、巨大な鳥は、千獣に何かをしようとした訳ではなさそうだった。その場で何度か旋回した鳥は、また、ばさりばさりと羽根を動かし上空へ戻っていく。
 ふと、周りを見る。
『チチ、チチチ』
 それは、小鳥達の鳴き声。
 木で羽根を休めていた小鳥達が、一斉に飛び立ったのだ。
 千獣は、その光景に思わず見とれた。巨大な闇の鳥を先頭に、小鳥達がその後を追う。闇を飛ぶ鳥達の幻想的な風景は、すがすがしく、闇の森の中で、とても美しかった。
 ああ、闇を見渡せることが、とても嬉しい。
 千獣は、一時、歩みを止めて空を見ていた。

□03
 さて、随分と森の奥深くまでやってきた。確かに、この先に何かの気配を感じる。闇の先に進むたび、それを感じ取っていた。
 途中、幾度か魔物の気配を感じたが、襲ってくるような者はいなかった。皆、息を潜め、闇の中で静かな時を過ごしているようだった。
「……」
 ふぅ、と。穏やかに息を吐き出す。
 戦いは、いつも突然で、こうして息を吐き出す瞬間だけが、最後の自由になる時なのかも知れない。
 千獣は、その魔物の匂いを感じていた。その足音を感じていた。
 そして、闇の中に、一人立つ、闇を纏った剣士を見た。
 全身をなめし皮のような鎧で守っている。両手で構えるのは、小ぶりの剣だ。表情は見えない。いや、そもそも、剣士に顔があるのかどうかも怪しい。兜で覆われた顔は、闇なのだ。闇を纏っていると言うよりは、その部分は闇そのものと言うほうが良いだろう。
 その切っ先は、しっかりと千獣に向けられていた。
『立ち去るが良い、異の者よ』
 地に響くような重い声。
 退却を促す言葉に、千獣の全身が総毛立つ。その言葉とは裏腹に、剣士の剣は既に千獣を捉えていた。剣士に背を向けるのは危険だ。とは言え、このまま剣士と向かい合ったまま退却するのは難しい。肌で感じるのは剣気。それが、このまま千獣を無事逃がさないと告げていた。
 あちらの領域を侵しているのは自分。
 けれど、このまま黙ってやられるわけにもいかない。
 千獣は、腰を落とし、相手の初撃に備えた。

□04
 それは、当然の出来事で、一瞬の間だった。
 ひゅ、と、小さな音がして、小ぶりの剣が走る。それは、歌うように軽やかに千獣の間合いまで飛び込み、視界の端から斜めに斬りつける。
 遅れて、襲ってくる闇の波。
 千獣は、剣士の剣を、姿勢を低くかがめてかわす。
 ざし、と。足音だけが響く。剣士の横をすり抜けるように飛び、闇の波も避けた。すれ違う瞬間に、ぶんと腕を振り上げたが、それは空を切った。
 ちりちりと、剣士の剣気が千獣の肌を焼く。
 千獣は、しかし、そんな事には、全く動じない。
 ただ、再び剣士と向かい合った。
 お互い、一撃が勝負を分ける事になると理解する。
 千獣は、それでも、相手に向かって駆け出した。打撃を繰り出すため、腕を構える。走りながら風を切り、相手の間合いにあっさりと踏み込んだ。ぶん、と、もう一度千獣の腕が剣士を狙う。剣士は、それを受けない。流れるような足の運びで、静かにかわす。千獣の身体は、勢いで浮いていた。そこへ、剣士の渾身の一撃が入る。闇の波を乗せた、剣士の一振り。ごうごうと、まるで炎の剣のような音を立て、その一撃が千獣を襲った。
「……、っ」
 ぐっと奥歯をかみ締め、千獣は腕に力を込める。
 狙いを外した腕を、それ以上の力で押さえつけ、流れる方向をコントロールした。
 腕は、地面を掴み、次のアクションで千獣の身体を上空へ飛ばす。はらりと、長い髪の先が少しだけ、剣の闇に触れた。千獣は、剣士の一撃を腕の力だけで避けるや否や、次には空中で身体をくるりと回転させ落下する。
 そのスピードも力に変えて、剣士の首を蹴りつけた。
 がずん、と、剣士の鎧が派手な音をたてる。剣士が姿勢を崩した反動だ。
 千獣の蹴りは、綺麗に戦士の首を捉え、戦士はその場に跪いた。

