■マンション〜AOP〜の日常■
摩宮 理久 |
【7061】【藤田・あやこ】【エルフの公爵】 |
おはようございます。
私、マンション〜AOP〜の管理人です。
どなたの部屋へ行く予定なのですか?
今ちょうど皆さんいらっしゃるようですよ。
依頼を受け付けている人もいらっしゃいますよ。
さぁ、どうなさいますか?
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マンション〜AOP〜の日常
オープニング
部屋の中で一人の青年が白いパレットに向かって鉛筆を突き出していた。
昼だというのにカーテンを締め切り、薄暗い室内で青年は何かを考え込んでいるようだった。パレットは白いままで、鉛筆が動き出す様子も無い。
青年の名は、楢原雄一。心を持った絵を描き出す天才画家だ。
ここはマンション〜AOP〜の一室であり、防音に優れた壁の奥からは何の物音もしない。
静寂に包まれた室内に、一つ、響く音があった。
ピーンポーン。
インターフォンの音に、楢原は顔を上げた。それから、鉛筆を置くと、扉に向かって歩き出した。
扉の前でしばらく思案してから、楢原は扉を開いた。
そこにいたのは、一人の女性。
細身の体に高い身長のその女性は、黒い瞳でまっすぐ楢原を見つめていた。
「どなたでしょうか」
楢原が尋ねると、女性は黒髪を耳にかけ、口を開いた。
「はじめまして。私、藤田あやこといいます。ここに、絵を描いてくださる方がいると聞き、やってきました。私の話を聞いていただけないでしょうか」
楢原はじっとあやこを眺めてから、頷いた。
「入ってください。話を、お聞きしましょう」
***
「つまり、ハロウィンのカボチャで馬車を作り、ウサギさんが牽引している所に悪いきつねさんが卵をぶつけに現れる絵を描いて欲しいということですね」
お茶をあやこに出しながら、楢原は言った。その言葉に、あやこは深く頷いた。
「はい、それが、娘の願いです。私の娘は、私のクローンで元々普通の人の子として生まれ国を護る兵器として強制的に改造されたので、荒れてすさんだ生活を送っていました。あの子の望みが叶うなら、と」
クローンと聞き、納得したように楢原は深く息を吐いた。
「どうりで、若いはずですね。わかりました、その願いかなえるよう尽力を尽くしましょう」
「ありがとうございます!」
うれしそうに言ったあやこに、楢原は、表情を変えずお茶をすすった。
「しかし」
「しかし?」
「僕は今、スランプなんです」
「すらんぷ……」
「はい、いつもならその人を見るだけでその人の望んでいる絵の姿がわかります。しかし、今の時期はそうは言ってられません。そこで、娘さんを連れてきてください、そして、彼女の夢の中にいる彼女の求めている絵の姿を、表面に持ってきて欲しいのです」
あやこは怪訝そうに眉をゆがめた。楢原の言っている言葉の意味が良くわからないといった表情で、尋ねる。
「それは、どうやって」
あやこの疑問は、何の問題にもならないというように楢原は表情を和らげた。
「このマンションには、夢に入り込める少女がいます。その子に僕のほうから頼んでおきましょう。段取りの詳細は、その時に」
あやこは安心したようにため息を吐き出し、腰を上げる。
「では、三日後に娘を連れて参ります」
「はい、わかりました」
***
三日後、再び楢原の元を訪れたあやことその娘は、楢原が呼び出した常葉メイアと顔を合わせた。
「こんにちは! 私、常葉メイアです。今日、絵を描くお手伝いをさせてもらいます」
元気よくそう言ったメイアに対し、あやことその娘は会釈を返した。
「それにしても、よく似ていますね。姉妹のようだ」
あやことその娘は、本当に良く似ていた。
楢原の言葉に曖昧に微笑むあやこに対し、娘のほうはにこりともしない。
楢原はそれに対して気を悪くした風も無く、娘を椅子に腰掛けるように促した。
「どうぞ」
娘は静かに頷いて、椅子に腰掛ける。
楢原はメイアに視線を送った。メイアは頷くと、あやこと娘、二人に聞こえるように言葉をつむぐ。
「今から、娘さんを眠らせ、私とあやこさんで彼女の夢の中へ入ります。入ってから、絵画を描くのに必要なものを探します。それを光のある方向へ追い立てれば、楢原さんが絵にしたためてくれます。楢原さん、どれほどの時間彼女の表面に夢を持ってくればよいですか?」
メイアは、楢原のほうへ顔を向けた。
「一瞬で大丈夫ですよ。そうすれば、絵にするのに時間はかかりません」
「わかりました。じゃあ……」
メイアはそういって、娘に近付いた。
「なんですか?」
娘は少し警戒したように言ったが、メイアは安心させるように微笑んで、娘の額に手を当てた。すると、娘はすぐに眠りにおち、がっくりと椅子にもたれかかった。
メイアはあやこと楢原に頷くと、あやこの手をとり、椅子に座るよう促し、自らも隣の椅子に腰掛けた。
