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■GATE:05 『崩れゆく日常』■

ともやいずみ
【6145】【菊理野・友衛】【菊理一族の宮司】
 一年後の「東京」というのは事実なのだろうか?
 化生堂に現れたムーヴの目的……。
 そしてムーヴを目指すフレア。
 記憶がないというミッシング。
 ではこの世界の「歪み」――とは一体?
GATE:05 『崩れゆく日常』 ―中編―



「……やっぱり、朱理だったんだ……」
 呆然と呟く梧北斗は彼女が去った方向を見つめているだけだ。
 また会えて嬉しい。元気にしてた? どうしてこんな所に? 何をしている?
 なに一つ訊けず、うまく言葉も浮かばない。
 高見沢朱理。北斗より一つ年下の少女『だった』。
 だが今は違う。本人だとすれば彼女は『成長している』。
 何があったのか、正直わからない。
(……さっき、なんて言った?)
 フレアは妙なことを言っていた。
 『そんなことは訊かない』とか、なんとか。
(もしかして……未来が決められているのか?)
 そして何かが変わってきているとでも?
「……っ」
 北斗は意を決して走り出す。それは勿論、フレアを追いかけるためだ。
 追いつかなくてはならない。伝えなくてはならない。フレアが朱理で、朱理がフレアで……もう何がなんだかわからないけどでも!
(力になりたいんだ……!)
 あんな風に、突然姿を消されて悲しむのはもう嫌だ! あんな気持ち、二度と御免だ!
 朱理は普段から明るくて元気で、見ているこちらも元気をわけてもらえる少女だった。それがなんだ。
 フレアになった彼女はその頃の面影がほとんどない。あの明るさも、口調も、何もかも失くした姿だ。
(……護りたい……!)
 何か事情があるなら。そうでなくても!



 菊理野友衛は表情を消す。
「……化生堂へ戻るぞ。一年後なら……俺も仲間も全員死んでいる。だからホテルに戻る必要はない」
「あら。ええの?」
「……ああ」
 冷たく言う友衛に、維緒はくすくす笑うだけだ。神経を逆撫でするような小さな笑いだった。
 この世界の歪み……それはもしかして。
(俺たち……? 過去の人間である俺達の存在か……。この東京では俺達は存在『しない』異物だ。俺達が歪み……か)
 この一年後の東京と、自分たちのいる東京の違いはそれくらいだろう。
 歩き出した友衛に、維緒が背後から声をかける。
「あかんねぇ。そんな簡単に」
「?」
 振り向く友衛の瞳は冷めている。
 考えみれば……化生堂にいる連中は今いち信用がおけない。秘密が多い。険悪な場面も多い。それになにより。
(俺達の存在は、あいつらにとってなんなのか……)
「よぉーく見てみ。友衛」
 維緒は傘を差した。
「ココが本当に、『一年後』やて? ほんまか?」
「本当かって……さっきおまえが言っていただろ。見たままだと」
「よぉ見てみ。変なとこ、あるか?」
 そう言われて怪訝そうにし、友衛は周囲を見回した。あれ?
(……維緒の足もとに、影が…………ない)
 友衛の足もとにもない。だが他の者はある。
「もっと他にもあるから、よぅ見て」
 囁くような維緒に促され、友衛はさらに周囲を観察する。
 おかしい……。おかしいはずだ。どこが? どこが変なのだ?
