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■東京魔殲陣 / 模倣魔■

ウメ
【7008】【三薙・稀紗耶】【露店居酒屋店主/荒事師】
 夢幻の霧に抱かれて眠る女王の都  霧都『倫敦(ロンドン)』
 阿片と背徳の芳香り漂う爛熟の都  魔都『上海(シャンハイ)』
 人の夢と欲望に彩られた狂乱の都  狂都『紐育(ニューヨーク)』
 
 そんな、世界に名だたる魔都・妖都と肩を並べる都が此処に在る。
 終わりのない、果てのない怪奇を朋輩として、今日も物語を綴り続ける都。
 其の名は最早言うに及ばず。されど、いま一度だけ唱えよう。
 
 無尽の怪奇と妖が、群れし綾なす我らが都。
 其の名は帝都。……帝都『東京(トーキョー)』
 
†††

 世界人類の滅亡をはかる狂信的なテロ組織『虚無の境界』
 彼らが開発した新型の量産型霊鬼兵『ゲシュペンスト・ナーハアーマー(Gespenst Nachahmer)』
 我々は、それが実践テストの為に東京の街に放たれたとの情報をキャッチした。

 IO2に協力する民間超常能力者諸君に告ぐ。
 一般人への被害が大きくなる前に、なにより連中の計画を挫くために、
 魔殲陣を用いて速やかにこれを捕獲し、撃破せよ!
東京魔殲陣 / 模倣魔

◆ 模倣魔 ◆
結界の中、濛々と立ち込める煙。
―― ドォン……ドォン……ドォン……
その中から聞こえる、断続的な炸裂音。
「よっ、そらっ、おらよっ……もういっちょ!」
そして、煙が立ち込める場所から少し離れたその場所で、二振の剱を振るう男。
日本刀……ではない。その反りの大きさ、やや長い刃長、刀装・拵えの造りから考えて、それは太刀と呼ばれる類のもの。
結界内に響く炸裂音と立ち込める煙を揺らす衝撃。誰あろうこの男こそ、その原因だった。
「ふぅ……こんなモンか?」
太刀を振る動きを止めて、その男、三薙・稀紗耶は未だ濛々と立ち込める煙幕の方に目を向けた。
戦闘開始と同時に、問答無用で札による煙幕を発生させ、有無を言わさず斬波 ――刃に気を込め、太刀を振るうことで、空を斬る斬撃そのものを飛ばす技―― の連打。
煙幕で敵の視界を奪う反面、稀紗耶自身は色々な意味で「よく視える」この左眼のおかげで、煙幕に惑わされること無く斬波を撃ち込める。
そんじょそこらの幽霊・妖の類ならその一撃で滅殺する自信があった。
だが、いま稀紗耶の目の前に、立ちこめる煙幕の中にいる相手は、そんな生易しい相手ではない。
濛々とした煙が徐々に薄くなり、風に流され霧散して、中に抱えた者の姿を衆目に晒す。
「……おいおい、マジかよ」
そこにいたのは、一人の少女。
真っ黒な喪服の様なドレスに身を包み、その小柄な身の丈をゆうに超える巨大な鎌を身体の前面に構えている。
この煙の中にいたということは、稀紗耶が放つ斬波の連打を受けていたと言うことだが、それらしい痕はどこにもない。
恐らくはその巨大な鎌ですべて受け止めたのだろう。
「……どうしたんです? もう、おわりですか?」
己の連撃を無傷のまま凌いで見せた少女の姿に唖然とした表情を見せる稀紗耶に向かって、淡々とした氷のように澄んだ冷たい声で少女が呟く。
向き合う稀紗耶とは対照的に、少女の顔に表情はない。
稀紗耶の攻撃を凌ぎきったことに得意になる訳でもなければ、その攻撃の程度を見下すでもなく、ただどこまでも無表情。
そして、少女はその張り付いた無表情のまま、身体の前面に構えた大鎌を、今度は身体の横にすらりと構え……
「……なら、こちらから、いきますね」
そんな呟きとともに、風に乗って疾り出した。

