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■D・A・N 〜First〜■

遊月
【2778】【黒・冥月】【元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
 自然と惹きつけられる、そんな存在だった。些か整いすぎとも言えるその顔もだけれど、雰囲気が。
 出会って、そして別れて。再び出会ったそのとき、目の前で姿が変わった。
 そんなことあるのか、と思うけれど、実際に起こったのだから仕方ない。
 そんな、初接触。
【D・A・N 〜First〜】


「うぅ〜もう! しつこいー!!」
 前方から聞こえてきた声に、黒冥月は小さく眉をひそめた。軽い足音を大勢の足音が追う形で聞こえてくる。
(……面倒事はごめんだ)
 徐々に近づいてくるそれは自分に面倒事を持ち込む。そう冥月の勘は告げていた。
 素知らぬふりで通り過ぎるか、と行動を決定しそのまま歩けば、視界に不穏な光景が飛び込む。アンティークドールのような少女が柄の悪い男達に追いかけられている図だ。
 声の主はかわいらしい少女だったようだ。煌く長い金髪を、深紅のリボンでツインテールにしている。
 その少女を追うのは幾人かの男達だった。いかにも不良ですと言わんばかりの染めた髪とジャラジャラした装飾品。品の悪さが顔にも表れている。
「鏡見て出直して来いって言ったでしょ! このロリコン!!」
「…っんだとぉ!」
 黒基調のゴシック風ワンピースに身を包んだ少女は、追いかける男達に向けて叫ぶ。もちろんその内容は男達の怒りを助長させるものでしかなかった。
「事実じゃない! こんな少女にナンパするなんてロリコン以外の何者でもないわよ。って言うかいい加減ついてこないでよストーカー!」
「っこのクソガキが…!」
「あーもうなんで誰も助けてくれないのよー! か弱い女の子が強面のお兄さん達に追いかけられてるって言うのに! 意気地なしばっかりなの!?」
 言いながら少女は走る。あれだけ叫んでよくも息が乱れないものだ、とのんびり分析する冥月。とはいえそちらに目を向けるなんてことはしないが。
 と、少女が冥月に目を向ける。そして満面の笑みになったかと思うと、すごいスピードで冥月に駆け寄った。
 ……ものすごく嫌な予感がする。
「あぁ、やっと会えた!」
 …いや誰に?
 思わず心の中でつっこむ。
「待ち合わせの場所に来ないから心配してたのよ? しかもそのせいでこんなのに捕まるし!」
 こんなの、の部分で背後の男達を指差し、少女は冥月の腕をがしっと掴んだ。そして冥月にささやく。
「さっきからずっと追いかけられてて困ってるの。助けて!」
「わたしには関係ない」
「か弱い可愛い女の子を見殺しにするつもり?」
 どこがか弱いんだ、と冥月は思った。見た目は確かにか弱いが、性格はか弱くもなんともないだろう。
 というか自分で「可愛い」などと言う時点で大分いい性格をしているのは確実だ。
「……自業自得なんじゃないのか。大方余計なことを言ったんだろう」
「そんなことないわよ? ただ自分の顔のレベルくらい見極めてから女に声かけなさいって言っただけだし」
 明らかに自業自得である。
 とは言え、既に関わったようなものだ。己らを取り囲んでいる男達に視線を遣って溜息をつく。
「このクソガキ…てこずらせやがってッ!」
 言葉とともに少女に向けて出された手を、ぱしりと払いのける。
「まったく……仕方ない」
 言うと同時、正面の男に当身をくらわせる。次いで左右を塞いでいる男達を軽く昏倒させる。
 あまりの早業に、何が起こったかわかっていない者、唖然としている者と多様な反応を見せている男達。
「うわぁすごーい」
 パチパチとのんきに手を叩いて賞賛を送る少女の手を掴んで、走り出す。
 とりあえず逃げた方が無難だろう。少女という足手まといがいるのだから。
 そう考えつつ、我に返って追ってきた男達を見る。心なしか増えているようだ。
 何故自分がこんなことに、と思いつつも逃げる足は緩めない。少女に合わせて大分速度を落としているのだ、少しでも緩めれば追いつかれる可能性がある。
