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■D・A・N 〜First〜■

遊月
【7132】【黒祈・深久】【野良猫(人)】
 自然と惹きつけられる、そんな存在だった。些か整いすぎとも言えるその顔もだけれど、雰囲気が。
 出会って、そして別れて。再び出会ったそのとき、目の前で姿が変わった。
 そんなことあるのか、と思うけれど、実際に起こったのだから仕方ない。
 そんな、初接触。
【D・A・N 〜First〜】


 とある自然公園の中。そこに『人間になれる変な猫(と本人は思っている)』、黒祈深久は居た。
 深久はその黒い目をくりくりと動かして、あたりを見回していた。
(お腹……空きました………)
 思いながら食べられる野草や木の実がないかを探す。
 人の状態で食べるとすると空腹を満たせない量であっても、猫の状態で食べれば問題ないだろう。そう考えて見つけた木の実などをちょこちょこと集めていると、がさり、と何かが鳴った。
 自然の――草や木の葉擦れの音ではないことはすぐにわかった。そして素早く音の発生源に目を遣った深久が見たのは、一人の青年。
 夕日に透けるショートの茶色の髪に、ダークブラウンの瞳。均整の取れた体つきのその人は、目を丸くして深久を見ていた。深久が冷静であれば先程鳴ったのは青年の手に提げられているビニール袋だったのだと気づいただろうが、残念ながらそんな余裕は深久にはなかった。
(にん…げん……?)
 驚きと恐怖で深久の身体が強張る。
 人間に会わないようにと、ちゃんと気を配っていたはずなのに。
 この目の前の青年の気配に全く気づくことが出来なかった。
 じり、と深久が後退る。それに青年は小さく首をかしげ、口を開いた。
「どうしたの?」
 その言葉にはただ純粋な疑問があっただけだったけれど、深久の恐怖に拍車をかけた。
 (また、)
 震えながら、後退る。手の中にあった野草や木の実がいくつか落ちてしまったけれど、それにも深久は気づけない。
 (また、追われるかもしれない)
 それは、恐怖。過去の経験が引き起こす――トラウマとも呼べるそれ。
「? 別に俺、怪しいものじゃないよ? や、まぁこんな時間だし人攫いと勘違いされても仕方ないかなとは思うけど――」
 青年が全てを言い終える前に深久は踵を返して全力で走り出した。後ろから青年の戸惑ったような声が聞こえた気がしたけれど、それでも深久は立ち止まることなく走り続けたのだった。

 残された青年は呆気にとられた顔で深久が走り去る様を見届けた。
 はっと我に返り、小さく溜息をつく。
「あー、だから人攫いじゃないって言ってるのに…」
 俺そんなに凶悪顔してんのかな、などとぶつぶつ呟きつつ、ふと深久の落としていった野草や木の実に目を留める。
 ひょいと屈んでそれを拾い上げ、しげしげと見つめる。次いで思案気に眉を寄せ――しばらくして何かに合点がいったように言葉を零した。
「ふうん、なるほどねぇ」
 そして至極楽しそうに唇を歪めて自分の手にぶら下がるコンビニの袋を見ると、悠々とした足取りで深久の走り去った後を追ったのだった。

