■東京魔殲陣 / 陰陽の下僕■
ウメ |
【7061】【藤田・あやこ】【エルフの公爵】 |
夢幻の霧に抱かれて眠る女王の都 霧都『倫敦(ロンドン)』
阿片と背徳の芳香り漂う爛熟の都 魔都『上海(シャンハイ)』
人の夢と欲望に彩られた狂乱の都 狂都『紐育(ニューヨーク)』
そんな、世界に名だたる魔都・妖都と肩を並べる都が此処に在る。
終わりのない、果てのない怪奇を朋輩として、今日も物語を綴り続ける都。
其の名は最早言うに及ばず。されど、いま一度だけ唱えよう。
無尽の怪奇と妖が、群れし綾なす我らが都。
其の名は帝都。……帝都『東京(トーキョー)』
†††
――どこぞのイカれた陰陽師が、喚び出したまま野に放った野良式神が暴れている。
そんな噂を耳にした「あなた」は、その胸に燃える正義の心か、はたまた単なる好奇心か……。
如何なる理由か、それは「あなた」にしか分からない事ですが、兎に角その野良式神の退治に打って出ます。
そして、その野良式神を周囲や一般人にに被害が及ばないようにして討つために、「あなた」は最近巷で噂に上るようになった「ある方法」を用いることにしました。
その方法とは、「魔殲陣」と呼ばれる結界に標的を術の力で強制的に「召喚」し結界の内でその魔物と戦うというもの。
その開発には東京のどこかにあると云う「怪しげなアンティークショップの店主」が関わってるとかいないとか……
……果たして上手くいくのでしょうか?
すべての結果は、「あなた」の力と技、そして知恵にかかっています。
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東京魔殲陣 / 陰陽の下僕
◆ 陰陽の下僕 ◆
―― シュッ、シュッ、シュゥォン!
虚空を切り裂く三つの爪。
標的の、その肉を引き裂こうと繰り出されたそれは、しかし、虚しく空を切る。
「ハンッ、どうしたの? そんな攻撃、当たってなんかやれないよッ!」
己の脇を駆け抜けてゆく三つの気配に向き直り、彼女は挑発するような態度を取る。
トップモデルもかくやという長身に長く伸ばした艶のある黒髪、切れ長の黒い瞳。
上はセーラー服に、下はテニスウェアばりのミニスカート。一見すると奇妙な組み合わせだが、何故かそれが妙に似合っている。
「グウウウウ……、ギイイイイ……」
自分たちの方を見てニヤリと笑うその女の姿をみて唸る3匹の黒い子鬼。
智恵に乏しいその頭でも、どうやら自分たちが馬鹿にされていると言うことは判るらしい。
子鬼。極度に痩せ細り、腑の詰まった腹だけが丸く膨れ上がったその姿は、地獄・餓鬼道に棲まうと言う餓鬼のそれ。
未熟な陰陽師に使鬼として喚び出されたは良いものの、何らかの理由で野良と化し、人を襲うようになってしまった野良式神。
「んふー、そう。……あなたたちが来ないって言うなら……」
そして、銀色に輝く軍用ナイフを手に餓鬼どもを誘う彼女の名は、藤田あやこ。
「コッチから、行くわよっ!」
普通の人よりもほんの少しだけ物騒な世界に住む、花真っ盛りの女子大生である。
◆ 銀の騎士 ◆
―― シュッ、シュッ、ヒュォン!
先ほど受けた爪の返礼とばかりに、あやこの右手から繰り出される銀光三閃。
眼を見張るようなダッシュから的確に急所を狙って放たれるそれを、散り散りに飛び退いて躱す三匹の餓鬼。
特に何か武道の心得があると言う訳ではなかったが、あやこが身に着けたセーラー服は、その着用者に訓練を積んだ素手の海兵程度の運動能力を与えるという特殊なもの。
更に、テニスウェアスカートには跳躍力を高める効果。
アンダースコート代わりに穿いたブルマには下肢機能を強化、陸上運動能力を高める効果。
その他にも様々な特殊効果を着用者に付与する装備をしているため、如何に人外の者とは言え常人に多少勝る程度の身体能力しか持たない餓鬼が相手ならば、あやこは対等以上の戦闘を行う事が出来た。
「キィィィィッ!!!」
ナイフを振り抜いたその隙を狙った……かどうかは定かではないが、餓鬼の内に一匹があやこの背後からその爪を振り下ろす。
「残念ね。戦いってのは、常に二手三手先を考えてするものよ」
だが、あやこは餓鬼がそう動くことを読んでいたかのようにすんなりと、右手のナイフでそれを受け止める。
その流麗なフォルムとは裏腹に、折れず・曲がらず・よく斬れる、を地で行くあやこのナイフ。銀騎士の名を冠した現代ナイフの最高峰、ナイツ社製シルバーナイト。
その煌きが、ふたたび中空に銀閃を描く。
「グギィィヤァァァァッ!」
爪を受け止めると同時に、上弦の弧を描いて放たれた刃が餓鬼の右腕を斬り飛ばす。
痛みに悶え蹲るそいつにトドメを……と思ったのだが、あとに続く二匹がこれを阻止。あやこは後退を余儀なくされた。
「へぇ、その程度の連携は出来るんだ……」
断たれた右腕に手を当てヨロヨロと立ち上がる一匹と、それを気遣う素振りを見せる二匹。
その身を苛む餓えの所為で爛々と輝いていた眼に、あやこへの怒りと憎しみの色が添えられている。次からは、ただの人間の雌と言う認識を改めて、あやこのことを敵として襲って来るだろう。
だが、それならそれで望むところ。あやこにはまだ切り札が残っている。
「面白くなってきたわね……」
今まさに襲い掛かろうと身を屈める三匹の餓鬼を見詰めながら、あやこはそう言って呟くのだった。
◆ 嵐風連撃 ◆
ナイフを構えるあやこの真正面から、その黒い塊は猛スピードで突進してくる。
―― シャァァァッ……!