 そこではっ、とした。
「…………『違う』」
 違う。
 友衛は己の手を見下ろす。能力が使える。ああそうだ。ここでは能力が使えるだろう。けれども。
 けれども。
 それは『ちがう』。
 歪であり異物である自分達。だがその理由は。
「……『能力そのものがこの世界には存在していない』……と、いうことか」
 平行世界のどこかには、つまりはパラレルワールドのどこかには、似ていて否なる世界が在る。それがここだ。
 友衛の知る東京では能力者が有象無象に存在している。けれどココは――ここには、それがない。
 当たり前のようにいる能力者たちは鳴りをひそめ、闇と夜の世界に生きる。怪奇事件はほとんどなく、どれも都市伝説や怪談話としてしか人の噂にならない。
 維緒は傘をくるんと回す。
「ご名答。とはいえ、ちぃっと違うんやけどね。そう、ココは、一年後の『東京』やね。ただし……あんたたち自身も、ここには存在してるかもしれへんよ。普通の人間としてな」
「…………」
「魔法があったらいいなぁとか、どこかにまだ忍者の里があるんやないかなぁとか、そういうことを思える世界。
 友衛にーさんの世界ではな、魔法は『ある』もんやし、忍者の里かてどっかに『ある』やろ。そんなもんあるわけないやん、って思うのがコッチの世界やね」
「……じゃあ、ここはやはり別世界ということか」
「んー、説明が難しいなぁ。オレ、そないに頭よくないから。一つだけ言えることは、平行世界の一つであって、フレアの基盤になっとる世界ってことかな」
「? おまえの説明と言い方はよくわからん」
「そやねぇ。じゃ、むかーし話したげよか。友衛はんは、どーにもこーにもオレらのこと敵視しとるしね」
 ぎくっとして友衛は動きを止める。敵視しているわけではない。彼らのことだって、嫌っているわけではない。けれども、得体が知れない。
「さて、オレは幾つに見えるでしょう?」
 くすり、と笑って言う維緒の顔は、傘の陰で見えない。
 友衛は考える。自分より年上なのは間違いないだろう。では?
「……外見は17歳」
「ぷっ。アハハッ! そやね。オレはその歳で死んだからな」
 ゾッ、とした。
 あっさりと維緒が言い放った言葉は、簡単に受け入れられるものではない。
「とはいっても、今は『生きとる』よ? トーサカイオが死んだのが17の時。そ、遠逆維緒が死んだのは、な」
「? 意味がわからないんだが……」
「なんてゆーんかな。別人なんやけど、本人でもあるって、ちょいムズカシーなぁ。こういうのはオートが向いてるんやけど。
 遠い昔、遠逆維緒には兄貴がおった。とはいえ、兄貴ってのは真面目で朴訥でな。これがまた規律にうるさい。せやから維緒は真逆に育った」
「真逆?」
「今のオレ見たらわかるやん。いい加減で、快楽主義。でもって、ちょーっと頭ン中キレてたから、足を踏み外して今のザマってわけ」
「……それほど、おかしいようには見えないが」
「これでもかなり生きとるし、『不変』なんてあらへんよ。オレも丸くなったんやで、これでも」
「維緒、おまえは何が言いたい? そんなことを言うために、こんなことを喋っているわけではないだろ」
 自分の信用を得ようとしているわけではない。ではなんだ?
 維緒はくるり、とまた傘を回した。
「ふふっ。あらまぁ、さすがやね。オレの身の上話にも興味をそそがれんかぁ。つまらん。だったら、『訊きたいことあったら応えてやるで』?」
 その申し出はかなり魅力的だった。けれども変だ。なぜ維緒がこんな話をする?
