■皆でお着替え大作戦!■
智疾 |
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】 |
「そう言えば、遥瑠歌さんはいつも同じ服を着てますよね」
モップ片手に零が掃除をしている最中、ポツリとそう告げる。
言われて草間も、部屋の片隅で本を読み続けている少女に視線をやる。
黒を基調としたゴシックロリータ風の服装の少女は、確かに同じ服を毎日着ている。
『寝る』という行為を覚えた後は、零の服を貸しているのだが、それ以外の時は常に同じ服だ。
「そうだな。そろそろ別の服でも買ってやるか」
草間の言葉に、無表情の中にも何処か焦った様子で、遥瑠歌は首を横に振った。
「わたくしは、これ以上御迷惑をおかけする訳には参りません。ですから、不要です」
遠慮する小さな少女に、草間と零は顔を見合わせて苦笑した。
「嫌か?」
草間の問いに、遥瑠歌が困った様に口を閉ざした。
此れは何を言っても拒否するだろう、と考えた草間は策を講じた。
「そういや、零に新しい服を買うって約束してたな。俺のジャケットも、此の間の依頼で綻んじまったし」
草間のその言葉の意味に気づいた零が、同調する。
「そうですよ。此の間の報告書、服を買ってくれるって言ったからやったんですよ、兄さん」
「そうだったな。しょうがない、今日は皆で服を買いに行くぞ」
「外出、ですか?」
遥瑠歌の問いかけに、頷く草間。
「全員で行くから、戸締りはしっかりしろよ」
「畏まりました」
小走りに窓へ向かう小さな少女を見て、零と草間は顔を見合わせ頷きあったのだった。
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<皆でお着替え大作戦!>
<Opening>
「そう言えば、遙瑠歌さんはいつも同じ服を着てますよね」
モップ片手に零が掃除をしている最中、ポツリと告げた。
言われて草間も、部屋の片隅で本を読み続けている少女に視線をやる。
黒を基調としたゴシックロリータ風の服装の少女は、確かに同じ服を毎日着ている。
『寝る』という行為を覚えた後は、零の服を貸しているのだが、それ以外の時は常に同じだ。
「そうだな。そろそろ別の服でも買ってやるか」
草間の言葉に、無表情な中にも何処か焦った様子で、遙瑠歌は首を横に振った。
「わたくしは、此れ以上御迷惑をおかけする訳には参りません。ですから、不要です」
遠慮する小さな少女に、草間と零は顔を見合わせて苦笑した。
「嫌か?」
草間の問いに、遙瑠歌が困った様に口を閉ざした。
此れは何を言っても拒否するだろう、と考えた草間は策を講じた。
「そういや、零に新しい服を買うって約束してたな。俺のジャケットも、此の間の依頼の最中綻んじまったし」
草間の言葉の意味に気付いた零が、同調して頷く。
「そうですよ。此の間の報告書、服を買ってくれるって言ったからやったんですよ?兄さん」
「そうだったな。仕様がない、今日は皆で服を買いに行くぞ」
「外出、ですか?」
遙瑠歌の問い掛けに、頷く草間。
「全員で行くから、戸締りは確りしろよ。其れと零、シュラインに連絡しとけ。外で待ち合わせるぞ」
「分かりました」
「畏まりました」
小走りに窓へ向かう小さな少女を見て、零と草間は顔を見合わせ頷き合ったのだった。
<01>
「此のデパートでいいのよね。……あぁ、来た来た」
遠くから遣って来る三人組を見て、思わず笑みが零れるシュライン。
「遠くから見れば『兄妹』っていう感じだけど、ああ見えて三人の中で一番若いのって武彦さんなのよね」
以前、遙瑠歌の年齢を聞いた時のあの草間の驚き様と言ったら。
「零ちゃんも第二次大戦中の生まれだし、遙瑠歌ちゃんは零ちゃんよりも前に生まれてるらしいし」
笑みの止まらないシュラインの元に、三人が集まる。
「?何笑ってんだシュライン」
クスクスと笑っているシュラインを見て、草間は眉を顰めた。
「いえ。何でもないわ。それより、今日は服を買いに来たんでしょう?早速入りましょう」
草間の肩を叩いて、シュラインは遙瑠歌に手を差し出す。
「何で御座いましょう、シュライン・エマ様」
「手を繋ぎましょうか、遙瑠歌ちゃん。此のデパートに来たの初めてでしょう?迷子になっちゃいけないから」
