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■命運■ |
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川岸満里亜 |
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【3368】【ウィノナ・ライプニッツ】【郵便屋】 |
変な事件に巻き込まれちゃったので、聖都の偉い人に保護してもらうよ。しばらくそっちに行けないけど、心配しないでね。ちゃんと毎日身嗜み整えるんだぞー。部屋の掃除も週に１度はやってよね！
――愛娘キャトル・ヴァン・ディズヌフより――
ある日、そんな手紙がファムル・ディートの元に届いた。
「まったく、何をやってるんだ。戻ったらきつく言ってきかせんとな」
手紙を畳んで机に置くと、ファムルはいつものように研究室に向う。
途中、ふと思いつき足を止める。
「そういえば、アイツはどうしてるか……」
ファムルが魔女の屋敷を出た頃に、一緒に屋敷を出た魔女の少女がいた。
数週間前に魔女の屋敷に行った際には見かけなかったのだが……彼女の呼び名はディセット（１７）。まだ生きていてもいいはずだ。
棚の奥から箱を取り出し、開く。
古い書類や手紙を掻き分け、ファムルは一通の封書を探し出した。
彼女は人間と共に、山奥の小さな村で暮し始めたはずだ。
住所は記されていないが、封書の中には地図が入っていた。
「シスのことがあって以来、連絡をとっていなかったが」
手紙を手に、ファムルは思案した。
まだこの場所に住んでいるのかはわからない。
力になってくれるかもわからない。
しかし、ディセットはシスがとても可愛がっていた魔女である。
ダラン・ローデスを行かせてみる価値はあるかもしれない。
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『命運〜示された道〜』
専攻を魔術に変えたウィノナ・ライプニッツは、魔女の屋敷で、日々実技訓練を行なっている。
ウィノナの場合、目的が魔術による戦闘ではないため、自分の魔力のコントロールがメインであった。
浮遊の魔術一つにしても、風魔術で浮かせる方法、空間術で浮かせる方法など、様々な方法がある。
ウィノナが習っているのは、自分の魔力を使い、浮かせるという方法だ。魔力の消費は激しいが、ウィノナには向いているのかもしれない。
彼女は今、自身の魔力の流れを知ることを重視している。それは、自身の魔術の上達を早めるだろうし、情報の一つとして参考にもなるだろう。
訓練時間以外も、魔術関連の勉強に明け暮れていた。
まずは、学び続けている魔力の制御方法。
人間向けと思われる本と、魔女向けと思われる本がある。
魔女が書いたと思われる魔女向けの方は不可解であったが、人間向けの方は書いてあることは理解できる。本で学びながら訓練を行なば、より成果が得られるだろう。
続いて、アイテムに関する情報や魔法具に関する書物を探す。
アイテムに関しては、こちらより、街の賢者の館の方が多くの情報を得られそうだ。
魔法具については、作成方法はいくつかあるらしい。
魔女クラリスの作成方法は、魔力を吸収しやすい素材に、魔法を封じ込める方法らしい。こちらは、特殊な能力を有していないと無理なようだ。封じ込めることは可能でも、長持ちはしない。ウィノナは孤児な為、生粋の人間であるかどうかは不明だが、あまり効果は望めないだろう。
人間が行なっている魔力付与についても調べてみる。こちらは、魔道錬金術の分野だ。
魔力の籠もった素材を使い、目的の効果を持つアイテムを作り出す。……なかなか難しそうである。
医術も、錬金術もそうだが、一人前になるには、長期間の勉強と研究が必要そうである。
既に素材が判明しているものであれば、素人でもそれだけに集中して作成をすれば、できないことはないだろうが……。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
街でも、仕事の合間に図書館や賢者の館に向かっては、ウィノナは学び続ける。
ある日、街の賢者の館に向ったウィノナは、ダラン・ローデスの姿を見つけた。
声をかけようか迷ったが、ダランは友人の蒼柳・凪と一緒だったため、今回は遠巻きに見守ることした。
手にしている本は、「アイテム図鑑」や「探索記録」などだ。
