■おそらくはそれさえも平凡な日々■
西東慶三 |
【1219】【風野・時音】【時空跳躍者】 |
個性豊かすぎる教員と学生、異様なほど多くの組織が存在するクラブ活動、
そして、「自由な校風」の一言でそれらをほぼ野放しにしている学長・東郷十三郎。
この状況で、何事も起きない日などあるはずがない。
多少のトラブルや心霊現象は、すでにここでは日常茶飯事と化していた。
それらの騒動に学外の人間が巻き込まれることも、実は決して珍しいことではない。
この物語も、東郷大学ではほんの些細な日常の一コマに過ぎないのである……。
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ライターより
・シチュエーションノベルに近い形となりますので、以下のことにご注意下さい。
*シナリオ傾向はプレイングによって変動します。
*ノベルは基本的にPC別となります。
他のPCとご一緒に参加される場合は必ずその旨を明記して下さい。
*プレイングには結果まで書いて下さっても構いませんし、
結果はこちらに任せていただいても結構です。
*これはあくまでゲームノベルですので、プレイングの内容によっては
プレイングの一部がノベルに反映されない場合がございます。
あらかじめご了承下さい。
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常識外れの大激戦
〜 わりと限界スレスレの戦い 〜
金山武満は後悔していた。
四方八方――いや、掛け値なしに周囲の全方向を埋め尽くす無数の怨念の群れ。
いかに技術の結晶たるパワードスーツ&追加装備があるとはいえ、これだけの数の怨念とまともに渡り合うというのは、並大抵の技術及び体力、そして精神力でできることではない。
『殺してやる! 殺してやるコロシテヤル!』
悲鳴にも似た叫びを上げながら襲い来る怨念たちを、限界ギリギリでどうにか撃破し、またはやり過ごす。
一度でも失敗すればそこに待つのは確実な死。
その極限状態で、彼は各種兵装をさながら自らの手足のように操り、かろうじて怨念の一部と成り下がることを回避していた。
「ええい! これで本当にもつんだろうな!?」
敵の攻撃の合間に、通信回線を開いて一言そうぼやく。
けれども、返ってくるのは開発担当の無責任な言葉だけだった。
『先輩の新型人間の能力は未知数です。保証なんか……』
「どっかで聞いたセリフでお茶を濁すな! ってか自力でなんとかしろってことだろそれ!!」
もっとも、開発部門にしてもいきなりの実戦、それもここまでの相手との戦闘は想定していなかったのだろうから、仕方ないと言えば仕方ないかもしれない。
ぶつぶつ愚痴りつつも、もう第何波かもわからない敵の襲撃に対処し――ようとした、まさにその時。
「うふふふ……首がお留守……? なら貴方の首は私と私達に下さい。ずっと一緒……」
不意に目の前に現れた少女――訃時(ふ・どき)の本体たる「私」が、いきなり至近距離に時空転移してきたのだ。
「っ!?」
その襲撃を、しかし、武満は本能で察知し、回避し、そして反撃する。
霊子ビームキャノンの一撃が、怨念の海を切り裂いていくが――それでも、「私」を傷つけることはできなかった。
これは、何も彼に限った話ではない。
実際、彼とともに戦っている水野想司(みずの・そうじ)は、いろんな意味で常識とは無縁の存在であるが、戦闘能力においてもまさに常識外れの物を持っており、すでにありとあらゆる類の攻撃を、それこそ数えきれぬほどの回数にわたって、絶対に回避しきれないような形で訃時に直撃させている。
時空転移などを使いこなす訃時に対して、その動きの裏をかき、普通には考えられないスピードでの一撃を浴びせ続けることがどれほど困難かは、想像するに難くない。
それでも、その直撃を受けて砕け散るのは「私」ではなく「私達」――召喚された怨念に過ぎず、肝心要の本体にはダメージらしいダメージを与えられていないのである。
加えて、「私達」の方は、戦闘で消耗する数よりも新たに召喚されてくる数の方が明らかに多く、戦況が好転する気配はない。
ともあれ、ただ一つ、はっきりしていることは。
この状況は、当初の想像よりも数段どころか数十段はヤバくなっていて。
――とても、当初提示された八単位くらいで釣り合うものではない、と言うことだった。
「これで卒論も免除になりゃ、ギリギリ割にも合うってもんなんだけどよ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 尊いようなそうでないような犠牲 〜
そんな戦いが、一体どれだけ続いただろうか。
真っ先に脱落したのは、想司でも、武満でも、もちろん訃時でもなく――巨大化して暴れ回っていた魔王・海塚要(うみずか・かなめ)であった。
戦いが激化しすぎたせいですっかり忘れられていたが、要が巨大化した原因の『法王☆幻魔拳』には、ちゃんとした制限時間が存在したのであった。
轟音を立てて倒れる要の姿に、想司の以前の言葉が重なる。
「幻魔拳から制限時間内に目が覚めないと……♪ もれなく全身の骨格が……☆」
さらに、そこへ複数の――いや、無数の怨念の直撃。
――まさか、あの魔王が!?
