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■東京魔殲陣 / 陰陽の下僕■

ウメ
【5326】【恋・―】【悪魔】
 
 夢幻の霧に抱かれて眠る女王の都  霧都『倫敦(ロンドン)』
 阿片と背徳の芳香り漂う爛熟の都  魔都『上海(シャンハイ)』
 人の夢と欲望に彩られた狂乱の都  狂都『紐育(ニューヨーク)』
 
 そんな、世界に名だたる魔都・妖都と肩を並べる都が此処に在る。
 終わりのない、果てのない怪奇を朋輩として、今日も物語を綴り続ける都。
 其の名は最早言うに及ばず。されど、いま一度だけ唱えよう。
 
 無尽の怪奇と妖が、群れし綾なす我らが都。
 其の名は帝都。……帝都『東京(トーキョー)』
 
†††

 ――どこぞのイカれた陰陽師が、喚び出したまま野に放った野良式神が暴れている。

 そんな噂を耳にした「あなた」は、その胸に燃える正義の心か、はたまた単なる好奇心か……。
 如何なる理由か、それは「あなた」にしか分からない事ですが、兎に角その野良式神の退治に打って出ます。

 そして、その野良式神を周囲や一般人にに被害が及ばないようにして討つために、「あなた」は最近巷で噂に上るようになった「ある方法」を用いることにしました。
 その方法とは、「魔殲陣」と呼ばれる結界に標的を術の力で強制的に「召喚」し結界の内でその魔物と戦うというもの。
 その開発には東京のどこかにあると云う「怪しげなアンティークショップの店主」が関わってるとかいないとか……

 ……果たして上手くいくのでしょうか?
 すべての結果は、「あなた」の力と技、そして知恵にかかっています。
 
東京魔殲陣 / 陰陽の下僕

◆陰陽の下僕◆

―― 眠りから覚めて、眼を開けると、其処は檻の中だった。

なんとも現実離れした、ある意味文学的ですらある言い回しだが、それが実際に自分の身に起きたとしたら、どうだろう?
「……俺、なんか悪いコトしたかな?」
十中八九、いまの彼のように戸惑うことだろう。
檻に入れられるような覚えがないのだから当然と言えば当然の反応だ。
「ぐ、ふるるるるるぅ……」
しかも、だ。
その檻の中には運悪く……と言うかなんと言うか、とにかく自分以外の、何かこう猛獣っぽいモノがいたりするのだ。
「これは、アレですか? 最初からクライマックスだぜ、とかそう言う話?」
……確かこれは、東洋の物の怪『鬼』のひとつで馬頭とかいう種のはず。
自分に向かって息を荒げる馬面のバケモノを見て、少年はぶっきらぼうにそう呟く。
肩口で切り揃えられた黒髪に、見た目にも艶やかな花魁衣装。
表情に乏しい中世的な顔立ちゆえに女性と間違えられることも少なからずあったが、彼はれっきとした男性である。
「こりゃまた、厄介なところに出現(で)ちゃったなぁ……」
心底困ったような体でそう呟きながら、ぽりぽりと頭を掻く少年。
何故、自分がこんな場所にいるのか。答えは簡単、それは少年自身が有するある性質に拠る。
「喚ぶだけ喚んどいて、気絶してる術者ってのも相当アレだよね……」
周囲を良く見れば、少年と相対する馬頭の向こう側に何やら術着を纏った人の姿。
うつ伏せに倒れ気を失っているため、その顔貌を確認するのは難しいが、おそらくアレが今回の少年の『主』なのだろう。
そう、この少年……恋は、実を言うと人間ではない。
ソロモン72柱の1にして豹の顔とグリフォンの翼を持つ地獄の大貴公子。
序列第12位を誇る魔神シトリーと契約することによって悪魔と化した元人間。
それが、恋と名乗るこの少年のカタチをした悪魔の本質である。
使い魔という階級であるが故に、これまでにも何度か人間の魔術師に召喚され使役されたことはあったが、正直、こんな珍奇な事態は初めてだった。
「ま、いっか。アレコレ口うるさく命令されるより、独りのほうが気楽だし」
状況から察するに、恋を喚び出した術者の意図はハッキリしている。
ならば、たとえ術者がどんなヘタレだろうと、それを遂行するのが使い魔としての自分の務めだろう。
そう考えて、恋はとりあえず腹を括った。
「さて、死なない程度に頑張るか……」