「では、いきます」
メイアがまぶたを閉じると、あやこの意識も闇に飲まれていった。
***
「ここは」
緑の生い茂る草原に、あやことメイアは立っていた。
メイアは不思議そうに辺りを見わたすあやこの疑問に答えるために微笑んだ。
「ここは、娘さんの夢の中です。では、いきましょう。目的はハロウィンのかぼちゃの馬車とウサギさんと卵をぶつける悪いきつねさんの三つです。手分けして探したほうがよいですね、探し出したら、あちらへ誘導してもらえますか?」
メイアが指し示した方向には光があり、そこが娘の意識の表面なのだということがわかった。あやこは、メイアの言葉に頷き、とりあえず、左右の二手に分かれることになったので、左のほうへ歩き出した。
草原は広く、何もないように見えたが、時折木が現れたり、鳥が現れたり、人が現れたりする。あやこはそれらを真剣に見つめ、かぼちゃの馬車とウサギときつねを探すことに専念した。
しばらく歩くと、ひょこひょこと二本足のウサギが歩いているのを見つけた。
「あ、あの!!」
「ん?」
あやこがそのウサギに呼びかけると、ウサギは振り向き、あやこのほうに向かって歩いてきた。
白くてやわらかそうな毛を持つ、かわいらしいウサギは、あやこの目の前まで来ると、まるで人間のように首をかしげた。
「なに?」
「あの、あの、その、私と一緒に来てはもらえませんか」
「何所まで?」
「あそこまで」
あやこが示すと、ウサギはその方向を見て、しばらく思案するように黙り込んでから頷いた。
「なんだかわからないけど、いいよ。あの近くまでだったら行っても大丈夫だから」
「ありがとうございます!」
あやこはそれから思い出したように、ウサギに尋ねる。
「ハロウィンのかぼちゃの馬車を、ご存知ありませんか?」
「ああ、そのうち出てくるんじゃないか」
「あ、そうですか」
あやこは拍子抜けして、ウサギと共に歩き出した。
「馬車はオレのだから、オレが望めば出てくる」
「あ、じゃあ」
「そうそう、ほら、見えてきた」
ウサギが指し示した方向に、確かに馬車の姿が見えた。ハロウィンのお化けのかぼちゃの馬車だ。
その馬車の傍までいくと、ウサギはあやこを見た。
「後もう少しで光の近くに着くけど、この馬車をどうするんだ」
あやこはウサギの問いに、少々思案し、視界の隅に悪いきつねに卵を投げつけられているメイアを見つけ、あやこはウサギに視線を戻す。
「馬車に乗って、向こうへ走らせて」
「あいあいさー」
ウサギはそういって、馬車に乗ると馬に鞭打って馬車を走らせた。あやこはメイアをじっとながめ、彼女が馬車に気付くのを待った。
あやこの気持ちが通じたのか、メイアは馬車に気付き、きつねに全てを任せ、あやこのほうへと走ってきた。メイアの姿は卵をぶつけられた所為でぐちゃぐちゃになっていた。
「だ、大丈夫ですか?」
あやこが尋ねると、メイアはぐったりしながら頷いた。
「あーうん、たぶん、もう大丈夫だから、帰りましょう。すぐ帰りましょう、今帰りましょう」
「あ、はい」
よほどメイアは嫌な思いをしたらしく、あやこに詰め寄るようにそう言った。あやこは光の向こうで卵を投げたり、逃げたりしているウサギときつねを見つめてから苦笑した。
***
あやこが気付くと、目の前にはメイアが居り、娘も目を覚ましたようだった。
「描けましたよ」
横から声がかけられ、あやこはその方向を向くと、楢原が絵の下書きを終えたところだった。
「これから、色塗りを行います。一週間後に取りに来ていただけますか」
「あ、はい。書けたんですね!」
あやこがそう言い、絵を覗き込もうとすると、メイアに止められる。
「楢原さんは見られるのを嫌がります。出来上がるまで待っていてください」
「あ、はい」
あやこは娘に視線を送った。
「一週間後ですって」
「はい、待ちます」
そこで初めて、娘は笑顔を見せた。
「では、一週間後に」
「はい」
楢原の頷きに、あやこは微笑んだ。
この世に一つとない、絵が誕生した。
エンド
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【7061 / 藤田・あやこ / 女性 / 24歳 / 女子高生セレブ】
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■ ライター通信 ■
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藤田あやこ様。
できあがりました。
いかがでしょうか。つたない文章ですが、一生懸命書きました。気に入っていただけたらうれしく思います。
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