武満はそう思わずにはいられなかったが――次の瞬間、彼は改めて思い知ることになった。
想司だけでなく、要もまたあらゆる意味で常識とは無縁の存在なのである、と。
「さあ本日の『黒須のドキドキ運勢占い☆』の結果は……」
突然聞こえてきたのは魔王の声、というか寝言。
そのあまりにここまでの脈絡を無視した内容に、訃時の攻撃の手すら心なしか緩んでしまうのだからある意味恐ろしい。
そして、数秒後に続けられた「占いの内容」は、ますます豪快にカッ飛んでいた。
「『乙女座で世界を征服したとか素敵な夢を見続けるそんな君!
今日はシュールな出会いが待ってるぞっ! 運命の相手にバッサリ☆
思い残す事が無い様にね♪ チェキラ!』」
もうどこからツッコんでいいのかわからない。
しかし、端から聞いている側にはわからなくても、当の要にとっては明々白々だったようである。
「……なぜラップ!? バッサリって!? バッタリの間違いでないのであるか!?」
常識的に考えれば普通はバッタリだが、前後の内容を考えればむしろバッサリで合っている。
ついそんなことを考えてしまっている間に、魔王の声がひときわ高くなった。
「って……あれ? そこのメイドさん?
なんでカウントしつつチェーンソーのスイッチを入れ『夢の中で逝ってみたいと思わないかなっ?』って……何その意味深な台詞っ!?
あ……ああ! 今何か繋が……ぐはあお!?」
……何というか、もう、いろんな意味でご愁傷様である。
「この非常事態に、いったいどんな夢見てんだよ……」
唖然とするしかない武満の横で、怨念を切り裂きながら想司が明るくこう言った。
「要っち♪ 予想はしていたけれど間に合わなかったんだねっ☆」
ということは――やはり、時間切れらしい。
「全身の骨格がダメになるんだろ!?」
そうツッコミつつ、頭の中の冷めた部分で冷静に状況を分析する。
ここまでどうにかこうにか戦い抜いてこられたのも、巨大魔王の援護あってこそ。
しかし、その巨大魔王はもはや立ち上がる力を失ってしまった。
このままでは戦況のさらなる悪化は避けられず――一言で言えば全滅あるのみである。
――ならば、一か八かでも、賭けてみるしかない。
不思議そうな顔で小首を傾げる想司に、「次は俺が!」と言おうとした武満だったが。
先に口を開いたのは、想司の方だった。
「んっもう♪ 武満君の慌てん坊さんっ☆ ダメになんかならないよっ♪」
言われてみれば、想司は「もれなく全身の骨格が……☆」と言っただけで、どうなるかについては一言も言っていない。
普通、この手の展開ならば後に続くのは十中八九「ダメになる」だと考えて武満が勝手に補完していたのだが、そういった「常識的な判断に基づく先読み」が通用しないのは、落ち着いて考えてみればすぐにわかりそうなものである。
そして、その後に続く内容が、はるかにとんでもない内容であることも。
「『全身の骨格が感電の古典的表現みたく金色に七日七晩耀き都会の夜を煌々と照らし続ける事になる』だけだってば☆」
一体何がどうなればそんな副作用が出るというのか。
ついそうツッコミそうになった武満だったが、先ほど魔王が倒れた方向に目をやると、確かに何かが煌々と耀いている。
そう、「何か」が。
それが何かを確認する勇気は、武満にはとてもなかった。
「うんっ☆ だから安心して巨大化してねっ♪」
「だああっ! 全力で断るっ!!」
そんな武満の拒絶にも一切聞く耳を持たず、「幻魔拳」と称するナイフを取り出す想司。
けれども、その瞬間に飛来した怨念の流れ弾がそのナイフを弾き、どうにかこうにか武満は救われたのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 願いの行く末 〜
……と。
二人がそんなことをやっている間にも、確実に怨念はその勢力を増しつつあった。
とはいえ、すでに怨念の海のど真ん中にいる二人には、直接的には何の影響もない。
