■おそらくはそれさえも平凡な日々■
西東慶三 |
【2239】【不城・鋼】【元総番(現在普通の高校生)】 |
個性豊かすぎる教員と学生、異様なほど多くの組織が存在するクラブ活動、
そして、「自由な校風」の一言でそれらをほぼ野放しにしている学長・東郷十三郎。
この状況で、何事も起きない日などあるはずがない。
多少のトラブルや心霊現象は、すでにここでは日常茶飯事と化していた。
それらの騒動に学外の人間が巻き込まれることも、実は決して珍しいことではない。
この物語も、東郷大学ではほんの些細な日常の一コマに過ぎないのである……。
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ライターより
・シチュエーションノベルに近い形となりますので、以下のことにご注意下さい。
*シナリオ傾向はプレイングによって変動します。
*ノベルは基本的にPC別となります。
他のPCとご一緒に参加される場合は必ずその旨を明記して下さい。
*プレイングには結果まで書いて下さっても構いませんし、
結果はこちらに任せていただいても結構です。
*これはあくまでゲームノベルですので、プレイングの内容によっては
プレイングの一部がノベルに反映されない場合がございます。
あらかじめご了承下さい。
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はがねんと女王様の食卓
〜 お誘いは突然に 〜
ある日のこと。
学園から帰ってきた不城鋼(ふじょう・はがね)は、アパートの前に見慣れた人物の姿を見つけた。
私立東郷大学・悪党連合の「絶対女王」、女王征子(めのう・せいこ)である。
「不城鋼! ようやく帰ってきましたのね」
彼女の方でも鋼に気づいて、先に声をかけてくる。
「征子さん、俺のこと待っててくれたの?」
尋ねる鋼に、彼女は「何を当たり前のことを」という様子でこう答えた。
「ええ。他に私がここに来る理由がありまして?」
言われてみれば、それもそうである。
少なくとも鋼の知る限り、このアパートに他に彼女の知人と思しき人物はいない。
と、今度は征子の方からこう聞いてきた。
「それはそうと、今日はこの後何か予定がありますの?」
「いや、特にないよ」
「それなら、これから私の部屋に来て下さるかしら?
この間のお礼に、夕食にご招待したいと思いますの」
しばらく前になるが、鋼は征子がガラの悪い連中に絡まれているところを助け、部屋に上げて服を洗濯してあげたりといろいろしたことがあった。
彼女の言う「この間」とは、おそらくその時のことだろう。
「別にお礼なんて必要なかったんだけどな」
それが鋼の正直な気持ちではあったが、だからといって彼女の好意を無にするのも悪いし、特に誘いを断らなければならないような理由もない。
「まあ、せっかくだからお言葉に甘えてご馳走になるよ」
鋼がそう言うと、征子は満足そうに頷いた。
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〜 もう一つの顔 〜
征子の部屋は、鋼のアパートからほど近いところにあるマンションにあった。
そのこと自体は、先日彼女を送ってきた時から知ってはいたのだが、その時はマンションの入り口までだったので、中に入るのは今回が初めてである。
普段の征子から、いろいろと派手に飾り付けられた感じの部屋を想像していた鋼だったが、実体はそれとは全く違っていた。
「ここが征子さんの部屋か……」
玄関、リビング、そしてダイニングとも、あまり飾り気はないものの綺麗に片づいていており、白を基調とした家具が多く並ぶ様はスッキリとした清潔感を感じさせる。
「何か意外そうな顔をしていますわね」
鋼のこの反応を予期していたかのように、征子が楽しそうな笑みを浮かべる。
「いや、もっと派手な感じかと思ってた」
「ギャラリーもいないところで飾りたててもつまりませんわ」
……と言うことは、普段の彼女は外向きのポーズなのだろうか?
