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■朱夏流転・壱 〜立夏〜■

遊月
【7061】【藤田・あやこ】【エルフの公爵】
 封印、を。
 解くことが自分の役目。宿命。
 ――この、季節が終わる前に。

 まずは一つ目だ、と空を見上げて深呼吸した。
◆朱夏流転・壱 〜立夏〜◆


(あーあ、どっかにイイ男落ちてないかしら。理系の女でもOKっていう…)
 そんなことを考えながら、藤田あやこは神聖都学園への道程を歩いていた。
 本来あやこは大学生である。しかしある事件を契機に神聖都学園で偽高校生として過ごしているのだ。
 若い男の子よりどりみどり!と喜んだのも束の間、明らかに高校生には見えないあやこは浮いていた。故に恋人探しなど出来るはずもなく。
 結果、未だ彼氏無しなのである。
(それにしても……)
 周囲を見回す。
(どうして誰も居ないのかしら?)
 人っ子一人見当たらない。
 いつもならば自分と同じように学園に向かう生徒をちらほら見かけるというのに。
 時間を確認する。…いつも通りの時間のはずだ。
 けれどやはり人っ子一人いない。
 不思議に思いながらも、まぁそういうこともあるかと歩みを続ける。
 と、進行方向に人影を見つける。背の高い――骨格からすると男の。
(何だ、人いるじゃない)
 思って、さらに歩を進めた瞬間。
「…ッ…?!」
 自身をを襲った曰く言い難い違和感に総毛だった。
 気のせいではない。気のせいなどではない。早鐘の様に鳴る心臓がそれを証明している。
 道の先に立つ男に視線を戻す。
 赤い――染めたようには見えない髪は、肩甲骨の辺りまで無造作に伸ばされている。
 バランスのとれた体躯は、しかしどこか危うい印象を受ける。
 そして響く――声。
「流れ、巡る季節――『朱夏』の壱」
 同時、『赤』が景色を染め上げる。
 身体が震える。膝が笑う。とても立っていられず、あやこは地面に座り込んだ。
(な――なによ、これ)
 怖い。
 何が、と明確に言えるわけではない。ただ恐怖した。
「刻まれし『立夏』の封印を、式の封破士たる我、コウが解かん」
 何か男が言葉を紡いだのはわかったが、それを認識できない。
「―――…『解除』」
 そして、あやこの意識はブラックアウトした。


◆ ◇ ◆


「ん……」
 心地よい揺れを感じる。ゆらゆらと――一定のリズムで。
 自分の身体が浮いているのだと、ぼんやりした頭でそう認識する。
(って、え、なんで……)
 浮いているのか、と疑問に思いながら目を開く。
 赤。
 最初に認識したのは目の覚めるような鮮やかな赤。
 そして見知らぬ男の端正な横顔。
「……えぇええぇぇえ!?」
「うわっ?」
 一気に意識が覚醒した。待て待てなんだというのだこの状況。
 足が地面についていない。目に映るのは男の顔と空。そして男の腕は自分の背中と膝裏に回されている。
 つまり。
(こっ…これって乙女の憧れ、『お姫様抱っこ』じゃないの!)
 結論を弾き出す。
 あやこの起きぬけの叫び声に目を丸くしていた男が、口元に笑みを浮かべてあやこの顔を覗き込んだ。
「ちゃんと目、覚めたみたいだな。そんだけ叫べりゃ大丈夫だろ」
 至近距離で見せられた笑顔――しかもかなりの美形――にあやこの胸は否が応にも高まる。
(運命だわ!)
 心の中でそう叫ぶ。
「いやー、巻き込んじまって悪かったな。声かけても揺すっても起きねぇし、どうしようかと思ったぜ。……あ、多分しばらく身体動かせねぇって話だからとりあえず学校まで送ってやるよ。神聖都学園の人だよな?」
 あやこは頷く。
(この体勢のまま学園まで!? なんってオイシイのかしら!)
 内心は興奮しまくっていたのだが。
「あ、私は藤田あやこよ。あなたは?」
 ここでがっつり情報を掴まなければせっかくのチャンスがふいになってしまう!と考えたあやこは男――改めて見るとどうやら年下らしい――に問いかける。
「ん? ああ、名前か。俺はコウ」
 苗字は、と続けたかったが、あんまりにも当然のごとく名前だけ答えられたので訊けなかった。
 代わりに別のことを訊いてみる。
「…えーと、あなたは学校大丈夫なの? っていうか間に合う?」
 コウは笑って答えた。
「ああ、俺学校行ってねぇから。あんたが気絶してから10分も経ってねぇし、時間は多分大丈夫だと思うぜ」
 さらりと告げられた言葉。不思議に思ってあやこはさらに質問する。
「コウくんって何歳?」
「じゅーはち。ちゃんと学校行ってたら高校生だったけどな。家の都合でさ」
「そうなの…。ところで身長何センチ?」
 あやこにとってここは結構重要だ。自身の身長の高さがコンプレックスなのだから。
「あー…いくつだろ。最後に測ったときより伸びてるし、多分180は超えてんじゃねぇ?」
(よし!)
 心の中でガッツポーズ。とりあえず絶対自分よりは高い!
 さて、次は何を訊こうかと考えていたあやこに、コウが不思議そうに言った。
「んで…藤田さん、だっけ? やったら重いんだけどこれ何が入ってるわけ?」
 そう言ってコウが視線で指し示したのは、あやこの荷物である鞄。恐らく意識を失った際に落とし、コウが拾ったのだろう。
「それは……乙女の秘密よっ!」
 ちょっと考えた後、あやこはそう答えていた。
 実は鞄の中には分解した銃が入っている。いつも肌身離さず持っているが、さすがに意識を失ったときまでしっかり持っていることは叶わなかったらしい。
 コウは「ふぅん」と面白そうに呟いただけで、特につっこんでくることはなかった。


 そのあとは他愛ない話をしつつ歩を進め――学園に着いてあやこを下ろしたコウは、さっさと居なくなってしまった。
 そしてあやこは、次に会ったらどうしようかと、思い巡らせるのだった。
 『運命』が再び自分たちを引き寄せることを信じて…。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7061/藤田・あやこ(ふじた・あやこ)/女性/24歳/女子大生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、藤田さま。ライターの遊月です。
 今回は「朱夏流転」への参加ありがとうございます。

 コウとの初接触、如何だったでしょうか。
 あまり『謎』には触れない方向となりましたが…その分個人データを引き出せたということで。
 
 イメージが違う!などありましたら、リテイク等お気軽に。
 ご満足いただける作品になっていましたら幸いです。
 それでは、本当にありがとうございました。