◆ ◇ ◆

 闇雲に走った深久だったが、自分のなわばりである公園から出るのも怖くて、結局大きめの茂みに隠れていたのだが――。
「はっけーん」
 がさがさと茂みを掻き分ける音が響いたかと思うと至極楽しそうな声が聞こえて、先ほどの青年が顔を出した。
 深久はそれにびくりと震え、再び逃げようとした。
 しかし。
「うわちょい待った。別に何もしないから、逃げないで」
 言葉と同時、伸びてきた腕が深久の手を掴む。それもまた深久の恐怖を煽ってしまう。
 声を出すことも出来ず、いやいやをするように首を横に振る深久に青年は困ったような声で言った。
「や、ほんと何もしないって。ってかそんな怖がられるとちょっと傷つくんだけど」
 別に深久は青年自体がどうと言うわけではなく、人間全般が怖いだけなのだが――それを深久が伝えられるわけはない。
「とにかく、話だけでも……って、うあやばい、時間じゃん」
 沈みゆく夕日に目を遣った青年が苦々しげに呟いたその次の瞬間。
 夕日の光に縁取られたその顔の輪郭が、揺らぐ。
 色彩が褪せて、薄れる。空気に溶ける。
 そして極限まで薄れたそれは、陽が完全に沈むと同時、再構築される。
 揺らいだ輪郭は、先ほどよりもやや細身の身体を形作り。
 褪せて薄れた色彩は、色を変え、鮮やかに。
 そして先ほどまで青年が立っていたそこには――…全くの別人が。
 日に当たったことがないような白い肌、先の青年より長い夜闇の如き黒髪。
 鋭い対の瞳は、髪色よりなお深い漆黒。
 そしてその人物は、す、と視線を深久に向ける。その視線の鋭さに、深久はびくりと肩を跳ね上げた。
 掴んでいる腕を放して欲しくて懸命に力を込めてみるけれど、全く動かない。
 そもそも今まさに目の前で起こった、人が全くの別人に変化する現象によって深久は半ばパニック状態だった。
 恐怖とパニックとですでに半泣き状態の深久。さらに追い討ちをかけるように無言で見つめてくる漆黒の青年。
 深久の恐怖その他諸々が臨界点を超えようとしたまさにそのとき、目の前の青年が小さく言葉を落とした。
「腹が、減っているのか」
(え、…?)
 あまりにも予想外の言葉に思わず涙も引っ込む。
 抵抗も忘れ見上げる深久に、青年は淡々と言葉を紡ぐ。
「先程アーシャの前で落として行ったのも、今持っているのも食物として摂取可能な野草だろう。今は滅多にそういうものを食べようとする人間は居ないと思っていたがな。何の理由があってまともな食事をしないのかは知らんが、まあいいだろう。とにかく、お前は腹が減っているのではないか?」
 問われ、深久は半ば流されるようにして頷いた。
 それに対して小さく頷いた青年は、自身に手に提げているコンビニのロゴの入ったビニール袋を深久へと突き出した。
 突然のことにわけがわからず目を丸くしている深久に向かって、青年はやはり淡々と告げる。
「それはアーシャ――ああ、俺の前にお前に会った茶髪の男だ――が買ったものだが、あいつはどうやらこれをお前に渡したかったらしいからな、代わりに渡しておく。一応言っておくが毒などは入っていない。……ただ腹が膨れるかどうかは少々疑問だが」
 袋と青年を交互に見るのみで受け取ろうとしない深久の手に半ば無理やりそれを押し付けた青年は、掴んでいた深久の手も解放して踵を返す。
「それではな。縁があればまた会うだろう」
 そして音もなく――消えたのだった。
 しばし青年が消えた場所を呆然と見つめていた深久だったが、ふと渡されたコンビニの袋に視線を落とす。
 恐る恐る覗き込んだその中には。
 ――大量のプリン…しかも普通のプリンに始まり生クリームプリンやらはちみつプリンやら黒ごまプリンやら様々なプリンと、ミネラルウォーターという何ともいえない組み合わせのものが入っていたのだった。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7132/黒祈・深久(くろき・みく)/男性/8歳/野良猫(人)】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、黒祈さま。ライターの遊月と申します。
 「D・A・N 〜First〜」にご参加くださりありがとうございました。
 初めてノベルですのにお届けが遅れまして申し訳ありません…!

 アーシャと漆黒くん(仮)、如何だったでしょうか。
 何気にどっちも名乗ってないですが、まあ追々ということで…。
 夜メインなのにあんまり漆黒くん(仮)喋ってないですが…アーシャもそんなに喋ってるわけではないですけど。
 少しでも気に入っていただけると嬉しいです。……まだまだ性格出てませんけれども…。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。