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■東京魔殲陣 / 模倣魔■

ウメ
【4925】【上霧・心】【刀匠】
 夢幻の霧に抱かれて眠る女王の都  霧都『倫敦(ロンドン)』
 阿片と背徳の芳香り漂う爛熟の都  魔都『上海(シャンハイ)』
 人の夢と欲望に彩られた狂乱の都  狂都『紐育(ニューヨーク)』
 
 そんな、世界に名だたる魔都・妖都と肩を並べる都が此処に在る。
 終わりのない、果てのない怪奇を朋輩として、今日も物語を綴り続ける都。
 其の名は最早言うに及ばず。されど、いま一度だけ唱えよう。
 
 無尽の怪奇と妖が、群れし綾なす我らが都。
 其の名は帝都。……帝都『東京(トーキョー)』
 
†††

 世界人類の滅亡をはかる狂信的なテロ組織『虚無の境界』
 彼らが開発した新型の量産型霊鬼兵『ゲシュペンスト・ナーハアーマー(Gespenst Nachahmer)』
 我々は、それが実践テストの為に東京の街に放たれたとの情報をキャッチした。

 IO2に協力する民間超常能力者諸君に告ぐ。
 一般人への被害が大きくなる前に、なにより連中の計画を挫くために、
 魔殲陣を用いて速やかにこれを捕獲し、撃破せよ!
東京魔殲陣 / 模倣魔

◆ 模倣魔 ◆
血色の結界壁によって外界と隔された決闘領域に踊る白刃の煌き。
群れを成して踊るその数その輝きは、実に八閃八刀。
だが、一閃一刀につき一人で計八人の人間がいるのか、といえばそうではない。
「ハァァッ!」
「オオオオオッ!」
八刀を閃かせ、気勢を吐き、殺意と殺意をぶつけ合うのは、ただ二人の男。
一人は、切れ味鋭い長刀子一振りを携え、人外の膂力、速力、そして業を以ってそれを振る偉丈夫。
対する一人は、日本人としては珍しい紅の瞳と、それとは裏腹に閉じられた左目が印象的な中肉中背の男。
その身のこなしは常人と何ら変わらぬものだが、驚愕すべきは両手に構えた二刀のほかに、中空に舞う五刀を含めた計七刀を自在に操るその業にあった。
長刀子の偉丈夫が、常人ならば一振りが精々という一瞬の間に、袈裟、胴薙ぎ、小手、逆風から成る連閃を繰り出せば、対する男もまた中空に舞う刀をその軌道に合わせ、すべてを防ぎ、或いは弾く。
そして、連閃の終わりに生まれた隙を衝き、両手の二刀を十文字に振るい、その身体に裂傷を刻む。
―― ジュゥゥゥ……。
だが、常人ならば致命傷間違い無しのその傷も、その男に対してはまったくの無力。肉が灼けるような耳障りな音をあげて、瞬く間に『再生』してしまう。
人外の身体能力に、神業的な刀剣の業。そして、異常なまでの再生力。
それは、『IO2』と呼ばれる秘密組織に属するエージェントの一人が持つ力であり、その存在を模倣した『虚無の境界』の霊鬼兵、『模倣魔』の一体が身に付けた能力である。
「くそっ、今のも駄目か」
手に残る確かな感触は、先の一撃が確かに男の肺腑にまで至る一撃であったことを告げている。だが、それすらも男は一瞬で再生させてみせ、挙句「そんな攻撃、効くものか」と言わんばかりにニヤリと哂うのだ。
戦いの幕が落とされてより七刀を操る男、上霧・心が模倣魔に呉れた斬撃は、かすり傷などの小さなものまで含めれば、ゆうに百刀に余る。
だが、いまその身体に残るものはひとつとしてない。すべての傷は刻まれた瞬間に再生されてしまう。傷ひとつない、とはまさにこのことである。
(模造品とはいえ、能力的にはあの男と同一、か)
心の脳裏を模倣のオリジナルとなった男の姿が過ぎる。
もちろん、いま心の眼前に立つ模倣魔も、外見はオリジナルと寸分違わぬ姿ではあるのだが、かつてオリジナルと刃を交えた経験を持つ心には、模倣とオリジナルのほんの僅かな差異を感じ取っていた。
それは、模倣魔が放つ殺気。
オリジナルが放つそれは、世に在る異能の者すべてにむけられる底無しの殺気に、異能の強者と刃を合わせること、それを屠ることに対する狂的な歓喜が入り混じった、まさに凄絶とでも言うべきもの。
しかし、模倣魔の放つものはそれほどではない。無論、その研ぎ澄まされた殺気が最上級のものであることは疑いがない。
だが、それが模倣であるが故に、その根本は魂を持たぬ兵鬼であるが故に、激しい情動から生まれる、本来それが持つ限界を超えた力というものがない。
「……やれやれ、模造品ごときを相手にこの体たらく」
あの男といつか再び刃を交えん。そう希い、これまで技を磨いていたが、どうやらまだまだ至らぬらしい。
心は手ずから鍛えた二刀を筆頭とした大小様々な刀を携えて、
「どうにも俺には、お前相手でも十二分な様だ!」
裂帛の気合、そして吼声とともに、再び進攻を開始した。

