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■梅雨ならではの困り物?■

智疾
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
梅雨。
そう、梅雨だ。
ざぁざぁ、じとじと、ざぁざぁ、じとじと……
「乾きませんねぇ……」
「同感です」
零と遙瑠歌の視線の先。
其処には、事務所の天井を埋め尽くす程の。
洗濯物。
「だから言っただろ。梅雨の合間を狙えって」
「そうは申されましても、先日拝見した天気予報では、此れから一週間は雨天だと」
遙瑠歌の言葉に、草間は言葉を詰まらせた。
一週間分の洗濯物を置いておいたらどうなるか。

―推して知るべし。

「如何にかして洗濯物を乾かす方法を考えねぇとな」
「室内にも臭いが篭りますしね」
実際もう篭り始めている。
「……草間・武彦様。昨日拝見した新聞、というものには何か方法は記載されていないのでしょうか」
「生憎、新聞に載ってんのは競馬の結果だとか、辛気臭い事件だとか、そういうのしか……」
草間の発言を遮る様に。
零が声を上げた。
「こうなったら。今年こそは買いましょう!除湿機と乾燥機!!」
「はぁ!?」
<梅雨時の困り物?>

<Opening>
梅雨。
そう、梅雨だ。
ざぁざぁじとじとざぁざぁじとじと……
「乾きませんねぇ……」
「同感です」
零と遙瑠歌の視線の先。
其処には、事務所の天井を埋め尽くす程の。
洗濯物。
二人の少女の言葉に、草間とシュラインも洗濯物へと視線を移す。
「だから言っただろ。梅雨の合間を狙えって」
「そうは申されましても、先日拝見した天気予報では、此れから一週間は雨天だと」
そう告げた遙瑠歌に、言葉を詰まらせる草間。
想像するシュライン。
一週間分の洗濯物を置いておいたらどうなるか。

―推して知るべし、である。

「如何にかして乾かす方法を考えねぇとな」
「室内にも臭いが篭るし」
実際に、もう篭り始めている。
「草間・武彦様。先日拝読した『新聞』というものには、何か方法は記載されていないのでしょうか」
「生憎、新聞に載ってんのは競馬の結果だとか、辛気臭い事件だとか、そういうのしか……」
頭を掻きながら言う草間の言葉を。
「こうなったら」
遮ったのは、義妹の零。
「こうなったら、今年こそは買いましょう!除湿機と乾燥機!!」
「はぁ!?」
突然の言葉に、草間は銜えていた煙草を取り落とした。
「だって、洗濯物は乾かないですし。何よりも、遙瑠歌ちゃんの髪の毛が可哀想な事になってます!」
拳を握って力説する零の後ろで、床に座り込んだオッドアイの少女が軽く目を見開いた。
草間と零、シュラインの視線は、一斉に遙瑠歌へと向けられる。
「……まぁ、湿度が高いと、癖っ毛っていうのはそうなっちゃうわね」
自分の席を立って、小さな少女の下へと歩み寄り、其の頭を撫でてやる。
「何故、わたくしの名前が出るのか、理解出来ないのですが」
癖っ毛の持ち主、遙瑠歌は目を丸くしたまま首を傾げる。
相変わらずの、無表情で。
「無自覚で天然なのは良く分かってるつもりだけれど。遙瑠歌ちゃん、髪の毛が柔らかいでしょう?だから、湿度が高くなると、髪のウェーブが酷くなるのよ」
「其れ程酷くなっていますか」
「でも、結えば分からなくなるわ。櫛を持って来てくれる?髪を結ってあげるから」
ゴムは私のを貸してあげる。
そう言われて、首を縦に振った遙瑠歌が洗面所へと向かう。
「とにかく兄さん!今年こそは買いましょうね!!」
もうこうなったら、誰にも彼女は止められない。
「仕方ないわ、武彦さん。こういう時の零ちゃんは何言っても耳に入らないから」
「……はぁ」
肩を竦めて見せたシュラインに、草間は大きく溜息を吐いたのだった。

