コミュニティトップへ



■縛りの糸■

志摩
【6145】【菊理野・友衛】【菊理一族の宮司】
「なっつー、手伝ってー」
「兄さん、どうしたんですか?」
 声色はいつもと同じ、けれども少し緊張している南々夜。
 その雰囲気を奈津ノ介は感じ取っていた。
「うん、ちょっと大変なお仕事なんだよねー、華ちゃんから……だけど千ちゃんからでもあるみたいなー」
「ああ、そっちのお仕事ですか」
 奈津ノ介に出された茶を飲みながら南々夜は答える。
「よーきちゃんも千ちゃんも駄目だし…藍ちゃんも誘うけどボクとしてはなっつーに来てほしいんだよねー。ほら、どんなものか見てほしいから」
「南々兄さん、僕には無理ですよ」
「そう言わずにさ、ね?」
 にこにこと笑い合っているのだけれども腹の探りあいのような雰囲気。
「ね、なっつー?」
「……わかりました……」
 溜息一つつきつつ、奈津ノ介は承諾する。
「あ、皆も行くー?」
「え、そんな風に言っちゃって大丈夫なんですか?」
「うん、人数多い方が気をつけられるかなーって」
 軽く笑ってそう言い、南々夜は立ち上がった。
「二階の扉から行くよー」
「もうお気楽ですね兄さんは。親父殿起こしてから行きましょうか」
「うん、叩き起こすよー」
 あはっと南々夜は笑い階段を登っていく。
 そして向かうのは倉の最奥。



縛りの糸




 細くて、長くて、強い糸。
 意図するように糸が絡んでいく。
 美しく巣を張って、待っている。
 動き出すのをその蜘蛛は。
 絡め取って、動けない。




 銀屋の二階には倉がある。
 不思議なことに、そこはどうみても銀屋の建物からはありえない広さ。
 そこは不思議な力で存在する。
 そして、その奥にある黒い、扉。
「ここから行くんですか」
「うん、すぐだからね。ボクが開ければー」
 しゃらんと南々夜の右手には金の輪。それが揺れる。
「というか、この腕輪があればなんだけどねー、えい」
 そう言って、軽く押された黒い扉。
 その扉の先には、欝蒼と茂る緑。
 濃く深い緑の森がそこに静かに静かに広がっていた。
「手品みたい!」
 わぁっと瞳をきらきらさせ、百合子は言う。
「―白山……準備はできた……って何で二階が山なんだ!?」
 虚空を撫でて日本刀を召喚した友衛は、突っ込みを入れつつ、苦笑する。
「世の中には不思議がいっぱいだからねー」
 踏み出す先、しっとりとした土の感触。
「あのねー、危険もあるけどおっけー? 気持ちも色々もおっけー?」
 と、踏み出して南々夜は振り向き、全員に問う。
「危険なのは最初から承知よ。いざとなったら友衛を縦にするし」
「おい」
 にこりと笑みを浮かべた蒼依の言葉にじっとりとした視線を友衛は返して、思う不満を伝える。
 だが蒼依にとってはそんなこと怖くもなんともない。
軽く流してそれで終わり。
「状況からして少し厄介そうですよね、何か策を考えないと……」
 と、またまた銀屋でのんびりしていたところを話をきいて手伝うことを快く引き受けた亜真知は思案する。
 南々夜が持ってきた話は、山奥にて巣食う蜘蛛の悪い妖怪退治。
 妖怪の間にも、良い悪い、そして派閥のようなものはある。
 南々夜はその中で、悪い部類にあてはまる妖怪を退ける仕事もしていたりするのだった。
「うん、今回はいっぱいわさわさいるからねー、ちょっとボクだけじゃしんどいかなって、なっつーも、頑張って」
「……それなりに、ですよ」