□05
『ぐ、わ、あ、……、渡さない』
 剣士は、それでも、苦しそうに立ち上がった。剣を支えに、ずるずると千獣との距離を取る。
「……、?、渡す……、私、は、何も取らない……よ?」
 千獣は、そんな剣士を見て首を傾げた。
 今この瞬間こそ、かの者に止めを刺すチャンスだと言うのに、千獣にはそんな気はさらさらなかった。ただ、剣士がよほど必死なのが不思議だった。
『なに、を……? アレを奪いに来たのでは無いのか、ならば、な、ぜ?』
 がしゃん、と。剣士の鎧が鳴る。
 剣士は、それでも、千獣との距離を測っているようだった。
「勝手、に、……、縄張り、に、入って……、ごめん、ね」
 闇に包まれた剣士に、千獣は語りかける。先ほどのような、問答無用の戦闘になる事はなさそうだ。そう、先に縄張りを侵したのはこちらのほうだ。それは、謝るしか無い。
 頭を下げる千獣を見て、剣士は剣を下ろした。
『では、本当に、奪いに来たのではない、と?』
 千獣は、こくりと頷く。もとより、そのつもりで、もし強引に奪いに来たと言うのなら、先程の一撃で剣士を倒していただろう。
「……、探検、に、来た、ん、……だよ」
 落ち着いて、剣士に語りかける。
 剣士は、それで剣気を納めた。
 何より、戦っても、自分が勝つ事ができないと、分かったのかもしれない。
『ならば、異な者よ、ここが、終着だ』
 今まで剣士を覆っていた闇が、剣士に収束されていく。闇を体内に取り込み、剣士は体力を取り戻したようだ。けれど、それ故、戦うこともなくなった様子。
「……?」
 千獣は、ただ、剣士の言った事を静かに聞いた。
 そして、剣士の行動を、見ている。
 剣士は、剣をそっと空にかざした。すると、突然、剣士の背に現れた大きな扉。闇の中でもはっきりと分かる、重圧。その先に、今までうっすらと感じていた何かの気配があった。
 ぎい、と。
 剣士は扉に手をかける。
 そして、千獣を手招きした。

□Ending
 溢れて来るのは、闇だ。
 その壷から、闇が溢れて来る。もうもうと、止め処ない。
「こ、れは?」
 千獣は、不思議そうに、その壷を眺めていた。
 扉の先には、小さな部屋があった。四方を石の壁で覆われたその部屋の真ん中に、壷が一つ恭しく飾られている。
『闇を、産む、壷』
 剣士は、その壷の傍らで、大切そうに壷を守っている。
 闇が生まれる壷。
 それは、どんな仕掛けか魔法か。そう言っている今も、壷から闇が溢れて来る。ただ、これは、闇だと言うことだけ。それ以外には、特に、不愉快な感覚も無かった。闇の属性を持つ力? 千獣は首を傾げて、その闇に手を伸ばす。しかし、触れても、触れる事はできなかった。靄のように拡散し、きっと雲のように不確か。
『これ、は、この世界を覆うための闇、だから』
 と言うことは、これが、この闇の世界の起源?
 もう一度、その壷に触れて、そこに在るのだと感覚を確かめた。
「ありが、とう」
 それから、千獣は剣士にぺこりと頭を下げ、帰路についた。
 剣士は、もう、何も言わない。
 ただ、静かに千獣を送り出した。

▼千獣は闇の溢れる壷を発見した!
<End>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3087 / 千獣 / 女 / 17 / 異界職】

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■         ライター通信          
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□千獣様
 こんにちは、いつもご参加有難うございます。
 Interstice of dimensionでは、初の冒険でしたが、いかがでしたでしょうか? よろしければ、また遊びに来てやってください。
 発見した物につきましては、後日Interstice of dimension内にも追加致しますので、ご確認下さい。
 少しでもお楽しみ頂けたら幸いです。
 では、また機会がありましたらよろしくお願いします。

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