◆ 鬼闘 ◆
―― バッ……!
人間には到底真似の出来ないとんでもない速度で突っ込んで来る少女に向けて、稀紗耶はジャケットの内側に仕込んだ札を右手で取り出し投げつけると同時に、後方に飛び退きながら左手の太刀に気を込め、斬波を放つ。
―― ブォンッ!
しかし、対する少女は手にした鎌の一振りでそれらを容易く応じてみせる。
吹き散らされた札、打ち消された斬波、ともに少女にダメージを与えることは叶わない。
(なるほど……ね。外見(ナリ)はともかく、中身は情報どおりのバケモノってワケか……やれやれ)
その様子に稀紗耶は心の中でそう呟くと、小さくひとつ溜息を吐く。どうやら一筋縄でどうにかなる相手ではないようだ。
虚無の境界が開発した新型の霊鬼兵。在野の超常能力者の能力と姿を模したソイツの殲滅。
久方ぶりに請けた荒事師としての仕事がこれかと思うと、なんだか自分の不遇にドッと疲れが沸いてくる。
「けど、まぁ、だからって止めるワケにも行かないんだケド……なッ!」
間合いに入ると同時に振り下ろされる袈裟懸けの大鎌を左手の太刀『後鬼』で受け止め……ようとした稀紗耶だったが、
―― ガシィ……ンッ!
「う、うぉぉッ!?」
小柄なその体躯からは想像もつかぬ力の篭った一撃に、堪らず右手の『前鬼』をも防御に回らせる。
稀紗耶は鬼と人との間に生まれた存在。それ故、なのかどうかは知らないが、その身体能力は常人を遙かに凌駕するものを持っていた。
事前に立てた作戦としては、中距離の間合いを保持しつつ斬波をメインに的の体力を削って……なんてことを考えていたのだが、どうやら接近戦も已む無しといった風だ。
―― ビュン、ビュン、ビュォゥン!!!
前鬼・後鬼によって最初の一撃を阻まれ、弾かれた少女の鎌が、今度は胴・逆胴・大上段と三連続の軌跡を描く。
その巨大さゆえに、くるくるとまるで輪舞曲を踊るようにして振り回される大鎌は、一撃一撃の隙が大きくならざるを得ない。
しかし、それは振りの遅さと言う欠点であると同時に、少女の自力に加えて回転力や遠心力などを攻撃に乗せる事が出来るという利点にもなっていた。
そんな少女の連撃に、稀紗耶は手にした二刀で応じ続ける。
大鎌を受ける太刀がナマクラならば、少女の苛烈な攻撃に耐え切れず折れてしまっただろうが、稀紗耶の持つそれは修験道の開祖にして天狗であったとも云う伝説の修験者、役小角が使役したという鬼の名を冠した業物。そう簡単に折れはしない。
(確かに折れたりゃしねぇけど、このまま『受け』に回ってたんじゃ、勝てる戦にだって負けちまう……)
そう考えた稀紗耶は、少女の連激の隙を衝いて攻撃に転じる。
―― ギィン、ギィン、ギィィィンッ!!!
二刀から繰り出される数の多さを利して、間を置かずに攻め立てる。
攻撃に際してどうしても一瞬の「ため」を必要とする少女は、それに応じきれず防御に回る。先程までとは全く逆の構図。
稀紗耶は何かの武術や剣術といった類のものを修めている訳ではない。その技は全くの我流に拠るものだったが、稀紗耶が有する驚異的な身体能力と相まって、その速さ強さは相当なもの。
直接相手に打ち込む力の篭った斬撃。間合いを読み損ねた空振り……と見せかけておいて撃ち出す斬波。かと思えば本当に空振って見せその隙を狙う『騙し(フェイント)』の一撃。それらの技に時折交えて放つ札による遠距離攻撃。
「……ッッ!」
応じる少女の顔にはじめて浮かぶ表情。それは、防戦一方とならざるを得ない自分に対する苦悶の表情。
しかし、だからと言って少女の動きや身体能力が稀紗耶に劣っているのかと言えば決してそうではない。
二刀対大鎌という得物の不利を鑑みれば、稀紗耶の連撃に対して一打たりとも致命打を与えず応じ続けるその身体能力と神業的とも言える戦闘技術を賞賛すべきだろう。
人を超える者とそれを模倣するもの。その闘争は正に鬼闘の域に達しつつあった。