「きゃっ」
 がくんと繋いでいた手に負荷がかかって、離れる。立ち止まり後ろを見れば、地に膝を付いている少女。
 転んだのか、と思う間に男達が近づいてくる。
(……本当に、何故私が)
 小さく舌打ちして素早く少女を抱き上げる。俗に言うお姫様抱っこの状態だ。
 そのままぐんと走る速度を上げて、男達を巻く。数分もかからなかった。
 元居たところから大分離れた公園に足を踏み入れ、少女を下ろす。
 少しよろけつつも無事に立った少女は、冥月を見上げて満面の笑みを浮かべた。
「あなた強いのねぇ。惚れ惚れしちゃう」
「惚れなくていい。…というか私は女だ」
「あら。愛に人種も性別も年の差も身分も関係ないのよ?」
 可愛らしく首を傾げて自分を見上げてくる少女に溜息を吐く。
「嗜好は関係する。私はノーマルだ」
「相手の嗜好さえも変えさせてしまうほどの愛って、憧れない?」
「憧れない。……そもそも私には好きな人がいる」
 まさか本気ではないと思うものの、このままだと延々と押し問答を繰り返す気がして、冥月は言った。
 何が悲しくて会ったばかりの名も知らぬ少女に、好いた人の有無を言わねばならないのか。
「そうなの? でも略奪愛って、燃えない?」
「燃えるか」
 ああ言えばこう言う。キリがない。
 深く息を吐いて、少女を見る。
 ……そういえば。この少女は転んだのではなかったか。
「おい」
「なぁに? 嗜好を変える気にでもなった?」
「違う。と言うかいい加減その話から離れろ。……そうではなくて、怪我は」
「怪我? ないわよ?」
「転んだだろう。…そんなに上手い転び方をしたのか」
「そうそう。だから怪我はないの。アーユーオーケイ?」
 どこか嘘臭い笑顔で言う少女だが、怪我がないのは事実のようだ。擦りむいた様子すらないのは腑に落ちないが。
「まぁとにかく。助けてくれてありがとう。優しいのね」
「お前が巻き込むからだろう」
「でも実際、助けてくれたのには変わりないでしょう? ……というわけでお礼をしたいの」
「礼?」
 至極真っ当な意見ではあるが、この少女が言うとなんだか裏があるのではと勘繰ってしまいそうになる。
「ただ……あまり時間がないのよね」
 そう言いながら沈もうとしている太陽を見る少女。
「門限でもあるのか? ならば早く帰るんだな」
「ううん。……ああ、でも門限と言えば門限なのかしら?」
 薄く、少女が笑う。
 ――…それはどこか、底知れぬ。
「………?」
 怪訝に思い、少女に視線を遣る。
 視線を受けて、少女はにこりと笑った。どこか作り物めいた笑み。
 沈みゆく夕陽の最後のひとかけらが、少女を照らす。
「時間切れみたい。……残念。もっとあなたと話したかったのに。でもまあ、フィノが上手くやってくれるわね、きっと」
「フィノ…?」
 言の葉に載せられた知らぬ名を繰り返し、問う。しかし少女は答えぬまま、笑みを深め――。
「?!」
「それじゃあね。……ちゃんとした自己紹介は、また、『あたし』が『あなた』と会ったときにでも」
 少女の輪郭が、揺らぐ。色彩が褪せて、薄れる。空気に溶ける。
 そして極限まで薄れたそれは、陽が完全に沈むと同時、再構築される。
 揺らいだ輪郭は、先ほどよりも硬いフォルムで、しかしはっきりと。
 褪せて薄れた色彩は、色を変え、鮮やかに。
 そして先ほどまで少女が立っていたそこには――…1人の少年。
 雪のように白い肌、腰まで届く流れる白銀の髪。
 穏やかに細められた瞳は、紅玉の赤。
 どこか儚げなその少年は、冥月に視線を合わせ、笑う。
「こんばんは、おねえさん。そして初めまして。僕はフィノといいます。……驚きましたか?」
 微動だにしない冥月に、無邪気に問う少年。
 は、と我に返った冥月は、小さく頷く。
「まぁ、多少はな。……一体お前達はなんなんだ」
「ふふ、特殊体質と言うやつです。僕とシエラは――ああ、シエラというのはさっきまで貴方と一緒にいた子のことですが――少々変わっていまして。太陽が出ている間はシエラ、太陽が沈んでからは僕が、存在することになるんです。…まあ、感覚的には二重人格みたいなものですね。片方が存在している間には、もう片方は存在できないですから」
