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■魔女の住処へ■ |
川岸満里亜 |
【3368】【ウィノナ・ライプニッツ】【郵便屋】 |
「ファムル君、ファムル・ディート君、いるか!?」
自称天才錬金術師ファムル・ディートはけたたましい声と、玄関のドアが激しく叩かれる音で目を覚ました。
ボロドアだ。そんなに叩かれたら、壊れてしまう。いや、壊れたら弁償してもらえばいいか、そうだ、豪華なドアを作ってもらおう! 男性のようだし。
そんなことをぼーっと考えながら、のっそり起き上がり、玄関のドアを開いた。
「いるんなら、早く出たまえ、息子の一大事だというのに!」
「ああ、ローデスさんではありませんか、こんな小汚い場所にわざわざ出向かれなくても、私が伺いましたのに」
ずかずかと入り込んできたのは、暇さえあれば診療所に入り浸っているダラン・ローデスの父親である。ファムルのスポンサーでもあるため、男性とはいえ、蔑ろにできない存在だ。
「ダランなら今日はまだ来ていないようですが」
ファムルが眠っていようが勝手に入ってくるダランだが、今日は玄関に靴が見当たらないため、まだ来ていないらしい。
「ダランは、今は授業中だ」
不機嫌……というより、ローデスは狼狽しているようだった。
とりあえず話を聞くため、診療室隅のソファーに向かい合って座ることにする。
「ダランが発作を起した」
「発作?」
強張った表情で、ローデスが口を開く。
「アイリアと同じ発作だ」
「アイリア……? あ、シスのことですね」
「アイリアだ!」
「ああはい、アイリアさんと同じ発作ですね」
寝起きで働かない頭を左右に振りながら、ファムルは水差しを手繰り寄せる。コップに水を注ぐと、一気に飲み干す。
「で?」
「この15年間、君も遊んでいたわけではないだろ? 治療薬は出来ているな?」
「いえ、15年前にも話しましたが、病気ではないので、治療薬など存在しませんよ」
「あいつはまだ、15年も生きていなんだぞ! お前はダランを見捨てるのか!!」
手をテーブルに叩きつけたローデスとは対照的に、ファムルはゆっくりとした動きでコップをテーブルに置いた。
「落ち着いて下さい。ダランの母……アイリアは短命な『種族』でしたが、ダランはあなたの子供でもあります。夫婦の寿命の間くらいの寿命はあるはずだと当時ご納得されていたではありませんか」
「しかし、彼女の末期と同じ発作を起したとなっては……!」
ローデスが頭を抱え込む。
彼にとって、息子のダランはかけがえのない大切な存在だ。
妻を亡くしてから、再婚することも、他に子供を儲けることもなく、ローデスは全ての愛情をダランに注いできた。
……もっとも、その愛情の注ぎ方が大きく間違っていたため、問題児になってしまったわけだが。
それも、一般的な種族である自分達『人間』よりも、短命であると思っていたが故、人生を楽しませてあげたいという思いからなのだろう。
「で、どんな症状なんです? 治すことは出来ませんが、症状を和らげることならできるかもしれません」
「目が、霞むそうなんだ」
「……それって、単に疲れてるだけでは……最近魔法の勉強に没頭しているようですし」
「いや、あれは発作に違いない! アイリアと重なるんだ。私と息子の顔が見えない見えないと泣いていた妻の姿と――」
どうやら、10数年前の妻の姿が脳裏にフィードバックしてローデスを苦しめているようだ。
「では、君には症状を和らげる薬の作成を頼む。私は、人を雇い『魔女』を探しだす。大体の居場所はわかるかね?」
「薬草の分布状態からして、地下道の先あたりで暮している可能性が高いと思いますが、幻術でカモフラージュしていると思われます。一般人には発見できないかと」
「大体の場所さえわかれば、対抗魔術や臭いや経験で、どうにかなるだろう」
報酬は惜しまないと言い、ローデスはファムルにも多額の報酬を約束し、足早に診療所を出て行った。
15年前。当時ファムルは、魔女と呼ばれる女性の下で働いていた。シスという女性はファムルの兄弟子のような存在だった。
『シス』という単語は数字の6を意味する。魔女に従う女性達は番号で呼ばれていたのだ。
それを嫌って、ローデスは彼女にアイリアという名前をつけた。
ファムルは錬金術の才能と、風貌を見込まれ、魔女の弟子となったのだが――彼女達は違う。
彼女達は全て、魔女に作られた異種族だったのだ。