◆ 刀舞繚乱 ◆
―― ビュオゥン……ッ!
模倣魔の繰り出す長刀子の一撃が、空気を切り裂き、唸りを上げて、心の頭上に振り下ろされる。
「……くぅっ!」
中空にて操る五刀のうち二刀を防御に回すが、完全にその勢いを殺すことは敵わず、二刀のうちの一刀が、ギィンと厭な音を立て刀身の中ほどから断ち折れた。
僅かに勢いを残して降り抜かれようとする長刀子を軽妙な体捌きで躱したものの、完全には躱しきれず、長刀子は心の左肩を掠め血の筋を刻んだ。
得物を降り抜き体勢を流す模倣魔。
心がもし達人ならば、この隙に後の先の勝機を見出し、迷わず模倣魔に刀を向けたことだろう。だが、心は僅かに攻撃の挙動を見せたかと思うと、一瞬でその動きを急転させ、更に一歩、外側に身体を運ぶ。
―― ビュオォォゥン……ッ!
そして、降り抜かれたときと同じ、否、それ以上の迅さで以って、長刀子がその刃を天に向けて奔らせる。
「……ちぃ」
己の誘いが失敗に終わったことに舌打ちを漏らす模倣魔。
振り下ろした際に見せた隙は、わざとそうしてみせた釣りの一手。
模倣魔はその身に写した剣の業、そして何よりその人外の膂力によって、腕の力だけで人を斬殺するに足る二太刀目が可能なのだ。
しかし、心はそれを見抜き、それを躱した。この一合に勝敗を付けるとすれば、明らかに心の勝ちである。
「ハァァァァァッ!」
その攻防を切り抜ける為に命を落とした一刀に心中で礼を述べ、勝利を誓うと心が吼える。
がら空きになった模倣魔の左脇腹を右手の刃で駆け抜け様に一閃。中空の四刀をそれに続かせ、最後に振り向くと同時に左の刃を背中から心臓に突き入れる。
もし仮に、いまの心の行動を見て「背後からの攻撃卑怯なり」などと言う輩がいれば、そいつは真の戦場に身を置いたことのない幸せ野郎に違いない。
殺るか殺られるかの世界に「卑怯」などと言う言葉はない。あったとしても、それは賛辞。
一対一の勝負と言うのは、窮極まで突き詰めれば、それは騙し合いとなる。
如何にして相手の動きを読み、惑わされることなく、そして此方の意図を隠しつつ、相手を騙し、隙を衝くか。冷徹にそれを行なえた者だけが勝者となり得る非常な世界なのだ。
―― 二ィッ……
だが、その動きを読み、虚を用いて隙を衝き、心臓を貫いてなお、模倣魔は生きていた。
脇腹の傷は徐々に癒えはじめ、心臓もゆっくりと再鼓動を開始。攻撃によって動きの留まった心には、狂笑と刃風が向けられる。
心は、すんでのところでそれを躱す。
(此方の攻撃は何度繰り返しても効果なし。逆に、俺は一刀でもマトモに喰らえばそれで終わり……)
それは、分が悪い、なんて生易しいモノではない。
だが、心には無駄と言われようが、愚直と罵られようが、ただ只管に攻撃を繰り返すしか術がない。
模倣魔が心の防御を突き破り一撃を加えるのが先か、心の攻撃が模倣魔の再生能力を超えるのが先か。これはそう言う勝負なのだ。
現に、当初は比喩でなくまさに一瞬で行なわれていた傷口の再生スピードが僅かに遅くなってきている。
(そろそろ、いけるか? ……いや、まだ足りない)
心中で己に問い、否定する。
宙に舞う四刀、両手に携えた二刀。そして、懐に隠した最後の一刀。
だが、それを使うのはまだ早い。まだ、もう少し、模倣魔の再生力を削がなくては、その一刀で止めを刺すには至らない。
「……もう少しだけ、付き合ってもらうぞ!」
故に、再び、心は吼えた。
胸の内に秘めた最後の一刀。必殺の血刀を振るう、その機を作り出すために。