◆逃げる悪魔◆
―― ゴゥ……ッ!
大上段から振り下ろされた馬頭の爪が、唸りを上げて吹き荒ぶ。
「おお、怖い怖い。あんなの喰らったら一瞬でボロゾーキンだね」
自分に向かって繰り出された爪撃を、ひらりひらりと躱しながら、恋は思わず口にする。
だが、その言葉の持つ意味とは裏腹に、恋の顔貌は相も変わらぬ無表情。
その様は、見ようによっては相手をおちょくっている風にも見えるのだが、当の本人は至って本気である。
「ウゴァァァァァッ!」
しかし、だからこそなお性質が悪い。恋のその言動は馬頭の怒りを大いに刺激した。
(戦い始めてみたものの……さて、どうやって勝ちゃいいのかね)
怒りに任せて滅多矢鱈に繰り出される馬頭の攻撃から身を躱しつつ、そんなことを考える。
蓮は、確かにその存在こそソロモンに属する悪魔ではあるけれど、その戦闘力は低く、率いる軍団もない。更に言えば、魔力を持たない故に魔術を行使することも出来ない。
得意分野は、逃げることと、ひとりぼっちで行動すること。
たまに自分は本当に悪魔なんだろうかと思うこともあったりするが、まぁ、今は脇にどけて置こう。
「……とりあえず、逃げながら考えるか」
馬頭の放つひときわ力の篭った一撃。躱すと同時に地を蹴って大きく後退、間合いを取る。
筋力、速力、瞬発力に持久力。およそ戦闘に於いて必要とされる力の中で、恋が馬頭に勝っているものは殆どない。
だが、こと逃避と言うその一点に於いては恋に部がある。「逃げる」という行動にスピードはそれほど重要ではない。
そういった意味で恋の能力は、敵の手から逃がれ・身を隠し・姿を晦ます、即ち隠行術に特化していると言えた。
ゆらゆらと風に靡いてその身を揺らす花魁衣装。その袂の中に手を引き入れて、内から『それ』を取り出した。
指の間に挟まれて銀光を放つその様は、風にはためく朱の袂と相まって、蓬莱に棲まう極楽鳥の典雅な羽先を思わせる。
恋の手に握られた、合わせて八つの投擲用短剣。
それは、恋が備えた唯一の『武器』である。

◆おにごっこ◆
朱の袂を躍らせて、恋の腕が降り抜かれる。
―― ヒュォン!
そこから放たれた投擲用短剣は、虚空に銀の輝きを描き、一寸の狙いも違わず馬頭の大腿部に深々と突き刺さる。
ざくり、という肉が裂ける音。遅れてやってくる鋭い痛み。
「るぐぉぉぉぉぉッ!」
堅牢な筋肉の鎧に守られた馬頭にとって、恋の力で投げられた短剣の攻撃など、どこまでいっても『その程度』でしかない。
だが、それとて限度と言うものがある。無論、肉体的な限度ではない。精神的に、だ。
恋の手からこれまで放たれた短剣は全部で七つ。左肩、左脇腹、右腕、左太腿、右膝、首元、右太腿。
ひらりひらりと馬頭の攻撃を躱し、距離をとり、逃げ回りながら放たれる短剣。
ひとつとして致命傷になるようなものはないが、それだけに鬱陶しい。
吹けば飛び、触れれば折れそうな、食いでのない獲物風情がちょこまかと……。
恋に対する馬頭の苛立ちは、もはや限界に達しようとしていた。

「ふぅ、これで七つ……か」
七投目の短剣が狙い通りに馬頭の太腿に突き刺さったのを見て、恋はふぅと溜息を吐く。
一撃でも敵の爪牙を喰らえば、それで一巻の終わり。
対して自分の攻撃が与えるダメージは、何度重ねてもそれには全く及ばない。
はじめから判っていた事とは言え、いくらなんでもハンデ有り過ぎ。溜息のひとつも出ようってものだ。
「だけど、あともう少し……かな?」
懐に手を差し込んで短剣の残数を確認する。
ハッキリ言って、自分が立てた作戦に自信は……ない。
けど自分の能力ではそれが限界。それ以外の方法は思いつかない。
「逃げて、隠れて、追い回されて……。まるで、本物の鬼ごっこだ」
そんなことを考えると、いまのこの状況も悪くない。恋の口元が僅かに曲がる。
鬼に捕まったら冗談抜きで喰われてしまうあたりがチョッと洒落になってないが、逃げ足には自信がある。
「さて、と。まだまだダラダラ生きていたいし、あともう少しだけ、頑張ろう」
そう言って、馬頭の方へと目を向ける。
そこには、太腿に刺さる短剣を抜き棄てて、流れる血など意にも介さず、いままさに走り出そうとする獣の姿があった。

