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■家庭教師がやってきた■

笠城夢斗
【2778】【黒・冥月】【元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
 本家のパーティほど肩のこるものはない――
 何回着ても着慣れないスーツの裾を直しながら、ふう、と如月竜矢はため息をつく。
 と――
「こんにちは」
 話しかけられて、竜矢は振り向いた。
 そこに、胸元が大きくブイカットで開いた紫のドレスを着こなす、美しい女性がいた。
 短い黒髪に魅力的な黒い瞳。けぶるような長いまつげが影を落としている。
「……こんにちは」
 見たことのない女性に首をかしげながら、竜矢は頭を下げる。
 女性はノンノンと指を横に振った。
「いい男は頭をむやみに下げないものです」
「はあ……」
「OK?」
「………」
 淫靡な上目遣い。しかし、奥にひそむいたずらっこのような光。
 竜矢は思わずくすっと笑った。
「Oh。笑うなんてひどいわ」
 女性は大仰に肩をすくめてみせる。
「失礼。――ところで、貴女は?」
「人に名を訊く時は――」
「自分から名乗れ。私は如月竜矢。次期当主の世話役です」
「Oh、素敵な肩書きね」
 私は、と女性は言った。
「月女神。ユエ・ニュイシェンよ」
「……中国の方ですか」
「是」
 こくんとうなずき、彼女は竜矢が持っていたカクテルをさっと奪い、飲み干した。
「肩書きはまだ内緒……よ」
「それは意地悪ですね」
「ふふ。 You will know soon.」
 ウインクして、ニュイシェンはゆっくりと歩き去っていった。

     ● ● ● ● ●

 いつも通り、紫鶴と竜矢2人きりの庭のあずまやで。
「本家のパーティというのはどういうものなのだ?」
 葛織紫鶴はしきりにそれを聞きたがった。
「私もいずれ出なくてはならぬのだろう。今から予備知識を――」
「今日のお客様がお帰りになってからたっぷりお話しますよ」
 今日は客が来る予定だった。竜矢は時間を気にしていた。
 ちりんちりん……と。
 時間通りに、門の鈴が鳴らされる音。
 メイドが出て行く。そして、1人の女性を伴ってあずまやに戻ってきた。
 竜矢は目を見張った。
 黒髪の、紺色のスーツをしっかり着こなした豊満な女性は、にっこりウインクしてきた。竜矢に向かって。
 メイドが言う。
「こちらが、ご本家より派遣なされてきた、紫鶴様の新しい家庭教師様です」
「うわあ、美人な方だ」
 手を叩いて喜ぶ紫鶴とは対照的に、竜矢は苦虫を噛み潰したような顔をする。
 ニュイシェンはくすくすと笑って、
「よろしく……私は月女神。シェンと呼んでくれて結構ですわ」
「シェン殿か。私は葛織紫鶴、これからよろしく頼む」
「そちらの方も、よろしく」
 ニュイシェンは竜矢を見る。そして言った。
「I told you,”You will know soon”,did't you?」
 いたずらっぽくそう言ったのだった。
家庭教師がやってきた

 本家からの突然の命令。
 ――次期当主たる葛織紫鶴[くずおり・しづる]は、もう十三歳。いい加減、世話役の如月竜矢[きさらぎ・りゅうし]にすべての勉学を任せるわけにはいかないだろうと。
 紫鶴は特殊体質のため家から出られない。
 そのため、家庭教師をつけることになった。

 紫鶴が心待ちにしていたその家庭教師は――
 豊満な肢体に艶やかな唇。線の細い細面。しかし堂々としたたたずまい。
 顔立ちがあまり日本的ではない――当たり前だ。彼女は日本人ではない。
 月女神[ユエ・ニュイシェン]。
 彼女は中国人だった。

 紫鶴は喜んだ。こんな美しい人が新しい教師だなんて。
 早速、お祝いパーティを開くことになった。
 ニュイシェン――シェンのためのお茶会。
 竜矢はひっそりと紫鶴の友人を呼んだ。
 このニュイシェンという女性、どこか危ない。自分1人だけで観察するのはまずいかもしれない。複数の人物に知っていてもらおうと――

