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■D・A・N 〜Second〜■

遊月
【7061】【藤田・あやこ】【エルフの公爵】
 呪具。力持つ道具。
 それが必要だった。それを求めていた。
「やっと……」
 その先は音にならない。心で呟く。
 呪具を持つ手に力がこもった。
【D・A・N 〜Second〜】




 夜の街を歩いていたあやこは、ふと見たことのある顔を見つけて立ち止まった。
 さらりと流れる白銀の髪。ネオンより月の光が似合う白い肌。そして、紅玉の赤を宿す瞳。
 それは、ただ一度、ごく短い間に逢った少女――確かルーアと名乗っていた人物だった。
 なんとなく声をかけてみようかと思ったあやこは、ルーアへと近づく。
「ルーア…よね?」
 呼びかければ、彼女はまるで驚く様子も無く振り向いた。その手に布に包まれた何かが握られていることに、あやこは気づいた。
「藤田さん、だったわね。何の御用かしら」
 穏やかな笑顔を浮かべて、彼女は問う。しかしその笑顔が拒絶を孕むものであることは、あやこにも容易にわかった。
「いや、別に……見かけたから声かけておこうかと思っただけよ」
「そう。ごめんなさいね、わたし今ちょっと余裕が無いの。他のときならお話に付き合うくらいはしたのだけど。そういうわけだから――」
 言いかけた彼女が、突如顔を驚愕に染める。
「どうして…っ!?」
 その声があやこの耳に届くと同時、ルーアの手元から不可思議な光が放たれ――周囲の景色が一変し、あやこの中で何かが爆発した。

◆ ◇ ◆

(なに……?)
 早鐘のように鳴る心臓を落ち着けようとしながら、あやこは辺りを見回す。
 周囲に映るのは未来世界だった。何故かそのことはあやこに即座に理解できた。
 そして、その世界に。
 血達磨になるもう一人の自分が、居た。
 爛々と瞳を輝かせて、対戦車銃で鋼の蛮族を的確に撃ちぬく…未来の自分。
 その姿に、その顔に、あやこは衝撃を受ける。
(なんで、そんなに)
 あやこは目をそらしたい気持ちでいっぱいだった。けれどまるで呪縛のように目をそらせない。
(なんでそんなに楽しそうなの…っ!)
 もう一人の自分は頽れた操縦席によじ登り、黒光りするガラス越しに相手にとどめを指す。
 その顔には悦びだけが浮かんでいて。
 ともすればそれは狂人のようにも見えた。
 狂ったように高笑いする未来の自分が、とても――醜く見えた。
(見たくない)
 これは、なに。
 これは、何の冗談? 何の恨み?
 金縛りにあったかのようにあやこは動くことが出来ない。
 なおも凄惨な景色の中で笑い続けている『自分』の顔に、不敵な笑みを浮かべたルーアの顔が重なる。
 それが幾つもに分裂して、くるくるとあやこの周りを回る。
 かと思えばそれが甲高い音とともに粉々になって地に落ちる。まるでガラスを割ったように。

 次に広がっていたのは、歓喜を浮かべたエルフたちの――凱旋の宴。
 豪華絢爛な広間。上座にはエルフの王女が見える。
 美男の貴族を侍らせ、美しく笑みながら求婚の申し出を高飛車に撥ね付ける。
(……あのブス女)
 あやこの胸に黒くドロドロとした思いが湧き上がる。
(私の身体で手柄を立てたくせに!)
 沸々と嫉妬心が滾る。
――…あぁ違う、彼女はルーア。
 一瞬でエルフの王女がルーアの姿に置き換わる。

 また、景色が変わった。
 暗闇の中、光を纏い慈愛の笑みを浮かべて五つ子をあやす人間のあやこ。
 その乳児はすべてルーア。
(畜生、私も愛されて生まれたはずなのに!)
 それを見てあやこは声なく叫ぶ。

 運動会。
 二人三脚をするルーアとあやこ。
 尻餅をついたルーアのショーツの砂を払う自分。
(何でお前のために!)
 心で叫びながらルーアと微笑みあう。
 …なんという矛盾。

(ああ、そうか)
 唐突にあやこは理解する。
(私は女だ。だから女の嫌な面から逃れられないんだ)
(矛盾だらけの自分に向き合うしかないんだ!)
 瞬間、あやこの目の前が開けた。
 変わらぬ街の雑踏とネオン。読めない瞳で自分を見ているルーア。
 ルーアの手に握られていた、あの光を放ったものは消えており、代わりに足元に鏡の破片のようなものが散らばっていた。
 自分が先程まで見ていた光景はルーアが持っていた物の影響なのだと、あやこは直感する。
 そのおかげでわかったことがある。だからあやこは笑顔で口を開いた。
「ありがとうルーア。あなたのおかげで目が覚めたわ。大好きよ!」
 あやこは率直に自分の気持ちを伝えた。だがそれにルーアはわずかに眉根を寄せる。
「あなたが何を見たのか、それについては別に良いのですけれど、あなたは何か勘違いしているようね。これはただの呪具の暴走によって起こったこと。偶然近くにいたからあなたが標的になった、ただそれだけ。私が何かしたわけではないわ。それに、たかが2回会っただけの――しかも碌に言葉を交わしていない相手に好きだなんて、どうして言えるのかしら」
 以前会った時は穏やかな光を宿していた瞳は、無感情で。
「どうやらあなたは、わたしと根本的に考え方が違うのかも知れないわね」
 にこり、と彼女は笑みを形作る。……瞳は相変わらず無感情に凪いでいたが。
「それでは――ある意味、だけど、巻き込んでしまってごめんなさいね?」
 そして、消えた。
 まるで最初から、居なかったかのように。
 気づけば足元に散らばっていた何かの破片すら無くなっていて、先程の出来事は夢だったのかと思うほどだ。
 けれど自分の心を変えた出来事を夢だとは到底思えないし、夢などではないと確信できる。
 ルーアに不快を与えてしまったらしいことは少々ショックだったけれど。
 よし、と気持ちを切り替えて、あやこは再び街の雑踏の中を歩き始めたのだった。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7061/藤田・あやこ(ふじた・あやこ)/女性/24歳/女子高生セレブ】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、藤田様。ライターの遊月です。
 今回は 「D・A・N 〜Second〜」にご参加くださりありがとうございました。

 藤田様が呪具の標的、ということで、出来うる限りプレイングに沿って執筆させていただきました。一部アレンジを加えた部分などもありますが…。
 最後のほうのルーアの反応は、まあ当然といいますか……ほぼ初対面に近い人間がいきなり「大好き」だなんて言っても戸惑うのが関の山だと思うので…。最初に言っていた通り余裕も無いので、余計にちょっときつい物言いになってますけれど。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 それでは、本当にありがとうございました。