多分、ウィノナと考えていることはそう遠くない。彼等もダランの身体を正常にするための方法を探しているのだろう。
ウィノナは目当ての本を借りると、賢者の館を後にした。
その翌日、ウィノナはダランといつもの場所で待ち合わせた。
「ウィノナ〜！」
手を振りながら現れたダランは、とても元気そうだ。
二人は定期的にこの公園で待ち合わせては、施設の部屋を借り、ダランの健診を行なっていた。
「それじゃ、ウィノナは今、魔術を学んでるんだ？」
「うん。あと魔法具についてもね」
「ふーん……。魔法具作成ってなんか難しそうだよな。道具を作る技術も必要なんだろ？」
本格的な作成には、専用の道具が必要だろう。魔女に従っている間は、魔女クラリスの道具や研究室を貸してもらえるだろうが。
ダランは上着を脱いで、ベッドにうつ伏になる。
ウィノナは魔術書を開いて呪文を唱え、ダランの身体の状態を診た。
変わっていない。
胴回りに無数の球体がある。その部分だけ、正常に魔力が循環していない。
「あのさ……」
「喋らないで」
ダランの言葉を遮り、更に集中する。
この球体は何だ？
ウィノナは、自らの力を球体に絡ませ、探ってゆく。
覆っているのも力。
覆われているのも力――。
それぞれ別の力だ。
やはり、力が力を押さえ込んでいる。
中の力は魔女の力。
覆っている力は、ダラン自身の力。濃縮された魔力。
だけれど。
ウィノナは一旦手を休め、吐息をついた。
だけれど……。
ごく僅かに。
球体の数が減っている、ような気がする。
「あのさー、この魔術って、自分の中は見れないんだろ？ 俺もウィノナの魔力の流れ、見たい。ほら、お互いの魔力の流れを教えあえば、互いに参考になるかもしれねぇし」
「それは、そうだけど……」
「だろっ！」
言って、ダランは机の上に置かれている魔術書を手にとった。
……そのまま沈黙。
「どした？」
「…………」
「長いから、覚えるのは無理じゃない？ 読みながらやれば……」
「……ってか、読めない」
「は？」
「何語だよこれー！」
ダランの叫びに、ウィノナは眉を寄せる。
「ええっ？ 普通に魔術語で書かれた魔術書だよ」
「そ、そうだけどさ。難しい字で書かれてるじゃん。ウィノナ、こんなの読めるの！？」
「まあ、勉強したからね」
ダランは普段、ルビを振ってある魔術書で学んでいるらしい。
魔術語は全く読めないわけではないが、標準語でいうと幼児が読める程度の言葉しか読むことができないらしい。
このあたり、ウィノナは既にダランを抜いているようだ。
とりあえず、魔術行使能力はダランの方が上なはずなので、ウィノナは読みやすいように振ってあげることにする。
その作業中、ダランは唸りながら、悔しげな目でウィノナを見ていた。
「はい完成！」
ウィノナは魔術書をダランに渡すと、ベッドにうつ伏せになった。
たどたどしい声がウィノナの耳に響く。
まともに詠唱ができるようになるまで、少し時間がかかりそうだ。
ウィノナはダランの身体を診た為、酷く疲れていた。次第にウィノナの意識は遠のいていった……。
肩を捕まれた。強い力で、身体をひっくり返される。
身体に感じた衝撃でウィノナは目を覚ました。
彼女の目に飛び込んできたのは――。
ばきっ！
思わず手が出た。
それも固めた拳だ。
「いってーっ！」
派手に転んだダランが、顎を押さえている。
「なに顔近づけてるんだよ、気持ち悪い！」
「や、疲れてるみたいだから、力を分けようとしただけだっ。ううっ、いてぇ」
ダランの頬が次第に腫れてゆく。
「へー。そんなことできるんだ。で、どうやって？」
「もっちろん、口移しで！ 生命力や魔力を吹き込むのって、やっぱり口からが確実だろー！ あっ、変な気持ちなんてないぞ。俺、年上好きだしぃ！」
「はっはっはっ……」
もう一発殴っておこうかと、ウィノナは拳を固めてしまう。
ダランは顎を押さえながら、にこにこ笑っている。その様子に、ウィノナはため息をついた。
「で、どうだった？」
話を変えようと、ウィノナはダランに聞いた。
「血液と同じように、魔力って体内を循環してるじゃん？」
頬をさすりながら、ダランは立ち上がる。
「うん」
「ウィノナの魔力は、スムーズに巡ってた」
魔女の屋敷にいた時、ダランはまず、自分の魔力をスムーズに循環させることから始めたらしい。障害となっているもう一つの力を、他の力で押し流す形だったそうだ。
「それで、ウィノナの力ってなんか、太い」
「太い？」
