■逆襲の蛍■
緒方 智 |
【7061】【藤田・あやこ】【エルフの公爵】 |
―ユルサナイ ユルサナイ
―スミカ ヲ オワレシ ワレラ ノ イカリ ヲ オモイシレ!!
初夏を迎え、川辺で夕涼みを楽しむ季節・・・なのだが、最近息を潜めてます。
夕方になると部活を勤しむ学生達はダッシュで逃げ帰る。
仕事帰りのビジネスマンどころか、ご近所迷惑な集団暴走もいなくなる。
なぜならば
「蛍が群れなして襲ってきた?」
冗談でしょうと言いたげなアリスに店員が嘘じゃありませんと涙目で訴えてくる。
その姿に何も言えず言葉を詰まらせる。
まぁ、確かにその話はアリスも耳にしている。
―蛍が大群で襲ってくる。
別に怖くもなんともないが問題はその大きさ。
一匹一匹が子犬か子猫ほど巨大。
それが群れを成して攻撃してくるのだから、パニック映画並に怖い。
単なる都市伝説かと思っていたが、そうではなかった。
実際、被害を受けたのだ。涙目で訴えてくる店員が。
帰宅途中、突如飛来してきた蛍の大群に襲われ、店に逃げ帰ってきたというのだ。
「まぁ、今日は遅いから泊まってきなさい。」
こくこくと首を振る店員を二階の客室に行かせるとアリスは腕を組んで考え込んだ。
「これは・・・放って置けないわね。事件調査を依頼しますか。」
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逆襲の蛍〜悪霊全滅大作戦!!そして、さまよえる魂は帰還する☆
貼り紙を出す必要はなかったな〜とアリスは思う。
店員が被害にあった翌日、ご近所及び商店街の皆々様による緊急町内会が召集された。
その名も『悪霊蛍全滅緊急対策会議』。
なんとも笑えるご大層な名前がついたものだが、実際にはシャレにならない被害が続発しているので皆真剣そのもの。
が、いい年したおっちゃんおばちゃんが本気な顔して『殺虫剤をばら撒く』とか『ありとあらゆるところにお札を貼りまくる』とか、果ては『エクソシストか退治屋を呼べ』や『火炎放射で全てを焼き尽くす』などという滑稽かつ道徳的にかなり問題あるんじゃないですか!という問題発言が飛び出す始末。
黙って聞いていたアリスもさすがに色をなくすのを通り越して凍りついた。
確かにここ数日受けた被害は本当に笑えるものではない。事実、収益が激減しているという死活問題まで発展している。
にしても、これはないだろう。
さしたる解決策もなくご大層な『会議』は強制終了。
やれやれと呆れて帰ってきたアリスは店の前に横付けされた装甲ベンツとそこに描かれた毛虫の絵。
回れ右して逃げ出そうとして―捕まった。
「いきなり逃げないでくださいよ。アリス様」
最近やたらと黒くなってきたんじゃないかと思える店員。
そしてその隣に立つのは忘れもしない最凶運に愛されたんじゃないかと疑った藤田あやこ。
顔を見た瞬間、以前の一件が鮮明に思い出し、体が勝手に反応したのだがこのモードになった店員から逃れられるわけなかった。
「なんか感じ変わってない?」
「まぁ色々あったから。で、話は聞いたわ。」
いきなり話変えるなよと突っ込みたいアリスを無視してあやこは決然と立ち上がる。
壮絶に嫌な予感が走る。というよりも、こっちの話を聞けと叫びたい。
が、黒い微笑を浮かべる店員とやる気爆発のあやこを前にそれは虚しい願い。
拳を握り締め振りかざすあやこの姿に少々殴りつけたくなる衝動が起こるのはなぜだろうと自答する。
考えても虚しいと思うアリスに対し勝手にあやこは盛り上がる。
「その大量発生した悪霊蛍。この私が退治するわ!」
「わー素晴らしい、あやこ様。」
声高らかに宣言するあやこにわざとらしいまでの拍手と声援を送る店員にアリスは沈黙を強いられたまま撃沈した。
夕闇も押し迫った川べり。
このところの騒ぎですっかりさびしくなってしまったが、普段なら夕涼みを楽しむ老人達や家路を急ぐ子どものはしゃいだ声、買い物帰りのご婦人達のおしゃべりで溢れている頃だろう。
川面をよぎる風が心地よく、自然と人が集まるのも無理はないと思う。
この景観侵害さえなければ。
蛍の襲来を待ち構え、茂みに潜んだあやことアリスはこともなげにうち捨てられた数々の電化製品や生活用品類を見ながら心の底から感じた。
「なんなのよ、これ。」
