■GATE:06 『流星降下』■
ともやいずみ |
【5698】【梧・北斗】【退魔師兼高校生】 |
流れ星がひとつ、ながれた。
星空の中を軽やかに歩きながらムーヴは微笑む。唇に妖艶な笑みを浮かべ、舌で舐めた。
「おーほしさーまー、おっこちたー」
調子っぱずれの歌を歌い、彼女は抱えている大きな時計を持ち直す。幼い外見の彼女はちかちかと瞬いている星を足蹴にし、次の『世界』へとジャンプした。
*
ミッシングは病室の中に佇んでいた。見下ろす先は、一ノ瀬奈々子が居る。全身を包帯で包まれた、哀れな娘が。
「………………」
そのミッシングの背後に、フレアが腕組みして立っている。彼女は頷いた。ミッシングはそれを見て、頷き返す。
「姉さん、本当にいいの?」
「ああ。もう、アタシが思いつく方法はこれしかないからな」
「……そう。でも、私も異論はない」
ミッシングは窓の外を見る。暗雲が占める、薄暗い空だ。生暖かい風がカーテンをなびかせる。
「ムーヴはこの世界に気づいたかもしれない……姉さん、どうするの」
「どうもしない。やるべきことをするだけだ。
さ、化生堂に戻るぞ」
「…………」
ミッシングは部屋を出て行くフレアに続く。だが、ドアの手前で振り向いた。ベッドの上で身じろぎ一つしない少女を、冷たく見る。だがそれは一瞬のことで、すぐにドアを閉めて出て行った。
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GATE:06 『流星降下』 ―前編―
梧北斗は渋い顔をしていた。とにかく、渋い顔だ。渋柿を食べたかのように、渋い顔だ。
そんな彼が堪えきれなくなって、部屋の中で叫んだ。
「あーもー! 次に会った時どんな顔すればいいんだろ……」
思い出しただけで、顔から火が出そうになる。夏のあの旅行のことは、なんだか夢のようで、現実味が……。
(ない、わけないよな)
ふふ、と北斗は引きつった笑みを浮かべる。
大丈夫か? と心配そうに見下ろしてくるフレアは綺麗だった。あの時の自分は完全に役立たず状態で、されるがままだったような気がする。
次の日の朝だって、余韻に浸っていた北斗と違って彼女はあっさりしたものだった。本気で夢かと思ったほどだ。
ぶんぶん、と頭を横に振って北斗は自分の回想を追い払う。
「俺はフレアのこと守るって、力になるって約束した……。だから俺はフレアを信じるだけだ!」
そう、俺は決めたんだ。
辛かっただろう過去も自分に打ち明けてくれた。すごく、すごく「愛おしい」と感じた。
(こんな風に感じるの、生まれて初めて、だよな)
どきどきする胸の上に手を置いて、北斗は深呼吸する。
「……会いたいなぁ」
フレアに、会いたい。会ってどういう顔をするのかわからないけれど、会いたいのだ。
北斗は自身の両頬を叩き、気合いを入れて立ち上がった。化生堂に行けば彼女に会えるはずだ!
(フレアが何をしようと、タダで死なせたりするもんか!)