振られた番号は製造順ではない。出来栄え番号だと魔女は言っていた。
……なんにせよ、自分は請けた仕事をこなすだけだ。
「確か稀少な薬草が必要だったはずだが……」
ファムルは立ち上がって、資料棚の奥に手を伸ばした。
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『魔女の住処へ〜誘い〜』
繁華街から少し離れた高級住宅地は、ウィノナ・ライプニッツが育ったスラム街とは、まるで別の国のようだ。
この辺りは城下町付近とは違い、王侯貴族や騎士は居を構えておらず、富豪や豪族の屋敷が立ち並んでいる。
「はよー、ダラン。もう傷はいいの?」
その中でも一際大きな屋敷から現れた少年に、ウィノナは声をかけた。
「おっす、ウィノナ! 朝から元気だなー」
そう言うこの家の一人息子、ダラン・ローデスも明るい笑みを見せていた。
「傷はもう平気。とーちゃんには、逃げる途中階段から落ちたっていっておいた。ホントのこと話すと色々面倒だし」
青痣が残ってはいるが、痛みはもう殆どないとのことだ。
「出かけるみたいだけど、周りには気をつけなよ。また狙われるかもしれないからね」
「うん。今日は広場の診療所に行くだけだから平気。ウィノナは仕事?」
「そう、親父さんに手紙届けにきた」
「そっか、じゃ中にいる警備員に渡しといて」
「了解ー」
ダランと別れ、ウィノナは敷地内に入る。
相変わらず美しい庭だ。色とりどりの花が、朝日を浴びて美しく輝いている。
ここが住宅地だということを忘れてしまいそうになる。
しかし、今日は住人に用事があるわけではないので、入ってすぐの警備員の詰所に手紙を預けて帰とうとした……その時。
「ウィノナちゃん!」
屋敷の方から聞こえた声に、ウィノナは振り向いた。
屋敷の主人ローデスが、脂肪を揺らしながら、こちらへ走ってくる。
「おじさん、手紙今日も沢山届いてるよ」
ウィノナは一旦警備員に渡した手紙を、直接ローデスに手渡した。
「ありがとう。ところで、ウィノナちゃん、郵便屋の君は地理に詳しいよね?」
「うん、この辺りのことなら任せてよ」
「この辺り……ではないかもしれんが……」
ローデスはいつになく表情が硬く、落ち着きがない。
詳しい事情を尋ねると、どうも彼はとある女性の住処を探しているらしい。
女性の名前は『クラリス』年齢は20代後半らしいのだが、20年ほど前に外見年齢20代後半だった人物が今でも恐らく20代後半の外見だろうなどと理解しにくいことを言うのだ。
「その女性の居所を探すのは構わないけれど、どうしてそんな正体不明の居場所も良くわからない人なんて探してるの?」
「それは……」
途端、ローデスは口ごもる。深い事情があるらしい。
「そう、いい難いんなら聞かないよ……でも、結構深刻そうだね? もしよかったら要件を手紙に書いて届ける気はない? ボクは郵便屋だから、預かった手紙は責任もって届けるよ!」
「そうだな。先に用件を伝えておけば話は早いな」
ウィノナの提案を受け入れ、ローデスは手紙をしたためることにした。
その間に、ウィノナは今日の分の配達を終わらせ、郵便屋の仲間やスラム仲間に声をかけて回ったのだった。
昼前にローデス家に戻ったウィノナは、ローデスから『クラリス』という女性宛の手紙を受け取って、友人達と合流した。
ローデスの説明によると、その女性は街中からはかなり離れた山中で暮していたらしい。
多分現在もその辺りに住んでいるだろうとのことだが、ローデスも現地までは行ったことがないらしく、正確な場所はわからないそうだ。
それだけならまだしも、問題なのはその女性は、絶大な魔力を有した「魔女」だということだ。住処付近は幻術を張り巡らしてあり一般人はたどりつけないようになっているらしい。
しかし、そういわれると、逆に郵便屋としてのウィノナの血が騒ぐ。
どんな場所であろうとも、預かった郵便物は届けてみせると意気込みながら、ウィノナは場所と幻術について、友人達の話を参考にしたり、手伝ってもらいながら調べるのであった。
まずは場所だが、以前住んでいたとされる場所付近に、妙な噂があることを思い出す。
「そう、このあたりだよな、迷いの森」
ウィノナだけではなく、仲間の中にもその噂を聞いたことのある者もいた。
決してその山には登ることができない。
登っていたつもりが、いつの間にか入り口に戻っている。
目印に木につけた傷が、振り向いた時にはなくなっている。