差し出された手を、おずおずと握る小さな少女を見て、シュラインは微笑む。
「それじゃあ、行きましょうか」
「はい」
こくりと頷いた遙瑠歌を見て、草間と零も小さく頷いたのだった。
<02>
先ず向かったのは、有名なゴシックロリータ風の服を取り扱っている専門店。
「まぁ、今着てるのが黒だから、白を一着買っとくか」
その言葉に、過敏に反応したのは遙瑠歌。
其れを瞬時に察したシュラインが、草間の頭を叩く事で止めさせる。
「男の人って如何してそうなのかしら。同じ様な服を持っていたって仕方がないでしょう?別の服種を選んであげましょうよ」
「そういうもんか?」
「私だって女ですもの。少なくとも武彦さんよりは分かるわよ?」
悪戯っぽく笑って、遙瑠歌の手を引く。
「確かに、遙瑠歌ちゃんにゴスロリ系って凄く似合うけど、折角なんだから違った雰囲気の物にしましょう」
「いえ、あの……」
遠慮する遙瑠歌を笑顔で制して、別の専門店へと向かう。
その専門店に入ろうとすると、今度は草間の顔が引き攣った。
理由は一つ。
「おい、此処……値段が異常に高く感じるんだが」
先程の店よりも、格段に値段が高いのだ。
「一着くらい良いじゃない。私も少しは払うから」
「そうですよ。一着くらい良いでしょう、兄さん」
零とシュラインにそう言われると、最早草間には発言権すらない。
「それじゃあ、見て回りましょう」
戸惑う遙瑠歌と、楽しそうなシュラインと零、顔色が悪い草間。
四人は、専門店へと入店したのだった。
<03>
「興信所は季節の温度差が激しいから、インナーだけじゃなくて、軽く羽織る物も要るわね」
色々と物色しながら、一着の服を引っ張り出したシュライン。
それは、白地に薄桃色の小さい花柄の散りばめられた、シンプルなデザインのバルーンワンピースとボレロ。
「此れとか良いかも。裏地はきちんと日焼け防止の素材と色が使われているし」
そう言って、シュラインはハンガーに掛かったそのワンピースを遙瑠歌に合わせる。
「あ、あの」
「わぁ!可愛いですね!」
零の言葉が、遙瑠歌の戸惑う声を遮る。
「ちょっと試着してみましょうか、遙瑠歌ちゃん。此の服二つを持って、あの個室で着替えてくれる?」
シュラインはそう言って、小さな少女に服を持たせると、試着室を指差す。
「……草間・武彦様」
無表情な少女の、珍しい程の困惑具合に、草間は思わず苦笑した。
「行って来い。着替えたら扉を開けろよ」
最後の砦すら自分の意見とは食い違ってしまった遙瑠歌は。
「畏まりました」
覚悟を決めた様に、小さく頷いた。
「その間に、零ちゃんの服を見ましょう」
にっこり笑う零に、シュラインは又、棚へと視線を戻した。
「武彦さんはどういうのが似合うと思う?」
「俺に意見を求めんな。分かる訳ないだろ」
言った草間に、シュラインは口角を上げて。
「そうよね。武彦さんは『露出したお姉さん』しか興味ないですものね」
痛烈な一言に、草間が大きく咳き込む。
シュラインが言ったのは、何時までも剥がされる事のない、興信所のポスター。
水着姿の、アイドルの写真。
「其れと此れとは関係ないだろ!」
大声を出した草間に、店内の視線が集まる。
「兄さん、五月蝿いです」
「TPOを考えてね、武彦さん」
二人の冷たい視線が突き刺さる。
話を振ったのはその内の一人だというのに。
そんなこんなで会話していると。
「如何かなさいましたか。草間・武彦様」
試着室の扉が開いて。
其処に立っていたのは、普段見慣れた筈の少女。
「やっぱり。私の見立てに狂いはなかったわね」
「可愛いです遙瑠歌さん!」
にっこり笑ったシュラインの言葉に、続けて零が声を上げる。
白いワンピースに桜色のボレロを身に纏った少女は、何処か居心地悪そうに立ち尽くしている。
「遙瑠歌ちゃんも零ちゃんも、白っぽい色が似合うと思っていたのよ」
シュラインと零が賞賛する中、草間だけが何も言わず立ち尽くしていた。
そんな草間の背中を、シュラインが軽く肘で突く。
「ほら。武彦さんも何か言ってあげて」
相変わらず居心地悪そうに立っている少女に、草間は軽く頭を掻いて。
「取り敢えず、其れは買ってやる」
一言だけ、そう言ったのだった。
<04>