*
窓を閉め、成瀬冬馬はベッド脇のイスに腰掛けた。
ベッドの上には包帯でミイラのようになった少女が横たわっている。
「嫌な天気だねー。今すぐにでも一雨きそうな雰囲気だよ。後でビニール傘でも買わなくちゃいけないかな」
冬馬は軽い口調でベッドの上の人物に声をかけた。苦笑、する。応えてくれるはず、ないか。
一ノ瀬奈々子の成れの果てと言うべきか、未完成の一ノ瀬奈々子と言うべきか……。
(あの時に、死んだと思ってたから……でも、生きていてくれた。……いや、もしかすると厳密には生きているとは言えなかったかもしれない)
見つめる先の少女は無反応だ。心臓が動き、全身に血液を巡らせているのだけはわかる。
――死んでない。
彼女は死んでいない。
(奈々子ちゃんが戻ってくる可能性が少しでもあるなら、ボクもまたそれに全てを賭けよう)
その為には、やることがある。彼女の全てを奪った元凶……ムーヴ=キャッスルをなんとかしなければならない。
(ムーヴは再びボクの前に現れるだろう……何を狙ってなのかはわからない。でも、逆に考えれば全てを取り戻す絶好の機会)
だが、会った時、どうすればいいのかわからない。相手は人間ではないのだ。
戦うのはフレアたちの仕事だ。けれども、冬馬はもう嫌なのだ。誰かに任せていたくない。蚊帳の外に居たくない。
「……もし」
小さく、呟く。
「全てが終わったら、ボクはキミに……」
そこまで口にして、冬馬は奈々子を凝視する。なんだか、照れてしまう。
「いや、今は口に出すのはやめとこっかな」
照れ笑いをする冬馬は、安堵したように肩を落とす。求めていたものが見つかっただけで、こんなに自分は安らかな気持ちでいられる。
(う〜ん。なんか、ボクらしくないっていうか……)
こんな純情だったっけ?
(……こりゃ、奈々子ちゃんが元に戻ったらどうなるか怖いな)
小さく頭を掻き、冬馬は軽く笑う。
「とにかく……待っててね、奈々子ちゃん」
「成瀬冬馬」
背後から呼ばれて冬馬はギクッとした。いつの間に現れたのか、いつ入ってきたのか、ドアのところにはミッシングが立っていた。
黒いライダースーツ姿の彼女は無表情だ。
「……何か用かな?」
つい、声に棘が含まれる。奈々子との二人の時間を邪魔された気分だ。
「心配しなくても、一ノ瀬奈々子は必ず助かる」
「……フレアちゃんがそう言ったの?」
「そうだ。姉さんは、必ず約束は守る」
「わざわざそんなことを言いに来たわけじゃないでしょ?」
「…………ここにはあまり近づくな。そこの女が危険になる」
それは、わかっていたことだ。ムーヴが自分の前に現れるのがこの病院ではないと、誰が言い切れる? 下手をすると奈々子を巻き込んでしまうだろう。
「私は姉さんからそこの女を守れと命じられた。おまえは去れ」
「……まぁ帰るつもりだったからいいけど」
離れたくない。けれど、そんな我侭を言える性格ではない。
立ち上がった冬馬はミッシングを真っ直ぐ見据えた。彼女は未来の奈々子の姿なのだ。
冬馬はミッシングの横を通って引き戸を開ける。がらりと音がした。
もう、彼女の姿に惑わされることはないだろう――。
*
「あら。あれ、素敵じゃない?」
そんな菊理路蒼依の言葉に菊理野友衛はげんなりした表情をする。
こうして買い物に付き合うと、これだ。あちこち連れまわされてしまう。というか、女の買い物は長い。
「だいたいおまえは買いすぎだ。少しは自粛したらどうだ?」
「失礼ね。必要最低限のものしか買ってないじゃない」
「どこが!」
思わず怒鳴ってしまう。
友衛はやれやれと嘆息した瞬間、目を剥いた。
電化製品の店の前に立っているのはひょろりとした細身の少年だ。長いおさげ髪が腰の辺りでゆらゆらと揺れている。あの特徴的な猫毛の男は……。
(な、なんでここに維緒がいるんだ……!?)
あいつらと会うのは、いつも別の世界か、化生堂という場所だ。この世界で会うことはない。それなのに。
くるんと維緒は振り向く。彼は相変わらずにこにこと笑顔でいた。あまりにも自然に周りに溶け込んでいるので不気味だ。
「あのぉ、良かったらお茶でもどうかなー?」
なんて言われてナンパまでされているではないか!
(しかも結構可愛い……)
携帯を片手に持っている可愛らしい娘が、はにかんだように微笑んでいた。ナンパされたらしい維緒はきょとんとし、それからニヤリと笑う。
「あかんね。それ、ナンパやん? オレを誘うっちゅうことは、何されてもしらんで?」
「ええー?」
笑って応える娘に、友衛は内心で突っ込みを入れた。
(いや、そいつ本気だから……!)
