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■脱出不可能?迷路探検依頼!■

智疾
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
「だから!俺は怪奇現象だとかそういうの専門の探偵じゃないんだよ!っつーか、嫌いなんだよ!」
草間興信所のいつもの風景がそこにはあった。
「でも兄さん。結構な報酬が頂けるそうですよ?それにこの依頼、もう依頼人が待ち合わせ場所にいるらしいですし」
零の言葉に、草間は吸っていた煙草をぐしゃぐしゃともみ消した。
「とにかく!俺は……」
「ですが、此処の所依頼を選り好んだ結果、収入が激減しているのも事実です。草間・武彦様」
草間の言葉を遮る様にすっぱりと言い放ったのは、居候の遙瑠歌。
「依頼人様を待たせるのは良くありません。急いで参りましょう」
そう言って、遙瑠歌は無表情のまま扉へと歩を進めた。
「ちょっと待て!俺はまだこの依頼を受けるなんざ決めてないぞ!」
草間の必死の抵抗に、零と遙瑠歌が視線を合わせた後、草間を見つめた。
「多数決です。2対1。依頼を引き受けましょう」
二人の視線を受けて、草間は溜め息をつくと、新しい煙草を口に銜えた。

「で、依頼内容は何なんだ?」
『怪奇現象』としか聞いていなかった草間は、依頼内容を零に尋ねる。
「ある廃ビルで、おかしな現象が起こっているそうです」
「一度入り込むと、二度と出られない。という現象だそうです」
零に継いで遙瑠歌が依頼の『おかしな』部分を説明する。
「出られない、ねぇ……」
面倒くさそうにそう言う草間に、遙瑠歌が口を開いた。
「とにかく、参りましょう。草間・武彦様。依頼人様から、後の事はお聞きしましょう」
「ったく……」
珍しく興味を持ったのか、扉へと向かう小さな少女を見て、草間は煙草を深く吸い込み、大きく吐き出した。


脱出不可能?迷路探索依頼!

<Opening>
「だから!俺は怪奇現象専門じゃないんだよ!」
草間興信所のいつもの風景があった。
「『一度入ると脱出出来ないビル』調査依頼。直ぐに現地集合、だそうです」
零の言葉に、草間は煙草をもみ消した。
「とにかく……!」
「依頼を選り好む結果、収入が激減しています」
「確かに。武彦さん、嫌でも仕事をしないと生活出来ないわ」
草間の言葉を遮ったのは、居候の遙瑠歌と、事務員のシュライン・エマ。
頭を抱える草間の背を、シュラインが慰めるように軽く叩く。
「まず依頼人に会って、現象が何時始まったのか、怪奇直前頃に辺りで工事や不審者を見たか、確認されてる行方不明者は何人か。その確認ね」
「結局おまえもやる気かよ、シュライン……」
「子細は依頼人様に聞きましょう」
草間のボヤキを無視して、遙瑠歌は扉へと歩を進める。
「ちょっと待て……!」
草間の必死の抵抗空しく。
「この依頼、受理決定ね」
シュラインの言葉に、草間は大きく溜息をついた。

「はい、依頼内容のプリントアウト」
シュラインが書類を草間へと渡した。
「『脱出不可能なビル』ねぇ……」
面倒そうに書類を見やりながらそう言う草間。
「行くならちょっと待って。準備がいるわ」
シュラインが草間へ視線を向ける。
「ビルの中に入るなら、懐中電灯や軽食が必要ね。珈琲もいる?武彦さん」
「ああ。もう好きにしろ」
未だ乗り気ではない草間に、小さく笑みを浮かべてシュラインは言葉を続ける。
「あと、ビル持主から出入許可を貰って、ビルの見取図を入手ね」
「許可は不要です」
シュラインの言葉に、遥瑠歌が短く歌う。
少女の周りが光り、そして掌に一つの砂時計が現れた。
しかし、その砂時計は。
「砂が落ちきってる……」
零の言葉に、少女は頷く。
「ビル持主様の砂時計。時は終わっております」
「もう居ないって事か」
居ない人間から、ビル内の見取図が入手できない。
「依頼人が持ってるんじゃない?」
フォローするようにシュラインが言って、零と遥瑠歌に顔を向ける。
「何処かにラジコンがあったわよね?持って来てくれる?あとテグスと懐中電灯も」
「あ!持主不明のあれですね!分かりました」
「承知致しました」
部屋の片隅へ向かう二人を見やって、シュラインは草間へと優しく微笑んだ。
「仕方がないわ。武彦さんの気持ちも分かるけど」
「……仕方ない。今回『だけ』だ」
『だけ』を強調する草間に、彼女は笑みを深くする。
「準備出来ました!」
「此方も」
軽食と珈琲、ラジコン、懐中電灯とテグスを持った少女達。
「じゃ、行くぞ」
新しい煙草に火をつけて、草間は面倒臭そうに歩き出した。