 友衛は維緒を見つめた。
「……一つだけだ」
「どーぞどーぞ。サービスしたるよ」
「……成瀬や梧がミッシングを気にしているだろ。フレアとミッシングは、あいつらと無関係なのか?」
「ん、ん、んー。友衛にーさんは仲間想いやね。
 正解は、無関係やあらへんよー。成瀬のにーさんはミッシングに恋人を重ねてるんや。北斗くんは成瀬にーさんの恋人とも面識あるから、二人がミッシングに露骨に反応するのもしゃぁないと思う」
「成瀬の恋人、か……」
 それなら合点がいく。けれども、世の中似たような人間は少なくない。あそこまで冬馬と北斗の様子が変になるのは妙だ。
「成瀬にーさんの恋人ちゃんの名前、一ノ瀬奈々子っていうんや。かわええなぁ。ナナコちゃんやて。ふふっ」
「似ているくらい、なんなんだ」
「だって、ナナコちゃん死んでるもん」
 さらり、と。
 なんのことはないように、維緒は言った。自分が死んでいると告げた時と同じように、軽い口調で。
 唖然とする友衛。
「……死んだ? 成瀬の恋人が?」
「そ。ボロいビルの天井がばーんと落ちてきて、どしゃーと潰されたんや。そらもう大変な惨事やったで。
 その片付けを手伝わされて、オレなんて腰痛くなってなあ」
「天井に、潰され……」
 青ざめる友衛に、維緒はへらへらとした笑顔で続ける。
「コンクリとか避けて、そらもうあれは正視できへん惨状やったよ。ぐっちょり潰れててな。もうほら、なんつーの、下手なホラーより怖かったで? あ、でもそれほどグロくもないかな。原型なかったし」
「なにを……笑って……」
「笑うやん。だってな、フレア、すっごい泣いてたんやで。オレに助けを求めるほど」
 ふふふ、と維緒が笑う。友衛は恐怖した。フレアの腕を簡単に切断した維緒。そう、この男は……この男は、狂っているのだ。
「助けてってすがりついてきたんやで? なんでもするって、言うたんやで? ナナコヲタスケテってな。せやけど、オレにもできることとできんことがある。いくらなんでも死人を復活なんてこと、できん。
 せやけど――――なんとかなった」
 ぽつりと言う維緒はまた傘を回す。つまらなそうな顔だ。
「なんとかなった……? 死んでない、ということか?」
「いや、死んでる。とも、言い方が違うんかもしれんけど。まぁ死んでることには間違いない。オレは少なくとも、死んでるって認識してる」
 なぜ遠回しな言い方をする!?
 そこで気づいて友衛はきびすを返した。
「おっと。邪魔はさせへんよ」
 足もとに維緒の傘が刺さった。地面に突き刺さったそれを、友衛が見下ろす。
「……! やはり足止めをしていたのか、維緒!」
「今ちょーどいいとこなんや。邪魔したらあかん」
「邪魔ってどういうことだ!」
「ムーヴは貪欲で、不必要なものでも一度は手に入れんと気がすまん。成瀬冬馬の中におる、一ノ瀬奈々子を奪うつもりや」



(どういうことだ……二人とも奈々子ちゃんと瓜二つだなんて……!?)
 驚愕していた冬馬だったが、すぐに思考を切り替える。これはまたとないチャンスだ。ここにはフレアもいないから、邪魔をされる恐れもない。
 千載一遇のこのチャンス、棒に振るわけにはいかない!
(ムーヴに対して使えるかわからないけど……)
 『時詠み』を、使用する絶好の機会! たとえ使えなくても直接訊ける位置にいる。それに、彼女は「みつけた」と言った。それは明らかに自分に向けて言った言葉だ。
「ムーヴ……! 姉さんのためにもおまえを捕まえる!」
「むりむり! ゴミはなにしてもムダだよぉ。それより、おとなしくそこどいて」
 ね? と可愛らしく笑うムーヴは抱えている時計を持ち直す。
 ミッシングはさらに怒りを募らせたようだ。眉を吊り上げた。
「……ムーヴ、キミは僕に用があるんだろ?」
 静かな冬馬の声にミッシングがぎょっとしてしまう。ムーヴは「うん!」と元気よく頷いた。
「僕は真実が知りたい。なぜフレアちゃん達がキミを探しているのか……なぜキミは……いや」
 ミッシングのほうにも視線を遣る。
「キミ『達』は……僕の知っている人にこれほどまでに似ているのか!?