◆決着◆
―― ドォォンッッ!!
恋を踏み潰さんばかりの勢いで、いや、実際に踏み潰すつもりで振り下ろされた馬頭の右脚が、地面に大きな穴を穿つ。
だが、その脚の下に潰れて拉げた恋の死体は……ない。
脚を振り下ろす直前に、恋の姿は陽炎のようにゆらりと揺れて、気がつけば馬頭から遠く後方に逃げ果せている。
―― ザクッ!
そんな音とともに背中を駆け抜ける鋭い痛みと不快な感触。恋が放った、通算14本目の短剣だ。
もう限界も限界だ。さっきからチクリチクリと下らない攻撃ばかりしてきやがって!
逃げ回ってばかりでマトモに戦おうともしない。そんな恋に馬頭の頭は既に煮え滾る鉄のように熱くなっていた。
そして、沸き上がるその怒りに任せて身を翻し、後方の恋を睨みつけようとして……
―― ズゥゥゥゥン……
ようやく、自分の体が『動かなくなった』事に気がついた。

三陰三陽十二経。全身の気脈や血脈、気血榮衛のすべてを運ぶ道。
それは、鬼も悪魔も人も動物も関係ない、生在る者ならだれもが有する生命という現象を支えるシステム。
その流れを律することで人は本来備わっている以上の力を発揮する事が出来る。
しかし、それは逆に、その脈を傷つけることで、力を奪い、動きを封じる事が出来ることも意味している。
馬頭に対して力・技・速さ、戦闘に関するおよそすべてで劣る恋が勝つ為に取った策がまさにそれ。
投擲した短剣を寸毫の狂いもなく命中させ馬頭の経脈を断ち、その動きを徐々に鈍らせ奪ってゆく。
馬頭は自分の攻撃を恋が避けていると思っていたようだが、正確にはそれは誤り。
恋の攻撃によって馬頭自身の動きがスピードに劣る恋でさえも避けられるほどに鈍くなっていたのだ。
逃げ回る恋の姿に血を上らせて、己の身体に刻まれた傷の真意を計れなかった馬頭の完全敗北だった。


■□■ 登場人物 ■□■

整理番号:5326
 PC名 :恋・―
 性別 :男性
 年齢 :14歳
 職業 :悪魔

■□■ ライターあとがき ■□■

 注1:この物語はフィクションであり実在する人物、作品、ライダー、セリフ回し、等とは一切関係ありません。

 恋さま、お初にお目にかかります。
 この度は、PCゲームノベル『東京魔殲陣 / 陰陽の下僕』へのご参加、誠に有難うございます。担当ライターのウメと申します。

 実は結構人気者。馬ヅラがチャームポイントな鬼との戦い、お楽しみ頂けましたでしょうか?
 個人的にはバトルの前にチョッとギャグなテイストを仕込めたので書いてて楽しかったです。
 色々と特殊な能力を持っている人が多い東京怪談の世界では『弱い』部類になってしまう恋さまですが、
 弱いヤツには弱いヤツなりの戦い方があるのさ〜と言うことで、こういう決着になりました。

 実はプレイングを拝見したときに「このキャラはいったいどうやって勝つつもりなんだろう……」と
 かなり頭を悩ませまして、ああでもない、こうでもない、と色々考えさせられました。
 もちろん『弱い』恋さまのこと、馬頭にアッサリ捕まって、ザックリやられてハイお仕舞い。という結末ありえた訳ですが、
 逆にそんな恋さまだからこそ「勝たせてやりたい」と思ったりもする訳です。そんな微妙なライター心理。

 さて、話したいことは尽きず、本文よりも後書きが長いなんて洒落にもならないので、本日はこの辺で。
 また何時の日かお会いできることを願って、有難う御座いました。