<01>
「で、依頼人は?」
「ビルの前で待ってる筈だけど……」
目的地の廃ビルに到着した草間達は、周囲を見渡すが、依頼人の姿は、其処にはなかった。
「どういう事だ」
煙草を靴で踏み消して、草間は視線を落とした。
「ん?こいつは……」
拾い上げたそれを、他の三人も覗き込む。
「ビルの見取図ね」
シュラインはそう言うと、廃ビルを見上げた。
「案外、待ち草臥れて先に入ったかもな」
「何故、そうお考えに?」
遥瑠歌の言葉に、草間は廃ビルの入り口を顎で指した。
「埃だらけの床に新しい足跡。誰かが少し前にビルへ入ったって証拠だ」
新しい煙草に火をつけ、草間はそう指摘する。
「ねぇ、零ちゃん達はこのビルの中で『歪み』を感じる場所ない?」
草間の肩に手を置いてそう尋ねるシュラインに、少女達はふと目を閉じた。
「怨霊の類いは居ません」
「なら、原因は怨霊じゃねぇな」
一方、遥瑠歌はゆっくりと目を開き、突然歌いだした。
興信所内で起こった現象が再びおき、そして現れる砂時計。
「そいつは」
「依頼人様の砂時計です」
鋼で出来たそれを、他の三人が覗き込む。
「普通だな」
草間が呟く。
「はい」
力になれないと項垂れる少女の頭を、草間は軽く叩いた。
「怪奇依頼だ。仕方ないだろ」
吸い終わった煙草をまた踏み消して、草間はビルを見上げる。
「とにかく、入ってみるしかないな」
その台詞に、全員がビルを見上げた。
「調査開始だ」

<02>
「まず、本当に出られないか確認しましょう」
シュラインの発案に、草間は零からラジコンを受け取る。
そうして、普通に走るかどうかを確認した後、遥瑠歌へと手を差し出した。
「テグス」
「此方に」
渡されたテグスを、草間は立てたアンテナへと結びつける。
結び付けたテグスの反対をシュラインへと渡すと。
「じゃ、いくぞ」
言って、草間はラジコンを発進させる。
「宙に浮く程度な」
テグスの端を持ったシュラインが頷く。
音を立てて、ラジコンがビルへと入ってゆく。
「まずは、ロビーを直進」
何かあれば、宙に浮いているテグスが床へ落ちる。
それを見越して、草間はアンテナへとテグスを結びつけたのだ。
「見取図ですと、じき行き当たりです」
「左に廊下があったな。そっちに進めるか」
草間は新しい煙草を銜えてラジコンを操作した。

その後も、ラジコンは無事一階全てを走って戻ってきた。
「問題なしか。こいつじゃ二階は無理だ。入るぞ」
「念の為、テグスを何処かに結び付けて、命綱代わりにしましょう」
「それなら、テグスは零に持たせろ」
シュラインの発案の後、草間が零を見やってそう言った。
「えぇ。零ちゃん。テグスに零ちゃんの怨霊を伝わらせてね」
「はい」
テグスが透明から青白い色へと変色する。
「地図は遥瑠歌な」
「承りました」
遥瑠歌が地図を受け取る。
「じゃあ、後は入る順番ね」
シュラインが提案すると、女性陣は一斉に草間を見つめた。
「……何だよ」
視線にたじろいで、煙を吸い込む草間に、彼女はにっこり笑って見せる。
「決定ね」
「そうですね」
「わたくしも、最善の策かと」
「だから何だよ」
新しい煙草に変えようと、草間が懐を探った瞬間。
「武彦さん、私、遥瑠歌ちゃん、零ちゃんの順ね」
「ちょっと待て!何で俺が!」
怒鳴る草間に、女性陣は顔を合わせた。
「だって、何かあったらどうするの?零ちゃんはテグス、遥瑠歌ちゃんは地図、私は懐中電灯」
「俺は囮か!」
「違うわ。この状況で戦闘能力が一番発揮できるのは武彦さん、という事」
笑顔のままそう言ったシュラインに、同意するように他の二人も頷く。
「分かった……ま、俺は唯一男だしな」
新しい煙草を銜えて、草間は苦々しげに同意を示したのだった。