「ここ2〜3ヶ月で増えたのよ、不法投棄っていうのが。町内会と商工会で問題になってんだけど『全然』解決してない状態。」
ぶちぶちと文句を言うあやこに一応監視と巡回はしてるのよ、と事も無げにアリスは応える。
あやこの機嫌が悪くなるのも仕方がない。
本当に川辺はひどい状態だった。
以前は水も澄んでいて小さな魚が泳いでいたし、可愛らしい花で溢れる豊かな景観を誇っていた。
夏になると闇にまぎれて飛び交う蛍が美しい彩りを添えて、人々の心和ませていた。
が、今ではそれは見る影もない。
山積みにされた産業廃棄物があちこちに散らばり、漏れでた廃液によって水が汚れ、生物の住める場所ではなくなっている。
あれほど豊かだった緑は枯れ果て、無残な姿を晒している。
街の有志が結束して監視しているが事態は一向によくならない。それどころか悪化の一途をたどっているようにも思えた。
「完全ないたちごっこね。それ。」
「そうなのよね〜」
呆れ果てたあやこの言葉に頷きながらアリスはふとあることを思い出す。
「そういえばこの騒ぎって、不法投棄が悪化したあたりから・・・・・・」
そこまで口にした瞬間、背後で何かがこすれ合う音が響く。
ひとつではない。
ヴィィィィ・・・ンという、まるで地の底から這い出した怨嗟を捻りこんだ鋭く鈍い刃がぶつかり合う音。
背中に巨大な氷塊が滑り落ちてくのを感じた。
同時に金色の光が周囲を照らし出す。
―振り返りたくない!つか、逃げたい!!
双方ともに理性とか何かではなくもはや本能に近いものが最大限の警告を告げている。
が、何にしても振り返って退路を確認しなくてはどうにもできない。
目の前はけっこう流れが速い上に上流で降った雨の影響で相当量増水している川。
まさしく『前門の虎後門の狼』である。
「冷静に状況確認してる場合なの?!」
「やかましい!!こういうときこそ冷静さを失くすなって姉から厳しく言われてんのよ!!」
緊迫してる状況で異様なまでに冷静なアリスにあやこはがばっと立ち上がり抗議する。
その言葉にどこか切れたのか、負けじとアリスも言い返す。
「なんですって!?どうゆう姉さんなの?というか、そういう目に遭いまくってるわけなの?」
「遭いたくって遭ってるわけじゃない!!あの『凶悪騒動魔』のせいよ!!」
すでに怒鳴りあいの境地に達してる二人。
人は極度の緊張を強いられると我を忘れるという。
まさにその状態なわけだが、少しばかり冷静さを取り戻していた方が良かった。
突如音がやんだかと思った瞬間。ブワリと空気が膨れ、凄まじい風圧が弾ける。
強烈な圧力に二人は声無き悲鳴をあげ、土手に吹っ飛ばされた。
数瞬駆け上がる激痛に息がつまる。
何が起こったのかと目を開けたあやこの眼前に鋭い昆虫の口。
後頭部をしたたか打ったのか、片手でさするアリスも目をむいて硬直した。
しばしの沈黙。
静かでもなかった川べりに大絶叫がほとばしった。
「馬鹿ですか?君たちは。」
やけに落ち着いた男の声にぴくりと頬が引き攣るのをあやこは感じた。
隣に立つアリスは精一杯の笑みを貼り付けて拳を握っているのが分かった。
中心に立つ二人をライトで照らし、円卓に座った5〜6人の人間が暗がりから冷ややかな視線を浴びせている。
「何の対策もなくいきなり敵地に踏み込むなど無謀の極み。」
やや嘲ったような中年に差し掛かったほどの女の声が二人の神経を面白いくらい逆なでにする。
滲み出す殺気に気付かず、別の老成した男の声が追い討ちを掛けた。
「我々は君たちに期待してるのだよ?失望させないでくれたまえ。」
その瞬間、二人は素晴らしいほどの同調し、忍耐の糸が派手に切れた。
「何が失望よ!!だったら自分たちでなんとしろって言うんだ!!町内会!!」
見事なまでにそろったあやことアリスの怒声に暗かった部屋が明るくなる。
と、同時に部屋の隅に固まって怯える町内会長らの姿。
悪魔が降臨したがごとくの表情をした二人はゆるりと近づくと彼らを見下ろした。
「ええ、確かに何の策もなく踏み込んだのは失態よ。」
「でもね・・・人に全部押し付けて逃げまくり、失敗したら笑うそちらよりもマシよ。」
怒りまかせで怒鳴りあった挙句、巨大蛍に取り囲まれ、危うく攻撃されかけたのは確かに笑えない。