 集まってくれたのは3人の女性だった。
 ミリーシャ・ゾルレグスキー。
 黒冥月[ヘイ・ミンユェ]。
 榊船亜真知[さかきぶね・あまち]。
 ロシア人に中国人に神様。何とも奇妙な取り合わせだったが。

 広い広い紫鶴邸の庭園にあるいくつかのあずまやの内、今の時間帯一番涼しい所を選んで、紫鶴は彼女たちを案内した。
「あの、手作りで恐縮なのですけど、桃饅頭を持ってまいりました」
 にこっと笑いながら亜真知が風呂敷包みを差し出す。
 榊船亜真知。鮮やかな振袖姿が実に優雅で、立ち振る舞いも軽やかでいて慎み深く、日本人形と見まごうほどに幻想的で美しい。
「まあ……素敵な子」
 ニュイシェンが亜真知を見つめて微笑んだ。
 竜矢が呼んできたメイドの1人が、その包みを謹んで受け取り、開いた。
 茶菓子にぴったりの、風流な桃の形をしたお菓子が現れる。メイドはそれを客人たちの前にそっと配っていく。
 ニュイシェンはにこにこして、周りを囲っている人々を見つめていた。
「あなたたちは、みんな紫鶴のお友達?」
「そうです」
 亜真知がすかさずうなずく。無口なミリーシャは、本当のところは急用で来られなくなった同じサーカス団の親友の代わりに来ただけだが。
 冥月も適当にうなずきながら、隣に座っていた竜矢を肘でつついた。
「こんなことで泣きつくな、情けない」
 普段から竜矢をへたれ扱いしている冥月は容赦がなかった。
「中国系だから自分を頼るのは判るが女一人あしらえんでどうする。助けを呼んだことを笑われてるぞ」
 確かに、ニュイシェンの微笑みはどこか毒があった。馬鹿にしているような笑みに、見えないこともない。
 亜真知は同じくにこにこしながらニュイシェンを見つめ、考えていた。
 ――本家からの家庭教師。何か思惑がありそうだ――と。
「My name is Amachi Sakakibune. It's nice to know you.(榊船亜真知と申します。お会いできて嬉しいです)」
 流暢な英語で話しかけた亜真知に、ニュイシェンは英語で返す。
「Nice to meet you too.(初めまして)」
 紫鶴がメイドに紅茶を頼もうとしていた。
 それを制して、
「紫鶴は英国式の方が好きそうだが、中国式も飲んでみないか」
「え?」
 紫鶴がきょとんとする。冥月はメイドに私に任せろとサインし、自分の影の中から道具一式をぽんと取り出した。
 そして立ち上がり、鉄観音の茶葉を使って、雅やかな中国式のお茶の淹れ方を再現する。
 中国式のお茶の淹れ方は規則がたくさんあって難しい。しかし冥月は慣れているのか、あっさりやってのけた。
 お茶を淹れている最中に、冥月はニュイシェンに声をかけた。
「ウォー ジィアオ ヘイ ミンユェ(私の名前は黒冥月だ)」
 冥月の口から中国語が飛び出す。「ニィ クエィ シン(あなたは?)」
「ウォー ジィアオ ユェ ニュイシェン(私は月女神よ)」
「………」
 ばかばかしい名前だと――思ったのだが。
 冥月は首をひねる。彼女の観察眼を持ってしても、今返答した時のニュイシェンの身体的な反応に、嘘をついた形跡がない。
 月女神だなんて、ありえないだろう。
 そう思ったら、それが逆に冥月の顔に出てしまったらしい。ニュイシェンはくすっと笑って、
「ウォー ヨォウ ジェージェ ヘ メィメィ。ジェージェ ジィアオ ユェ グァン。メィメイ ジィアオ ユェ スイジィアン。(私には姉と妹がいるの。姉が月光、妹が月雫)」
「………」
 冥月は表情を読まれたことのショックや、その他もろもろのダメージを受けて口をつぐみ、お茶淹れを続ける。
 ――ニュイシェンの所作からは、どうやら戦うすべを持っている類の人間ではないらしいことが分かった。
 それを含めてもう一度首をひねり、とりあえず、
「さあ。中国式の茶はみんなで揃って飲むのが鉄則だ――飲んでもいいぞ」
 冥月は席に座ってそう言った。
 ――中国の茶器は、細かい絵細工で鶴や蓮が描かれていた。
 紫鶴は目を輝かせて茶器をじっと見つめ、冥月の淹れたお茶の香りを楽しんだ。
 同じ中国人のニュイシェンは、一口飲んで驚くような顔をした。
「まあ、本当に美味しい。あなたはとても素敵なレディね、黒さん」
「冥月でいい」
「二ィ ミィンヅ ヘン ピァォリャン。ヨウ ヨゥライ?(素敵なお名前ですね。由来がおありですか?)」
 今度は亜真知が中国語で話しかける。
 ニュイシェンは笑って、
「ウォー フゥチン シィハゥァン シェンミ デ ドンシィ(私の父は神秘的な物が好きなのよ)」