◆ 血の楔 ◆
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
もはや誰の目にも明らかなほど機能を落とした再生能力に苦々しい思いをしながら、模倣魔は荒く肩で息を吐いていた。
「……どうした、模造品。随分と、息が荒くなっているじゃあないか」
だが、そう言って挑発する心もまた、いや、心はその模倣魔以上に満身創痍の体。
宙に浮かぶ刀はその数を最後の一本にまで減らし、両手に構えた刀は所々に刃毀れが出来始めている。
もう少しだけ、付き合ってもらうぞ。そう心が吼えて、再び二人が打ち合いはじめて、既にその数は百合を超えた。
ただ向き合うだけで精神と体力を消耗する真剣勝負に於いて、その数をこなすと言う事がどれほどの苦行であることか。それはもはや常人には計り知れない。
得意な能力を有すると言う以外、肉体的には一般人とそう大して変わらないハズの心が、何故ここまで己を削れるのか。
「おまえ、なかなかやるじゃねぇか……こんな相手はひさし……」
「五月蝿い。その声で、それ以上、喋るな」
オリジナルの男と寸分違わぬその声で、寸分違わぬその口調で、言葉を発する模倣魔を、心は怒りを以って遮った。
「……模造品。貴様はただ其処に居るだけで不愉快だ。目障りだ。存在そのものが、あの男に対する侮辱だ」
それは、心の偽らざる心根の吐露。
かつて刃を交え、いつか再び刃を交えんと願う『あの男』の姿形を模した存在。即ち贋作。
姿形だけを真似ただけならまだしも、その技術や口調、思考までも模倣しておきながら、その本質を写せていない。
心にはそれが、赦せなかった。劣化コピーとも言うべきその存在が、『あの男』を貶めているような気がしたから。それは、心が刀匠であるが故に抱く感情なのかもしれない。
「……来い、模造品。次で、貴様を消してやる」
だが、今はそれで十分。戦う理由にはそれで十分だ。
構える真の気迫に圧され、模倣魔もまた長刀子を構える。
それは、長かった二人の戦いが、遂に最終局面へと至った瞬間でもあった。