「下ごしらえはすませてありますから、もう少しだけ待っていて下さいます?」
キッチンの方から、心なしか弾んだ声が聞こえてくる。
実を言うと、鋼はあまり征子に「料理が得意」というようなイメージをもってはいなかったのだが――普段の彼女の様子から考えれば、全く無理のないことだ――予想に反して、これはひょっとすると結構期待できるかもしれない。
そんなことを考えていると、ほどなく何やら美味しそうな匂いが漂ってきた。
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〜 料理に込められた真実 〜
征子が作ってくれたのは、サラダにスープパスタ、そして鶏肉のソテーというイタリアン風のメニューだった。
「さ、どうぞ召し上がれ」
料理を並べ終えると、征子は鋼の向かいの椅子に腰を下ろし、じっと鋼の方を見つめた。
その顔には自信ありげな笑みが浮かんでいるが、瞳には微かな不安の色が見え隠れしている。
「そんなにじーっと見つめられると食べづらいんだけどな」
鋼は軽く苦笑してみせたが、征子が視線を外してくれる様子はない。
いつまでもそうしていても仕方ないので、鋼は観念して料理を一口口に運んだ。
「お口に合いますかしら?」
征子のその問いに、鋼は「正直に」こう答える。
「うん、美味しいよ」
「本当ですの?」
「本当だって。お世辞じゃなくて、これだけできれば上出来だよ」
お世辞ではなく、実際彼女の料理はなかなかに見事な出来映えである。
あえて言うなら全体的に少しスパイスが強めで味が濃い感もあるが、その辺りは個人の好みで片づけられるレベルだ。
と。
「鋼にそう言ってもらえると、何ヶ月も練習した甲斐がありましたわ」
安心したような顔をした彼女に、鋼はびっくりしてこう尋ねた。
「練習って……普段から料理してたんじゃないのか?」
「料理を始めたのは、今年に入ってからですわ」
だとすると、まだ料理を初めて半年も経っていないということになる。
「すごいな。とてもそうは思わなかったよ」
彼女の上達の早さに舌を巻く鋼だったが、征子の次の一言は、鋼をさらに驚かせた。
「なかなか納得のいく出来にならなくて、お礼をするのがだいぶ遅くなってしまいましたわね」
「えーと、それってひょっとして……このために料理の練習したってことか?」
その問いに、征子は少し照れたように小さく頷く。
「そうか……うん、わざわざありがとう」
鋼がそう言うと、征子は嬉しそうに笑った。
「でも、こういうのもなんだかいいですわね。何となく……いえ、何でもありませんわ」
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〜 ある天才の生き方 〜
そして。
食事を終えて、出された食後のお茶を飲みながら、鋼はもう一度部屋の中を見回してみた。
この部屋も、そしてこの部屋の中で征子が見せたいろいろな表情も。
どちらも、普段の彼女からはなかなか想像しがたいもので。
普段の彼女と、今の彼女と。
どちらが「本当」の彼女なのだろう?
何となく、そんなことを考えてしまう。
と。
壁際の棚に飾られていた、一枚の写真がふと目に入った。
写っているのは、かつての征子と思しき少女と、大学生くらいのよく似た青年。
「あの写真は?」
鋼が何となくそう聞いてみると、征子は少し寂しそうな顔をした。
「中学時代の私と、当時大学生だった兄ですわ」
写真の中の二人は、すごく仲がよさそうに見える。
それなのに、彼女のこの寂しそうな様子は何だろう?
「身内の私がいうのもなんですけど、兄はほとんど欠点の見あたらない人でしたわ。
文武両道で才色兼備の兄は私の、いえ、我が家の誇りでした……それなのに」
握られた拳が、微かに震えている。
「大学卒業後、アメリカに帝王学を学びに行って、それっきり……」
なるほど、どうやら留学先で何かあったらしい。
「何か、事故にでも?」
鋼はそう尋ねてみたが、真相は全然違っていた。
「いえ……向こうの田舎暮らしが気に入って、帰ってこなくなりましたの」
「……え?」
「今は地元の女性と結婚して、向こうでトウモロコシ農場を経営していますわ」
なんとも予想外の展開である。
それなら、それはそれで当人は幸せなんじゃないだろうかとも思うのだが、残された側にとってはそんなに単純な問題でもないらしい。
「ですから!
私はその兄の分までスケールの大きな人間になって、全世界に女王家の名を知らしめなければならないのですわ!」
それは、有り余る才能を持ちながら、人並みの幸せを求めて小さく纏まった兄に対する反発なのだろうか。
ともあれ、そのために東郷大学――というところまでは百歩譲ってわかるとしても、そのために悪党連合というのは、何かが致命的に間違っている気がしないこともない。
けれども、征子の方はすっかりいつものペースに戻ってしまったらしい。
「不城鋼! 私と鋼なら、きっと天下だって獲れますわ!」
じっと鋼を見つめる真剣な瞳に、さしもの鋼もつい気圧される。
「いや、俺、別に天下とかそういうのは」
ついそう口走った鋼に、征子は「普段のような」笑みを浮かべてこう宣言したのだった。
「もちろん返事は急ぎませんから、返事は気の向いた時で構いませんわ。
ですけど、私は決して諦めませんわ――天下も、そして鋼、あなたも」
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
2239 / 不城・鋼 / 男性 / 17 / 元総番(現在普通の高校生)
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■ ライター通信 ■
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撓場秀武です。
この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
そして、ノベルの方大変遅くなってしまって申し訳ございませんでした。
征子は京佳とは異なり、事情らしい事情はこのくらいしかありません。
彼女の暴走は、ひとえに彼女自身の資質によるところが大きいのです。
ともあれ、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
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