「まー、気をつけながら適当に楽しくねー」
「この状況で楽しくなれるわけなかろうが」
 ふぁ、と叩き起こされた藍ノ介は不機嫌そうに言って南々夜を睨む。
「あははー、でもきてよねー。じゃあれっつごー!」
 一番前を進んでいくのは南々夜。
 その後を、亜真知が進み、蒼依、友衛、奈津ノ介、百合子、藍ノ介と続いて行く。
 山道は思っていたよりも緩やか。
 けれども進むたびに、緑はさらにさらに、濃くなっていく。
「山の匂い……」
 百合子は言って、その空気を感じる。
「山かぁ……山だなぁ」
「山以外にどこだって言うんですか。おツムの悪さを披露しないでください」
「……子が冷たい」
「しっかりなさってくださいね」
 にこりと亜真知は言って追い打ちをかける。
 穏やかながらも厳しく。
「奈津、お父様大変ね」
「ええ、大変なんです」
「不憫だなぁ……」
「藍ノ介さんがんばれっ!」
「無理だ」
 軽い笑い声を響かせながら、彼らは進んでいく。
 だがしばらく歩いて行くと、空気の質が変わる。
 その瞬間に、話声も笑い声も、嘘のように消え去った。
 肌に突き刺さるような、冷たく深々とした場。
 その一歩の違いで世界が変わったような感覚。
「……ここから、テリトリーのようですね」
 静かにおちついて亜真知は言ってあたりを見まわす。
 かわりがないようで、ある。
「友衛」
「ああ」 
 そして、どこからか向けられる視線。
 百合子はささっと、藍ノ介のそばによる。
「‥‥ぎらぎらですね、雰囲気は」
「ごめん、予想以上に、かなり、多いかも」
 ざわ、と周りが動くと同時に赤い瞳が光る。
 うごめくそれは、暗闇に確かな敵意をもってあった。
「私が防御を、皆さまは思う存分に」
「百合子、離れるなよ」
「うん、しっかりそばにいる。蜘蛛って夜に殺しちゃダメとか、害虫を食べてくれるから悪いものじゃないってよく言うよね……あれ? それじゃ、もしかして食べられちゃいそうな私たちって害虫!?」
「食べられるのはいやだなぁ……」
「わしはうまくないぞ」
「あはははー、きっと一番おいしよー」
 確かにいつ襲われてもおかしくない状況。
 それでもどこか、話をそらしながらも冷静でいられるのは、一人ではないから。
 じりじりと詰る距離、けれどもその膠着に近い距離を、崩す存在が、あった。
 薄暗い山の中が、さらに暗くなる。
 そんな錯覚。
 降ってくるような影は大きく重いイメージ。
「!」
「上!!」
 視線の、先には。




 世界が、真っ白。
 そして真っ暗。
 どちらかわからない。
 けれどもしっかりと感覚はある。
 自分がいて、自分がいる。
 走っている感覚。
 見覚えのある景色。
 そしてたどり着く。
 心が冷えていく。
 走っている自分と、見ている自分は違うのに、同じ。
 急いで、急いで、そして目にした結末。
 自分の恋人は狂い、その彼女を手にかけたのは自分。
 いくら、いくら蒼依を守るためといっても、それは、自分の心を抉る以外の何でもない。
「…っ…!!!!」
 それは、今も同じ。
 片手で、友衛は顔を覆う。
「あの時……俺は……」
『この時、お前は?』
 呟きに呼応するように、優しい声。
 その声に促されるように、友衛は声を漏らす。
「俺は……失敗した儀式で……蒼依を守る為に……」
『守るため生まれた歪みなら、いいじゃないか。それごと、お前ごと私に委ねるといい』
「守るためっ……に……おおおおおっ!!!」
 友衛に、その声は届かない。
 手にしていた刀を、振り上げる。
『!!』
 その刀のひと振りで、白の世界が途切れる。
「! 自力!?」
 裂かれた白い糸の中から倒れつつもでてきた友衛は、そのまま眼の前の敵に、向かう。
 振り下ろされる刀の勢いは止まることはない。
「――飛炎!!」
 叫びににたその声とともに、炎が舞い上がる。
 それは、敵を焼く焔。
 止めるに止められないその様子に、南々夜は困る。
「おちついてー、って言っても駄目だよねー……」
 きっと止めることができるのは、蒼依だ。
 南々夜は彼女のいるはずの糸に手をかける。
「あおちゃん! 無事!?」
 引きちぎられていく糸。
「ボクじゃ無理! たーすーけーてっ、ボクが止めるとやりすぎるかもしれないー」
「糸が……ありがとう……友衛ね」
 困ったような南々夜の声に、蒼依は視界に友衛を収める。
 なりふりかまわず、日本刀を振り回し敵をなぐ。
 そして式神を呼び、焔の海。
 その戦い方は、自分をも傷つけている。
「友衛っ!!!」
 名を呼んで、蒼依は縛っていた糸を、解く。
 はらりと友衛から離れる、紅糸。
「……蒼依……?」
 その途端、ガクッと力が抜けたように膝をつく友衛。
 動きをとめた友衛に、蜘蛛が襲いかかる。
 だがその動きは、蒼依の糸によって阻まれる。
 その瞬間に、南々夜が引きずるように、友衛を連れ出す。
 そのまま、三人は亜真知と、百合子のもとへ。
「退くよ!」
「でもまだ、他の方が……」
「……だいじょーぶだよ、二人なら。それに、今、みんなくったりだし」
 分が悪い、と続けて南々夜は言う。
「追ってくる糸は私が切ります。私が糸に捕らわれないのは実証済みですからね」
「そうだねーあまっちゃんに任せる」
 今まで攻撃をはじき、切りさいて全てを払っていた亜真知。
 その実力を目の当たりにしていた南々夜は、信頼を表す。
「あおちゃんはー? いける?」
「なんとか……友衛」
「動けは、するから大丈夫だ」
「百合ちゃんはボクが背負ってくし、走るよ!」
 糸の中において行くのは、奈津ノ介と藍ノ介。
「また戻ってくるんだよね?」
「うん、取り返しにくるよー。二人の目がさめないうちにねー」
 後ろから追ってくる蜘蛛の大群。
 糸は亜真知が切り、そして弾く。
「目は、覚まさない方がいいのか?」
「うん、覚ましちゃうとねー、よろしくないって聞いてるけどーどうなるかまではわかんない!」
 ざっと山の斜面を走って走って、あいたままの扉が視界に現れる。
 来た時と変わらず、空いたまま。
 扉の向こうは、倉だ。
「無事に辿り着きましたね」
「うん、とりあえずはね。でも糸ついてたらとっておいてね。危ないからー」
 黒い扉は、重たい音をたてて、閉じる。
 狭まっていく山への、道。
 その閉じられていく扉の先をそれぞれ眺めながら、思うことは様々。