問題なのは、怨念の海の「面積」が、着実に拡大を続けていることの方である。
すでに市街地どころか他の街まで迫りつつあるこの怨念の海に対して、何も知らない異能者がヘタに仕掛けるようなことがあれば、大惨事を招きかねない。
そのことに先に気づいたのは、外部から戦況を見守っている者たちだった。
『どうなってるんだ! 戦況を報告しろ!』
「報告しろったって――」
背後から感じた殺気に、武満の声が途切れる。
訃時だ。
間に合わないと知りつつ、とっさに回避行動を取ろうとする武満の横を、何かが駆け抜けていく。
振り返った武満が見たのは、訃時の光刃を素手で握る想司の姿だった。
肉が焦げ、蒸発するような嫌な音が、不思議と静まりかえった空間に消えていく。
と、訃時の口から、こんな言葉が漏れた。
「貴方もあの子と同じ。いいえ。決して叶わない夢を追う分あの子よりも報われない。
私の願いを守る為に結局世界の全てを滅ぼすのね……?」
呆れるような、哀れむような、そして絶望するような、その表情。
そんな訃時に、想司は夢見るように笑ってこう答えた。
「あの日、あの子に言うべきだった言葉こそ今此処に相応しい。
『もしも君が信じてくれるなら僕は空を飛ぶ事だって湖の水を飲み干す事だって出来るのに』」
何かを確信したような響きに、訃時が――いや、「私」が、微かに不思議そうな顔をする。
「そして……私の君にはそれができたから、願いが今叶ったよ」
想司はそう言葉を続け――その瞬間、彼の手にしていた長衣から光が溢れた。
光が収まった後、そこに立っていたのは、一人の少女だった。
風に揺れる真っ白な長い髪と、透き通るような白い肌。
着物姿のその少女は、まるで桜の精のようにも見えた。
しかし、その手にあるのは桜の枝ではなく、蒼く輝く光刃。
真っ直ぐに訃時を、そしてその中の「私」を見つめるその瞳には、強い意志の輝きが見て取れる。
その彼女の姿に、なぜか、手を取り合う風野時音(かぜの・ときね)と歌姫の姿が重なった。
しばしの沈黙の後、少女が静かに口を開く。
「約束……果たせました」
それは――歌姫の声。
その声を追いかけるように、今度は時音の声が聞こえてくる。
「姉さん……言いたかった事。言えなかった事……でも……これだけは。
ごめんなさい……そして……ありがとう……」
それを聞いて、「私」の顔に笑みが浮かんだ。
嬉しそうな、安心したような、そしてどこか少しだけ寂しげな笑みが。
そして。
『「行くよ」「行きます」』
二つの声が重なり――少女が駆けた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1136 / 訃・時 / 女性 / 999 / 未来世界を崩壊させた魔
0424 / 水野・想司 / 男性 / 14 / 吸血鬼ハンター(埋葬騎士)
0759 / 海塚・要 / 男性 / 999 / 魔王
1219 / 風野・時音 / 男性 / 17 / 時空跳躍者
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■ ライター通信 ■
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撓場秀武です。
この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
・このノベルの構成について
今回のノベルは、基本的に三つのパートで構成されています。
今回は一つの話を追う都合上、全パートを全PCに納品させて頂きました。
・個別通信(風野時音様)
今回はご参加ありがとうございました。
時音さん(?)は最後のみの登場となりましたが、こんな感じでよろしかったでしょうか?
もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
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