最終局面を迎え、互いが互いの様子を窺い、遅速化する空気。
「オオオオオオッ!」
その硬直を打ち破ったのは、模倣魔が放つ雄叫びと、渾身の力と迅さを込めて繰り出される袈裟の一撃だった。
オリジナルの持つ技術を余すことなく模倣し繰り出されるそれは、移動、踏み込み、腕の振り、一刀に乗せた殺意、どれをとっても最上級の一撃と言えた。
宙の一刀だけでは受けきれない。一瞬でそう判断した心は、その一刀に加え右手の一刀も防御に回す。
―― ガ、ギィン……ッ!!
刃と刃がぶつかり合い、ガチリと軋んだ音を鳴らす。
「それで防いだ、つもりかぁぁぁぁっ!」
模倣魔が気を吐き、両手で握る長刀子に更なる力を込める。
―― ズッ……
卓越した技巧に加えられた、圧倒的な力が生む、あり得ない光景。それは受けに回った心の刀、その刃に男の長刀子が食い込む姿。
「……なッ!?」
手ずから鍛えた刃が徐々に「斬られてゆく」その様に、心は驚愕の表情を浮かべる。
模倣魔はこの一合で心が決着をつける心算だということを知っていた。故に、この一合に出し惜しみはない。これまで以上に防御を捨て、ただその一刀に圧倒的な威力を込めて、ぶつけるのみ。
―― ガッ……
慌てて左手の刀も防御に回すが、時既に遅し。
最初に長刀子とぶつかった宙の一刀は既にその刃を切り落とされ、右手の一刀もまたその半ばまで侵食されている。
今更そこにもう一刀が加わったところで、心の身体へ刃を届かせるのが数秒遅くなるだけの話。模倣魔は、そう、考えた。
「待っていたぞ。貴様の胴ががら空きになる、この瞬間を!」
数秒後の勝利に笑みを形作る模倣魔に、心は意外過ぎる、そんな言葉を投げ放つ。
―― ぞぶり。
そして、その言葉の意味を理解した瞬間に、それは模倣魔の胸を、貫いていた。

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁ……ッッ!!」
手から長刀子を取り落とし、模倣魔は胸に手を当て、地に転がり、全身を苛む極上の痛みに叫び声をあげる。
その痛みの源泉。ちょうど、心臓の位置に衝き立てられた真っ赤な小刀を引き抜こうとするが、まるで根を張る大樹のように身体に食い込むそれは、その強力を以ってもビクともしない。
それは、心がその血と力を結集させて作り出した変幻自在の血色の楔。
模倣魔の胸に食い込んだそれは、ただ心の臓を貫いただけではない。
再生しようとする心臓を端から切り刻んでゆくのみならず、構成素材が心の血であることを利して、模倣魔の血流に紛れて全身を巡り、その身体を内側から幾重にも幾重にも切り刻んでいた。
体内の異物を排し、傷を瞬時に癒す。その異常再生力が強く働いていたならば、この小刀も一瞬にして無効化されていただろう。
だが、度重なる心の攻撃によって、心が自ら打ち上げた半身とも言うべき刀たちの犠牲によって、その再生力を大きく削がれた模倣魔には、打ち込まれた血の楔に抗する力など、もはや残ってはいなかった。


■□■ 登場人物 ■□■

整理番号:4925
 PC名 :上霧・心
 性別 :男性
 年齢 :24歳
 職業 :刀匠

■□■ ライターあとがき ■□■

 上霧さま、お久しぶりで御座います。
 この度は、PCゲームノベル『東京魔殲陣 / 模倣魔』へのご参加、誠に有難うございます。担当ライターのウメと申します。

 異常再生能力を備えた他者を模倣する兵鬼との戦い。お楽しみ頂けましたでしょうか?
 能力の一部に制限が課せられた状態での戦い、満身創痍になりながらも何とか勝利と相成りました。
 その真鉄の意思とそこから生まれる力は何者にも折ることは出来なかった。そんな感じでしょうか。

 実はまだまだ書きたい描写、書きたい展開があったのですが……止まらなくなりそうなので自粛しました。
 どうにも私は、日本刀とか自分の趣味領域に引っ掛かるものだと発奮してしまう傾向にあるようです。
 もっと抑えろ、私!

 最後に、期限ギリギリでの納品になってしまったこと、お許し下さい。
 もし、次に機会があればもう少し早くお手元に届けられますよう努力させて頂きます。

 それでは、本日はこの辺で。
 また何時の日かお会いできることを願って、有難う御座いました。