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■D・A・N 〜ミッドナイト・ティータイム〜■

遊月
【2778】【黒・冥月】【元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
 草木も眠る丑三つ時。とは言え皆が皆眠るわけでもない。
 眠れずふと外に出てみれば、見覚えのある姿。
 振り向いたその人は、「お茶でもどうか」と尋ねてきた。


【D・A・N 〜ミッドナイト・ティータイム〜】



 闇を操る冥月にとって、夜というのは恐れるものではなく――むしろ己の時間とも言える。
 そういうわけで何ら気負うことなく散歩をしていたその途中。
「こんばんは、冥月さん。こんな時間におひとりで散歩ですか?」
 聞き慣れてはいないが聞き覚えのある声。
 声の発生源に視線をやれば、満面に笑みを浮かべる銀髪赤目の少年がいた。
「……フィノ」
「名前、覚えていてくださったんですね。ありがとうございます」
 にこにこ笑いながら冥月に近づいてくるフィノ。月に照らされたその白い肌は透き通るよう――というかいっそ青白く見えなくもない。月の下では儚さ4割り増しくらいなんじゃないだろうか。
 そんなことを冥月が考えている間にフィノは冥月の前に立って、その紅玉の瞳に冥月を映す。
「言ったとおりになったでしょう。……僕たちと貴方は、近いうちに必ず会うと」
 微笑む少年はどこか底知れぬ雰囲気で――しかしすぐにその雰囲気をやわらかいものへと変えた。
「まぁ、そういうわけですから。一緒にお茶でもどうですか?」
「……何がどういうわけなんだ」
「縁は大事にってことですよ。ほら、月でも見ながら」
 にこにこ、にこにこ。邪気のない笑みを浮かべるフィノは、何気ないしぐさで冥月の手をとった。
「子供は寝る時間だろう?」
 冗談含みに冥月が言えば、フィノは目を丸くし――ふ、と唇に笑みを刻んだ。
「確かに僕は冥月さんからすると子供にしか見えないでしょうが――夜は僕の時間です。それに、昼に散々寝てますからね」
 そうして冥月の腕を引き、視界に見える公園へと歩き出す。
 儚さ4割り増し故に振り払うことも出来ず…まぁ、断る理由もないことだし、冥月は誘いに乗ることにしたのだった。

◆ ◇ ◆

「私が一番好きなのは中国茶だ。祖国だしな。世界中で仕事したから各国の茶にも明るい。…さあ、お手並み拝見といくか」
「って、え? お手並み拝見って、お茶淹れるんですか。ここで」
 ベンチに腰を下ろし不敵に笑んで言った冥月に、フィノは困惑したように眉根を寄せた。
「僕としては自販機か何かで買ってくるつもりだったんですが……どうやらご所望なのは本格的なお茶なんですね。他人にお茶を淹れるのなんて久しぶりですから、ちょっと勘が鈍ってそうですが――」
 言いながらふわりと宙に泳がせたフィノの手には、いくつかの茶器。
「もてなしは最大限に、が持論ですから。誠心誠意、努力させていただきます」
 茶壷に茶杯、聞香杯。茶盤や煮水器、水盂など、一通りの茶器がどこからともなくフィノの手に現れる。
 自分の影内の亜空間と同じようなものかと思いつつそれを眺め遣る冥月。
「ただ……」
 茶盤に置いた茶壷に、煮水器から熱湯を注ぎながらフィノは言う。
「本場の方にご満足いただけるかは少し自信がないのですけど。生憎と独学で嗜み程度に学んだだけですから」
「ほう? 独学か…」
 そうは言うもののフィノの手つきは手馴れたもので。
 多少のアレンジは混じっているようだが、それは許容範囲のものだった。
「……あれ?」
 と、フィノの手が止まる。
「どうした?」
「ああ、その……ど忘れしました。駄目ですね。やはり反復してないと」
 苦笑しつつも手順を思い出そうとしているフィノに、ひとつ溜息をつき。
「ほら、こうするんだ」
 口で言うより早いと背後に回ってフィノの手を掴み、手順を教える。
「み、みみみ冥月さん!?」
「何だ」
「口で言ってくだされば分かりますから!」
「この方が早い」
「いやだからあのっ……率直に言いますが、胸当たってます……」
 やたらと慌てた様子のフィノがどもるわ叫ぶわで何かと思えば。
 言われてみれば当たっている。
「ああすまない。気づかなかった」
「気づいてくださいよ……」
 自分としては別にどうでもいい部類のことなのだが。不可抗力でもあるし。
 すっと離れれば、フィノは大仰に溜息をつく。
「とりあえず、ありがとうございます。おかげさまで手順は思い出しました」
 言いつつ作業を続けるフィノ。しかしその頬が僅かに赤く染まっていることは、闇に親しむ冥月には容易に判別できた。
(落ち着いてはいても、やはりまだまだ子供だな)
 内心で笑いながら、フィノが茶を淹れるのを待つ冥月だった。

