コミュニティトップへ



■朱夏流転・弐 〜小満〜■

遊月
【7061】【藤田・あやこ】【エルフの公爵】
 2つ目の封印を解けと、指示が下された。
 否やがあろうはずもない。自分はただそれだけのためにここに居るのだから。
 指示を出す人間が気に食わなくとも、自分は使命を遂行するだけ。
 通話を切った携帯を見下ろして、小さく溜息を吐いた。





◆朱夏流転・弐 〜小満〜◆



「備えあれば憂いなし、ね!」
 ふっふっふ、と満面の笑みを浮かべるのは藤田あやこ。紆余曲折あって大学生と高校生の二重生活中の女子大生である。
 彼女が操作しているのはなにやらちょっとごちゃごちゃしている機械。
 そして彼女がしようとしているのは、常に肌身離さず持っている銃の照準カメラに録画した映像の再生だった。
 つい先日、偶然に出会った――そしてあやこが運命を感じた――男、コウ。あやこは彼の待ち受け画像を作ろうとしているのだった。
 千載一遇の男、もといチャンスを逃さないための照準カメラは、ばっちりその役割を果たしてくれた。……使い方が間違ってるとかそもそもそれは盗撮であるとか突っ込む人はいない。
 とりあえず再生してみるあやこ。
 ――だが。
「何で?!」
 かなりの高性能であるカメラ。しかし再生した映像はずいぶんと荒れていた。音も聞き取れるか否かと言うほどにノイズが混じっている。
 確かめてみるがカメラに不具合は見受けられない。と、言うことは。
「撮った内容が問題ってこと…?」
 映像が荒れるのもノイズが混じるのもコウに会ってから別れるまでだ。明らかにおかしい。
 とにかく少しでもいい画像はないか、コウについて分かることはないかと何度も再生してみるうちに、なんとか聞き取れたのは。
「『朱夏の壱』…? 立夏のこと?」
 首を傾げる。それくらいしか思いつかないが…そういえばあの日は立夏のころだった気もする。
 ということは小満のころにも会えるのではないか。どこで会えるかも分からないが、少しでも可能性があるのならば備えておかなければ。
 それとは別に『ふうはし』という名詞らしきものも拾えたが――一体どんな字を当てるのかさっぱりで調べようにも調べられなかった。
 とりあえず一番荒れがマシだったコウの画像を待ち受けにし、学校周辺で聞き込みもしてみようと決心するあやこだった。

  ◆

 小満、と一言に言っても結構長い。七十二候でも3つに分けられる。
 アタリをつけてみようかとも思ったが、外したときが怖いのでやめておいた。物事は慎重に行かなければ。
 とりあえず気合を入れて小満の間は赤い服を鞄に忍ばせることにする。
 そういうわけで気合いっぱいで登校していたあやこの目に飛び込んできたのは――鮮やかな赤い髪。
「コウくん!」
 思わずあやこは声を上げて駆け寄っていた。それにコウが怪訝そうに振り向く。
「………あー、えー…っと、藤田さん、だったか。どうした? …もしかしてあの後なんか不具合とか出たか?」
「ううん、そうじゃないの。ただ会いたいなって思ってたから」
「は?」
 ますます怪訝そうな顔をするコウ。
「会ってどうするってんだ? ……まぁいいけど。どっちにしろ俺用事あるから、」
「その用事って、前やってたこと? だったら見せてもらっていい?」
 先手を打つ形であやこが放った言葉に、コウは目を丸くする。何か言おうと口を開いて――溜息を吐いた。
「駄目だっつっても着いて来そうだよな、アンタ。……いいぜ、見てるだけならな。前みたいなことになられたら困るから結界の外に居てもらうけど」
「構わないわ」
 答えつつ心の中でガッツポーズ。
 そしてあやこはコウに着いて行くことに成功したのだった。

