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■D・A・N 〜本屋にて〜■

遊月
【7132】【黒祈・深久】【野良猫(人)】
 ふと、目に入った本屋に立ち寄ってみる。
 店内をうろうろと歩いていると、視界の端に見覚えのある姿が。
 一体どんな本を読むのだろう、と思って、そちらに足を向けた。
【D・A・N 〜本屋にて〜】


(うう、怖い……けど…)
 びくびくと傍から見ると挙動不審極まりない様子で、黒祈・深久は街の雑踏の中を歩いていた。
 何故わざわざ自分から苦手な――というか怖い、人間の多いところに来たのかと言うと、理由はただひとつ。
 先日、自身のなわばりである公園で出会った2人(?)の青年に会うこと、だ。
 彼ら(という表現で合っているのか深久には分からないが、とりあえずそう表しておくことにする)はなんだかよく分からないが深久に話しかけ、食べ物をくれたりしたのに、自分は怖がるばかりでお礼も言えなかった。
 それが深久の心をとても重く、暗くしていて――居ても立っても居られず、こうして彼らを探しに来たのだが。
 ……でも、やっぱり、ちょっと無謀すぎたかもしれない。
 そもそも、彼らがまだこの辺りに居るとは限らない。先日はたまたま公園近くに足を運んだだけかもしれないし――。
 そう弱気になったとき、ふと通り過ぎかけた本屋の中に件の探し人が見えた。
 ガラス越しに一瞬見えた後すぐに棚の陰に入ってしまったが、間違いない。深久は慌てて方向転換し、本屋に足を踏み入れた。

  ◇

 うなじにかかる程度長さの茶髪、均整の取れた体つき。探し人の片割れである黒髪の青年の言からすると『アーシャ』という名らしい
その人物は、何かの雑誌を立ち読んでいるようだった。
 その背中を見つめながら、深久はうろうろと視線をさまよわせる。見つけることにばかり意識を向けていて、どうやって声をかけるかというのを考えていなかった。
(どうしよう…)
 困り果てておろおろしていたら、唐突にアーシャが振り向いた。
 それに反射的にびくっとしてしまう深久。
(だ、だめだ、ちゃんとお礼言わなくちゃ)
 そう自分を奮い立たせる。アーシャは少々驚いたように目をぱちくりとして、口を開いた。
「ん? あれ、誰かと思ったらこないだの…」
「ぷ、プリン、ありがとう…でした」
「――へ?」
 アーシャの言葉にかぶせるようにして深久が言うと、彼はちょっと間抜けな声を漏らした。
「ぷりん…プリン…って、あ、そういやジークに渡してもらったんだっけ。ああ、うん、気にしなくていいよ。俺が君に食べて欲しいなーって思ったから渡してもらったんだし。ほら、なんていうの? エゴってか自己満足みたいな。だからお礼なんていいって。あ、もしかしてそのためにわざわざここ来たの? 公園から出たくなさそうだったのに」
「あ、う、それだけじゃ…ない、です」
「? まだなんかあるの? 食料買出しとか?」
 思い切り見当違いなことを言うアーシャ。
「違う…です。深久、怖がった、から。謝りたかった…です」
「『怖がった』? って、何」
「あなたの姿が、変わったとき。びっくりして、怖がった…です。深久も、同じことされて、悲しかったのに。なのに怖がったから、謝りたかった、です」
「? それは、えーと、つまり。俺がジークに代わったとき怖がってしまったけど、自分も同じような経験があって、そうされて悲しかったから謝りたかった、と?」
「そう…です」
 頷くと、アーシャはにこっと笑った。そして深久に視線を合わせるようにしゃがんで、深久の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「…っ?!」
 驚きに息を呑む深久のことはお構いなしで、尚もアーシャは撫で続ける。
「えらいえらい。自分がされてヤなことを他人にしたから、って謝れるのはえらい。俺ちょっと感動。最近はそれすら出来ない人も多いみたいだし。ちゃんとジークには伝えとくよ。今あいつ寝ちゃってるから、後でになるけど」
 やっと撫でるのを止めたアーシャは、すくっと立ち上がる。
「あ、そうそう、俺の名前はアーシャ。で、黒髪の奴がジーク。君は?」
「黒祈深久…です」
 ちょっと気圧されながら答えると、アーシャは満面に笑みを浮かべる。
「そう、黒祈くん、ね。…あのね、俺今すっごーく機嫌がいいの。そんでもって君に感心してるの。というわけで、なんか欲しい本とかある?」
「え?」
 何が『というわけで』なのだろう。前後が全然つながってない気がするのだが。
「奢るって言ってるの。その後はご飯食べに行こうねー。育ち盛りなんだからちゃんとしたご飯食べなきゃ駄目だよ?」
「あ、あの?」
 アーシャは自分の中でどんどん話を進めているようだが、深久は全く着いていけていない。
「特に希望とかないの? だったら俺が決めちゃうよ? んー…そうだね、やっぱり児童書かな。童話とかいいかなぁ…あ、文字は読めるよね」
「は、はい」
「じゃーやっぱ童話かな。あんまりかさばるのもどうかなって感じだし、薄いやつを何冊かでいっか。あ、画集とか写真集とかも見てて面白いかなぁ。じゃ、それも」
 ひょいひょいと何冊かの本を手にし、別のコーナーに足を向けて、そこでもまた何冊か本を手に取る。
 そしてさっさと会計を済ませ、事態についていけていない深久の元へと戻ってきて、一言。
「じゃ、次はご飯食べに行こう。何でも好きなの頼んでいいからね」
 その笑顔に、深久は自分に拒否権がないことを悟った。
 そして、流されるままにご飯を食べに行くこととなってしまった深久だった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7132/黒祈・深久(くろき・みく)/男性/8歳/野良猫(人)】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、黒祈さま。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜本屋にて〜」へのご参加くださりありがとうございました。

 えーと、アーシャがなにやら黒祈様を気に入ったようです。ゴーイングマイウェイにお節介やいてます。
 アーシャは気に入った人物にはべったべたに世話やくタイプのようです。ちょっとうざいかも知れません。
 こんな奴でよければこれからもよろしくしてやってください。ジークのほうも。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。