「うん、魔力は使った後だから減ってたんだけどさ、なんていうんだろ……そう、魔力を血液とするのなら、血管が太いっていうのかな？ 俺のより太い」
「ふーん……」
自分は内在型だとクラリスから聞いている。ダランより魔力が高いのだろう。
「で、ちょっと思ったんだけれど」
ダランが、椅子に腰かけて、ベッドに座っているウィノナを見た。
「俺の魔力の通り道も、太くなったら、もう一つの魔力も正常に循環するのかな？」
「それは……そうかもしれないけれど……でも、無理だよ。人間の血管全てを太くすることができないように、それは生まれつきの体内構造だから」
「そっか」
ウィノナはノートをとって、今日調べたことや、ダランの言葉をノートと紙に記した。
その間、ダランは黙って考え込んでいた。
ウィノナが一通り書き終えた時、ダランが言葉を発した。
「ウィノナ……ちょっと我が侭言ってもいい？」
「なに？ ダランが我が侭なのはいつものことだと思うけど？」
笑みを含ませて言うと、ダランも少し笑みを浮かべた。
「あの、さ」
ダランはゆっくりと話し始める。
「俺の中にあるもう一つの力……ウィノナも消した方がいいと思ってるだろ？」
ウィノナは頷いた。消せるようなアイテム探しや魔法具作成に勤しみたいと。
「俺は、消したくないんだ」
言って、ダランは胸に触れた。
そこには、高価な美しいペンダントがある。
「これ、母ちゃんの形見なんだ。この中に、母ちゃんの思念が封じられてたんだ。魔女の屋敷を抜け出した日、その力を解放したんだけど――母ちゃんが言ってたんだ。俺は自分の生きた証だって」
ウィノナは黙って、ダランの次の言葉を待った。
ダランは目を伏せながら言葉を続ける。
「魔女は誰も、何も残せない。だけれど、自分はこの世界に俺という生きた証を残せることがとても幸せだって。俺が生きて、何かを成して、子孫を残せば、それも全て自分が生きた証、自分の成したことになるって。そうやって自分はこの世界でずっと生きられるって。……俺、殆ど人間だけれど、俺の中にある異質なあの力だけが、俺が魔女である母ちゃんの子供だってことを現しているようで……。だから、消したくないんだ」
「わかる……けど」
ウィノナは一旦言葉を切った。吐息交じりに次の言葉を発する。
「それだと長く生きられないよ、ダラン」
「それはヤダ」
「だったら、魔力を消すとか永久に封印するとか……」
「それもヤダ！」
ウィノナは苦笑する。確かに我が侭だ。
「ごめん」
ダランが言った。
「俺、ウィノナの腕輪、もしかしたら外すことができるかもしれない。俺の力じゃなくて、このペンダントに入ってる母ちゃんの魔力を使って、だけど」
ウィノナの黒い瞳を、真剣に見つめてダランは続けた。
「だからもう、戻ってきなよ。俺の身体を正常にする方法、探してくれるのなら、一緒に探そう！ 学びたいことがあるんなら、親父に頼んで先生呼ぶし、ウィノナの研究室でもなんでも作ってもらうし。それだけのことを、ウィノナはしてくれたから――」
ウィノナは戸惑った。
自分は、クラリスとの約束を破るつもりはない。
あそこでは、街で学べない知識を沢山得ることができる。
だけれど……。
その日は返事をしないまま別れた。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
【3368 ／ ウィノナ・ライプニッツ ／ 女性 ／ 14歳 ／ 郵便屋】
【2303 ／ 蒼柳・凪 ／ 男性 ／ 15歳 ／ 舞術師】
【NPC ／ ダラン・ローデス ／ 男性 ／ 14歳 ／ 駆け出し魔術師】
【NPC ／ 魔女 ／ 女性 ／ 345歳 ／ 魔術師】
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■ ライター通信 ■
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ライターの川岸です。ご参加ありがとうございました！
同時納品の副題の違うノベルもご覧くださいませ。
ダランが提示した案ですが、書き手として誘導しているわけではありませんので、よくお考えの上、次なる行動をとっていただければと思います。
進展を望む場合は、専用のオープニング（現在は「命運」）をご選択の上、ご参加ください。
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