<01>
「いらっしゃいませー!!」
流石は梅雨の掻き入れ時の電気屋。
人、人、人。
「さぁ!いざ除湿機と乾燥機へ!!」
まるで戦場にでも行くかの様に、拳を堅く握って声を上げる零を見て。
草間は呆れた様に目を細めた。
「何でこういう時に目を輝かすか、疑問だな」
駆け出した零に苦笑して、シュラインはくすりと苦笑する。
「まぁ、其れが可愛い部分でもあるけれど」
それより、と、視線を移し。
「私は扇風機を見てこようかしら」
「あ?おまえまで何か買うつもりか?」
「実際問題、暑いのは確かだし。空気の入れ替えにも必要じゃない?予算的にもセーフでしょうし」
言いながら、歩みを進めるシュラインの後を、面倒臭そうに着いて行く草間。
「うちの事務所じゃ、ねぇ……精密機器って直ぐに壊れそうじゃない?」
霊気で。
遠い目で言ったシュラインに、返す言葉が見つからなかったのか、黙り込んでしまった所長、草間。
「それに、洗濯物ならお風呂場で換気扇を回しながら、扇風機の風をあてるだけでだいぶ乾くから。予算面も、クリアするでしょうし」
二人の視線の先には。
真剣な眼差しで乾燥機を検分している、零の姿。
「一台あるだろ」
「もう一台位あってもいいんじゃない?」
言って、傍に居る筈の小さな少女へと視線を。
「あら?」
視線を向けようとしたが。
其処には目的の少女、遙瑠歌は居なかった。
「……武彦さん、大変」
事の重大さに気付いたのか、草間も顔の色を変える。
「遙瑠歌、何処に行った!?」
世間知らず、常識知らずの興信所メンバー。
遙瑠歌の姿は、何処にも見当たらなかったのだ。

<02>
「それじゃあ、お嬢ちゃんはゲーム、やった事がないのかい?」
「はい」
「今日はお母さん達と一緒に来たのかな?」
「いえ」
「じゃあ、お父さんかな。楽しいから、買ってもらうといいよ」
電気屋の一角、子供なら喜び勇んで向かうだろう其の場所は。
ゲームコーナー。
草間とシュラインが少女を見つけたのは、そんな場所だった。
「遙瑠歌!!」
草間の声に、振り返る少女と、其の前でゲームについて説明していた店員。
如何やら遙瑠歌は、其の店員に外見が子供故に捕まってしまった様で。
駆け寄ってくる草間とシュラインを見て、店員は見事な愛想笑いを浮かべた。
「あぁ、お父さんとお母さんですか?」
投下された、まさに爆弾発言。
ぴしり、と音を立てて固まった草間とシュラインに、店員は尚も笑みを浮かべたまま言葉を続けた。
「お若いですねー。娘さんも礼儀正しい良い娘さんですし」
「兄さん!どうかしたんですか?」
草間の声に、乾燥機を物色していた零が駆け寄る。
其の零の発言に、首を傾げたのは店員だ。
「兄さん……あぁ、旦那様の妹さんですか?可愛らしいで……」
ぶちん!!
音がした。それはもう、はっきりと。
「誰がお父さんだ、旦那様だ!!俺はまだ独身だ!!」
「突っ込むところは其処な訳……」
溜息を吐いたシュラインに、何の事だか分からない零。
そして、店員に捕まった遙瑠歌。
「大体な、考えりゃ分かるだろう!どうやったら黒髪と茶髪から水銀色の髪の子供が生まれるんだよ!黒髪が優性遺伝だって、学校で習わなかったか!?あぁ!?」
まるでヤクザだ。
クールでハードボイルドどころではない。
「武彦さん、落ち着いて。一先ず、此処から離れましょう。はい、零ちゃんと遙瑠歌ちゃんは手を繋いで、今度こそはぐれない様にね」
そう言って、シュラインは草間の袖をぐいぐいと引っ張って、兎に角その場からの退避を開始したのだった。