ホテルにでも連れ込まれたら大変だ。だがここでわざわざ声をかけるのも……。
だが運がいいのか悪いのか、維緒と目が合ってしまう。う、と友衛は硬直した。
「あらま。ともちゃん、何してんの?」
がくー、と脱力してしまう。本当に、どこに居てもこいつは変わらない。
娘に興味をなくしたのか、維緒はたんたんと軽やかにこちらにやってくる。しまったと思うがもう遅い。横に立つ蒼依は友衛を見上げた。
「知り合い?」
「え? あ、あぁ」
「あらまぁ。美人さんとお買い物? これはお邪魔してしもたかな。ともちゃんのことやから、一世一代の決心しとったかもしれんかったのに」
「してないし、ともちゃんと呼ぶな!」
「そんな怒るようなことでもないやん。心の狭さは相変わらずやねぇ」
友衛と維緒のやり取りを見て、蒼依は不思議そうにする。維緒の気配は人間のものではなのだ。
(人の姿をしているけど、ヒトではないみたい……)
「ちょっと友衛、ちゃんと紹介して」
つんつんと突付くと、嫌そうな顔をする友衛だった。
「……十鎖渦維緒。東京で出来た知り合いだ」
「よろしゅう。ともちゃんとはふか〜い仲なんですぅ。夜も眠らせてくれないんですぅ」
「おまえは本気で死んでこい……!」
こめかみに青筋を浮かべる友衛を無視して、維緒は蒼依に話し掛けた。
「お姉さんはお名前なんてーの?」
「私? 私は菊理路蒼依です」
「どんな字書くん?」
維緒の質問に蒼依は快く応じる。持っていた手帳のメモの部分に名前を書いて見せた。
「へー。変わった苗字やね。名前のほうは可愛いけど。巫女さんか何か?」
ぎょっとしたのは友衛だ。蒼依は「えぇ」と頷く。
「どうしてわかったんですか?」
「そう思っただけやけど。『依』は、頼るとか、よりしろ、の意味があるから」
にこーっと愛想よく微笑む維緒は、友衛と蒼依を見比べた。
「えーっと、恋人?」
「まさか。ただの幼馴染です」
さらりと蒼依が否定した。それを聞いて維緒は安堵したように胸を撫で下ろす。
「そうなん? せやったら、口説いてもええってことかな。なあ?」
「……なんで俺を見るんだ」
苛立ったように言う友衛に、維緒はにっこり微笑む。顔立ちが整っているせいか、かなり可愛らしい笑顔だ。
そんな維緒の前で蒼依はくすくすと笑う。
「友衛の友人だけあって、面白い方ね」
「蒼依ねーさんの笑顔は可憐なんやねえ」
「あら。お世辞もお上手なのね。そうだ。ちょうどいいから、どこかでお茶でもしましょう?」
嫌そうな顔をする友衛とは違い、「是非とも!」と維緒は愛想のいい笑顔で応えたのだった。
*
いつもなら適当にぶらぶら歩いていれば化生堂に辿り着けるのに、そうはいかなかった。
「会いたかったから会いに来た」なんて言ったら、どんな反応をされるだろう? 不愉快だと言われたら、どうしよう? 嫌われたくない。
(俺って、こんなにビビリだったっけ……?)
困惑する北斗は「あ」と足を止める。塀に背を預けているフレアが居た。彼女は疲れたような表情で嘆息していた。
「フレア!」
声をあげると、彼女は顔をあげてこちらを見遣る。途端、北斗の心臓が破裂しそうなほど激しく動き、顔が真っ赤に染まった。
うわあ、と思う。
「北斗か。元気そうだな。
おまえ……そんなに顔に出すなよ。わかりやすいなぁ」
帽子をさげて顔を隠す彼女は、頬が、たぶん赤い。ちらっとしか見えなかったが、見間違いだとは思いたくない。
「あ、う……、げ、元気、そ、そうだな」
「……緊張しなくていいってのに」
やれやれとフレアは嘆息し、帽子をあげた。いつものフレアだった。
北斗はもじもじしてしまう。あの夜の出来事が脳裏に蘇る。乱れた赤い髪。荒い息遣い。汗ばんだ肌。
(――ひっ)
心の中で悲鳴を洩らし、北斗はカチンコチンに固まってしまう。
「なんだよ」
フレアはぶすっとして小さく洩らす。
「アタシと居るの、嫌なのか?」
「そっ、そんなわけ!」
慌てて激しく首を左右に振り、否定した。それを聞いてフレアは「そっか」と小さく微笑む。
(うわあ、可愛い……!)