  ◆

 コウがあやこを連れて辿り着いたのは、妙に人気のない公園だった。
 不気味な静けさが辺りを包み、燦々と日が照っているというのにどこか肌寒い空気を感じる。
 公園内には入るなと言われたので、入り口で見ることにする。ここに来る前に着替えた服には調査機器が仕込まれている。
 前回の照準カメラのことからするとどこまで使えるか分からないが――ないよりはマシだろう。
 あやこがじっと観察していると、公園の中心へと歩を進めたコウが立ち止まる。そして声を響かせた。
「廻り、巡る季節――『朱夏』の弐」
 コウが紡いだ言葉が微かに耳に届く。
 見える景色が一瞬、揺らいだように見えた。
「刻まれし『小満』の封印を、式の封破士たる我、コウが解かん」
 結界の作用なのだろうか。前回のように周囲が赤く染まることもなく、あの恐怖も感じられない。代わりに前回聞き取れなかった言葉を認識できる。
「――…『解除』」
 瞬間、コウを包むように地面から炎が上がった。驚きにあやこは息を呑む。しかし炎はコウを傷つけることなくすぐに消え去った。それにほっと息をつく。
 軽く手を振る動作をしてから、コウはあやこのいる入り口に向かって歩き出した。どうやら用事は終わったらしい。
「ねえ、コウくん。今のって何?」
「『解除』――正式には『封印解除』って言う。ウチの家がやる儀式の下準備みたいなもんだよ。解除するのにイイ場所ってのがあって――風水とかの吉方位みたいなもんだな、多分。んで、俺は指示された場所に行って解除するってわけ」
「ふうん」
 うまくはぐらかされた気はするが、これ以上訊いても恐らくコウは答えないだろう。思考を切り替えて、あやこは口を開く。
「これからまだ用事あるの?」
「ん? いや別にねぇけど」
「だったらちょっと付き合って。デートしない?」
「デートぉ?」
 困惑顔のコウ。
「デートって、好きな奴同士がやるもんじゃねぇの? 少なくとも会ったばっかの奴とはやらねぇだろ」
「でも私はコウくんとデートしたいのよ。時間なんて関係ないわ」
 言えば、コウは数瞬悩む素振りをし――苦笑した。
「そこまで言われて断るのもどうかと思うしな……。デート云々はともかく、行くとこに付き合えばいいんだろ? それくらいなら構わねぇし」
 そう言ったコウに、あやこはまたも心の中でガッツポーズを決めたのだった。

  ◆

 行きたいところもやりたいことも特にない、とコウが言うので、コースはあやこが決めた。
 街中をぶらぶらと歩いてみたり、赤い車のショールームに中華・トルコ・インド料理の赤いお店に行ってみたり。コウが赤色を好むのではないかという推測からだったのだが、予想に反してコウは特に反応を見せず。
「コウくん、赤色好きかと思ったんだけど…違った?」
 思わず訊ねたあやこに、コウはどうでもよさそうに答えた。
「好きか嫌いかで言われたら微妙だな。そういうんじゃねぇし……単に切っても切れない関係なんだよ」
 だとしたら少々選択を間違えたかもしれない。しかし今のところコウは文句を言うでもなく付き合ってくれているのでよしとしよう。
 世間話程度に会話を交わしながら歩く。
 己の得意分野である科学知識の話題を出そうともしたが、もしその知識を持ち合わせていなかったらつまらないだろう。そう思って問いかけると、コウは笑った。
「前も言ったと思うが、俺学校行ってねぇから。中学までは流石に行ったけど、そっちも出席ギリギリだったしな。専門知識とかからっきしだぜ?」
 それならば仕方ない。専門的な話題を諦めて、ウインドウショッピングを楽しむことにする。
「ねえ、写真撮らない?」
「は? いきなり何だ?」
「女の子は好きな人を自慢したいものなの! 駄目?」
 上目遣いで訊ねれば、コウは困ったように眉根を寄せる。
「写真って――写真だよな。あの、カメラで撮る」
「そうよ」
 それ以外に何があるんだか聞きたい気もしたが、とりあえず肯定。
「――悪ぃ、駄目だ。写真は残る。残ると色々まずいんだよ」
「形として残るのがまずいの?」
「うん、まぁそんなもんか。とにかく写真は無理」
「そっか……」
「うあー、ホント悪い」
 目を伏せたあやこにちょっと焦り気味のコウ。しかしすぐさまあやこはコウに向き直った。
「コウくん!」
「な、何だ?」
「私と青春じゃなくて朱夏――大人の対等な関係で居たい?」
「いや、意味わかんねぇんだけど」
 唐突なあやこの言葉に当然ながらコウはついていけていない。
「意味とかどうでもいいから! 大人の対等な関係で居たいかどうかだけ答えて」
「対等がいいか否かって言うなら、そりゃ対等のほうがいいけど。ってか誰だってそうじゃねぇの?」
「……わかったわ」
 さっぱりわけが分からないといった風情のコウを前に、あやこはひとり不敵に笑むのだった。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7061/藤田・あやこ(ふじた・あやこ)/女性/24歳/女子大生】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 こんにちは、藤田さま。ライターの遊月です。
 お届けが大幅に遅れてしまって申し訳ありませんでした。
 ともかくも、「朱夏流転」への2度目のご参加ありがとうございます。

 コウとデート、ということで、コウは渋ってましたが藤田さまの粘り勝ちというか。
 一部プレイングを反映できない部分もありましたが、ご了承くださいませ。

 イメージと違う!などありましたら、リテイク等お気軽に。
 ご満足いただける作品になっていましたら幸いです。
 それでは、本当にありがとうございました。