■不審物置き去り事件!?■
東麻
【3368】【ウィノナ・ライプニッツ】【郵便屋】
「そこの方、危険ですよ!」

静寂の教会から聞こえてきた大声に、客人は軽く退いた。平和を絵に描いたような、悠久の教会はいつもと何ら変わりない。空も晴れ晴れと青く透き通り、雲ひとつ無い。遠い場所でホトトギスが鳴くほど、平和な朝。
それでもロゼは、独り慌てて叫びを上げていた。

「これは一大事ですよ!このままでは教会が!」

お掃除中だったのか、手にした竹箒をぶんぶん振り回している。
そして、散々暴れたあげく蹲りどんよりし始めた。しかし、これに騙されてはいけない。これはいつものロゼの作戦だ。
御覧なさい、ロゼは蹲り覆った指の隙間からあなたを見ています。

「余計な事言わないで下さい!ナレーション!
 折角親切そうな人が来てくれたのにっ!」

ロゼはぱっと顔を上げて、空に向かって叫んだ。

「こうなっては小細工無しです!お願いです、この教会を助けて下さい!
 何からかって?
 もちろん、あれ。あれですよ・・・!」

ロゼが指差す先には、教会の門の前に小さなダンボール。
時々ガタガタ音を立てて揺れている。

「不審物ですよ・・・不審物!これ爆発しますよ!」

勝手な思い込みを既に爆発させているロゼは、さっと客人の背中に隠れる。やれやれと、見かねた客人はふぅと溜息をついて歩き出した。

未知の箱の正体とは・・・!?
不審物置き去り事件!?

柔らかな日差しに包まれた、平和を絵に描いたような教会。
その前に置かれた妖しげな箱。

「はあ…ボク、最後の手紙を早く渡して帰りたいのに。」

大きな溜息をひとつついて、ウィノナ・ライプニッツは箱を見た。相変わらずガタガタと物音をさせ、存在感をアピールしている。

「これ爆発するばかり繰り返してこっちの話ちっとも聞かないんだもんな…わざと。」

腰に両手を当てて、やれやれと思う。そんな彼女の後ろにひっそりと隠れつつ、箱の様子を伺うロゼ。いつの間にか真後ろに居たロゼをちらりと見る。彼はへらりと情けない顔で笑っていた。

「はあ…さっさと調べて帰ろう…。どうせ動く爆発物なんてあるわけ無いんだから、危険なことなんて何一つないんだから…。」

ウィノナは言い聞かせるようにそう言うと、全くの警戒もせず箱へずかずかと近づいた。元々現実主義の彼女は、こんな辺鄙な場所にある教会にテロを働く意味が無いという事も合わせて考え、無害である事を冷静に分析していた。己の考えに自信があるという事は強みだ。ウィノナは箱の前に座ると、躊躇いも無く箱に手を掛けた。
ウィノナが箱に触れると、先ほどまで生きているかのように跳びはね音をいわせていたそれは、急に静まり返った。まるで開けて貰える事を、箱自身が理解し、喜んででもいるかのよう。ウィノナは「変なの。」と思いつつ、箱の蓋をそっと引き抜いた。

と、まさに同時だった。何かに物凄い勢いでぶん殴られた。しかも顔面!

「痛ぁい!!」

一瞬何が起こったのか、ウィノナにはわからなかった。とりあえず、箱を開けたら突然痛かった。痛む顔面を摩りながら、恐る恐る箱を見てみると、箱の中から何かが生えている。それは、大きなスプリングに繋がったグローブだ。箱を開ければグローブが飛び出し、開けた者に痛恨の一撃を食らわせるという仕掛け。そのグローブは、暫くブラブラと揺れていたが、思い出したように再び箱ごと跳びはねて何処か遠くへ行ってしまった。
残されたウィノナは唖然とするばかり。ロゼが慌てて駆け寄り、濡れたタオルを差し出してくる。そのタオルで額を押さえていると、数人の笑い声が後ろから聞こえてきた。教会の影に、小さな人影がいくつか。どうやら子供のようだ。

「今の見た?すごい音だったね。」
「見た見た。見事な一発だったね。」
「ていうか普通あんな妖しい箱開けなくない?」
「きっと考えなしで、お子様なんだよぉー。」

あははは。

楽しそうに笑う子供たち。しかし、それとは裏腹にウィノナの表情はみるみる変わっていく。表情に影を落とし、わなわなと震えていた。それに唯一気付いたロゼは後ずさり、そっと物陰に隠れて息を殺した。

「もう怒った!許さないー!」

ウィノナはばっと顔をあげ、子供達に向かって駆け出した。背後には炎がメラメラと燃え上がり、火の粉を散らせているのさえ見える。ロゼは思わず凍りついたが、子供たちは嬉しそうだ。