待機していた店員が呆れ混じりに照明弾を打ち込んで目くらましをしてくれたから良かったが、あのままでは確実に負けていた。
実体験して分かったが、たかが蛍ではない。あれだけ巨大化して襲ってくると本当に怖い。
場慣れした自分たちですらそうなんだから一般人はもっと恐ろしいだろう。
放ってはおけない。いや、このままでは自分たちのプライドが許さない。
店員が感心するほど怒りに燃えた二人は徹夜で策を練り、いざ決戦というところへ悪乗りした町内会の呼び出し。
目が据わった二人にもはや何も言うことはない。
「あとは任せてもらいますよ・・・・しっかり報酬は貰いますからね。」
怯えまくる町内会の皆様に凍りつくような笑顔を送ると二人は集会所を後にした。
再び闇に包まれた川べりにすっくと立つのは完全武装したあやことアリス。
その背後で呆れを通り越して悟りの境地に達しそうな店員。
あれだけの事があった後だ。無理も無い。
その怒りの発散場所があっただけ幸いだった。
ヴィィィィィ・・・ンという忌々しい音とともに現れたのは巨大蛍の群れ。
「出たわね・・・巨大蛍!」
「完璧に浄化してあげるから覚悟しなさい!!」
雄叫びともにエネルギー銃を一斉掃射する。
ちなみに武器はすべて退魔の力を秘めているので悪霊には有効。かつ物理攻撃もできる優れもの。
攻撃を受け、悲鳴を残して次々と消えていく巨大蛍。
傍目から見ている限りはすごいな〜と思うが、当事者にとっては命がけ。
・・・・・・のはずなんだが、楽しそうに見えるのは気のせいだろう。
帰り支度をしながら店員はため息をつく。
まぁ被害が減るのはいいことだから別に構わないか、と思ったその時。聞き覚えのある『声』がどこから届いた。
奇声を上げて最後の一匹が沈黙した瞬間、あやこはようやく肩で息をついた。
額に伝う汗をぐっとぬぐった途端、髪がわずかにずれる。
慌てて直すと、同様に肩で息をつくアリスを見やった。
「ようやく終わったわね。」
「全くね。でも・・・これで報酬は頂き。」
口の端に黒い笑みを浮かべたアリスにあやこは乾いた笑みををこぼす。
―あの店員にして店主ありね。
心の中でそう呟きをこぼすが、表には出さない。
実のところ自分も鬱憤が晴れて気分が良かったので、気にしたら負けだと思った。
「じゃ、帰りますか。」
「そうね。貴方にも報酬出さないと・・・店で気に入ったものあったらあげるわ。」
上機嫌で話すアリスにあやこはよっしゃと拳を握る。
一時期閑古鳥が鳴いたが、アリスの店はけっこう品がいいので有名なのだ。
依頼料とはいえ無償で選べるとはかなり運がいい。
さて何にしようかな〜と思いを巡らせるあやこと報酬をいくら取るか計算するアリスに冷ややかさに呆れを混ぜ込んだ声が掛かった。
「まだ終わってないわよ〜アリス。」
その言葉に二人が少々間の抜けた表情を浮かべた瞬間、背後でヴィィィィィンという嫌な羽音が聞こえた。
振り向いたそこには完全に倒したはずの巨大蛍が再び群れをなして出現する。
「わぁぁぁぁぁぁっ!!」
悲鳴を上げて逃げまくる二人を追い掛け回す巨大蛍の群れ。
少しばかり離れて見守る店員の肩には小さな銀色の鳥が器用にも翼で頭を押さえて、二人に声を掛けた。
「あのね〜そいつら、住処を汚されて怒ってんのよ。きちんと掃除すれば消えるから。」
「間延びした声で言わないでください!!って姉様なんで知ってんの?!!」
「え、あれってアリスのお姉さんなの?」
「声だけはね!たぶんあの人の細工で通信してるんだろうけど。」
逃げまくりながらけっこう平然と話しまくっているアリスとあやこに店員は苦笑いして肩の鳥を見る。
精巧に作られた銀細工の鳥だが、空を飛ぶことも出来るし会話も出来る優れものだ。
おそらく介して話している方も苦笑しているのが目に浮かぶ。
にしても、いきなり飛来した鳥から仔細を聞かされたときは絶句した。飽きれると同時にまたかよと思う。
力なく笑う店員だが、さすがに店主とあやこがこのままではいずれ倒れてしまう。
根本解決はともかく目の前の事態を解決しなくては元も子もなかった。
「どうしたらよろしいでしょうか?」
「あ、大丈夫よ。」
自然と丁寧に問いかける店員ににんまりとした笑みを浮かべてるであろう鳥の主がことも投げに言い放つ。
少々訝しむ店員だったが、次の瞬間納得した。