◆ 黒刃 ◆
いつ終わるともなく続く攻撃と防御の応酬。
少女の隙を衝いて稀紗耶が連撃を繰り出したかと思えば、その切れ目を狙って少女の鎌が宙に踊る。
互いに致命打となる攻撃は未だ無く、両者の戦いは千日手の様相を呈し始めていた。
「くッ……」
このままでは互いに体力を使い果たし、そう遠くないうちに共倒れとなる。
そう考え、先に動いたのは喪服の少女。稀紗耶の攻撃の合間を衝いて風に乗って大きく跳躍、間合いを取る。
接近戦ではキリが無い。ならば攻撃方法を直接攻撃から術法による攻撃に切り替え攻めるまで。少女はそう考えた。だが……
―― バチィッ!
着地と同時に少女の脚を襲う衝撃。
足元に目をやると……そこには淡い燐光を発する数枚の札。
しまった。と、そう思ったときには既に遅い。札から延びる燐光は少女の足に絡みつくと同時に周囲に方陣を展開し、結界という名の檻を形作っていた。
「ケケケケ、よ〜うやく掛かってくれたみたいだなぁ」
聞く物の耳に障る実にイヤ〜な笑い声、まるで物語の悪役の様な声で稀紗耶が笑う。その眼は罠に掛かった獲物を見る狩人のそれ。
先の攻防の中、時折斬撃に交えて放った札。その殆どが少女の身体に触れることすらなく大鎌に阻まれ散らされたが、だからと言ってその力を失った訳ではない。稀紗耶はそれを利用したのだ。
少女に防がれ散らされることを前提として札を放ち、その落着点を読み、後事のための罠とするための念を込める。あとは相手が仕掛けた罠を上手く踏むように導いてやれば良い。
無論、口で言うほど楽ではないが、それを何とかして成さなければ勝てる相手でもない。
だが、幸いにして勝負の運は稀紗耶に味方したようだ。
「さってと、それじゃあ……身動き取れんトコを狙うのは気が引けるが、ぼちぼちトドメといかせてもらおうかねぇ」
何とかして結界の縛から逃れようとする少女を尻目に、稀紗耶は小さくそう呟いて後鬼を握ったままの左手で指剣を形作ると、やおら左眼に指を突き入れ、あろうことか自らの眼球を抉り出した。
しかし、不思議なことに抉り出された眼球に血の跡はない。だが、それもそのはず。稀紗耶の左眼はもとより義眼。不可視のものを捉え、見通し、見破るための呪力が込められた義眼なのだ。
そして、稀紗耶が柄尻を合わせ仕掛けを露にさせた両の太刀、その柄に左眼をゆっくりと嵌め込むと、まるで象嵌された輝石のように、はじめからそこにある事が正しいものであったかの如く収まり、前鬼と後鬼はその姿を双身刀『修羅』へと変じさせる。
「安心しろぉ、せめてもの情けだ。苦しまないように、一撃で終わらせてやるからよぉ」
そう言って、稀紗耶は修羅を構えて気を込める。
そんな稀紗耶の気の応え、前鬼・後鬼のときとは比べ物にならない密度の斬気が修羅の内から溢れ出す。
斬波・黒式。全身から練り出した気を修羅に混め、まさに渾身の力を以って放つ、必殺・必滅を期して放つ、黒い斬波。
双身刀『修羅』の形成、膨大な練気とそのコントロールなど、撃ち出すまでに多大な隙を生じさせる点がこの技の欠点。
故に技の前段階として、敵の動きを封じる必要あり、そしていま、それは成った。あとは、ただ放つのみ。
「……斬波・黒式! 防げるもんなら、防いでみなッ!」
稀紗耶が気迫とともに技名を叫び、修羅の中に収斂した斬気を一気に解き放つ。
少女目掛けて撃ち出される巨大な黒刃。その内に秘められた威と速は、一刀にて放たれたそれとは桁が違う。
少女は結界の燐火に縛された身を何とか解き放とうと鎌を振るい氷雪を撒き散らすが、一枚や二枚ならいざ知らず、十重二十重と巧妙に組まれた札の結界は短時間で抜けられるものではない。
―― 斬ッ!!!
そして、目の前まで迫った黒刃の映像を最後にその眼に焼き付けて、その少女は……
否。少女のカタチを模した霊鬼兵は、そのすべての機能を停止したのだった。


■□■ 登場人物 ■□■

整理番号:7008
 PC名 :三薙・稀紗耶
 性別 :男性
 年齢 :124歳
 職業 :露店飲み屋店主/荒事師

■□■ ライターあとがき ■□■

 三薙・稀紗耶さま、お初にお目にかかります。
 この度は、PCゲームノベル『東京魔殲陣 / 模倣魔』へのご参加、誠に有難うございます。担当ライターのウメと申します。

 大鎌を繰る少女……のカタチを模した兵鬼との戦い、如何でしたでしょうか?
 ガチの打ち合いを制した上で、策を用いて相手の動きを止め、そして必殺の一撃。
 勝ち方としては王道に近いものがありますが、稀紗耶さまのスローテンポ(間延びした)な感じの喋りの所為でしょうか、
 読み返してみると「ハテいったいドッチが敵役だっけな?(失礼)」という奇妙な錯覚に陥ってしまいました。
 まぁ、私は正統派ヒーローよりも、どっちかと言うと悪役・敵役の方が好きなので全然無問題ですが!

 と、まぁ冗談はさておき。
 規定の文字数の中で「キャラクターを格好よく戦わせ、尚且つ魅せる」というのは存外に難しいもので、
 時々、皆さんに本当に満足して頂けているのだろうか、と思う事があります。
 ですが、いつの日か胸を張って「どうだこのやろう!」と言えて、皆さんに心から満足していただける作品が
 書けるようこれからも精進して参りますので、これからもどうぞ宜しくお願い致します。

 それでは、予定通り文字数もオーバーしていることですし(少しは反省しろ)あとがきはこの辺で。
 また何時の日かお会いできることを願って、有難う御座いました。