振り上げた爪を真っ直ぐに叩きつける強撃。
辛うじて手にしたナイフで受け止めるが、その衝撃の強さにあやこの身体がガクリと揺れる。体勢を、崩したのだ。
―― シィィィィッ……!
その隙目掛けて間髪いれずに繰り出される二撃目、三撃目の爪。
体勢を崩された状態でその爪から逃れるのは至難の業。ざくり、ざくりと突き刺さる爪があやこの装備を引き裂き肉を抉る。
「痛ぅ……」
走る痛みに耐えながらも、あやこがナイフで反撃に転じるが時既に遅し。
一撃を加えた後は即座に接点から離脱してしまう餓鬼どもにナイフが届くことはない。
連中がこの連携であやこと打ち合いはじめてから、これで既に三合目。
我が身を省みればセーター服とテニスウェアスカートは餓鬼の爪に切り裂かれ、もはやその機能を失っている。
「思った以上に……厄介な連携ワザね」
もはや動きを阻害する邪魔物でしかなくなったセーラー服とスカートの残骸を自ら破り捨て、あやこは餓鬼に視線を戻す。
三匹の餓鬼が縦一列に並び一丸となって敵に接近。先頭が一撃を加えると同時に離脱、二匹目・三匹目もそれに倣い一撃離脱。
その構造を言葉にすると酷く単純なもののように見えるが、一列に並ぶことで二匹目・三匹目の視線や準備行動を敵の目から隠せるという点、ひとりで二撃・三撃を繰り出す際にどうしても発生する攻撃と攻撃の合間の隙をゼロに出来ると言う点、それらを考えると単純ながらも非常に合理的で強力な連携であると言えた。
「キシシシシシシシッ」
厭らしい哂い声を上げる三匹の餓鬼。
自分たちの連携に手も足も出ないあやこの様をみて、どうやら既に勝った気でいるらしい。
(……舐めンじゃないわよ、この糞餓鬼)
その哂い声に、あやこの頭の中で何かがカチンと音を立てた。
他人をからかうのは好きだが、からかわれるのは……好きじゃない。
「もういいわ。アッタマきた。ソッチがその気なら、コッチも本気よ。次でケリつけてあげるから、掛かってきなさい!」
痛みを堪えて立ち上がり、ビシッと指を突きつけて、餓鬼に向かって言い放つ。
人語を解さぬ餓鬼たちも、その気迫から何かを感じ取ったのか、哂いを止めて構えを取る。
数では不利、戦術でも不利、身体能力で見てもあやこの方が若干劣る。だが、負けるつもりなどサラサラない。
(切り札ってモンは、ここぞって時のためにとっておくモンよ)
ナイフ一本を頼りに戦うことで敵の目を欺き隠し通してきたあやこの切り札。今こそそれを使うとき。
あやこはそんな風に考えていた。
◆ USSR / PRTS 1941 ◆
三匹の餓鬼が一列に並び、四度目の疾走を開始する。そのスピードはこれまでで最速。これで勝負を決める気だ。
対するあやこは……走りながら距離を取り、攻め込む機を窺う餓鬼をジッと見つめたまま、動かない。
あやこにとっても、その機は重要だったから。
「キィヤァァァァァッ!!!」
そんな状況で、先に痺れを切らしたのは餓鬼たちのほう。甲高い猿叫を上げ、あやこに向かって一直線に突進を開始する。
縦横無尽の疾走から、一直線の突進へ。綾子もまたその気を逃さず地を蹴って、餓鬼たちとの間に距離をとる。
跳び退いて、あやこが降り立ったその場所は、魔殲陣と外界とを隔てる結界の際。
壁を背にして膝をつくその姿に先頭の餓鬼がにやりと哂う。壁を背にしてしまっては、もう逃げられまい、と。
果たして、本当にそうなのだろうか? あやこのその行動は壁を背にしての背水の陣か、それともただのミス・テイクか。
だが、答えはどちらも否。
あやこはそこに勝利に必要な『あるもの』を取りに行ったのだ。戦闘が始まるその前から、人目に触れないように隠しておいた『それ』を取りに来たのだ。
地に膝を着き構えるあやこ。それに向かって一直線に突進する餓鬼三匹。
「……フッ!」
そしてふたたび、あやこが動く。息を調え、気を吐いて、手にしたナイフを投げ放つ。
―― ヒュオオオオン!