「わー、怒ったー!逃げろー!」

そんな事を言いながら、散り散りに逃げる子供たち。彼らは教会の裏へと回りこみ、そこに佇む墓地へと掛けて行った。それを迷うことなく追いかける。

「あ、墓地はやめた方がいいですよ!アレが出ますよー!」

墓地に踏み入ろうとするウィノナを見て、ロゼは慌ててそう言った。しかしウィノナの姿は既に見えなかった。

仕事柄、足には少し自信があった。ウィノナは人気の無い墓地の間を縫うように走っていく。しかし子供達もなかなかの俊足。それは人間ではないものを思わせた。
丁度墓場の中央に来た時だろうか、ウィノナは足を止めて一度子供たちの気配を追うことにした。闇雲に追いかけても駄目だ。ここは大人な判断が必要だ!
お子様呼ばわりは、どうやらとても堪えたらしい。まあどうみてもまだ5、6歳の子供に「お子様」なんてからかわれたなら誰でも憤る。
墓場の中央で立ち尽くしたまま動かないウィノナを不信に思ったのか、小さな頭がひょいと十字架の側から覗かせた。それをウィノナが見逃すわけもなく、一人目の首根っこをしっかりと捕まえた。それに引き続きどんどん子供たちを見つけ出しては捕まえていく。俊足といえども、しょせんは子供。ウィノナが本気を出せば簡単に捕まえられる数だった。
捕まえた子供は、全部で5人。掴まったにも関わらず、みんなニコニコと笑っている。ウィノナが訝しげに彼らを見ると、子供の一人が先ほどの不審な箱を取り出した。どうやらあの箱を設置してイタズラを働いたのも、この子供たちだったようだ。
ウィノナは大きな溜息を一度付いて、再び腰に手を当てた。説教でもくらわせないと割りにあわない。
ところが、今まさに声を上げようとしたとき、一人の子供がウィノナの手を取って柔らかく包んだ。

「ありがとう、とても楽しかったよ。」

突然のことに、ウィノナがきょとんとしていると、他の子供たちもそれに続き「ありがとう」と口々に言った。そして、足から順に透けて半透明になり、空の蒼へと溶けて消えた。

***

「あー、それは僕の友達かもしれませんね。」

墓地を出て教会に戻ると、ロゼがお茶を入れて待っていた。そしてロゼに子供たちの事について告げると、そう返したのだ。

ロゼの話によると、あの子供はやはり人間ではなく、絶滅したはずのフェレリアンで霊でないかという。教会の裏にある墓地に眠っている子供なのだそうで、暇だから出て来て遊んで欲しかったんじゃないか、と。
確かに、そう考えれば、あの「ありがとう」の意味もわかる。せめて「ごめんなさい」も言ってくれればこの事件は心温まる良いお話で終わるのに。ウィノナは、まだ少し痛む額をこすりながら、お茶を啜った。

「元はと言えば、僕が最近あんまりお墓参りに行ってなかったせいかもしれないですね。」
ロゼは小さく溜息をついて、ウィノナを見た。ウィノナが小首を傾げると、ロゼは何かを思いついたのか、ぽんと一度手を打った。
「そうだ!ウィノナさんは郵便屋さんなんでしたよね?」
何のことかわからないまま、ウィノナは取り敢えず肯定する。ロゼはそれを聞いて嬉しげに笑うと、お客様のウィノナをほっぽって何処かへ掛けて行ってしまった。
そして、しばらくして戻ってくると手には薄汚れた封筒を持っていた。

「じゃあ、このお手紙をあのお墓へ届けてもらえませんか?」

遊んでもらったウィノナさんの方が、彼らも喜ぶと思うので。
そう言い足して、ロゼは手紙をウィノナに握らせる。慌てて書いたのか、インクが擦れて読みにくい。宛名には「墓場の子供達へ」と、そのままの名前が書かれていた。

「わかった、墓地に届ければいいんだね。」

ウィノナは受け取った手紙を手に、教会の扉を開いた。

様々な思いを綴った手紙を手に、郵便屋さんは今日も行く。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

PC

【3368/ウィノナ・ライプニッツ (うぃのな・らいぷにっつ)/女/14歳(実年齢14歳)/郵便屋】

NPC

【ロゼ(ろぜ)/男/25歳/神父】


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■         ライター通信          ■
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初めまして、今日和。ライターの峰村慎一郎です。
納品が遅くなってしまい、申し訳ありません。
この度は有難う御座いました。

郵便屋さんという設定に激しくトキメキながら執筆させて頂きました。
とても楽しいプレイングで、とても楽しませて書かせて頂きました。

有難う御座いました、また機会がありましたら
宜しくお願いします。

峰村慎一郎


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