北斗はふらふらとフレアに近づいていく。甘い空気になるかと思ったが、そうはならなかった。彼女は暗い表情なのだ。疲弊しているので余計に辛そうだ。
「だ、大丈夫か? あの、具合が悪い、とか? 俺のせい?」
「……いや、なんだか感傷的になっているなと思ったんだ」
「え?」
「気づかないか?」
背後を指差すフレア。北斗は彼女の背後にあるマンションを見上げた。あっ、と思う。ここは……ここは朱理の住んでいたマンションだ。彼女の叔母はまだここに住んでいるはずである。
「あ……」
「だから暗い顔をするなって。わかりやすいなぁ」
フレアは姿勢を正して歩き出す。北斗はそれに続いた。
「おまえは本当に顔に出るなあ。ま、わかりやすくて助かるが」
「あんなとこで何してたんだ?」
「ムーヴが現れるかなと考えていただけだ。だが、大丈夫みたいだな、あそこは」
ムーヴの名前が出た途端、北斗は表情を引き締める。
フレアと北斗は黙って歩く。……ただ、歩いた。町並みを眺めるでもなく、ただ歩いていた。
北斗はうかがうようにフレアの横顔を見つめた。綺麗だ、と素直に思う。
彼女の指先を軽く握った。フレアは拒絶しない。
「……あのさ」
フレアの声にびくんと反応してしまう。手を離そうかと考えたが、しなかった。
「最後だ。最後だから、これを最後にするから……北斗、」
彼女はこちらを見上げる。その潤んだ瞳にどきりとした。
「もう、アタシの傍には来るな」
「いやだ。俺は、おまえの力に……」
「なってる。もう十分だ。この間のことだけでも、お釣りがくるほどさ。だからもう、アタシには近づくな」
「なんで……」
どうして急に、そんなこと言うんだ? 俺のことキライになったのか?
戸惑う北斗の腕が掴まれる。強く、爪が食い込んだ。
フレアは彼を脇道に引っ張りこむ。誰も見ていない。そんな、死角になるような場所に。
彼女は北斗に抱きついた。強く、強く。
(……冷たい)
フレアの体の冷たさに北斗は驚く。だが彼女の背中に手を回した。
「……いいか。もう、近づくな」
しばらく抱き合っていたが、フレアは手を離して背を向ける。そして、ひと気のないその場所から、人の目につく場所に飛び出した。
北斗は彼女との抱擁の感触を反芻し、それから振り向く。フレアを目で追う。そして――。
「――――っ」
息を、呑んだ。
*
「友衛はね、本当に嫌いな相手には人形みたいに無反応になるんですよ? それに自分に似ている人ほど嫌いになろうと頑張ったり……意外とお馬鹿なんです」
微笑する蒼依の言葉に維緒はうんうんと頷いた。
「そうやろねぇ。ともちゃんは不器用やからね。でもそれだけ正直者ってことやん」
「…………」
なぜだろう。維緒は不気味だ。気色悪い。目がきらきらと光っている。
「蒼依ねーさんのお尻に敷かれてほんまは嬉しいのに、それすら隠しとる……そんなムッツリなんやで!」
「ムッツリじゃない! ……悪かったな、尻に敷かれてて」
最悪だ。
(瞳の輝きはコレか。俺をオモチャにして楽しんでるな……)
まあまあと蒼依も笑った。
「尻に敷くなんて……うふふ」
その時だ。蒼依の持つバッグから着信音が鳴り響いた。彼女は慌てて席を立つ。
「すみません、携帯が……。少し席を外しますね」
「ええー。そんなのイヤやわ。むさくるしい男と二人っきりなんて!」
そんな維緒の制止の声に申し訳なさそうにしながら蒼依はバッグを持って店の外に出て行く。
友衛は蒼依が外に出たのを確認し、腕を胸の前で組んだ。
「ったく、今まで必死で隠してきたのが水の泡だ。蒼依とおまえが会ったら、変に意気投合しそうな気がしたんだよ」
溜息混じりの言葉を聞いて、維緒は薄く笑う。やはりこっちの笑みのほうが維緒「らしい」。
「美人やんか。ええなぁ、あんな美人なねーさんが傍におって」
「……フレアやミッシングがいるじゃないか」
「アレらは除外。女としてなんか見てへんわ。色気もなんもないやん」