 笑った亜真知とニュイシェンを、紫鶴が不安そうに交互に見る。
「……あの、みなさん」
 竜矢が待ったをかけた。
「英語ならともかく……中国語だと姫がついていけません。ご勘弁願えませんか」
「あらいけない」
 ニュイシェンは口に手をあて、「今日は私が紫鶴さんと仲良くならなきゃいけない日だったわ」
「……別に、通訳すればいい話じゃないか」
 冥月は納得いかなそうに腕と足を組んでいた。
「同じ中国人同士、故郷を思い出したいところだ」
「タイ ハォ ラ。ニィ ザイ チョングォ ガンラ シェンマ(それはいいわ。あなたは中国で何をしてきたの?)」
 ニュイシェンが身を乗り出す。
 冥月は痛いところをつかれたが、平然と、
「ウォー シィ プゥトーン デ ズェシェン(普通の学生だ)」
 するとニュイシェンはにっこり笑って、
「ブゥイァオ カイワンシャオ(冗談は駄目よ)」
「………」
 この女――と冥月は内心顔をしかめた。
 戦うすべを持っている。……真偽を見極める目、か。
 ため息をついた竜矢が、紫鶴に耳打ちしている。
 何だこいつ、中国語分かるのか。冥月は少しだけ感心した。……少しだけ。
「ニュイシェン、ニィ ヨウ テチャン マ(女神さん、特技はお持ちですか?)」
 亜真知も質問する。ニュイシェンはう〜んと少し悩んだ後、
「……ウォー フィ ヨウフォ ナンレン(男の人を誘惑することかしら)」
 言って、竜矢に向かってウインクした。
 竜矢が顔を片手で覆った、その時。
「お客様です」
 メイドが1人の少女を連れてきた。
 長い黒髪に赤い瞳の物静かな少女。最近、よく紫鶴邸にふらっとやってくることが多くなった――
「あら、魅月姫様」
 亜真知がニュイシェンから視線をはずした。
「あ……亜真知……さん」
 黒榊魅月姫[くろさかき・みづき]は、亜真知の顔を見て軽く目を見張った。
 魅月姫は亜真知の家に居候している身で、この世で唯一亜真知だけには頭が上がらないのだ。
 どうして何でいつの間に、と動揺した魅月姫だったが、気を取り直して、その場に新しくいる中国人らしき女性を見た。
「初めまして……私は黒榊魅月姫。紫鶴の友人です」
「まあ。初めまして。私は月女神、これから紫鶴さんの家庭教師をやらさせて頂くことになりました」
 お互いに軽く会釈し合って、メイドが椅子を1つ追加して、魅月姫の席とした。
 新しく入ってきた魅月姫がニュイシェンの観察に入るのをごまかすように、冥月が話し始める。
「チョングォ デ レンコォウ イュェライ イュェドォ(中国も人口が増えて大変なことだ)」
「カ ブシィ マ(まったくだわ)」
「ニィ ライ リーベン ガンマ?(何故日本に来た?)」
「インウェィ シーホァン(好きだからよ)」
「……ニィ ウェィシィエンマ ダン ジィアティンジャオシィ(何故、家庭教師に?)」
「ナ ユンチ(それはめぐり合いね)」
「……ニィ ジェフン ラ?(結婚しているのか?)」
 その時、わずかにニュイシェンの瞳が揺れた。
「……ハイ メィ ジェフン(してないわ)」
 冥月はふん、と鼻を鳴らす。
 その動揺を冥月が観察するのをごまかすように魅月姫がテーブルを見て、
「あら……今日は中国式なのね」
 残念、と吐息をつく。
「珍しく気に入った紅茶の葉を持ってきたのだけれど」
 冥月はニュイシェンから目を離さないまま、中国茶の用具一式をすべて影に沈めた。
「……淹れ直せ」
「ありがとう」
 魅月姫はダージリンの葉をメイドに渡す。
 メイドは突然出てきたり突然消えたりした中国式の道具に首をかしげながらも、紅茶を淹れ始めた。
「もう、魅月姫様ったら」
 亜真知が苦笑した。「話の腰を折るなんて」
「申し訳ないわ」
 魅月姫は平然としている。
 ずっと無口でいたミリーシャが、メイドに向かって、
「これも……使って……」
 と持参したジャムを渡した。
 それを見ていたニュイシェンが、
「あら……あなた、ロシアの方?」
 紅茶にジャムなどを入れるのはロシアンティーの基本だ。ニュイシェンは目をぱちぱちさせながらミリーシャを見る。
 ミリーシャはニュイシェンに向き直った。
 今日のミリーシャは銀髪を左側で三つ編みにしている。今日は動きやすさを重視したのか、ボーイッシュでスタイリッシュな服装だった。
「……私、ミリーシャ」
「初めまして、ミリーシャさん」
「……ロシア語……話せる……?」
「ダー(ええ)」
 ニュイシェンがにっこりと微笑むと、