 頼む、教えてくれないか……!? もし真実を与えてくれるなら、俺は俺に払うことのできる代価ならなんでも……たとえそれが俺の命であったとしても、支払おう!」
 はっきりと言い放った冬馬を、唖然として見つめているのはミッシングだ。
 ムーヴはくすり、と笑う。
「ほんとぉ? くれるんだ。そっかそっか。なんかかわいそーだし、ちょっとくらい教えてあげてもいーよ」
「本当か!?」
「ダメだ!」
 冬馬が乗り出す前にミッシングがそれを止めた。冬馬を庇うようにムーヴの前に立ちはだかる。
「コイツはあなたを跡形もなく吸収してしまう……! それでは姉さんが悲しむ……!」
「俺は真実が知りたいんだ!」
 ミッシングを押し退けようとする冬馬だったが、彼女はびくともしない。ミッシングは頭を左右に振った。
「ダメだ……! ダメ、ダメです! 嫌! 嫌なんです! あなたまで、『あなたまで奪われるのは、嫌』!」
 悲鳴のような声をあげたミッシングはハッとして青ざめる。
 冬馬の手が止まる。そして、恐る恐る尋ねた。
「……奈々子、ちゃん……?」
「………………」
 蒼白な顔のミッシングは唇を引き結ぶ。それから、わななかせた。
「……いや……いや……、あか……り……朱理! 朱理、助けて! 助けてえぇっ!」
 叫んでうずくまるミッシングの前に立つムーヴがひょいと跳んだ。そこに炎でできた槍が突き刺さる。地面を抉った槍は一瞬でとけて消えた。
 ミッシングの目の前に着地したのはフレアだった。白い衣服と赤い髪をなびかせ、ムーヴを睨みつける。
「あははぁ。王子様の登場ってことか。だめだよぉ、邪魔したら」
「うるせぇ。死ね」
 短く低い声と放ったと同時にムーヴに向けて空から炎の棒が雨のように降り注いだ。けれど、ムーヴは微動だにしない。それどころか、面倒そうに顔をしかめただけだ。
「めんどくさいなぁ。いいよ、じゃ、出直すもん」
 と言うなりそこから消え去ってしまった。炎の棒は地面に派手な音をさせて突き立ち、そして所在なげに空気にとけた。
 フレアは振り向くと、屈んでミッシングの背中を撫でた。
「もう大丈夫。怖いやつはいない。だから、『眠れ』」
 がくんとミッシングが意識を失い、フレアの腕の中にもたれた。
「…………フレアちゃん、と言うべきかな。それとも、朱理ちゃん?」
 皮肉な笑みを浮かべている冬馬を、フレアは見上げる。
 こうして見れば確かにフレアは高見沢朱理だ。髪が若干伸び、女として成長はしている。そしてなにより、ミッシングの『朱理』という声に反応したのがなによりも決定的な証拠だ。
「……高見沢朱理はもういない。いるのはフレアだけ」
「説明してくれるよね」
「…………」
「はっ、はは……! もう勘弁してくれよ……! 俺がどんな気持ちだったか! ひどいじゃないか!」
 泣き笑いの表情の冬馬を悲痛な顔で見て、フレアは嘆息した。
「……オートが説明するよ。アタシはミッシングを運ぶから」
 そう言ってミッシングを抱え上げ、彼女は店の奥に引っ込んでしまった。入れ代わるようにオートが出てくる。
 彼は眼鏡を外した。焦点の合っていない、瞳。
「お久しぶりですね、成瀬さん」
「……正太郎君?」
「ええ。もうこの目であなたの姿を見ることはできませんけどね。
 あ、おかえり、北斗クン」
 えっ、と思って振り向いた冬馬の背後には、荒い息を吐いている北斗の姿がある。全身汗だくだ。
「ふ、フレア……は?」
「奥にいますよ」
「さ、サンキュ……」
 ぜぇぜぇ言いながら店の奥に入って行く北斗。
 冬馬はオートを真っ直ぐ見た。
「……この間言っていたことは嘘ってこと?」
「いいえ。本当です。ボクとフレアは、あの時の様子を見ていた。そう、同じ時間、同じ世界に、ボクたちはいました。
 思い出すだけでムカつくんですけどね、幸い、ボクはこの目ですし、フレアだけが直視した。二度もはっきり見て、フレアにはかわいそうなことをしました」
「…………どういうこと」
「フレアの望みを叶えるため、あの時間の過去へ遡ったんです」
 過去に遡るだと?
「けれど、今の『未来』を変えるとフレアとボクの存在が危うくなる。だから見ているだけでした。
 一ノ瀬奈々子を死なせた敵の姿を確認するために、ボクたちはあそこにいた」
「し、死なせ……?」
 じゃあ、死んでいるのか? そんな……そんなことって……!