走ること二十数分。
いい加減汗だくになってきたところでアリスは腰に下げていた小型爆弾を放りなげた。
退魔の閃光と炎が瞬時に蛍を焼き尽くした。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
当事者のアリスはまだしもいきなりの爆風に備えていたなったあやこは吹っ飛ぶ。
土手に突っ伏し、顔を上げたと同時にあやこはアリスを怒鳴りつけた。
「なんてことするのよ!!あ・・りす」
怒り任せに怒鳴ったあやこの声が小さくなっていく。
噴き出すのを必死で堪えるように顔を引き攣らせたアリスを見てあやこは首をかしげ―妙に頭が軽いのにハタと気付き、目の前に転がった糸の塊を見て固まる。
傍観していた店員も数瞬唖然とした後、腹を抱えて笑いを堪えようとする姿が映る。
―ばれた。
そう、アリスが感じた違和感はこれだった。
あの豊かなあやこの頭髪は全く無い。転がった糸の塊はカツラであやこはずっとそれをつけていたのである。
すべてはこの坊主を隠すため。
堪えきれず、はじけたように笑い出すアリスを一瞥するとあやこは懐から一連の数珠を取り出した。
「よくも・・・・・・大人しく浄化されなさい!!」
怒りとともに爆発した清浄な霊力が一気に辺りを浄化したのはその直後だった。
「お見事。」
肩で荒く息をつくあやこにアリスはやや気まずそうに声を掛け、見事なまでに綺麗になった周辺を見てまわす。
炸裂したあやこの怒りの霊力が巨大蛍だけでなく山と化していた廃棄物まで葬り去ったのである。
う〜ん怒りの力はすごいなと感心するアリスを無視してあやこはカツラを被りなおす。
秘密にしていたのに冗談ではない。
それもこれもすべて・・・と目を据わらせたあやこの目の前に柔らかな蛍の光が瞬いた。
「あら、普通の蛍。」
―ありがとうございます。
はっきりと届いた声に二人は脱力し、その場に倒れこんだ。
「え、廃棄物だけじゃないの?」
「そう。かなり危険な廃棄物だけじゃなく、あの周辺の精霊とかが怒ったのも原因らしいのよ。蛍はその負のエネルギーを受けて成長したの。」
事後処理が済み、店で報酬を選んでいたあやこは驚いてアリスを見た。
やや疲れながらもけっこうな報酬額に笑いながらアリスは町内会への報告を話す。
有志で見張りをしたにも関わらず、不法投棄が減るどころか増加したのも儲けを重視した商工会と清掃を面倒くさがった一部の町内会役員が目こぼししたのがそもそもの原因。
おまけに川を守ってきた祠まで汚したものだから精霊が切れた。
最初は原因になった連中のみに警告してきたが、全く効果が無い。
なので、無差別攻撃に切り替わったとらしい。
まさにふざけるなの一言である。
「もっとも暴走に拍車がかかって制御不能になったから、助けて欲しいって精霊が私の姉に相談したから分かったんだけどね。」
やけに遠い目をして呟くアリスにあやこは乾いた笑いを返すしかなかった。
しかしながら思う。
自然を馬鹿にするととんでもない報いを受けるものだ、とあやこはズレ落ちそうになったカツラを押さえながらつくづく感じた。
FIN
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■ 登場人物
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【7061/藤田・あやこ/女性/24歳/女子高生セレブ】
【NPC アリス・御堂】
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■ ライター通信
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はじめまして緒方智です。
このたびはご依頼いただきましてありがとうございます。
お待たせいたしまして申し訳ありません。
プレイングを見ながら試行錯誤した結果、こんなお話になりました。
かなり暴走しながらも何とか終息したので結果オーライというところでしょうか?
楽しんでいただければ幸いです。
またの機会がありましたら、よろしくお願いします。
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