「……外交関係は……?」
 ミリーシャは難しいことを言い出した。
 ニュイシェンは眉を寄せて、
「今は難しいわねえ。日本ともあまりうまく行ってるとは思えないし」
 ところで、とニュイシェンはミリーシャが抱えている楽器を見て、
「ロシア民謡で知っている曲は?」
 といたずらっぽく訊いてきた。
 ミリーシャが構えたのはパラライカ。
 そして奏で始めたのは、カチューシャ、トロイカ、コロブチカ、一週間、カリンカ、黒い瞳の……などなど。
 次々と出てくる曲に、ニュイシェンだけではなく他の面々も拍手した。
「パラライカ1本でよくそこまでやれるものだ」
 冥月が感心する。
「それじゃ軍歌は?」
 ニュイシェンが笑って言った。
「……『望郷』の方……?」
「そうよ」
「……あれは……パラライカ1本で演奏するのは……難しい……」
「そうね。あれはたくさんの楽器を重ねて迫力をつけるのがいいのだものね」
 でも、とニュイシェンは笑顔を崩さず言う。
「カチューシャ辺りも軍歌に近いわよね。まあロシア民謡は民謡と言うよりあの国流のポップスだって言うけれど」
「………」
 ミリーシャがパラライカを膝に置き、座り直した。
 しばらくゆっくりとティータイムとなる。
 ふと、魅月姫が口を開いた。
「ニュイシェンさん?」
「シェンでいいわよ」
「あなたは紫鶴に何を教える気でいらっしゃるの?」
「そうねえ。頼まれているのは英語と中国語と……社会と理科かしら」
「一般常識は?」
 問われて、ニュイシェンは首をかしげる。
「教える必要があるのかしら?」
 沈黙が落ちて、
 冥月がため息をついた。
「ヨウ ビィヤァオ(大いにあるな)」
「ウェィシィエンマ?(どうして?)」
 その時の問い方に、冥月は目を細める。
 これは嘘だ。彼女は分かっていて来ている。
 魅月姫がおごそかに言った。
「……紫鶴にはあなたの目から見た『外』の事を教えてあげてくださいね。良い勉強になるでしょうから」
 首をかたむけて紫鶴の方を見ると、軽く片目をつぶる。
 魅月姫のそんな表情を見るのは初めてで、紫鶴は頬を赤くした。
 続けて亜真知が、
「紫鶴様のこと、どう思われますか?」
「紫鶴のこと?」
 ニュイシェンは紫鶴の髪を撫で撫でした。
「……とてもかわいいわ」
「それだけですか?」
「好奇心が旺盛そうね。教え甲斐がありそう」
「それは違いないだろうがな」
 冥月は苦笑した。
 紫鶴は今日は固まったままだった。人見知りが復活しているのと、中国語などという知らない言語が飛び交ったためだ。
 竜矢が少女の背中をさすっている。
 その様子をニュイシェンが目を細めて見ている。
 亜真知が、ふわりと微笑んだ。
「紫鶴様は大切な友人ですのでよろしくお願い致しますね」
 優雅な振る舞い。――けれど言葉の中に含んだ棘。
 魅月姫は考える――本家から送られてきたという家庭教師。
 本家がいよいよ当主をちゃんと育てる気になった――というならそれはいい兆しだ。
 だが……
 この家庭教師、まだ何をするか分からない。
 社会分野……日本史世界史地理現代社会、倫理などを担当するというのならそれは重大だ。
 紫鶴は世間を知らない。
 シェンの言うことだけを真実だと思い込みかねない。
(それに……担当教科が多すぎる)
 魅月姫は竜矢を見て、
「……もしかして、彼女もこのお屋敷に住むのかしら?」
 竜矢は苦い顔で応えた。如実に彼の心情を表している。
 それを見ていた冥月も、無言で笑顔のニュイシェンを見ていた。
 ニュイシェンは屋敷を振り仰いで、
「このお屋敷に住めるなんて私、幸福よ。ありがとう紫鶴さん」
「いや、こちらこそお世話になるのだから――」
「堅苦しくなく行きましょう。これから毎日一緒なのだから」
 ――密着しすぎだ。
 今までも竜矢が毎日一緒ではあったが。それは竜矢しかいなかったからで。
 もし、「傍にいてくれる人」が2人になったら、どうなる?
(分裂……)
 魅月姫はテーブルの下でぎゅっと拳を握る。
(紫鶴の心が分裂する……)
 ――本家の狙いは、そこか?
「魅月姫殿? どうされた?」
 紫鶴の不思議そうな声が聞こえる。
 顔を上げた魅月姫は、微笑んだ。
「よい勉強をしなさいね、紫鶴」
「うん!」
 まったく警戒してない紫鶴。一度懐に入れた人間は無条件に信じる、彼女の長所でもあり――短所でもあり。
「竜矢さん。あなたもよろしく」
「精一杯やることにしますよ」
 戦いに巻き込まれた。その男の決意の横顔が見えた。