「………そうか」
 それだけ言って、冥月は少年に背中を向けた。突然の行動に少年は目を丸くする。
 広い世の中、そう言う奇想天外な特殊体質の人間もいるだろう。
 それはともかく、これ以上ここに留まる理由はない。自分が助けたのは少女、礼をしたいと言ったのも少女、ならばこの少年とはなんら関係ない。
「わ、ちょっと、おねえさん?」
「……なんだ」
 少年に腕を掴まれて仕方なく立ち止まる。振り払うことももちろんできるが、この少年は振り払ったらその勢いで地面と激突しそうで怖い。あっさり頭とか打って死にそうだ。
(妙に儚げなのがな……)
 扱いづらい。
 腕を掴んでくる手も男にしては細い。成長期を過ぎていないからと言うのもあろうが、それだけではない細さだ。
「シエラも言っていたでしょう? お礼をしたいと」
「それが?」
「それは僕もです。僕も貴方にお礼がしたい」
「お前には関係のないことだろう」
 冥月の言葉に少年は首を振る。否定を紡ぐ。
「いいえ。シエラが助けられたのは僕が助けられたと同義。だからお礼を」
「礼など必要ない」
「必要ないと言われても、お礼をしなければ気が納まりません。自己満足だと仰られても結構です」
 強情な少年の言葉に溜息を吐いて、冥月は少年に向き直る。適当にあしらえそうもなかった。
「どうしろと言うんだ。私はお前に付き合っていられるほど暇じゃない」
「でしょうね。貴方はシエラに巻き込まれたのですし。……ですから後日、改めてお礼をさせていただけませんか?」
「後日?」
「ええ。なのでとりあえずお名前をお伺いしたいのです。…改めて自己紹介しますが、僕はフィノ。そして貴方が最初に会った金髪のあの子がシエラです」
 にっこり笑顔で見上げてくる少年。その無言の圧力に、冥月は仕方なく名乗る。
「……黒冥月だ」
「冥月さん……綺麗な響きのお名前ですね」
「………」
「では、次に会うときまでにお礼、考えておきます。…ああ、もし希望があれば仰ってくださいね。出来うる限り叶えますから」
「……そもそも、いつ会うと言うんだ」
 次会うとき礼をすると言いながら、その『次』がいつかは不確定のまま進む少年の話に思わず口を挟む。
 すると少年は、何か含むような笑顔を浮かべ―――。
「『次』ですよ。何時かなんて明確なことはわかりませんが……僕たちと貴方は、必ずまた会います。近いうちに」
 謎めいた血色の瞳で、笑う。
「……ああ、暗くなってしまいましたね。お引き止めしてすみません、冥月さん。夜の女性の一人歩きは危険だと聞きますから、十分にお気をつけてお帰りください」
「おい、」
「それでは、また」
 それだけを言い残し、少年は消えた。文字通り。
 突然現れ、人を面倒に巻き込むだけ巻き込んでいなくなった少女。
 それと入れ替わるように現れ、言いたいことだけ言って瞬きの間に姿を消した少年。
 極短い間に会った2人を思い浮かべて、苦々しく冥月は呟いた。
「また、妙なのに関わってしまったみたいだな……」
 そして深々と、息を吐いたのだった。
 
 

 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2778/黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)/女性/20歳/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜First〜」にご参加くださりありがとうございます。

 シエラとフィノ、如何でしたでしょうか。
 『一筋縄ではいかない』部分ばかりが前面に出ちゃっている気がしますが、本当は可愛い…はずです。
 始終冥月様に溜息を吐かれっ放しのNPCですが、どうぞよろしくしてやってくださいませ。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。ご縁がありましたらまたご参加ください。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。