……などという怪談じみた噂話である。
「多分、ここが入り口だね……」
普通に入っても幻術で追い返されてしまうということだろう。
次に、幻術をどうやって破るかを皆で考える。
仲間の中に幻術に詳しい者はおらず、魔法学院の図書館で調べてみるのだが、専門書の記述は難しくて内容を理解することができない。種類も沢山あり、魔女がどのような幻術を用いているのかも特定できない。また解術が必要な場合、疎い自分達がそれを実行できるとも思えなかった。
結局その日は調査と相談で終わってしまった。
翌日の早朝、ウィノナはスラムの仲間を引き連れて『迷いの森』に向った。
地下道を通って向うルートもあるようだが、人数と地の利を考え、地上の道を選択した。
目的地までは結構距離があり、仲間の大半は途中でへばってしまった。仕方なく、休ませながら進むことにする。
「道はここまでか……」
森の前に到着した時には、昼をとうに過ぎていた。
「さて、幻術への対策だけれど……」
拳を握り締めてウィノナはにやりと笑う。
「根性で見破る! 結局これしかないと思う」
本に書かれていた打破の方法で、一番わかりやすかったのは、より強い魔力を持って、術を打ち破ることという記述だった。
「これだけ人数いるんだし、魔力のあるヤツ1人くらいいるでしょ。相手がどれだけの力を持ってるのかはわからないけれど、広範囲に施してあることは確実だし、持続時間も多分長いと思うから、術の威力自体は大したことないんじゃないかって思うんだよね。だから、視界を狭めて、一点集中して見破る。『数打ちゃ当たる戦法』に決定!」
それしかないだろうと、仲間達も賛成をする。
あまり時間もないので、皆を少しだけ休ませた後、ウィノナは持って来た連絡用の板を木に縛り付けた。
「1時間に一度はここに戻ってきて、このボードに状況を報告すること。それじゃ、解散!」
森の中は薄暗い。
入った途端、仲間の気配を感じなくなった。
まるで、森が生気を奪っているようだ。
雑草が足をくすぐる。それだけならいいが、棘のある草や枝が、時折ウィノナの白い肌に赤い線を刻んだ。
背の高い木が空をすっぽり隠してしまうと、とてつもない寂しさがウィノナを襲った。
多分、皆も今、同じ気持ちだ。
「集中、しないとね」
目に力を込める。
魔法の使い方なんてわからないけれど、錠のはずし方がわからなくても、蹴破ればドアは開くものだ。それと同じで……。
しかし、目を凝らしても、見えるのは同じ木ばかりで、これが現実なのか、幻術なのか、視野を狭めているせいで、どう進んでいるのかもわからなくなってきた。
「あれ?」
そんな時、空を見上げたウィノナは立ち上る煙を目にしたのだ。近くに人が……と思った途端、煙は消えてしまう。
いや確かに、今煙を見た。
そう思って、もう一度目を凝らす。
「見えた。あっちだ!」
ウィノナはその方向にだけに意識を向け、怪我を厭わず出来る限りの速度で煙の方向へと向った。
緩やかな上り坂になっていたため、思いの外体力を消耗した。
しかし、ウィノナは確かに今、門の前にいる。
「これも幻なんてオチはやめてよね」
ウィノナは大きく息を吸い込んだ。
「ちわー、郵便屋です!」
力強く門を叩いた、数十秒後……。
錠の外れる音がし、門が内側に開いた。
驚いた表情で現れたのは、白金の髪の美しい女性であった。
「クラリスさんにお手紙です! ご在宅ですか?」
「え、ええ……」
どうやらこの女性はクラリス本人ではないらしい。
「ご依頼主が早急にお返事を戴きたいとのことですので、ご本人様に直ぐに読んでいただきたいのですが」
少し考えた後、女性は「わかりました」と手紙を受け取り、家の中へ戻っていった。
ウィノナは門の外で待っていた。
ちらりと見えた家は、なかなか立派な屋敷であった。お金持ちの別荘といったところだろうか。
耳を澄ませば、女性の話し声が聞こえる。内容まではわからないが、手紙を受け取った女性と、クラリスという魔女の話し声だろう。
……しばらくして、低い女性の声が響いた。
「入れ」
それが自分に対してだと、ウィノナは気付き、門を押して敷地内へと足を踏み入れた。
屋敷の前に、その女性はいた。
黒い――目も、髪も、服も黒い女性であった。だけれどその色には、何故か少し違和感を感じる。
年齢は20代後半に見える。
すっと、女性がウィノナの方に手を伸ばした。
こちらに来いと言われているのだと感覚的に気付き、ウィノナは女性の方へと進んだ。