 ニュイシェンは今日から屋敷に住むことになる。
 他の客人たちの帰り際、彼女も見送りに来た。
 ニュイシェンは終始笑顔だった。
 ――ミリーシャが竜矢の袖を引き、
「あの……シェンって人……何だか……怪しい……。もしかして……何者かの差し金で……送り込まれた……エージェントかも……しれない……」
「………」
 言うだけ言って、ミリーシャはパラライカを抱いたままぺこりとお辞儀をし、言葉少なに自分の車に乗り込む。
「まあ、いつでも呼べ……へたれなお前の尻拭いはごめんだが、少しは興味を持った」
 冥月は竜矢にそう言い置いて帰っていく。
 亜真知と魅月姫の帰り方向は同じだ。
「紫鶴。また来るから」
「紫鶴様。お気をつけて」
 人形のように美しい2人は、揃って紫鶴に声をかける。
「うん! ぜひまた来てくれ!」
 紫鶴は歓迎するように、両手を広げた。
 その紫鶴の腰を――ニュイシェンが抱いていた。


 紫鶴邸を後にした亜真知と魅月姫は、まっすぐ前を向いたままつぶやきあう。
「あの……女」
「ええ」
 何者でしょうね――
 それでも私は。私たちは。
「あの純粋無垢な少女を護る……」
 誓って。


 紫鶴の元にやってきた新たなる存在。
 それがどれほどの影響を及ぼすのか、今は誰も知らなかった。


 ―続く―


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1593/榊船・亜真知/女/999歳/超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【2778/黒・冥月/女/20歳/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
【4682/黒榊・魅月姫/女/999歳/吸血鬼(真祖)/深淵の魔女】
【6814/ミリーシャ・ゾルレグスキー/女/17歳/サーカスの団員/元特殊工作員】

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■         ライター通信          ■
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黒冥月様
いつもありがとうございます、笠城夢斗です。
今回もゲームノベルへのご参加ありがとうございます!
中国語漢字を日本語漢字に変えるのはちょっと無理がありましたので、カタカナ表記させていただきました。