なんて失礼なヤツだ。友衛はフレアに同情してしまう。いや、フレアとしても維緒にそんな目で見られると困るだろうが。
友衛は維緒をちらちら見る。
「なぜおまえがここに居る?」
「そんなん、決まっとるやん。ムーヴはそろそろ、気づくやろ」
「気づく? 成瀬にか?」
「ちゃうちゃう。『一ノ瀬奈々子』にや」
ふいに、維緒が顔をしかめた。その様子に友衛が気づく。
「どうした、維緒?」
「……あかん。ほんま阿呆やな」
「?」
怪訝そうにする友衛を維緒は嘆息しながら見る。
「死んだわ、あいつ」
外は雨が降っていた。
「もしもし? ……そう、わかったわ。詳細は明日の朝に……」
通話を切り、蒼依は店内を振り返る。ドア越しだが、友衛と維緒が立ち上がっているのが見えた。どうしたのだろうか?
店の外に出てくると維緒はにっこりと微笑む。
「すまんなぁ。仲間がドジってしもて、帰らなあかんのよ」
「早く行け」
「やかましい男やね。ともちゃんに言うとるんとちゃう。蒼依ねーさんのほうに言うとるの」
またな、と維緒は去っていった。
維緒が完全に去ってしまってから、蒼依は友衛を見つつ小声で言う。
「友衛、いえ……宮司、一族が動きました」
友衛は維緒が去った方向を見ながら口を開く。
「……そうか、ギリギリだな。計画が成功するか……俺たちが死ぬか……。だけど、投げ出すわけにはいかない……」
そう決めたのだ、友衛は。やり遂げてみせる、と。
*
雨が降る。
ざあざあと、地面を叩く。
流れていく雨に濡れたまま佇む北斗に、病院帰りの冬馬は気づいた。道の真ん中で彼は何をしているのだろうか。いくら狭い道とはいえ、危ない。
「北斗君、こんなところで何してるの? 傘も差さずに」
駆け寄ると、北斗は口元を引きつらせた。うまく、表情を作れないらしい。
「成瀬さんの気持ち、すっげ、よく……わかったよ。へへ……」
泣き笑い、だ。
ぼろぼろと涙が零れた。
北斗は真っ赤に染まった帽子を持っている。それは元は、真っ白だったはずのものだ。
察して冬馬は目を見開く。その帽子は見覚えがある。誰の所有物か、すぐにわかった。
「止めら、れなかった……」
嗚咽に混じってうまく言葉にならない。
堪えようとしても堪えられない。
「……俺、何も、できなかった」
(フレアは言った。死を覚悟してるって)
それは知っていた。けれどももっと先だと思っていた。こんなにも唐突に彼女の死がくるなんて、誰が予想できた!?
ムーヴがこんなにあっさりフレアを吸収してしまうだなんて、予想していなかった!
目の前でその光景を見た北斗は、現れたムーヴの無邪気な残酷さを思い出して悔しくなる。
「成瀬さん、フレアが……っ!」
帽子を胸に抱えたまま、北斗はただ、泣いていた――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】
【6077/菊理路・蒼依(くくりじ・あおい)/女/20/菊理一族の巫女、別名「括りの巫女」】
【6145/菊理野・友衛(くくりの・ともえ)/男/22/菊理一族の宮司】
【2711/成瀬・冬馬(なるせ・とうま)/男/19/蛍雪家・現当主】
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■ ライター通信 ■
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ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
急展開、です。いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。
今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
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