◆ ◇ ◆

「うん、美味いな」
 フィノの淹れた茶を飲み、一言。
 「夜は冷えますから」と出されたのは青茶――鉄観音。
 フィノはどうやら花茶とどちらにするか悩んだらしいが、冷えた身体にこの茶は心地よい。いい選択だ、と冥月は思った。
「ありがとうございます。でも、冥月さんが手伝ってくださったからですよ」
 礼を言いつつ嬉しそうなフィノ……この少年もまた、自分に完全に心を開いているわけではない。
 しかしシエラ同様懐いているのは分かる。
 理由にとんと心当たりがないので、率直に訊ねた。
「シエラにも聞いたが、私なんかのどこがいいんだ?」
 言葉にフィノは、一瞬間をおいて笑う。
「明確な理由なんてありません。そもそもここで即答できるようならば、それは僕が貴方の上辺だけを見て勝手に判断していることになるのでは?」
 隙のない笑顔。儚い雰囲気は変わらないが、外見年齢からすると大人びすぎたその受け答え。
 出方を待つ冥月に、フィノはゆったりと――哀しげな笑みを向ける。
「――まぁ、冥月さんからしたら当然の疑問ですよね。……シエラから聞いたでしょう。僕の、姉のことを」
 伏せた瞳は、何かを悼むかのようで。
 月光に照らされたその姿は、脆く……儚く。
「シエラはああ言いましたけど――実際、似てますよ。そっくりとまでは行きませんけど。でもやっぱり外見だけじゃなくて、なんだかんだ言って面倒見がいいところとか優しいところとか、それを自覚しているようでしていないところとか」
 なんというか、面と向かってそんなことを言われると背中が痒くなる。というかそんな風に見られていたのか。
「同じだと、思ったんです。姉さんは強かった。強くて、優しくて――哀しい、人だった。…僕は、姉さんを、守れなかったから」
 これまで浮かべられた笑みとは違った――自嘲の笑みをフィノが浮かべる。
「だから、姉さんの代わりを求めている――そう取られても構いません。実際、貴方に姉さんを重ねているところがあるのは認めます。けれど、」
 一度言葉を切り、再び口を開いた少年は、真摯な瞳で冥月を射抜く。
「僕は『貴方』を見て、貴方と話して、貴方自身を好きになりました。これだけは、信じてください。姉さんに似ていることも時間も何も関係なく――ただ、貴方なら、と思ったから」
 そこまで言ったフィノは、はっと我に返った様子で――見る間に顔を朱に染めた。
「あ、その、『好き』と言うのは恋愛感情と言うわけではなく……」
「…分かっている。友愛の意味だろう」
 そう返しつつも、あまりにストレートなその言葉に少々頬が熱くなるのは仕方ないと言えよう。
 なんだか妙な感じになってしまったその雰囲気を払拭するかのように、軽く咳払いをしたフィノが口を開いた。
「答えになっているかは分かりませんが、これが僕の『理由』のようなものです。……ああ、そういえば」
 言って、すっと空に泳がせたその手には、一足の靴。
「お礼、何にしようか迷ったんですが……アクセサリーの類はあまりお好みではないと思ったので。実用性を考えて靴にしてみました。目測ですがサイズは多分合っていると――僕の役に立たない特技の一つですので」
「何だその特技は」
 渡されたそれのサイズを確かめてみる。……確かに合っていた。
「良い靴は良い場所に連れて行ってくれるといいますから」
 にっこりと笑うフィノ。ピンヒールやらミュールやらでないのは恐らく冥月の履いている靴に合わせたのだろう。デザインも悪くない。
 しかし目測でぴったりサイズを当てられるのは色んな意味で怖い。
「……まぁ、有り難く受け取っておく」
 突き返す理由もないので受け取ることにする。かなり上質のもののようだが、礼だというのならば遠慮もいらないだろう。
 シエラは手作りでフィノは既製品、というのも、見事に性格の相違が出ていて面白い。
 シエラにもフィノにも色々あるようだが――まぁ、関わるのもそう悪くはないかと、ふと思ってしまった冥月だった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2778/黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)/女性/20歳/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは。ライターの遊月です。
 お届けが遅くなって申し訳ありませんでした。
 ともかくも 「D・A・N 〜ミッドナイト・ティータイム〜」にご参加くださりありがとうございます。

 フィノの可愛らしい面……は余り出せてないかも知れませんが、ちょっとだけ彼の根幹が見え隠れすることとなりました。
 というか大分フィノが暴走してくれたのでプレイングが反映し切れなかったところもありますが、ご了承くださいませ。
 フィノはシエラより、かなり大人びてる上、実は大分癖があったりします。たまに子供っぽいところもありますが。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。