何故か、いつものような笑みが浮かばない。
たわい無い会話をして、手紙の返事を受け取って帰りたいのに、何故か言葉が出ない。
吸い込まれるように、ウィノナは魔女の目を見ていた。
魔女の手が、ウィノナの顎を掴む。魔女はそのままウィノナを仰向かせ、更に自分の元に引き寄せた。
「人の子を奪い殺した分際で、自分の子を救えとは、どういう了見だ」
自分に言っているのではない。手紙の送り主、ローデスに言っているのだと、ウィノナは理解していた。
「ボクは……何も知らない……返事を……」
息が、詰まる。
やはり何故だか理由はわからない。
今まで感じたことのない、奇妙な重い感覚がウィノナの体内を渦巻いていた。
「郵便屋。お前、名は」
「……ウィノナ・ライプニッツ」
浅く笑って、魔女はウィノナから手を離した。
「いいだろう、ウィノナ。返事は書いた。持っていけ」
1枚の紙を手渡される。簡素なメモ用紙だ。内容は読まず、二つ折りにしてウィノナは鞄にしまった。
その作業を負えると、ウィノナは再び顔を上げて魔女の目を見た。
「…………」
「何だ? 気付いていたのか?」
魔女が手を伸ばす。
体が硬直して動かない。
「お前を見た瞬間から、お前に魔力を送っていた。無意識にしては、なかなかの抵抗力だ」
魔女の手が、ウィノナの髪に触れて、そっと撫でた。
「いい髪をしている。どうだウィノナ。私の下で魔術を学ばないか? 授業料はこの髪だ」
「……ボクは、郵便屋だから……」
それだけ言うのが精一杯だった。
「まあいい。手紙を届けろ」
手を離し、魔女は瞳を細めた。
「また会おう、ウィノナ・ライプニッツ」
細く研ぎ澄ました刃が、自分の目から体内に入ってくる感覚を覚え、ウィノナは思わず目を強く閉じた。
「手紙は確かにお預かりしましたっ、さよなら!」
ウィノナは向きを変え、門の方へ歩き出した。
背中に感じる視線は、直ぐに消えた。
吐息をついて振り向けば、もう魔女の姿はない。
とにかく、手紙をローデスに届けなければならない。
ウィノナは鞄をぎゅっと抱えると、森の中に走りこんだ。
**********
仲間達とは、近日中に食事を奢ると約束をして別れた。
メンバーの中で、魔女の家に辿りついたのは結局自分だけだった。
それが何を意味するのかは後ほど考えることにして、ウィノナはローデスの屋敷へと急ぎ向ったのだった。
ローデス邸に到着したのは、街が寝静まった頃だ。
応接室に通されたウィノナを出迎えたのは、ローデスと、ファムル・ディートという錬金術師だった。
「なんか、凄く意味深だったから、急いで持って来た。夜分ごめんなさい」
ウィノナは魔女から預かったメモを、ローデスに手渡す。
ローデスと共に、ファムルもメモを覗き込んだ。
「どういう意味だ!?」
メモに目を通すと、厳しい目でローデスはファムルを見た。
「書いてある通りでしょう。ダランを差し出すか、モルモットを提供しろと。そういうことです」
「ダランを差し出す!?」
思わず、ウィノナは声を上げてしまった。
二人の男性の目が、ウィノナに注がれる。
「ウィノナ、といったね。君、魔女に会ったのかい?」
ファムルの問いに、ウィノナは頷いた。
「彼女は何か言っていたか?」
ウィノナは少し迷いながらも、正直に答えることにした。
「『人の子を奪い殺した分際で、自分の子を救えとは、どういう了見だ』……って言ってた」
「なるほど、魔女はそう捉えているか」
ファムルはローデスに視線を移して言った。
「彼女ももう無関係ではありません。話しておいた方がいいでしょう」
「そうだな……」
うな垂れながら、ローデスはウィノナに説明を始めた。
絶大な魔力と知識を持つ女性が存在する。
彼女は山奥で暮らし、日夜研究に励んでいる。
現在、彼女がもっとも精神を傾けているのは、最高の魔女の創造だ。
彼女が作り出した「魔女」の多くは、彼女と共に暮している。
そのうちの1人。当時の最高傑作が、ダランの母親だという。
「魔女クラリス自身は300年以上生きている。しかし、彼女が作り出した女性達は不完全なためか、寿命が普通の人間より短いんだ。私の妻、アイリアも25歳の若さでこの世を去った。息子のダランも、普通の人間よりは寿命が短いと思われる。私は覚悟をしていたつもりだった……。しかし、最近、まだ14歳だというのに、母アイリアと同じ発作を起すようになってな」
それで、魔女に助けを求めたというわけだ。
事情は理解できた。