「遙瑠歌ちゃんも零ちゃんも色が白いから、やっぱり帽子がいるわよね」
今度向かったのは、デザインも良く値段もリーズナブルな店。
小物から服まで全て揃う店の為、草間興信所のメンバーは結構此の店を利用している。
「髪の毛が綺麗だし、熱が篭らない、風通しの言いタイプを選ばないとね」
「スカートしか持ってませんから、パンツも一つくらい欲しいですね」
零はボトム売り場へ、草間はアウター売り場へ向かう。
「あの、シュライン・エマ様」
先程の服の事を思い出したのだろう、遙瑠歌が声を上げる。
「大丈夫よ。遙瑠歌ちゃんにもパンツ系を買ってあげるから。あ、パンツに合わせるならシャツも要るわね」
「あの、そうではなく……」
「気にしなくていいのよ、遙瑠歌ちゃん」
微笑んで、小さな少女の頭を撫でるシュラインの表情。
普段クールな彼女が見せる、母性本能とでも言うべきだろうか、優しい表情。
思わず遙瑠歌が目を見開いて見詰めていると。
「私達が『してあげたい』と思って、やっているの。それに、楽しいのよ。武彦さんも、零ちゃんも。仕事の事を忘れて気分転換になるし。何よりも……」
其処まで言って、シュラインは小さくウィンクをしてみせた。
「私も楽しいのよ。遙瑠歌ちゃんや零ちゃんの服を彼是探して、何だか気分は親みたい」
「親……で御座いますか」
零や遙瑠歌には分からない存在である『親』。
シュラインや草間は知っていても、少女達は知らない親の温もり。
「今日は、私が遙瑠歌ちゃんと零ちゃんの『お母さん』で、武彦さんが『お父さん』ね」
だから、と言葉を続ける。
「思い切り甘えちゃいなさい。欲しいと思ったものは、欲しいって言っていいの。それが『親子』なんだから」
優しくそう語り掛けるシュラインを、目を見開いて見詰めていた遙瑠歌は。
ゆっくりと、ゆっくりと表情を柔らかく。
笑みへと変えたのだった。
「有難う御座います。シュライン・エマ様……」
<Ending>
その後、遙瑠歌と零は服を数着ずつ。
草間とシュラインはジャケットを新調した。
「今日は沢山買ったわね」
「殆どが遙瑠歌の服だな」
沢山の紙袋を持っているのは、やはりというか草間。
「今日は、本当に有難う御座いました」
深々と頭を下げた遙瑠歌の左手は、零の手と繋がれていて。
その両脇にシュラインと草間が挟むように立っている。
周りから見ると、完全に『家族』の様で。
「……別に、礼を言われる事じゃない」
照れ隠しの様に煙草を口に運ぶ草間に、思わずシュラインは苦笑する。
「本当、素直じゃないわね武彦さん」
「ほっとけ」
ボソッとそう言った草間のその頬は。
微かに赤かった。
「それじゃあ、帰ったら早速着替えてみましょうね」
笑って自分と草間の間にいる二人の少女を見やると。
少女達は顔を見合わせた後。
「「はい」」
声を揃えて、笑顔を見せたのだった。
後日。
草間興信所の片隅には、白いワンピースと桜色のボレロを身に纏った、小さな創砂深歌者の姿があった。
服が汚れるから、と、普段座り込んでいるその少女は、白いワンピースを身に着けたその時だけは、決して床に座る事はなく。
それを微笑みながら見やる、古参の事務員がいた。
<This story is the end. But, your story is never end!!>
■■■□■■■■□■■ 登場人物 ■■□■■■■□■■■
【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【草間・武彦/男/30歳/草間興信所・探偵】
【草間・零/女/年齢不詳/草間興信所・探偵見習い】
【NPC4579/遥瑠歌/女/10歳(外見)/草間興信所居候・創砂深歌者】
◇◇◇◆◇◇◇◇◆◇◇ ライター通信 ◇◇◆◇◇◇◇◆◇◇◇
この度はご依頼誠に有難う御座いました。
『皆でお着替え』というよりは、『親子』が目立ってしまったお話ですが、お気に召せば何よりです。
シュライン様の提案して下さった『白っぽい服』を、遙瑠歌はきっと宝物の様に大切にするかと思います。
それでは、またのご縁がありますように。
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