 守るためでも、それでも。
 ……気まずいというか、なんというか。
 居心地の悪い感覚だ。

「みんな真剣な顔だね」
 ふと声が響いて引き戻される感覚。
 扉はいつの間にか閉じて、山の匂いもかき消えていた。
「また、この扉をあけていくのか?」
「行くよー、行かなきゃダメだからねー。あんなに強いのがいるとも思わなかったし……でも、皆は、休むのが先だからね」
 先に南々夜は言う。
「休むのは、体もだけど気持ちも、だからね」
「そうね……いつ行くの?」
「それはねー、内緒。いつ行くっていったら来るでしょー? また危険な目にあわすわけにはいかないしね」
 南々夜の言っていることはわかるけれども、気持はそれに追いつかない。
「でも、ちゃんと元気になってたなら止めないからー。今日は、ここで終わり」
 半ば無理やりに近い形で、二階から下ろされていく。
 階段を下ろされながら最後にみた黒い扉は、来た時と変わらなままあった。




「蒼依、今日あったことは……忘れてくれ。きっと何があったか、わかってるだろう、頼む!」
「それは……ええ、わかったわ」
 蒼依は友衛の言葉を受け取り、頷く。
 静かに瞳を伏せながら。
 白いあの世界で、何を見たかなんて、それぞれすぐに思い浮かぶ。
 どちらの心も、晴れることは、ない。




<END> and...




□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【1593/榊船・亜真知/女性/999歳/超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【5976/芳賀・百合子/女性/15歳/中学生兼神事の巫女】
【6077/菊理路・蒼依/女性/20歳/菊理一族の巫女、別名「括りの巫女」】
【6145/菊理野・友衛/男性/22歳/菊理一族の宮司】
(整理番号順)

【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】
【NPC/南々夜/男性/799歳/なんでも屋、実行者】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 お久しぶり、な感じのライター志摩です。
 ご参加ありがとうございましたっ。
 さて、このゲームノベルはちろっと書いておりましたとおりに草間興信所依頼へ続くということで負け戦でした。次は、勝ちに参ります。
 歪みを引き出す蜘蛛さんはうぞうぞといっぱい。次もいっぱいです。でも蜘蛛さんよりも強い妖怪さんも、でてきます。誰が出てくるかは、お楽しみですね・
 そして奈津と藍ノ介は残ったままで、皆さんによってどうなるのかわたしもどきわくしていたりもします。
 ではでは、草間もご縁がありましたら参加くださいませ!