<03>
向かったのは扇風機売り場。
「すいません。節電タイプの扇風機ってどれですか?」
シュラインの問いに、店員が数台の扇風機を指し示す。
「此方になりますね。今までの商品と比べて、約三割の節電が可能です」
数台の扇風機の中から、シュラインが視線を止めたのは。
小型の扇風機だった。
シンプルなデザインで、小さなリモコンがついている。
「ねぇ、武彦さん。此れなんかどうかしら」
未だに腹を立てているのか、店内で喫煙しようとする草間の腕を、無理矢理とってシュラインが其れを指し示す。
「予算的にもクリア。大きさも手頃だし」
「ったく……こんな電気屋で買い物なんかしたくねぇ……」
「何時までもぐちぐち言わないでね。私は何も言っていないでしょう」
それに、とシュラインはにっこり笑う。
「家族ごっこだと思えば、悪くはないでしょう?」
実は。
草間は此の言葉には弱いのだ。
『家族』。
零も、遙瑠歌も、そんなものはなかった。
だからこそ草間は、零を義妹とし、しかも遙瑠歌を同居させているのだ。
義理人情の強い草間には、天涯孤独ともいえる此の少女達に無縁の『温かい家庭』。
仮初とはいえ、草間は確かに少女達に与えているのだ。
「シュラインさん、此れなんかどうでしょうか」
「うーん。性能はいいけど、少し予算オーバーね」
「此方は如何で御座いますか」
「遙瑠歌ちゃん。其れは換気扇よ」
そんな遣り取りをしている女性陣をぼんやりと見やって。
「……はぁ……」
草間は、頭を掻いた。

<Ending>
「有難う御座いましたー」
電気屋での一騒動(一方的に草間達のみが騒いでいたのだが)を終え、翌日興信所に一台の扇風機を配達してもらう様、手続きをして。
「結局、除湿機と乾燥機は買えませんでしたね」
微かに落胆した零と。
「まぁ、洗濯物は別の方法でも乾かせるし、遙瑠歌ちゃんの髪の毛は、私が結ってあげるから」
希望の扇風機を購入出来たシュライン。
「有難う御座います、シュライン・エマ様」
珍しく髪を結わえた遙瑠歌。
「……もう買わねぇぞ」
店から出た途端に、煙草を口に銜えた草間。
文句を言いながら、店の軒先から傘を開いて歩き出そうとした、其の次の瞬間。
「あ、雨が……」
電気屋に入るまでは降っていた雨が。
止んでいた。
「良かった!早く帰って洗濯物を外に出しましょう!」
笑って駆け出す零の後姿を苦笑しながらシュラインは見やって。
「早いところ帰りましょうか。武彦さん、遙瑠歌ちゃん」
傘をきっちりとたたみなおして、遙瑠歌に手を差し出す。
「もう迷子にならないようにね?」
「畏まりました」
差し出された手を握り返して、小さな少女が微かに笑みを浮かべる。
先を走る義妹、手を繋いで仲良く歩いてゆく事務員と居候。
三つの後姿を見て、草間はがりがりと頭を掻いた。
「家族、ねぇ……」
まぁ、少なくとも今は。
「『仲間』ってところだろ」
梅雨の束の間の晴れ間。
こんな日も、いいかもしれない。
柄にもなく、そう思ったり。

<This story is the end. But, your story is never end!!>

■■■□■■■■□■■     登場人物     ■■□■■■■□■■■
【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【草間・武彦/男/30歳/草間興信所・探偵】
【草間・零/女/年齢不詳/草間興信所・探偵見習い】
【NPC4579/遥瑠歌/女/10歳(外見)/草間興信所居候・創砂深歌者】

◇◇◇◆◇◇◇◇◆◇◇   ライター通信     ◇◇◆◇◇◇◇◆◇◇◇
御依頼、誠に有難う御座いました。
梅雨の此のじめじめ感を、少しでも解消したい!という作者の気持ちが表れてしまいました。
武彦さんとシュライン様達の関係は、一体どの位だろう?と考えて。
今は『仲間』というポジションにさせて頂きました。
それでは、またのご縁がありますように。