<03>
「残った足跡を辿って行くぞ」
四人はビルへと侵入した。
「まだ足跡がある内に行きましょう」
零の言葉に、草間は頭を掻き回して。
「あのな。俺の職業忘れてないか?」
「兄さんの職業?知ってますよ」
そこまでは良かったが、次の言葉に草間は盛大に顔を引きつらせた。
「怪奇探偵よね」
「はい」
「兄さんの職業ですからね」
「おまえら馬鹿にしてんのか!?俺はただの探偵だ!」
静かなビルに、草間の声が響き渡る。
「冗談よ。本気に取らないで、武彦さん」
シュラインが草間の肩を慰めるように叩く。
「それに怒鳴らないで?微かな音も聞き取れなくなるから」
びしりとそう言われて、草間は大きく肩を落とした。

結局一階に異常はなく、一同は何度か休憩を取り二階へと進む事にした。
「じゃ、上がるか」
先頭で煙草を吸いながら階段を上る草間の腕を、シュラインが掴む。
「何だよ」
「しっ!……何か聞こえる」
シュラインは優れた聴力の持ち主だ。
彼女の言葉に、全員が息を潜めた。
「こっちに来る」
まだ、草間達には聞こえていないが、彼女には何か聞こえているようだ。
「二人言い争うような声ね。そろそろ、武彦さん達にも聞こえるわ」
そして聞こえて来た声に、草間は眉を顰めた。
「穏やかじゃないのは確かだな」
暗闇の先を懐中電灯で照らして暫く。
声がはっきりと聞こえるようになった。
「いい加減にしろよ!」
「嫌じゃ!!」
聞こえてきた言い争いの内容に、草間の眉間には更に皺が寄る。
やがて懐中電灯の先に、一人の中年と、年老いた老人が現れた。

「あ!興信所の方ですか?」
「あんたが依頼人か?」
草間の問いかけに、男性が頷いた。
「ええ。ですがもう済みました」
「は?」
「此処に入った父を探して欲しかったんですが、前まで来ると待ってられず……」
「先に入った、と」
「はい」
「ちょっと待て。依頼は怪奇現象関連だったはずだ」
不機嫌そうに煙草を踏みつける草間に、戸惑うように男性は頷いた。
「はい。そうでしたけど違った様で」
「違うだぁ!?」
怒鳴る草間に怯えながらも、男性はもう一度頷く。
「私も来るまでは、『出られない』と聞いていたのですが」
言って、男性は二階へと視線を向けた。
「上に行けば分かります。此処に怪奇現象はありません」
それでは、と老人を無理やり引っ張って、男性は降りていった。
「何なんだ一体」
草間の言葉の後、シュラインはとにかく、と声を発した。
「行ってみましょう。騒動の原因は其処にある様だから」
一同は、二階へと再度歩を進めた。

<Ending>
「何だ此処」
二階へと辿り着いた草間が、その光景に煙草をポロリと落とした。
他の三人も、同じように絶句している。
その理由は。
「ホームレスの街?」
目の前に広がる、沢山のダンボールや毛布。
そして。
「何だ?子供まで居るのぉ。あんた等新入りか?」
草間達を見て、見知らぬ老人が問いかけてきた。
「馬鹿言え。俺は怪奇現象を調査しに来た探偵だ」
告げた草間に、老人は首を傾げてみせる。
「は?そんなの、此処にはない」
「ないって、それどういう事かしら」
「わしはずっと此処に住んで居る。だから知っとる」
「それじゃ、『入ると出られない』っていうのは?」
「『出られない』じゃなく、『出てこない』の間違いか」
言って、新しい煙草に火をつけた草間。
「此処はいい場所じゃ。風避けられるし。土を持ち込んで畑を作ってる奴も居る」
「凄いバイタリティね」
シュラインが半ば呆れた様に呟く。
「どうじゃ?お前さん等も」
「絶対御免だ!!」
草間の怒鳴り声が響いた。

「ったく。何だったんだ」
「全くね」
シュラインの言葉に、溜息をつく草間。
「阿呆らしい結果だったな」
草間興信所一同は大きく頷いたのだった。

<This story is the end. But, Your story is never end!>





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■                                     ■
■【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家・幽霊作家&草間興信所事務員】■
■【公式NPC/草間・武彦/男/30歳/草間興信所所長・探偵】         ■
■【公式NPC/草間・零/女/年齢不詳/草間興信所の探偵見習い】        ■
■【NPC4579/遥瑠歌/女/10歳(外見年齢)/創砂深歌者】          ■
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◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◆◇  ライター通信  ◇◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◆
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◇ この度は、ご依頼誠にありがとうございました。              ◇
◇ ご期待に添える作品作りを心がけて、お品を作らせて頂きました。      ◇
◇ ほのぼの、という普段あまり書かない傾向でしたので、大変勉強になりました。◇
◇ それでは、またの御縁がありますように……                ◇
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