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■D・A・N 〜First〜■

遊月
【7192】【白樺・雪穂】【学生・専門魔術師】
 自然と惹きつけられる、そんな存在だった。些か整いすぎとも言えるその顔もだけれど、雰囲気が。
 出会って、そして別れて。再び出会ったそのとき、目の前で姿が変わった。
 そんなことあるのか、と思うけれど、実際に起こったのだから仕方ない。
 そんな、初接触。
【D・A・N 〜First〜】



(うぅ、ちょっと重いけど、たくさん買えてよかった〜)
 夕暮れ、茜色が景色を染め上げる頃。大量の本が入った袋を持って、白樺雪穂は人気のない道を走っていた。
 手に入れた大漁の魔術関連の本を早く帰って読むため、近道しているのだ。
 前から目をつけていた魔術書や掘り出し物の希少本などを買ったら、かなりの量になってしまった。しかしその重さも彼女の足取りになんら影響を与えず、雪穂は軽快に帰途を行く。
 そして角を曲がろうとしたその瞬間――。
「うわっ!」
「えぇっ?!」
 思いっきり、誰かとぶつかった。差していたピンクの日傘が宙を舞う。
 反動で後ろに倒れかけた雪穂を、誰かが腕を掴んで引き寄せた。衝撃で雪穂の手を離れた大量の本は為すすべなく地に落ちる。
「悪ぃ、大丈夫か?」
 雪穂はほとんど反射的に声の主を見上げる。
「怪我とか、ないよな。ギリギリ地面に着く前に引っ張れたと思うんだけど……あー、本散らばっちまったか」
 それは雪穂よりやや年長に見える少年だった。
 色素の薄い茶色の髪は少々長めで、ダークブラウンの瞳は猫目がちで愛嬌がある。顔の造作は整っていて、人目を惹く雰囲気があった。
 その少年は雪穂が自身で立てることを確認すると腕を離し、まず少し離れたところに転がっていた雪穂の日傘を拾った。それを状況についていけてない雪穂の手に半ば押し付けるようにして渡すと、しゃがみこんで散らばった本を拾い始める。
「うわ何これ、魔術本?」
 呟く声にはっと我に返り、慌てて本を拾い集める雪穂。
 それと同時、少年はふと手の中の本から視線を外し、沈む夕日をその目に映す。
「……あぁ、そっか。時間か…」
 どこか悲しげに笑って、少年は目を伏せる。
 そして、『それ』は起こった。
 笑みを浮かべるその顔の輪郭が、揺らぐ。色彩が褪せて、薄れる。空気に溶ける。
 そして極限まで薄れたそれは、陽が完全に沈むと同時、再構築される。
 揺らいだ輪郭は、先ほどよりもやや細身の身体を形作り。
 褪せて薄れた色彩は、色を変え、鮮やかに。
 雪のように白い肌、淡く輝く白銀の髪。
 先ほどまでいた少年とは全く違う人物が、そこにいた。
 先の少年よりもやや年上だろうか、穏やかで落ち着いた雰囲気を身に纏うその人物は、周囲をぐるりと見回してから雪穂に目を留め、にこりと笑った。
「こんばんは、…でしょうか。初めまして、お嬢さん。私はセツといいます。驚かせてしまったようで――」
 セツと名乗った少年が最後まで言い終える前に、雪穂が目をキラキラさせながら勢い込んで口を開く。
「わぁ……今の、変身術!?」
「え、」
「すごいなぁ、すごいなぁ。魔術とか?」
「いや、ちょっと待って?」
「でも特に何もしてなかったよね? 何か条件付けでもしてあるとか?」
「だからちょっと待って下さい!」
 少しだけ強い口調で言われて、雪穂は口を閉じてきょとんとする。
「まず、今のは変身術ではないし、魔術でもありません。私たちが少々特殊な性質を持っているだけです」
「『私たち』?」
「私と、さっき貴女とぶつかったゴウです。私たちは全くの別人ですが、今は同じでもあります。太陽が昇っている間はゴウが、太陽が沈んでからは私が、存在できるんです。理解する上では、外見の変化を伴う二重人格とでも考えてください」
「二重人格…」
「ええ。とにかく魔術ではありませんから。――…はい、どうぞ」
 言葉とともに差し出されたのは一度地面に散らばり、そして自分と少年――ゴウというらしい――が集めた本だった。
「あ、ありがとう」
 とりあえずお礼を言う。セツは淡く笑んで、そして雪穂の手に渡った本をちらりと見た。
「随分と、魔術系統に興味がおありのようですね」
「もちろん。不思議なものって好きだから」
「『不思議』ですか……他人の趣味嗜好に口を出すのは好みではないのですが、あまり深入りするのは避けたほうがいいですよ。魔術などは特に。…とは言っても、既に手遅れ、みたいですが」
 何かを探るように目を細めたセツは、ごく自然に雪穂の髪に触れ、自らに引き寄せる。
(えぇええぇ!?)
 突然の行動に目を白黒させる雪穂をよそに、セツは目を眇め、呟く。
「『願い』、そして『代償』――…『悪魔』。また、随分と重い――」
 言葉に、雪穂はびくりと身体を震わせる。
「どうして、……」
 半ば無意識にこぼれた言葉に、セツは髪から手を離して申し訳なさそうに笑みを浮かべた。
「すみません、触れて欲しくないことだったんですね? ……私は他人の背負うものを感知する力があって――貴女のものがとても似ていたから、つい深くまで『視て』しまいました」
「似てる、って、」
「私と、ゴウの背負うものに。…本当に、似ている――」
 苦しげに呟いて、セツはすぐに表情を笑顔に摩り替えた。
「いけません、つい話しすぎてしまいました。あとでゴウに怒られそうですね。…では、私は失礼しますね。白樺さんも、早く帰ったほうがいいですよ。昨今は物騒ですから」
「え、ちょっと…!」
 引き止めようとした雪穂の言葉もむなしく、一瞬の後にセツの姿はそこから消えた。
 伸ばしかけた手を戻して、雪穂は心中で呟いた。
(どうして、名前…)
 雪穂は自己紹介をしていない。だというのにセツは『白樺さん』と呼んだのだ。 
 『視て』しまった、と言ったときに知ったのだろうか。こればかりは本人に聞かなければ分からないが…。
(でも、多分また会える……)
 そう、奇妙な確信があった。
「よし!」
 気合を入れて気分を切り替えて、雪穂は帰途を再び辿り始めたのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7192/白樺・雪穂(しらかば・ゆきほ)/女性/12歳/魔物と交流する者・学生】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、白樺さま。ライターの遊月と申します。
 「D・A・N 〜First〜」にご参加下さり有難うございました。お届けが遅くなりまして申し訳ありません。

 専用NPCゴウとセツ、いかがでしたでしょうか。
 夜メインでしたので、セツがやたらと喋ってます。というかあんまり穏やかじゃないですね、セツ。儚げでもない…。
 NPCたちの背負うものに白樺さまの代償が近かったので、しょっぱなから『謎』について触れることと相成りました。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。