だけれど、何が正しくて何が間違いで、どうすべきなのかは、わからない。ウィノナは直ぐには意見が出せなかった。
「ウィノナ、君魔法は?」
ファムルの問いに、ウィノナは首を左右に振った。
「それなら、覚えない方がいい。少なくても30歳を越えるまでは」
「なんで?」
「魔女クラリスは魔女を作るために、人の体内の情報を奪う。奪われた人物は死にはしないが、障害者になる可能性が高い。魔女が情報を得るためには、相手が魔術を理解している必要がある。そうでないと、正常な情報が得られないそうでな……」
ファムルがローデスの同意を得て、メモをウィノナに見せる。
メモに書かれていた内容はこうだった。
1)シスの子供の提供。
体内情報の研究目的。
一生の服従。
最大限の寿命を保証。
2)パーツ保持者の提供。
色素の薄い髪と瞳の若者。もしくは緋色の瞳の若者。男女問わず。
3)核となる女性の提供
15歳前後の女性。健康で精神的に強い人物であり、白人であること。
2)3)いずれかを提供時には、寿命に関する知識を錬金術師ファムル・デートに与える。
尚、いずれも魔力の高い人物であること。
以上
乱雑に書かれた文字に、感情は感じられなかった。
「2)だけじゃないな、ウィノナが該当するのは。3)の場合は、魔術の理解とは関係がないからな。こちらの方が厄介か。……とりあえず、魔女には近付かないことだ」
ファムルはそういうが、ローデスの態度はまた違ったものだった。
考え込みながら、時折ウィノナを見ている。
「奪った情報ってどうするの? 障害ってどの程度?」
「その辺は私も詳しくは知らないんだが……。奪った情報は、新たに作り出す生命にコピーするそうだ。奪われた者の障害は……髪なら、よくて白髪や禿。悪ければ脳に障害が起きる可能性もあるかもしれん。あくまで推測でしかないんだが」
ファムルは、禿か白髪になった場合には、育毛剤等の魔法薬を飲み続けている間は今の髪を保てるだろうと付け加え、ウィノナに自分の診療所の価格表を手渡した。
受け取ったウィノナは魔法薬の価格の高さに目を回しそうになる。
「基本的に、魔女は提供者の同意なくして手を出すことはない。ただし、欲しいと思った人物に対しては、あらゆる手をつかって揺さぶってくるからな。用心することだ」
ファムルの言葉にウィノナは頷いた。
「ウィノナちゃん、今日は遅いから、帰った方がいい」
そう言ったローデスの顔は、苦悩に満ちている。
「うん。あの……」
何と声をかけたらいのか、わからなかった。
「えっと、また手紙あったら、届けるから。同じ方向目指していた仲間が誰も着けなかったから、多分普通の人じゃ無理だし」
そう言った後、変なことを言ったと気付く。
自分も普通の人だ。普通の、はずだ。
……森の中でのことが、思い出される。
魔女から受けた言葉が、次々に浮かんでくる。
ボクは……一体……。
「ウィノナちゃん?」
「あ、うん。それじゃ、また!」
ウィノナはローデス邸を飛び出した。
今日のことは、自分の中できちんと整理して、答えを出さねばならないようだ。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3368 / ウィノナ・ライプニッツ / 女性 / 14歳 / 郵便屋】
【NPC / 魔女 / 女性 / 345歳 / 魔術師】
【NPC / ファムル・ディート / 男性 / 38歳 / 錬金術師】
【NPC / ダラン・ローデス / 男性 / 14歳 / 魔術師の卵】
ローデス(ダラン・ローデスの父)
魔女邸の女性
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■ ライター通信 ■
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ライターの川岸です。
さて、突然の状況を、ウィノナさんはどう捉えたのでしょう。
渦巻く状況に興味を持ってくださった場合、副題の違うノベル「魔女の住処へ〜取引〜」の方もご覧いただければ、現状をよりお解かりいただけるかと思います。
続きのオープニングは、こちらのノベルの納品反映後に公開予定です。
締め切りは最初の発注を頂いてから20日後と考えております。
ご参加、ありがとうございました!
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