 オートは冬馬を、見えない瞳で、みていた。
「ムーヴは確実にあなたを狙っている……。もう、教えないといけないですね、成瀬さん」



「フレア! おいっ、フレアったら!」
 襖を開けては閉め、どたどたと廊下を歩く。するとフレアが近くの障子戸を開けて現れた。
「うるさいヤツだな。静かにしろよ」
「っ、あの、俺」
 途端にもじもじする北斗は、フレアをまっすぐ見ることができずに俯いた。フレアは今さらだという様子で顔を隠しもしない。
 至近距離で見ると彼女は確かに綺麗になった。かーっ、と顔が真っ赤になる。
「俺っ! おまえの力になりたいんだ!」
「……は?」
「だって俺!」
 顔をフレアに思い切って向ける。
「おまえのこと、好きなんだ!」
「………………」
 目を見開くフレアに、畳み掛けるように続ける。
「朱理なんだろ? なあ? 今さら隠さなくてもいいって。それに、なんか事情があるんだろ? 力になるよ、俺!」
「……よせ」
 一歩後退したフレアが眉根を寄せる。
「そういうつもりでおまえたちに接していたわけじゃない! おまえも、成瀬さんも、なにも知らずにいる予定だったんだ……!」
 フレアはかぶりを振る。
「どこで……どこで間違えたんだ……! ちくしょう……ちくしょう!」
「フレア……」
「おまえだって……そんなこと考えるはずがなかった……! アタシに惚れるなんて、そんな馬鹿げたこと……!
 ちく、しょ……ぅ、くそったれ……!」
 乱暴に障子戸に拳を振るう。一瞬で破壊された戸を見て北斗は青くなった。
 泣きそうな顔でフレアは北斗を見る。なんとか強がって、涙は零すまいとしていた。
 それを見て北斗の胸が締め付けられる。可愛い……フレアってこんな表情もするのかと、信じられない気分になった。
「くそっ……! でも、これしか方法がなくて……っ」
 唇を噛み締めるフレアは顔を俯かせた。ぐっ、と強く、唇を、噛む。



 維緒はふ、と表情を崩した。
「あかん。また逃がしたんか。なにやっとるんや、フレアは」
「維緒……おまえ」
「はぁ。悪かったわ、にーさん。怒らんといて」
 にへっ、と愛想のいい笑顔を浮かべた維緒を、友衛は睨んだ。「おお怖」と維緒が悪びれもせずに洩らす。
「おまえたちは一体なにをしているんだ……!」
「んー。オレは単にお手伝い。フレアのお手伝いしてあげとるにすぎん」
「フレア……フレアが全ての鍵を握るってわけか。ムーヴにしろ、ミッシングにしろ、どちらもフレアと関係がありそうだしな」
「そぅそぅ。なにせ、あんたらがこんな風に別世界に移動しとるんも、フレアのせいやからね」
 さらりと、維緒はとんでもないことを言う。
「大事な大事な親友ちゃんを、フレアは取り戻そうとしとるんよ。泣かせるやんか」
 ふふっ、と嘲笑する維緒の言葉に友衛は顔をしかめる。どこまでも人を不愉快にさせる男だ。
「そのために俺たちを巻き込んでいるわけか……」
「ちっちっちっ」
 と、維緒が自身の人差し指を左右に軽く振る。
「ちゃうよ。フレアもオートも、あんたらを巻き込むつもりは微塵もなかったんやで?
 あいつらは、あんたらのおる世界が好きなんや。大切で、大好きな人たちがたくさんおるって言うとった。
 ――けど、大事な友達を死なせた償いをフレアはしようとしとるんや」
「償い?」
 維緒はふいに真面目な顔つきになる。こういう顔をすると彼は本当に鋭い刃物のようだ。
「……ほんまは、死ぬ運命にあったのはフレアなんや」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6145/菊理野・友衛(くくりの・ともえ)/男/22/菊理一族の宮司】
【2711/成瀬・冬馬(なるせ・とうま)/男/19/蛍雪家・現当主】
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、菊理野様。ライターのともやいずみです。
 様々なことが語られ始めました。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!