空を切り裂き先頭の餓鬼に迫る銀の刃。だが、そんなもので止められるほど彼らの突進は甘くない。
―― キンッ!
案の定、それは餓鬼が振るった爪の一撃で乾いた音とともに地に落ちる。
さぁ、これであの人間の雌は武器を失った。あとはこの爪で息の根を止め、喰らうのみ。
先頭の餓鬼はそう思い、地に落ちたナイフから正面のあやこに視線を戻そうとして……
「ギィッ!?」
そこで、あやこの姿を見失った。
正確には、視線を戻したその先に、あやこの姿がなくなっていた。
「……ドコ見てるの? 私はコッチよ、おバカさん」
突如として響いたその声に、あろうことか自身の頭上から聞こえたその声に、先頭の餓鬼は空を見上げて、そこで見た。
―― どげしっ!
衝撃とともに空から落ちてきたそれは、黒くて分厚い靴の底。
いったいどこから取り出したのか。自身の身長をゆうに超える長物を抱えて空を跳ぶ、あやこの靴の裏だった。
「俺を踏み台にした!? って、トコかしらね」
そう言ってクスリと笑う言葉通り、先頭の餓鬼を踏み台にしてあやこが華麗に宙を跳ぶ。
あやこが手にした長物の名前は『USSR / PRTS 1941』。
現代となっては型遅れ。ややもすると骨董品の部類に入ってしまうような、年代物のロシア製の対戦車ライフル。
そして、中空からそのまま二匹目の餓鬼に銃口を突きつけて、トリガーを引く。初弾は既に装填済みだ。
―― ズドン……ッッ!!
炸薬の破裂する音、弾丸が撃ち出される音、銃身から噴出するガスの音、そして、標的となった餓鬼が弾ける音。
それらが渾然一体となって結界の中に鼓音を響かせる。
「ガッ…………」
膨れた腹に風穴を開けられて、断末魔を上げる暇もなく餓鬼の一匹がドッと地に倒れる。
突進の最中、急に打ち込まれたその楔に、餓鬼たちの動きが止まる。それは彼らの命が尽きるのに十分な隙。
「……ふぅッ!」
一発目の弾丸を放った際に上がったガス煙のなか、あやこはそのまま中空で銃身を振り回し三匹目の餓鬼に照準を合わせる。
常人を超える陸上運動力を与え、高いジャンプ力を付与し、空中での姿勢制御を補助する。
そんな様々な特殊能力を備えた装備群に身を預けて始めて可能な空中殺法。
―― ズドン……ッッ!!
打ち出される二発目の銃弾。命中は、確認するまでもない。
……そして着地、と同時に最後の照準。踏み台にした最初の餓鬼に銃口を突きつける。
あやこがナイフを投げつけてからこの間僅かに数秒。
先頭の餓鬼にピタリと張り付いて疾走するため、前方の確認などを行なえず、突然の事態に対処できない。
「せめてもの手向けよ。地獄に戻って、三人仲良く暮らしなさい」
いったい何が起きたのかも判らぬまま目を白黒させる餓鬼に向かって最後の言葉。そして、トリガー。
三位一体の連携の弱点を的確に見抜き、それを見事に利用したあやこの勝利だった。
■□■ 登場人物 ■□■
整理番号:7061
PC名 :藤田・あやこ
性別 :女性
年齢 :24歳
職業 :女子大生
■□■ ライターあとがき ■□■
注1:この物語はフィクションであり実在する人物、作品、物品、セリフ回し等とは一切関係ありません。
藤田あやこさま、お初にお目にかかります。
この度は、PCゲームノベル『東京魔殲陣 / 陰陽の下僕』へのご参加、誠に有難うございます。担当ライターのウメと申します。
魔殲陣シナリオ最弱……かと思いきや、実はなにげに強かった餓鬼'sとの戦闘如何でしたでしょうか?
読んで頂ければ判りますが、このノベル中には某国民的戦争ロボットアニメのセリフがチョッと形を変えて仕込まれています。
果たしていくつ見つける事が出来るかな……?
なーんて具合に、色々と笑わせてもらえるセリフなどが仕込めたので、書いてて大変楽しかったです。
その所為でしょうか? バトル系シナリオなのに全体的にギャグっぽい仕上がりになってしまった気がします。
さて、積もる話はございますが、次数制限オーバーしてるので、あとがきはこの辺で……。
また何時の日かお会いできることを願って、有難う御座いました。
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