■遙見邸離れにて・予定事項の報告依頼■
めた |
【7061】【藤田・あやこ】【エルフの公爵】 |
遙見邸の玄関で、嬉しそうな声が響き渡った。
「あれぇ、浄花? 久しぶりじゃないか。おーいにーさーん? 浄花が帰って来たよぉー」
「お久しぶりですわこの行方不明コンピューター兄貴。今までどこに行ってやがりましたのか是非教えてくださいませ」
「あはは、ちょっとね」
遙見虚夢が出迎えたのは、チャイナドレスを着た褐色肌の女性。ただし口にはアラビアの女性がつけるようなベールを付け、手には大仰な鉄製の杖。しかも髪は金髪と、見れば見るほど国籍不明の女性である。
彼女は遙見浄花。海外旅行から帰って来た、遙見家の長女である。
「浄花か。貴様も帰ってくるなら帰ってくるで連絡の一つくらいいれろ馬鹿者」
階段から降りてきたのは、遙見邸の主、遙見苦怨であった。
「あら苦怨お兄様。引きこもりな上にやたら機械音痴な性格は直りまして?」
「……貴様も、本当に変わらんな。離れの部屋はそのままとってある。掃除は七罪がやっているはずだから、そのまま使え」
「感謝いたしますわ」
自分の家だというのに、頭を下げる浄花。礼儀正しいのかそうでないのか全く分からない。
苦怨と虚夢は、目をあわせる。虚夢は面白そうに笑い、苦怨は嫌そうに顔をしかめるのだった。
「浄花さま?」
遙見邸の離れ――といってもほとんど浄花の個室だが――に、七罪が入っていった。
「あの……」
「お客様ですわね、お通ししてくださいませ」
「あ、は、はい」
七罪が何も言わぬうちから、浄花はお見通しとばかりに言った。七罪はまたぱたぱたと出て行き、代わりに別の人物――依頼人が現れた。
「あなたがいらっしゃることは知っていましたわ。もちろん、あなたが何のために来たのか、なんの情報が欲しいかも、全部……」
妖艶にして不可思議な美女は、薄く微笑む。足を組みかえると、太ももが大胆にあらわになる。だが浄花自身は気にする様子も無い。
「私は長兄のような『失われた過去』も、次兄のような『今在る現在』もお伝えできません。ただ『これからの未来』なら、いくらでもお話出来ますわ。ですから、どうぞ、お気を楽にしてください。
さあ、当たるも当たらぬも八卦の辻占。これからの未来は貴方次第ですわ――では、これからお話します。貴方のこれからの予定事項を――」
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遙見邸離れにて・予定事項の報告依頼
すっかり顔なじみとなった藤田あやこが瞳をきらきらさせて語るのを聞いて――――遥見浄花は、頭が痛くなってきた。誇大妄想とまでは言わないが、なかなかに難しいことを言ってくれる。
「つまり――これから先の未来に起こりうる災厄を予想してくれ、ということですわね」
「うんっ」
本当に難しい。あやこは溜息を一つついてから、解説を始めた。この状況になるのはわかっていたことだが、それでもいざ直面すると気が滅入る。
「無理ですわ」
「えーッ! なにそれ未来のこと予測できるんじゃないのお!?」
「ええ。わたくし、それに関してはスペシャリストですもの。二週間ほど先なら的中率はほぼ十割。ですけれどもね……」
ふう、と憂いの顔を帯びて、浄花は続ける。
「さすがに一年先、二年先、となると難しいのですわ。なにせさまざまな要素がからまって、運命というのは形成されますから。一年先となると、膨大な量の演算をしなくてはなりませんの。おまけにそれをしても、細かな値のずれが生じれば結果は大きく変わりますわ。それを十年、二十年先だなんて――無理としか言いようがありませんわ」
「そんなあっ。私の夢がー! 宇宙人との新婚生活がーっ!」
わめくあやこ。どうしたものかと浄花は思案するが、すぐには良い案も浮かばず、結局――。
「一つだけ、方法が有りますわ」
「えっ、なになに」
「要するに可能性の演算を減らす事が出来れば、長期の予言も十分可能です。そうですね、簡単に言えば――――不確定性を可能な限り減らせば良いのです」
「ん……んーと、具体的に言うと?」
「あやこさんの行動を制限します」
きっぱりと浄花は言ってから、なにやら紙をとりだした。
「これから貴方の生活は貴方の自由になりません。あなたが決められた動き、定められた状況を作り出せば、自然と不確定性は小さくなっていきます。そうすれば、五十年ほど先ならば予測も難しくないでしょう」
「む、むむむ」
「そうですね……、ひとまず明日は、一日中家に閉じこもり、『ふんぐるいむぐるなふくとぅるふるるいえうがなぐるふたぐん』と唱えながら踊り続けてください。その間、誰もあわないように電話線をきり、携帯をきり、鍵をかけ、部屋に暗幕をたらして恍惚状態に――――」
「うあああああんっ、なあーつうーみいーちゃあーんっ! 浄花ちゃんがいぢめてくるよおおおおッ!」
あやこが絶叫して部屋を出て行った。すっかりこの家の常連なので、この大声もいつものことになってしまっている。ちなみに、浄花はこの結末も無論予測していた。
(まあ、女だけの世界、というのも興味はありますけども……)
それから、数日がたった。
浄花は、溜息をつきながら再びあやこを迎えていた。この状態を予測したのはほんの数分前である。つまり――浄花にとってはかなり予想外のことなのだ。予測できなかったに等しい。
それだけあやこの意思が強いとは、思わなかった。
「やります」
強い気迫で、あやこが言った。
「やってやろうじゃないの! そうよラブリーな新婚生活のためなら今の自由の一つや二つ」
「本気ですの?」
「ええ!」
弱った。
確かに、浄花がだす条件をあやこが完全にクリアするならば、彼女の誇大妄想的なスペースオペラが完成してしまうのだ。
「そうよ! 浄花さんだって苦怨さんにいじめられてるでしょ! 一緒に連れてくわ! いいのわかってるの何も言わないで!」
これは、本当にまずい、と浄花は思う。彼女はこの家を気にいっているし、離れるつもりはないのだから。
「…………では、今日やる事をお伝えしましょう」
ごくり、とあやこが唾を飲む。
「今日中に、彼氏を作ってください」
――後日。
目的を達成できなかったあやこから、『それができたら苦労はしないわよ!』と、大きな文字で書かれた手紙が送られてきた。
泣きながら書いたためか、手紙はくしゃくしゃだった。
<了>
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■ 登場人物
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【7061/藤田・あやこ/女性/24歳/女子大生】
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■ ライター通信
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どうもー、通算五回目の依頼ありがとうございます。さらにコンプリートのおめでとうございます。ぱんぱかぱーんっ!
今回は短めでしたが、今回は面白さを狙ったものでした。いかがでしょうか?
まだまだ遠くのものを見る遥見三兄妹と、彼らの従者の話は続きます。シナリオ追加もありえますので、気長に見守っていただくと幸いです。
それではそれでは。
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